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新人冒険者、のんびりする-4




「門から入った途端、賑やかだなあ。まだ時間的には朝なのに人が多いねえ」

「王都は貧しい家庭が少ないの。近隣の街や村から集められた商品を消費するだけの、お金持ちばかりなのよ」

「エルフからするとバカげてる?」

「ええ。どうかしているとしか思えないわ」


 その言葉通りセレスは行き交う人々にも、その足を止めては眺める店の品揃えにも興味がないようだ。

 肩を並べる2人は、足早に道を行く。


「こっちよ。まずは武器屋さんね」

「セレスは武器を使わないのに、知ってるお店でもあるの?」

「長くジャスさんとダラスさんと一緒にいたから、それなりにね。まあ、店の人間と話した事なんてないけど」

「ふうん」


 セレスは大通りを少し進むと裏通りに折れ、目立たぬ店構えの扉を押した。

 他の店のように扉を開け放ち、店前にも商品を陳列したりしていない小さな店だ。


「・・・いらっしゃい」

「こんにちはー。ちょっと見せてもらいますねえ」


 客商売には向かぬ無愛想なドワーフの男は、リーミヤにもセレスにも視線すら向けない。手に持つ剣の柄に細工をするのに集中している。

 リーミヤはそんなドワーフを気にする事もなく、店の中に飾られている武器を1つ1つ見て回った。


「どう?」

「いいね。ダッツ爺ちゃんの作ったおっちゃんの剣に、あと一歩で届きそうな品質」

「おい、今ダッツと言わんかったか?」

「言ったよー」

「樹国の美姫が男連れだと。まさか・・・」


 ドワーフはセレスを覚えていたらしい。

 そして彼女が伴侶を得た事も、その相手が誰であるのかも知っているようだ。


「たぶん正解。ねえ、おじさん。武具の拵えに使う素材が欲しいんだ。どこで買えるかなあ」

「職人ギルドだ。我が師ダッツは息災か?」

「元気も元気。あれじゃ、まだまだくたばんないよ」

「フッ。何よりだ」

「そんじゃ、職人ギルドに行ってみるね。ありがとう、おじさん」

「客人の鍛えた武具なら、大々的な競りで値付けをするのだろう。期待しておく」


 品質を落として武具を売るつもりのリーミヤはそれに答えず、曖昧な笑顔を見せてセレスと一緒に店を出た。


「職人ギルドは大通りよ。魔法道具のお店は、その先」

「はぁい」


 職人ギルドは、それほど混雑してはいなかった。

 不思議がるリーミヤに、職人は朝が早いからこの時間にはもう客は帰った後なのではないかとセレスが言う。適当に言ったようだが、それは本当の事だ。

 受付のカウンターに歩み寄り、リーミヤは笑顔を浮かべる。


「すいませーん。武具の拵えに使う素材が欲しいんですけどー」

「はい。職人登録はされてますか?」

「冒険者なんでしてないですー」

「なら倉庫への立ち入り許可は下りませんので、目利きは職員にお任せとなります。物を言っていただければ、ここにお持ちしますよ」

「お願いします。鮫皮を、お姉さんの手元の紙3枚分くらい」

「・・・鮫皮、ですか?」

「げっ。もしかしてないのかな」

「いえいえ。調理用品の素材として在庫はございます。武具の拵えに使うとの事でしたので、少し驚いてしまいました。申し訳ございません」

「いえいえこちらこそ。それじゃ、お願いしますね」

「少々お待ち下さい」


 在庫があると知って、リーミヤはさらに笑顔を深めている。


「鮫の皮なんて何に使うの、リーミヤ」

「んー。カタナの柄の、菱型のトコ覚えてない?」

「見事な細工だったから覚えてるけど、材質まではわからないわ」

「今まではゴムで代用してたけど、あれ本当は鮫の皮なんだよねえ。それに滑り止めとして他のにも使うし」

「なるほど」


 職人ギルドのホールにもテーブルが並んでいて飲み物や食事を注文できるが、2人はカウンターの前から動こうとはしない。

 少ない客やギルド職員の視線を集めてはいるが、それを気にしてはいないようだ。


「お待たせしました。こちらになります。品質をご確認下さい」

「はぁい。・・・問題ないです。全部くださいな」

「ありがとうございます。500ダルになります」

「鉄貨5枚? やっす!」

「そうでしょうか。柔らかい根菜を擦りおろすための調理道具の素材ですし、適正価格かと」

「なるほど・・・」

「お包みしますか? 布や籠は別料金となりますが」

「このままで大丈夫です。ありがとうございました」

「こちらこそ、お買い上げありがとうございます。またお越し下さいませ」


 職人ギルドを出たリーミヤはシャツの中に鮫皮を入れるフリをしてアイテムボックスに収納し、セレスの案内で魔法道具を売っているという店に向かう。

 王都は中央に城があり、それを守るように貴族の屋敷が配置されている。庶民の家は、城壁の近くだ。


「人通りがいきなり減った」

「次の道を渡れば貴族街だもの。庶民はあまり近づかないわ」

「因縁つけられたりするの?」

「どうかしらね。でも罵る以上の事をすれば、平民だって衛兵に訴えてその貴族は神託裁判の場に引き出されるのよ。ムチャはしないと思うわ」

「ベンタよりはマシって感じかあ」

「たぶんね。ここよ。まだ生きてるかしら」


 失礼な事を口にしながら、セレスが店の扉を押す。

 薄暗い店の中に陽射しが差し込み、カウンターにいる老婆がギロリと2人を睨んだ。


「聞こえとるぞ、糞エルフ」

「生きてたのね、お悔やみ代が浮いたわ。体の調子はどう、カリス?」

「あちこちガタがきとるが、まだお迎えは来そうにないのう」

「そう。これ、いつもの薬草ね」

「・・・知り合い、セレス?」

「ババより年増のくせに、若い男を咥え込みおって。1晩でいいから貸さんかい」

「か、勘弁して下さい・・・」


 青ざめたリーミヤを見て、カリスと呼ばれた老婆が呵々と笑う。

 それを見るセレスはうんざりしたような表情だが、カリスを見る目には複雑な光が見て取れた。


「彼女はカリス。私の育ったエルフの里に立ち入りを許される、ただ1人の人間よ」

「凄いね、婆ちゃん」

「たまたまじゃ。まあセレスをジャスとダラスに預けるための交渉で、エルフの里には顔を出し辛くなってのう。それからはここで店番じゃ」

「・・・そうなんだ。俺とセレスで一緒に顔出してフォローしようか、婆ちゃん?」

「足も萎えておる。いらぬ世話じゃよ。ところで今日は何用じゃ」

「夫、リーミヤに魔法道具を見せに来たのよ。それとカリスの生存確認ね」

「そうかいそうかい。リーミヤとやら、好きに見るとええ」

「ありがと、婆ちゃん」


 昔からの知り合いなら積もる話もあるだろうと気を利かせたのか、リーミヤはカウンターから一番離れた棚に向かう。

 魔力灯のコーナーだ。

 まだセレスと結ばれる前に、リーミヤはギルドの魔力灯の仕組みを目を輝かせて聞いていた。お姉さんぶっていたセレスが苦笑しながらも、発光する仕組みや魔力の補充についての説明をしたのだ。


「カンテラ型なんかは冒険者が使うのかな。いちじゅうひゃくせんまんじゅうまんっ!?」

「安い方じゃぞ、それでも」

「大量生産できない世界って、怖い・・・」


 狭い店なので、リーミヤの独白はカウンターのカリスにも聞こえたらしい。

 その他にも商品は多々あるが、どれを見てもリーミヤは首を傾げている。


「ねえ、婆ちゃん。魔法道具って誰が作ってんの?」

「人間以外の人型種族じゃ。エルフは木工が得意じゃし、鉱石宝石を使った物はドワーフじゃな。布製品なんかも仕入れたいが、あいにくツテがなくてのう」

「・・・なるほどね。楽をしたいって発想がない人達が作るから、発展がないのか。それに値段がいろいろおかしい」


 リーミヤがカウンターに戻ると、手元のポットから注いだ茶のカップをカリスが押した。


「ありがとう、婆ちゃん。いただきます」

「見学はもういいの、リーミヤ?」

「うん。大体は思った通り。生活に必要な物は開発されてるけど、生活を楽にする魔法道具はほとんどないね」

「だからこそ、この大陸は上手く回っていたのかもしれないわね」


 セレスが言うのは、スカーがいないうちは、という事だろう。

 魔法道具を殺しの道具として作るなど、エルフやドワーフは決してしない。

 だが、人間であるスカーは簡単にそれを作り、多くの奴隷兵がその魔法道具で命を落とした。これからも、それは続くのかもしれない。


「婆ちゃん、エルフやドワーフにとって魔法道具を売って得るお金って大切?」

「それはないのう。どれも生活魔法もあまり使えぬ人間にと、頼み込んで作ってもらっとった物じゃ。カンテラは高いが、トイレ洗浄分解石は驚くほど安いじゃろう」

「うん、びっくりした」

「エルフにもドワーフにも、力弱き者のためになら金などいらぬというのが多いからのう」

「強欲なのは人間だけか。耳が痛いね。ごちそうさまでしたっ」

「お粗末さん。エルフの里への紹介状が必要なら、ババが生きとるうちに顔を出しな」

「書くの、カリス?」

「この子にならええじゃろう」

「その時はよろしくね、婆ちゃん」

「そろそろバダムさんのお宅に行く、リーミヤ?」

「セレスに指輪でも買おうと思ったけど、ここ以外の店だとセレスが嫌そうだからねえ。指輪は手作りでガマンしてもらって、そうしよっか」


 セレスが指輪と聞いて嬉しそうな表情を浮かべかけると、下から見上げているカリスと目が合った。バッチリとだ。セレスは慌てて、表情を引き締める。


「恥ずかしがる歳じゃあるまいに・・・」

「うるさいわよ、カリス。行きましょう、リーミヤ」

「はいはい。婆ちゃん、病気とかなったら迷わずロンダール商会に使いを出して俺を呼んでね」

「ほっほ。まだまだ死なぬで大丈夫じゃ。またおいで、お2人さん」

「うんっ。またねー」

「本当に死なないでね、カリス。まだあのカボチャのパイが食べ足りないわ」

「今度来る時は事前に連絡せい、腹がはちきれるほど用意しとくでの」


 セレスとカリスが頷き合う。

 リーミヤとセレスは、カリスに手を振ってから店を出た。


「かわいい婆ちゃんだねえ」

「ジャスさんとダラスさんでも頭が上がらない、元A級冒険者よ。かわいいはないわ」

「かわいいって。みんなにお土産でも買ってからいこっか」

「お魚とお肉かしらね」

「ビザンツはどっちが好きなんだろ?」

「何が食べたい? って訊くと、キラキラ目を輝かせて『お米』っ! て言うわね」

「米に合えばなんでもいいのか。5歳なのによく食べるし、体も大きくなるのかなあ」

「どうかしらね」



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