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新人冒険者の初陣-6(終)




 リーミヤ、ケーダ、リーンの3人はヒャクダンを駆って、草原を渡る風に吹かれていた。

 王都で消費される米を生産する村々とも、秋の収穫後しかマトモな行き来はないらしい。野菜などは王都でも作っているし、牧畜も行っているようだ。

 そしてベンタには冒険者も、流通を担う大商人もいない。


「もらったぜ、ケーダ」

「させるかあっ」

「はい、お疲れーっ!」


 タァン!


 3人が追っていた犬と豚をかけ合わせたようなモンスター、最後のブウイを倒したのはケーダのナギナタでもリーンの槍でもなく、リーミヤが使う拳銃だった。


「ずりぃぞ、リーミヤ!」

「だって俺の武器って銃じゃんかー。最下位はリーンね。王都に帰ったら奢ってもらうよーん」

「ヒヤマ殿、そんなに負けたくなかったんですね・・・」

「だって馬上での弓は【弓術初級】じゃムリなんだもん!」


 ヒャクダンをそれなりの手並みで操り、リーミヤがブウイの肉を回収して歩く。

 リーンも戦場で普通の馬に乗っていたというだけあってかなり巧く馬を操るのだが、ケーダの腕にはまだまだ届かぬようだ。

 ケーダは手綱を離して両手でナギナタを振り、3度もブウイを真っ二つにして見せたのである。


「回収したよーっ。やっぱ最低限の装備で狩りに来ると、たくさんアイテムボックスに入るから嬉しいねえ」

「んじゃ、帰るか」

「いやあ、楽しかったですなあ」

「ケーダさんはね。俺とリーンは、実力差を見せつけられに来たようなモンだよねえ」

「だな。2対1でも、銃なしなら勝てそうにねえ」

「年上の意地ですよ」


 のんびりした馬蹄を聞きながら、3人は王都に帰った。

 わずか1時間の狩りでブウイ6頭。

 ケーダが3、リーミヤが2、リーンが1である。

 そのため、賭けはリーンの負け。これで彼は、今夜みんなで飲む酒樽を奢りで買わねばならない。

 門内に入るとそれなりに街は賑わっており、内戦が終わったばかりの国の首都とは思えぬほどだった。


「ここからはヒャクダンを引いて行きましょう」

「うん。3日前まで内戦してた国とは思えない人出だもんねえ」

「庶民なんてこんなもんだぜ。あれこれ悩んでたって、おまんまは食えねえんだ。おっと、あれが酒屋の看板だ。ちょっと買ってくるぜ」

「あいよー。手綱は任せて」


 ヒャクダンが珍しいのか、道を行き交う人々が高確率でリーミヤとケーダに視線を寄越す。


「色男は目立ってしまって大変ですな」

「それってどっちの事?」

「両方に決まっております」

「よく言うよ。それに男が容姿を褒められたって、嬉しくなんかないって」

「それを女性の前で言うと怒られますよ。武器を振り回すしか出来ない男のくせに、女をバカにするのかと」

「そういや魔法を使えるのは、ほとんど女なんだったね。・・・あれ? でも敵に女はいなかったよね?」

「ベンタには土と水の大精霊しかおりません。冒険者とは違って、兵士であれば必要なのは火と風の魔法。だからでしょう」


 リーミヤは、サーミィの魔法をほぼ防いだ土魔法を思い出している。

 それにセレスは、リーミヤも男としては珍しく魔法が使えるくらいの魔力があると言っていた。


「土魔法って、あの壁でしょ? 不思議な発動キーの」

「サーミィの【デー】が防がれたと言ってましたね。たぶん【いー10】か【い-9】でしょう」

「・・・なんじゃらほい?」

「土の契約魔法は数が少ないんですよ。その代わり、大きさを指定できます。『い』が土の壁で、9や10がその大きさです。『ろ』が落とし穴で、『は』が四角い土台だったかと」

「なるほどー」


 戻ったリーンは大きな酒樽を買って、城まで配達してくれるように頼んだらしい。

 3人は城の厩舎にヒャクダンを返し、中庭に出してあるオルビスに入った。

 サーミィ、サクラがお帰りを言い、ユーミィがゴンの隣で立ち上がる。冷やした茶でも出そうというのだろう。オルビスのリビングは涼しいが、外はまだまだ暑い。 


「おかえりなさい」

「りーにい、おかえりなさい」

「珍しいね。女の人達とゴンだけでお留守番?」

「はい。次々にお城の人が呼びに来て、残ったのは私達だけです。お昼ごはんは食べました?」

「うん。ユーミィちゃんのおむすび、美味しかったよ。ありがとうね」

「はいっ」


 3人はユーミィが出してくれた冷茶を飲みながら、他のメンバーを待って飲み始める事にしたようだ。

 ゴンはリーミヤの膝の上だが、リーンにちょっかいを出されてはケラケラ笑っている。

 夕暮れ近くになるとまずセレスが戻って来たが、その顔には疲れが見えた。


「おかえり。疲れてるみたいだけど大丈夫、セレス?」

「ちょっとね。魔法省のような物をベンタにも作りたいから教えをって言われて出かけたんだけど、これがなかなか・・・」

「お茶をどうぞ」

「ありがとう、ユーミィちゃん。それでね、ベンタって土と水の大精霊しかいないでしょ?」

「ああ、帰り道でもその話をした。それで?」

「だから土の使い手は土木工事に。水の使い手は農作業に従事すればいいって言ったんだけど、それだとアィダーヌの魔法省とは違う組織だからダメとか言い出して」

「・・・こりゃバンズールさんに無線した方がいいかもね。何でもかんでもアィダーヌの真似をしようなんてムチャだ」

「でしょう。穏健派の貴族の下で領地経営を手伝ってたっていうお爺さんなんだけど、考えが固いって言うか・・・」


 リーミヤが紙を出し、ペンを走らせる。


「全員が戻ったら、まとめてから伝えよっか」

「それがいいわ。あの感じじゃ、ジャスさん達も苦労してそう」


 次に戻ったのは、ダラスとサイだ。

 女性は夕暮れ前に帰さねばと考えたのかもしれない。


「ただいま。・・・ああ、疲れたねえ」

「すいません、義父が面倒をおかけして」

「なあに。なかなかの人物だったし、ノームのまとめ役と知り合いになれたんだから、ありがたいくらいさ」

「話はどうだったの、ダラスさん?」

「思った通り、教会をベンタに作れないかって話さ」

「教会は乗ると思う?」

「思わないねえ、まったく。それにアィダーヌの教会がベンタに神殿を置けば、寄付はアィダーヌに吸い上げられるだろう。地神と水神への信仰を主とした新しい組織を作った方がいいと、はっきり言ってきたよ」

「義父も乗り気でした」

「ダラスさんは問題なし、と」


 リーミヤが紙に短く書く。

 テーブルの向こうではサーミィの肩を抱いたリーンが殴られて悶絶しているが、もう慣れたもので誰もそれを気にしていない。

 最後にジャスとロイズが連れ立って戻った。

 ロイズはそうでもないが、ジャスは明らかにうんざりした様子である。


「・・・俺達が最後か。とりあえず飲もうぜ、もう夕暮れ時だからよ」

「大変だったみたいだねえ」


 どっかりと腰を下ろしたジャスに、ゴンが近づいて何も言わずに抱きつく。

 どうやら、慰めようとしているらしい。

 愛する息子に心配をかけたジャスは、申し訳なさそうに抱きしめ返してからゴンを胡座の上に座らせて頭を撫でた。


「ロイズも一緒だったのは、諜報機関を作りてえってバンズールの旦那に呼ばれたからだ」

「暗部じゃなく黒騎士団をベンタに作るって。ただ、責任者がサックスなのが心配」

「・・・呼び捨てかよ。俺の方はリーミヤの予想通りだ。冒険者にゃ犯罪者が混ざってるのを伝えたが、それでも国内に呼び込みたいんだとよ。アィダーヌの冒険者ギルドに儲けさせるぐれえならベンタはベンタで冒険者ギルドを作れと言ったんだが、どうもそこまでの覚悟はねえらしいな」

「・・・了解。問題点はバンズールさんに伝えとく。そんじゃ、飲もうか」

「待ってっ!」


 激しい口調で待ったをかけたのはセレスだ。

 眉間にシワを寄せ、テーブルの1点を見つめている。

 その口が再び開くのを待つ間に、リーミヤはテーブルの上のカップを凹んでいる場所に次々と入れていった。

 オルビスの走行中でも、そうしておけばカップの中身が溢れない。


(ダリアス帝国との国境上の街道に軍勢。およそ300)

(なんですとっ!)


 叫んだのは、この場にはいないバンズールだ。

 彼に伝えるために、セレスは肉声ではなく無線で言ったのだろう。

 場に、緊張が走る。


(内戦に勝ったと確信して、ベンタ王国を乗っ取りに来た軍だろうね)

(それにしちゃ数が少な過ぎやしないかい、リーミヤちゃん?)

(あちらさんはとっくの昔に全滅した3000が、ほぼ無傷だと思ってるんでしょ。バンズールさん、ベンタ国内の密偵が内戦の集結を告げる前に叩けば、それなりに高位の貴族を人質に出来るかもよ)

(・・・統治を担う者が同行しているからですか。だが密偵がその軍勢に接触すれば、戦にはならない)

(それに密偵を特定して泳がせとく事も出来るね。シャルなら簡単だ。どっちを選択します?)


 長い沈黙が続く。

 リーミヤはいつでも王都を出られるように、ヘッドギアを出して膝に置いている。

 ダリアス帝国の軍勢はこれから野営だろう。

 オルビスの足なら、夜明け前には奇襲をかけるのも可能だ。

 終わったと思っていた初陣にまだ働き所があるかもしれない。そう思っているらしいリーミヤは不敵な笑みを浮かべている。


(・・・兵は出しませぬ)

(そっか。帝国に戻った軍勢が10倍にも膨れ上がって引き返して来る可能性もあるけど、いいの?)

(まず今回の内戦がどうやって集結したか、ダリアス帝国の知る所となるでしょう。密偵がどの程度の情報を掴んでいるのかはわかりませんが、おそらくオルビスの事はダリアス帝国に伝わるはず。それをどうにか出来る術がなくては、帝国とてすぐには兵を出さぬはずです)

(ダリアス帝国を信用してるって事か。オルビスの事を、密偵の気が触れたとか言って無視する可能性はないの?)

(周到にして執拗。それがダリアス帝国の派兵です。来るとすれば使者として、相応の地位の貴族がオルビスを見物に来るのかもしれませぬな)


 セレスが壁に向かって杖を向け、口の中で何事かを呟く。

 すると白い壁は運転席のディスプレイのように、夕暮れの草原を映し出した。


(バンズールさん、セレスがシャルが見てる景色を見せてくれてますよ。来ない?)

(すぐにまいります!)


 言葉の通り、すぐにバンズールは1人の若い兵を連れてやって来た。

 リーミヤはその兵もリビングに入れていいと言ったが、バンズールは首を縦に振らない。

 2人がリビングに入ると、バンズールは壁に映る景色を見て目を見開いた。


「あの旗は・・・」

「知ってるの?」

「ダリアス帝国の王族のみに許された旗です・・・」



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