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新人冒険者、のんびりするー2




 バダムに連れられて参加した昼食会の店は、リーミヤにとって少しばかり居心地の悪い場所であった。

 料理は美味く、酒も上物。

 だが、参加者が客人会や王都の商人の奥様方だけだったのである。

 終始にこやかに相手をしていたリーミヤだったが、バダムとその妻のミーティスと共に帰りの馬車に揺られながら、ようやく場違いな所から開放された安堵感で大きく息を吐いた。


「お疲れですかな、リーミヤ殿」

「ごめんなさいね。でもこの昼食会で、有力商人の妻を味方に出来たのは大きいと思うわよ」

「顔合わせだけで味方になるの、ミーティスさん?」

「ベンタのコメヌカやツバキアブラの美容効果。冬の女の手仕事に最適な、編み物の新しい技法。これらを教えてもらって、恩に着ない商家の妻なんていないわよ」


 たしかにリーミヤはベンタへの援護として彼の地の食べ物の美味さや、父から教えられたという米ぬかパックの保湿効果、椿油の髪質改善トリートメントについて説明をした。

 編み物は、学校の書物に書いてあったレース編みという技法だという。


「・・・そっか。女の人と何を話していいかわからないからそんな話をしてたんだけど、それがプラスになったのか」

「彼女達にもプラスになったわね。話してみたら、普通の奥さん達だったでしょ? 客人会だからって理由で嫌われたままだと、後々に何があるかわからないし」

「最初に今まで餓死者を減らそうとしなかったのを謝罪されたし、この秋から始める施しだけじゃない取り組みも説明された。積極的に会いたいとは思わないけど、旦那さん達とどこかで顔を合わせても嫌味を言わないで済むかな」

「なら安心ね」


 ミーティスは満足気だ。

 バダムも元気になった妻が元来の行動力を取り戻したのを見て、ニコニコと笑っている。

 馬車でロンダールの本店、バダム達の家に到着すると、リビングでは女子供だけが昼下がりのお喋りと勉強をしていた。


「あれ、おっちゃん達は?」

「おかえりなさい、リーミヤ。男は狩りに行ったわよ」

「ええっ、ズリいっ!」

「まあまあ、リーミヤ殿。一休みすれば仕立て屋がまいります。今夜の晩餐会に間に合わせるので、採寸は急がないと」

「今度は貴族かあ・・・」


 国との関わりを避けてきたリーミヤだが、ベンタの内戦への介入で議会などではかなりの議論が重ねられたのをファウンゼンから聞いている。

 その礼という訳ではないが、王都の滞在中にファウンゼンが厳選した貴族をレオニウス主催の晩餐会に招き、そこにリーミヤも顔を出すと決めた。

 それでファウンゼンが少しでも動きやすくなれば。口には出さないが、リーミヤはそう考えているらしい。


「ファウンゼンさんとバダムさんは、サッカーで言えばディフェンス。オフェンスの俺達が毎回の攻撃で点を奪れなくても気にしないけど、ディフェンスは1点でも失えば後悔する。戦争がない時くらいは、少しでもフォローしないと・・・」

「また訳のわからない事を言って。ビザンツ、1つ前に書いた字が間違ってるわよ。・・・そうそう。それでいいわ。ゴンも字が上手くなったわね」


 ゴンとビザンツは、この大陸の共通文字を練習しているらしい。茶を飲みながらリーミヤがその様子を見ていると、ゴンは文字を書く姿勢を注意される事が多く、ビザンツは文字の間違いを指摘される事が多い。

 ちなみにミオは、教科書の絵本をめくるのに夢中だった。それについては、教師役のセレスも注意はしないようだ。


 やがて仕立て屋が到着し、採寸。

 夕方にはアィダーヌ風の品の良い衣装に身を包んだリーミヤは再び馬車に乗り、貴族の邸宅が集まる区域のレオニウス邸に到着した。


「リーミヤ殿。わざわざのお越し、恐縮です」

「残念ながら護衛は連れて来てませんよ、ファウンゼンさん」

「・・・またそうやってイジメますか。中にどうぞ。すでに参加者は集まっているので、すぐにでも始められます」

「こんな豪邸に入るの初めてだ。おじゃましまーっす」


 晩餐会は参加者をファウンゼンが厳選したと言うだけあり、終始なごやかな雰囲気で事件の1つもなく終わった。

 それだけでなく貴族達は餓死者を減らしたいというリーミヤに賛同し、ファウンゼンの領地経営政策を応用して自領でも餓死者を減らすと約束までしたのだ。

 問題は、馬車に乗ったリーミヤが門を出た瞬間に起こった。

 走る馬車の扉を開け放って飛び降りたリーミヤが、灌木の茂みに抜き身の剣先を向ける。


「茂みに潜んでいる2人。武器を捨てて出て来い。怪しい動きをすれば、斬る」


 茂みが揺れる。

 バダムの付けた馬車の御者は2人。それなりの者であるらしく、1人はレオニウス邸に駆け戻って応援を呼びに行き、もう1人は短い手槍を持って茂みに穂先を向けた。


「馬は大丈夫?」

「訓練された馬ですんで御者がいなくなりゃ、その場で動かず待ってまさあ」

「槍、かなり使うんだね。もしも抵抗するなら左をぶん殴って」

「合点でさあ」

「ちょ、ちょっと待って欲しいっす!」


 転がるように茂みから出て来たのは、ネコミミを持つ少女だった。栗色の髪と同色の耳に、リーミヤの目が釘付けになる。

 残念ながら胸はそれほどでもないので浮気の心配はないし、そもそもまだ子供である。だからこそ、リーミヤは少女の頭を撫でたくて仕方ない様子だ。ネコミミに向けられた視線は、ピクリとも動かない。


「潜んでいた目的は?」

「そ、その前に罪は、ウチだけのものと約束して欲しいっす!」

「ムリに決まってんでしょ。3秒以内に言わなきゃ、茂みにいるのを槍で追い出すよ?」

「客人の見学っす!」

「・・・あっさり白状したねえ。見るだけ?」

「そうっす」

「リーミヤ殿っ!」


 兵を連れたファウンゼンが駆けて来る。

 その隣にはリーミヤよりも大柄な貴族、ダンバーン伯爵の姿も見えた。晩餐会の参加者で、ジャスのお気に入りだという30手前の武人である。


「わざわざごめんねえ。ダンバーンさんも」

「いえ。・・・リッカート殿がいるという事は、まさか」


 少女はファウンゼンの知り合いであり、リッカートという名であるらしい。

 まさかと言われたリッカートは、ビクリと身を震わせながらネコミミを伏せた。


「ファウンゼンさん、イジメちゃダメでしょ。かわいそうに」

「ええっ。何もしてませんよね、私!?」

「えっと、ファウンゼン様。ここは察して見逃してくれたりは・・・」

「リッカート。成人前のおまえ達であれ、さすがにこれは見逃せないぞ」

「ううっ。ダンバーン様ぁ、後生っす・・・」


 潤んだ瞳での上目使い。それにネコミミの破壊力が加わってもダンバーンは怯みさえしない。


「ダンバーンさん、さすがだ」

「・・・はあ?」

「とりあえず客人を見に来ただけみたいだから、あんま怒んないであげて下さい。それとリッカートちゃん」

「はいっす」

「キミとキミが庇ってる人はもう成人してるの?」

「まだっす。13だからあと2年は自由っす」

「こんな時間に家を抜け出すくらいなら、昼にでもロンダール商会を訪ねて来ればいい。ただし、普通の子供としてね」


 ガサリと茂みが揺れる。

 ファウンゼンとダンバーンは苦笑いだ。


「はいっす!」

「そんじゃ、俺は帰ります。ファウンゼンさん、この子達ちゃんと送ってあげてね」

「もちろんです。最後にこんな事になってすいませんでした」

「いえいえ。じゃ、おやすみなさい」


 リーミヤは馬車に戻りながら、ポケットに入れた手の中にアイテムボックスから数枚の銀貨を出した。

 それを槍を持つ御者に手渡す。

 もう1人はすでに御者台に戻って、相棒を待っているらしい。


「これはこれは。酒代を奢るにしては多すぎますぜ」

「いいさ。馬車の中で話がある」

「・・・御者がそんな事をすりゃ目立ちます。お話なら今夜、鉄箱の前で」

「了解。何人で来る?」

「あっしだけで」

「珍しい酒とかあるから、仲間も連れて来たら?」

「・・・いいえ。あっしだけで」

「わかった。じゃ、とりあえずロンダール商会経由で南門に」

「へえ、かしこまりました」


 馬車はロンダールの店に寄ってセレスを乗せ、そのまま南門へと向かった。

 ロンダールの家はそれなりの広さがあるが、全員が厄介になるには狭い。ケーダとサクラはトレーラーの客室に、リーミヤとセレスはオルビスに寝泊まりする事になっている。リーンだけが宿屋だ。


「昼食会に晩餐会。どちらも問題なく終わったのに、立て続けにそんな事が」

「まあ、後者のは面倒事じゃない。むしろラッキーだよ」

「御者はどこにでもいる中年と、気弱そうな若い男にしか見えないわよね」


 南門で停まった馬車を降りると、御者の2人が深く頭を下げてリーミヤとセレスを見送る。

 セレスのおかげで顔パスで王都を出て、トレーラーから少し離れた場所にオルビスを出した。


「んあー、いろいろあった1日だったなあ」

「まだ終わってないでしょ」


 リビングに腰を落ち着けて伸びをしたリーミヤを、セレスがたしなめる。

 そうだねえと言いながらリーミヤは酒を出し、ツマミの用意までしてこれから訪ねて来る御者を待った。


「来た来た。迎え行ってくるね」

「ええ。氷を出しておくわ」


 リーミヤがハッチの前で待っていると、近づいてきた御者は驚きに表情を歪める。


「・・・あっしの接近が気取られますかい」

「ま、そこは反則技だから気にしないでください。正直、姿を見つけられなくて焦ったし」


 リーミヤは網膜ディスプレイのマーカーで御者を発見した。

 だが夜でも遠くまで鮮明に見渡せるスキルを持っているのに、御者の姿をすぐには発見できなかった。プロって凄いなあ、そう呟いた声は御者には届かなかったらしい。

 御者はオルビスの中に入るのを自分如きがと渋ったが、リーミヤの押しに負けて頭を下げながらオルビスに乗った。


「なんと、まるで別の世界に来たような感じですぜ・・・」

「俺のいた世界の乗り物だからねえ。あ、そこで靴を脱いで下さいね」

「おじゃまいたしやす」


 男はリビングで腰を下ろすとリーミヤとセレスに丁寧な挨拶をし、己が何者なのかを語り出した。



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