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新人冒険者、のんびりするー1




 内戦が終結し、ダリアス帝国の帝位継承者と取引をするという意外な形で、ベンタ王国に時間的余裕が出来た。鉄箱の戦闘力を知ったスカー達は、あのまま戦闘を継続して今度は自国がオルビスで攻められるのを警戒したのだろう。

 リーミヤ達はセレスの建築スキルのリキャストタイムを待ちながら、アィダーヌの王都にミオを迎えに来ている。

 ミオとの再会を心から喜んで目一杯じゃれ合ったリーミヤは、冒険者登録をしていないメンバーと一緒に冒険者ギルドの本部へと向かっていた。


「これが本部かあ。・・・大っきいねえ」

「来た事ねえのかよ、リーミヤ?」

「リーン。リーミヤを冒険者ギルドに行かせるというのは、野犬の群れの檻に羊の皮を被った狼を放り込むのと一緒よ。貴方がリーミヤも連れて行けばいいって言ったんだから、面倒事はすべて任せるわね」


 後半を笑顔で言ったセレスが、冒険者ギルドのドアを押す。

 リーンは顔をしかめて頭を抱えている。その肩を慰めるように叩き、リーミヤもセレスに続いた。


「樹国の美姫・・・」

「あれが・・・」

「成人前のメイドとかたまらん!」

「純白ケモミミのがいいに決まってらあ!」

「んだとコラ」

「やんのかコラ」


 途端にざわつく冒険者達には見向きもせず、リーミヤは物珍しそうにギルドの中を眺めている。

 王都だからか、村のギルドよりもだいぶ広い。

 冒険者カウンターだけでも受付が5名。酒場カウンターにも3名が立っている。


「セレス、あの黒板は何?」

「モンスターの部位や素材の相場よ。変動するそれを見て、冒険者は身の丈に合った獲物を狙うの。新人冒険者が命からがらゴブリン狩っても、買取価格が安くて宿にも泊まれなかったら困るでしょう」

「なるほど。ちょっと見てくる。リーン達の登録、お願いね」

「ちょっとリーミヤ、待っ・・・」


 セレスは言いたい事を最後まで口に出来なかった。

 歩き出したリーミヤにテーブルの男が足を引っ掛けようとし、リーミヤは躊躇いもなくその足を渾身の力で踏んだからだ。


「ぎゃあああっ!」


 ギルドが静まり返る中、男の悲鳴だけが尾を引いてホールに響く。

 男の仲間らしき連中もすぐには動けないようだ。


「えっとー、ミノタウロスミノタウロス・・・」


 リーミヤは何事もなかったかのように黒板の前まで歩き、ミノタウロスの相場が書かれた数字を探し始めている。


「テメエ、何しやがるっ!」

「・・・はぁっ?」


 脛の骨を折られた男の仲間が、声を荒らげて立ち上がる。

 その声で振り返ったリーミヤは、訳がわからないというような感じだ。


「俺の仲間に何したって言ってんだよっ!」

「嫌がらせか喧嘩を売るつもりだったかは知らない。テーブルにどれだけ太った人間が座っていても通るのに不自由のないホールで、わざとらしく足を引っ掛けようとしてた。だからお望み通り踏んでやった。何かご不満でも?」

「テメエ・・・」


 冒険者が剣の柄に手をかけようとする。

 それを押さえたのは、リーンだ。セレスの咎めるような視線に耐え切れなくなったのだろう。


「それを抜けば、兄さんは殺されるぜ。死んだ事もわからねえ、そんな最後だ。長生きはしたいだろう?」

「なんっ、があっ・・・」


 それほど力を込めているようには見えないが、リーンが掴んでいる男の手首から先は赤黒くうっ血している。

 他の仲間がリーンに殴りかかろうとすると、カウンターの先で大きな音を立ててドアが開いた。


「何事だ! ギルドで暴れるなら、冒険者資格の取り消しも覚悟してんだろうなあっ!」

「あ、ジャジーさんだ。やっほー、ご無沙汰してまーす」

「きゃ・・・ リーミヤ・ヒヤマ」

「はいなー」


 うんざりした気分で名前を呟いたのにニコニコ顔で返事をされ、ジャジーはさらにうんざりしたようだ。

 足を折られて痛みをこらえている男。リーンに手首を掴まれ、何とか逃れようとする男。そして加勢に入ろうとしたが、支部長であるジャジーが出て来たので動きを止めた男達。

 そのすべてを見て、ジャジーは状況を察したらしい。


「・・・理解した。そんでヒヤマ。こいつらをどうして欲しい?」

「神託裁判に。と言いたいけど、出て来た容疑が傷害だけとかだと裁判する人に悪いよねえ」

「それが仕事なんだ。気にしなくていいさ。だがまあ、こいつらも根っからの悪人じゃねえんだよ。嫌がらせでもされたんだろうが、綺麗どころを連れてるからやっかんだだけだろ」

「ホントかなあ。そこの小柄なお兄さん。・・・そうそう、アンタだよ。正直に答えろ。このパーティーで犯罪をした事は? 冒険者同士の喧嘩なんかじゃない、盗みや殺し、強姦なんかだ」

「す、する訳がねえよっ!」

「そっちの腕を掴まれてるおっさん、アンタは?」

「・・・してねえ」


 リーミヤが満足気に頷くのを見て、リーンは男の手首を離した。

 突然始まった揉め事と、それに参加した見るからに腕利きのリーン、それにジャジーの登場でピリピリしていたギルドホールの雰囲気が弛緩する。

 30ほどいる冒険者達の中には、事が収まったのを見てギルドを出てゆく者達もいた。


「セレス以外のメンバーの冒険者登録に来たんだけど、それが終わるまでちょっとお話し出来ます?」

「それはいいが。・・・おい、さっさと怪我人を連れて帰れ。次にヒヤマを怒らせたら、本当に死ぬぞ」


 男達がギルドを出て行くと、セレス達は冒険者カウンターへ、ジャジーは黒板の前に移動した。

 腕組みして黒板を眺めるリーミヤを、ジャジーが不思議そうに見る。


「ねえ、ミノタウロス金貨10枚って適正価格なの?」

「・・・これか。あれから1匹だけミノタウロスが持ち込まれたんだが、その後はまるっきり入って来なくてな。価格が高騰してんのさ」

「冒険者以外が独占してる可能性は?」

「ねえな。肝は薬だから、製剤ギルドの人間が診断してから処方する。会うたびに次の肝はまだかとせっつかれてるよ」

「となると、単純に出会えてないだけか」

「たぶんな。まあ、とりあえず座って話そうぜ」

「ほーい」


 足を折った男が座っていた椅子にリーミヤが座ると、向かい側に腰を下ろしたジャジーが酒場カウンターに合図をする。

 カウンターの若い女は緊張した表情で頷き、木製のジョッキを2つ手に取った。


「俺も腕の良い連中に、肝だけでも手に入れてくれと頼んじゃいるんだがなあ」

「それだけ?」

「何か他に方法があんのか?」

「俺のいた世界じゃ、ギルドが冒険者のウソを見破れた。だから悪さをしないって宣言した冒険者同士を組ませて城壁の外に出してたよ」

「神託なんてそう簡単に使えねえ。こっちじゃ出来ねえぞ、それは」

「ジャジーさんが冒険者の人格を保証すればいいんだって」

「どういう事だ、そりゃ?」


 女がジョッキを運んできて、2人の前に置く。

 盆には木の実の入った小皿や灰皿、ロウソクもあった。女は生活魔法でロウソクに火を灯し、一礼して立ち去る。


「タバコ吸っていいのは嬉しいな。ってこれ、エール?」

「ああ、オゴリだ。それより早く続きを教えろ」


 ジャジーはそう言って急かすが、リーミヤはキセルに葉を詰めて火を点け、煙を吐いてからエールまで飲んだ。


「意外と美味しいね。ミノタウロスに出会えないのは、単純に歩く距離が足りないからでしょ。考えてみてよ。モンスターは、冒険者の都合なんか知ったこっちゃないんだ。ミノタウロス狙いの冒険者パーティーが遠出する途中で、他のモンスターに襲われたとする。それを倒したパーティーはどうすると思うの? まさか病人のために売れるモンスターを捨てて、さらに先を目指すとでも?」

「それは・・・」


 人がモンスターを発見するよりも、モンスターが人を発見する方が簡単だ。だからこそ、一般人は城壁に守られた街の中で一生を過ごすのである。


「ジャジーさんが、とびきり腕が良くて悪さなんてしない冒険者を選ぶ」

「・・・それで?」

「次は腕はそれなりでもいいけど、出来ればたっぷり経験を積んだ冒険者がいい。ああ、悪さなんてしないのは最低条件ね?」

「次ってのはどういう意味だ。・・・いや、最後まで聞いてからまとめて質問しよう。続けてくれ」

「ほい。複数の冒険者パーティーを、そうだなあ。剣だとでも思えばいい。切っ先がとびきり腕の良いパーティー。それがミノタウロスに届けば勝ちだって」

「すまん、意味がわからんのだが・・・・」


 セレスがよく言うように、リーミヤは説明というのが苦手だ。

 今もエールのジョッキを傾けながら、なぜここまで言ってわからないのだろうと首を傾げている。よくもまあ、エールが溢れないものだ。


「この世界、ロケットがないから説明がなあ。えっとー、複数のパーティーで王都を出るでしょ。もしゴブリンが出たら、一番弱いパーティーがそれを狩ってギルドに戻る。次からもモンスターの強さに合わせて、パーティーを選択。モンスターを倒して肉を持ち帰る。そうやって進むんだけど、王都から離れれば離れるほど、帰り道は危険になるでしょ。だから経験豊富なパーティーがここまでって判断したトコで、残りのパーティーは獲物を探しながら王都を目指す。そんでもってそこから、とびきり腕の良いパーティーが単独行動を開始。そうすればそのパーティーは、王都から遠い山とかも楽に行けるでしょ」

「いつも好き勝手な方向に散るパーティーを、同じ方向に向かわせるのか・・・」

「面白そうじゃないですか、ジャジーさん。やるなら俺達も参加しますよ」

「ウィルか。まあとびきり腕の良いパーティーと言われて、真っ先に浮かんだのがお前のツラだよ」

「光栄です。同席しても?」

「どうぞどうぞ。俺はリーミヤ・ヒヤマ。新人冒険者です」


 ウィルと呼ばれた優男はリーミヤの簡単な自己紹介を意外そうに聞き、同じテーブルに着いて自分も自己紹介をした。

 B級4名で構成されるパーティー、星屑の子守唄のリーダーだと。


「B級が4人なら、怪我人すら出さずにミノタウロスが狩れる」

「へえ、なら安心じゃん。3日くらい王都にいるから狩りにも出るけど、都合よくミノタウロスに会えるとも思えないし。頑張って下さい、ウィルさん」

「新人冒険者がミノタウロス? ・・・そうか。樹国の美姫様が一緒だから」

「私がいなくても、ミノタウロス程度がリーミヤをどうこう出来るはずがないわ。それより人間、冒険者に級の上下はあれど身分の上下はない。様なんてやめてくれるかしら?」


 立ったままのセレスがウィルを見下ろす視線は冷たい。


「え、あ、し、失礼しました・・・」

「まあまあ。登録はもう終わったの、セレス?」

「ええ。リーミヤはこの後、バダムさんと昼食会の予定でしょ。これ以上ムダな怪我人を出さないうちに帰るわよ」

「ははっ。尻に敷かれてやがるなあ、ヒヤマ」

「・・・ジャジーさんだってそのうちこうなる。断言するよ。その時になって俺に笑われても、自業自得だからね。覚えといて」

「ま、まさかキミは・・・」


 口をパクパクさせるウィルに微笑みだけを見せ、リーミヤは席を立った。

 ジャジーに明日か明後日にまた顔を出すと言うと、今度は面倒事を起こしてくれるなと釘を刺されている。



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