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2人の職人ー2




 一同は言葉もない。

 もしも敵としてリーミヤと出会っていたら。それを考えているのだろう。

 銃。スキル。オルビス。大砲。パーティーで兵を強化する能力。

 どう考えても、タダでは済まない。


(・・・シャルが着いたわ)

(了解)


 リーミヤがヘッドギアを被ってハッチを開ける。

 すぐに子猫の姿のシャルが小さな革袋の紐を咥えて入ってきた。


(あれ、手紙じゃないの?)

(中に手紙も入ってるのよ。もう1つは魔法道具だけど、危険な物じゃないのはシャルが保証してくれたわ)

「ほむ。なら、俺が読み上げるか。シャル、お疲れ様ね。手紙を読み終わったら、ミルクとサハギン缶を出すよ」

「にゃあん」

「お兄ちゃん、シャルちゃんのゴハンは私が」

「お、ありがと、ユーミィちゃん。そんじゃ、御開帳ー」


 リーミヤが革袋からまず手紙を出す。

 次に出て来たのは、四角い鉱石のようなものだ。淡く青色に発光しており、手の込んだ飾り物のようにも見える。

 ユーミィはシャルの食事だけではなく、コーヒーメーカーで淹れたコーヒーも皆に配った。ゴンと女性陣には、ミルクを添えてある。こんな状況ではあるが、気のつく良い娘だと誰もが目を細めて微笑む。


(そんじゃ、手紙を読み上げまーす)

(敵からの手紙ねえ。毒でも塗ってあんじゃねえのか)

(そんな小細工、シャルなら目を閉じてたって見破るわ。矢を放った男に悪意がないから、これを運んで来たんだし)

(悪意がねえって・・・)

(はいはい、まずは読むよー。・・・客人と話がしたい。同封した魔道具は離れていても、魔力を通せばお互いの姿が石の上に浮かんで見えて声も聞こえる。無用な人死にを望まぬのであれば、樹国の美姫にでも魔力を通してもらえばよい。帝位継承権5位、スカー・ウィル・エヴァン・ダリアス。以上!)


 明るく言いながらも、リーミヤは眉を寄せている。

 ベンタに客人であるリーミヤがいる事も、S級冒険者のセレスが常にその隣にいる事も、スカーという者は知っている。

 それはベンタのではなく、アィダーヌの密偵からもたらされた情報なのだろう。

 アィダーヌにも敵がいる。それも、伝令いらずの魔道具を持った敵がだ。

 それが明らかになったのだから、表情も曇る。


(コイツと対話するのに反対って人いる?)


 声は上がらない。

 リーミヤは魔法道具を、セレスに手渡した。


(いいのね?)

(うん。ファウンゼンさんとバダムさんには聞こえないだろうから、ユーミィちゃん)

(はい。聞こえた事を、そのまま無線で言います)

(ありがと。じゃ、セレス。お願い)

(ええ。いきなりで不安だけど、対策の立てようがないものね・・・)

(だねえ。決めとく事は、ベンタは妥協しないって事だけでしょ。ですよね、バンズールさん)

(ええ。妥協して今回の派兵をなかった事にすれば、今度は違う方法でベンタは滅ぼされるでしょう。奴隷兵を殺した魔法道具でわかってはいたつもりでしたが、こんな物まで使っているとは・・・)

(でも内戦に派遣された3000は、これを持っていた形跡がない。切り札だから隠しているのか、別の都合があるのか。とりあえず話をしてみよう。じゃないと何も判断できないや)


 リーミヤが頷くのを見て、セレスが魔法道具に魔力を流す。

 手を触れるでも、集中するでもない。ただ、魔法道具をじっと見ただけだ。

 青い石はその輝きを強め、光が線となった。

 それが意思を持つように蠢き、2人分の人間の形になる。


「こりゃたまげたねえ。まるでホログラムだ」

「・・・若いな、客人」

「おお、声も聞こえる。そっちも20は超えてねえな。どうも、リーミヤ・ヒヤマだ。クソヤロウの親玉におかれましてはご機嫌麗しゅう」

「・・・言いおる。我はスカー・ウィル・エヴァン・ダリアス。後ろに控えておるのは騎士のアダムスだ」

「それで、要件は?」

「嫌われたものだな」

「奴隷兵の死に様を見て、好かれるとでも思ってんのか? アタマ湧いてんじゃねえか、おい」

「貴様っ!」

「・・・よい、アダムス。あれは我が5歳の折、父が言うままに作った魔法道具だ。それから10数年で死んだ数万の奴隷兵は、たしかに我が殺したも同じよ」


 尊大な口調のわりに覇気というものがまったく感じられない話し方をする少年、スカーはうつむきがちな姿勢で目に入りそうな前髪を手で払う。

 声を荒げたアダムスという騎士は、直立不動だ。

 リーミヤが座ったまま壁際まで移動し、足の間に灰皿を出して紙巻きタバコに火を点ける。すぐにリーミヤの頭上にあるファンが回り出した。


「変わった物を。この魔法道具は景色までは読み取らぬが、幼子を連れてその姿勢。鉄箱とやらの中か」

「まわりくどいな、兄さん。要件を言えつってんだ」

「よく言われる。数多くある我の欠点の1つだ。許せ」

「ほんで?」

「利害は一致しておる。手を貸せ」

「・・・何が欲しい」

「時間だ。お互い、喉から手が出るほどに欲しいであろう」


 スカーの読みは正確だ。

 だが、リーミヤはそうではない。スカーが時間を欲しがる訳など、わかるはずがないのだ。


「何に使う時間だよ?」

「我が父に死んでもらうための時間」

「へえ・・・」

「その後で兄が使える人間か見極めるための時間。もし使えなければ、我が帝位について国を安定させるための時間も欲しいな」

(きな臭くなってきたねえ)

(ダリアス帝国も一枚岩じゃねえんだな。ファウンゼン、どう思う?)

(受けるべきです。ベンタには何よりも時間が必要ですから)

(じゃあ、その線で話を進めよっか)

(ですが彼の言う力を貸せというのは、リーミヤ様個人への頼みでしょう。ベンタはこの内戦で、リーミヤ様から返しきれぬほどの恩を受けました。これ以上はどうか、ご無理をなさらず)


 バンズールの言葉に返事はせず、苦笑だけ見せてリーミヤはタバコを消した。

 テーブルの前に戻り、コーヒーを口に運ぶ。


「そんで、何をすればどのくらいの時間、敵でも味方でもねえ状態でいられるんだ?」

「簡単な事だ。鉄箱とやらの威力を目の当たりにした者を、帝都に逃げ帰らせればよい。・・・そうだのう、行軍を開始したら我は騎馬で先頭に立つゆえ、後軍の馬車に鉄箱のドラゴンブレスでも撃てばよいな」

「ドラゴンブレスねえ。あんなのは切り札でも何でもねえから威力を見せるのは構わねえが、それでどのくらいの時間を稼げるってんだ?」

「鉄箱の足の速さも見せてくれれば、数年は保証する。その間に我は、祖父の苦渋の決断を汚した父を弑せるであろう」

「・・・苦渋の決断ってのは?」


 青い線で描かれているスカーが、瞳を閉じて前髪を弄くる。


「神の揺り籠・・・」

「は?」

「祖父はこの大陸をそう呼んでいた。それを守るには、大陸の統一しかないと。我もそう思い、幼き頃から出来る限り力を尽くした。曾祖母は、この世界の人間ではなかったそうでな。不思議な力を持っていた。それが我等には受け継がれておる」

(クソッ、悪い予想が当たりやがったか!)

(まだわかんないって、おっちゃん)

(そうですよ。この世界、リーミヤの生まれた世界、それ以外にもたくさんの世界があるそうです。問題はダリアス帝国の王族が、どんな不思議な力を持っているかです)

「不思議な力?」

「尋常でないほど、一芸だけに秀でておるのだ。祖父は人を殺す事に。父は搾取する事に。我は、魔法道具を作る事に。ちなみにこのアダムスは腹違いの兄でな。祖父と同じく、人を殺す事に長けておる。だがそれゆえ父に嫌われ、身分を落とされた」


 リーミヤと同じ職業持ちではない。

 その事実が判明して皆がひとまず安心しているが、リーミヤだけは厳しい表情のままだ。

 職業持ちでなくとも、そんな能力は脅威であると考えているのだろう。


「魔法道具を作る事しか出来ねえ男が、人を殺すしか出来ねえ男を使って実の父親を殺すのか・・・」

「・・・理解できんだろうな、客人。誰からも好かれそうな貴殿にはわかるまい。我の痛みも、アダムスの哀しみも」

「で、神の揺り籠ってのは?」

「人型の種族は、この大陸以外にはほとんど残っておらんらしい。アィダーヌの北との交易も途絶えたままであろう」

「アィダーヌにもない、海を渡るほどの船を持つ国家が滅びたと?」

「それはわからん。北へはどれだけ密偵を放っても、ただの1人として帰ってこないのでな」

「これを持って行かせりゃいいじゃねえか。海の向こうとは話せねえのか?」

「この魔法道具は切り札よ。我の仲間と腹心の部下しか知らぬ。だが、手を貸してくれるなら10組ほど進呈するぞ」


 どうやらこの魔法道具は対になっていて、その片割れを持つ者としか話が出来ないようだ。

 リーミヤが興味に目を輝かせたが、青い線で描かれた像を見ているに過ぎないスカーとアダムスは気づかない。


(受けるよ、この話?)


 反対する声はない。


「気前がいいねえ。八百長の戦闘が親父さんにバレる可能性は?」

「ないな。人の心を読むなどという親族はいない」

「なら、一芝居打つか・・・」

「恩に着る。派兵はなるべく抑えるが、もし使い捨ての奴隷兵と下級貴族に命が下れば、その時はこの魔法道具で連絡する。そうでなくとも連絡は入れるがな」

「あいよ。まあ、こっちとしちゃ安い掛け金で高配当が期待できる賭けだ。乗らなきゃ損さ」

「世間を知らぬ17歳のたかが魔法道具職人が、大陸有数の大国を我が物とする。賭けと言われればそうだな」

「だろ。そんで鉄箱のドラゴンブレスで馬車を破壊して、その後はどうすりゃいいんだ?」

「追い回してくれればいい。騎乗は5名。その我とアダムス以外の3名を、出来れば生かして逃して欲しい」

「・・・兵は見殺しかよ?」

「伝説の客人と事を構える覚悟をして来たのだ。兵は囚人兵、それも極悪人ばかり。気にするでない」


 囚人がいる。

 ならば兵の命は握れても、心まで操ったりは出来ないのだろう。

 リーミヤは無言で頷いた。


「そんじゃ馬車を破壊。その後で鉄箱の速さを見せながら、恐怖心を呷るように追いかけ回す。で、騎乗の5名は国境を越えて逃げ帰ると。逃げ遅れた歩兵は勝手に死ぬんだよな?」

「そうだ。10組の通信魔法道具は逃げながら、アダムスが袋に入れてあるのを捨てて行く。壊しても追加はないぞ。では、よろしく頼む」

「りょーかい。鉄箱は急には止まれねえ。進行方向に飛び出したりするんじゃねえぞ?」

「・・・うむ。心得た」



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