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新人冒険者、外国人さんと戯れる-1




 街道を北へ。

 運転席のリーミヤは時折タバコや飲み物を口にはするが、運転の手を休めようとはしない。

 一刻も早くレオニウス領の沿岸部に辿り着き、北からの交易船を自身の目で見張りたいようだ。


「ズイーさん、北の交易船を探った事は?」

「アィダーヌに初めて訪れた時から、何遍も」

「へえ。・・・で?」

「荷降ろし用の小舟で上陸するのは、交渉役の1人のみ。それも上陸中は港街にあるレオニウス家の別荘から1歩も出ねえんで、何もわからねえのと一緒でさあ」

「別荘に忍び込んだりはしねえのかよ、密偵の旦那?」

「勘弁してくだせえ。レオニウスの家に忍び込んだりしてたら、今頃この首は胴から離れて土の中で朽ち果ててますぜ」

「おっちゃん?」


 ジャスが煙管を出して火を点ける。


「交易の権利は先祖が他の貴族のやっかみを撥ね退けて、代々守り通してきた。俺も何度かベルーナまで出向いて交渉役にも会ったが、流暢な大陸語を話す普通のおっさんだったぜ」

「港街はベルーナっていうのか。・・・んー。真っ当な交易目的にしては、タイミングがなあ」

「だな。まあなんにせよ、会ってみるしかねえさ」

「・・・ズイーさん、交渉役じゃない人間の上陸があるなら、なんとしてもそれを掴みたい」

「でしょうなあ。拘束はしないんで?」

「こっちに犠牲が出そうなら、見張るだけでいい。無線で連絡を取り合いながら、交渉役を連れておっちゃんに出向いてもらう」

「5人でかかっても危なそうなら、すぐにお伝えしまさあ。大丈夫と判断した場合は?」

「レオニウスの領民に被害がない限りは、出来るだけ泳がせて。目的を探りたい」

「了解でさあ」


 夕刻、オルビスは高台から海を見下ろした。

 リーミヤは即座にブレーキを踏み、バック。海からオルビスが見えない場所に停車して、ベルーナ行きの準備に取り掛かる。


「ズイーさん達はどうすんの?」

「2手に分かれまさあ。3人が浜辺でモンスター狩りの野営。あっしとエーが流れの冒険者としてベルーナに入り、人の口から情報を集める。そんな感じですねえ」

「やっぱ目立ちたくない?」

「出来るなら」

「なら、ズイーさん達はもう出ちゃって。おっちゃんはわかんないけど、俺はいつでも動けるようにしとく。なんかあれば、遠慮なく呼んでね?」

「へい。そんじゃ、動きますぜ」

「気をつけてな、密偵の旦那」

「レオニウス様も」

「ジャスでいいって言ってんだろうに。終わったら飲み屋でベルーナの地酒を奢る。死ぬんじゃねえぞ」

「そいつは死ねませんなあ」


 ズイーがエー達を連れてオルビスを降りてゆく。

 リーミヤはといえば、リビングでアイテムボックスに酒や缶詰を放り込んでいるようだ。


「リーミヤは、一緒に行動しない?」

「いや、一緒に別荘ってのに行くよ。ただ違和感を感じたら即、1人で動く。その時はファウンゼンさんを頼むよ、ロイズ?」

「わかった」


 やがて準備を終えたリーミヤから外に出て、オルビスをアイテムボックスに入れた。

 街道を100歩も歩かぬうちに城壁に囲まれたベルーナの街と、夕暮れに染まる大海原。そこに浮かぶ帆船が見えてくる。風がないからか、帆船はまだ遠いようだ。


「3本マストの帆船か。・・・しっかりした造りじゃん。当たり前のように木製だけど」

「この世界に鉄の船なんてあってたまるかよ。いいから早く行くぞ。ファウンゼンが行かねえと、交易は始まらねえんだ」

「念話魔法は、ファウンゼンさん?」

「交易船が港に入れば交渉役を招くので、夜会の準備をしておくようにと。王都ですでに」

「・・・外国人との晩餐会か。おっちゃん、俺はおっちゃんの隠し子って事にするねえ」

「はあっ!?」

「ロイズはファウンゼンさんの囲われ者かな」

「ええっ!?」

「わかった」


 クスクス笑うリーミヤを先頭に一行は街道を進む。

 ベルーナから兵が出て来たのは、城壁の上で見張りをする兵の顔が見分けられる距離まで近づいた頃だ。


「お待ちしておりました、領主様!」

「領主はファウンゼンだっての」

「し、失礼しました!」

「気にしなくていい。それより、別荘の準備と交易船への連絡を急げと伝えてくれるかい」

「で、ですが私達は門までの護衛で・・・」

「S級冒険者を護衛するなら、少なくても同程度の腕が必要だぞ?」

「そ、それは・・・」

「わかったなら急いでくれないか。レオニウスの家に、建前を気にする兵など1兵たりとも必要ではないぞ」

「はっ!」


 門の横の通用口に、兵達が駆け戻る。

 ジャスがニヤつきながらも満足気なのは、思わぬところで弟の成長を目にしたせいだろう。

 通用口を潜ると、一行は大歓声に包まれた。

 新領主とレオニウスの家を称える住民達の声で、会話すらままならない。


(慕われてるねえ、レオニウス・・・)

(笑えるくれえの貧乏貴族だが、領民からの人気だけはあるからなあ)


 身なりの良い老人が一礼し、身振りでファウンゼンを馬車へ誘う。

 兵とは違ってまずファウンゼンに頭を下げたので、それなりに貴族社会の礼儀を身に付けている老人のようだ。

 馬車に乗り込む前、10にもなっていないであろうと思われるかわいらしい女の子が、おずおずと人垣から前に出てファウンゼンに花束を差し出す。

 それを笑顔で受け取ったファウンゼンは彼女を抱き上げ、頬にキスまでして謝意を示した。

 全員が馬車に乗り込むまで、ファウンゼンの優しさを称える大歓声が耳に痛いほどだ。


(やるねえ。さすがロリコン・・・)

(ち、違いますよ!?)


 馬車が動き出す。

 その歩みを妨げる住民は1人もおらず、馬車はすぐに街を見下ろす別荘へ到着した。

 御者台に乗っていた老人の言葉を聞き流しながら、リーミヤは別荘の作りを観察している。


「海側の3階でいいな、リーミヤ?」

「助かるよ、父さん」

「おまえなあ。勘弁してくれっての・・・」

「にゃはは。でも、間に合ってよかったねえ」

「ああ。サルー、交易船からまだ連絡用の小船は降ろされてねえんだな?」

「左様です。漁師の話では、入港は明日の朝以降になると予想されるようで。それよりジャス様、父と聞こえましたが。まさか、ダラス様以外のおなごに子を・・・」

「んな訳ねえだろ。コイツは妙な特技があるんで、交渉役との晩餐に同席させてえんだよ。その身分をどうすっか、まだ決めてねえのさ」

「それは安心しました。お母上の遺言で、ダラス様以外の女性をこの別荘に伴ったなら・・・」

「な、なんだよ?」

「さあ、皆様。こちらでございます。ようこそお越しくださいました」

「遺言で何すんのか言えよ、おいっ!」

「ほらほら。いいから行くよ、父ちゃん」

「誰が父ちゃんだっ!」


 ジャスがサルーと呼ぶ老人はまずはお茶でもと応接室のドアを開けたが、リーミヤはそれを断って部屋への案内を頼んだ。

 ジャスが頷くとサルーは侍女を呼び、リーミヤを客室に案内するようにと伝える。


「ああ、コイツは客室じゃなくていい。3階の、港を見下ろすのに都合が良い部屋にしてくれ」

「せ、先代様。3階は屋根裏部屋のようなものですが・・・」

「それでも2部屋あるだろ。ガキの頃、探検したから良く知ってんのさ。ああ、もう1部屋は俺が使うからな」

「す、すぐに掃除をっ!」

「俺の部屋はそのままでいいから、案内よろしくねえ」


 3階が屋根裏部屋だというのは、どうやら本当らしい。

 侍女は途中で掃除用具を入れる小部屋に立ち寄り、先端がフック状になっている鉄の棒を手にしてから歩を進めた。

 そしてそれを何でもない廊下の天井に引っ掛け、天井の一部ごとたぐり寄せる。

 ガラガラと降りて来たハシゴを見て、リーミヤは感心したようだ。


「すごい仕掛けだねえ。ここまででいいよ、ありがとう」

「えっ。で、でも案内を・・・」

「いいっていいって。女の子がこんなハシゴを上がっちゃ危ないから。これ、上からも仕舞えるんでしょ?」

「それはもちろん。壁にある丸い金具を回せば・・・」

「そ。じゃ、おジャマしますよっと」


 そうとだけ言ってリーミヤは身軽にハシゴを上がり、侍女が巻き込まれないのを確認してからハシゴを上げた。

 ズカズカと2部屋に入って窓からの眺めを確認し、最初に入った方の部屋で紙巻きタバコに火を点ける。


「椅子と、小さなテーブルが窓辺にあるのはラッキーかな。座ったまま見張れる」


 港に人の動きはほとんどない。

 ジャスとファウンゼンの話では交易はまず交渉役が小船で上陸し、目録に書かれた品にレオニウスが値を付けてから荷揚げと検品になるという。

 以前は毎年の事だったので、ベルーナの住民も心得たものなのだろう。慌てている気配は微塵もない。


「喫水線ギリギリを砲撃すれば、問題なく沈められそうかな・・・」

「物騒な算段じゃねえか、リーミヤ?」


 気配を消しながら部屋に入って来たのはジャスだ。


「・・・クッソ。海に夢中で気が付かなかった」

「注視してえ物がある時ほど、周りに気を配れ。でなきゃ、そのうちあっさりとくたばっちまうぞ」

「肝に銘じるよ。下はもういいの?」

「レオニウスの当主はファウンゼンだ。問題ねえさ。どうだ、交易船は?」

「海が凪いでるから、ほとんど動いてないねえ。潮に流されないように、錨まで入れてるみたい」

「じゃあ、入港はやっぱ明日以降か」

「だねえ。コーヒーでいい?」

「いや。エールとツマミを運ぶように言って来た」

「こんな状況で飲むかなあ、普通・・・」

「こんな時だからさ」


 リーミヤが窓を開け、真下を覗き込む。

 廊下の天井ほどの高さに、2階の屋根。その下は芝生の中庭だ。

 そこから海へ向かう方向の石壁には、通用口が見える。


「ねえ、急ぐ時は飛び下りてあの通用口を出てもいい?」

「構わねえぞ。ありゃ、レオニウスの家の人間が浜遊びをする時に使う小道でな。人目にもつかねえから、突っ走っても大丈夫だ。突き当りを左が砂浜。右が港だ」

「専用道路かあ。さすが領主様だねえ」

「緊急時の脱出経路でもあるからな。お、酒が来たぞ。浜風を受けて育ったブドウで造った酒だ。味は期待していいぞ」

「・・・やれやれ。じゃあ、それを舐めながら船を見張りますか」



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