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新人冒険者の初陣-4




 興奮して叫んだビザンツを落ち着かせ、リーミヤが職業持ちとスキルについて説明する。出来る限り噛み砕いた説明ではあったが、相手はまだ5歳の男の子。半分も理解してはいないだろう。


「ま、難しいよね。だからビザンツが約束できたら、スキルや網膜ディスプレイの文字を俺とセレスが教えよう」

「約束?」

「そう、約束。それも簡単なやつだ。1、スキルの事を仲間以外に話さない。2、緊急時以外スキルはその仲間がいる時にしか使わない。3、成人まではスキルを取る前に俺に相談する。どう?」

「・・・約束しますっ!」

「元気がいいねえ。それに5歳で敬語を使えるのも凄い。それじゃ、ビザンツが持ってるスキルの説明と行こうか」

「うん!」


 期待に瞳を輝かせるビザンツの頭を撫で、リーミヤは手書きのスキル欄をじっくりと読んだ。

 その瞳が曇る。


「まいったな。ビザンツ、ちょっと待っててね」

「え、はい・・・」


 不安そうなビザンツに微笑み、リーミヤは思案する。

 こちらの世界の武器の専門家に話を聞きたいのだが、今は全員がそれぞれの仕事中だ。

 特にバンズールなどは、反乱の指揮を執った貴族と対峙しているのかもしれない。


(・・・ケーダさん、今って大丈夫?)

(城内に抵抗らしい抵抗をする貴族はおりません。それに兵はほとんど残っていないようなので、大丈夫といえば大丈夫です。ただ、もうすぐ玉座の間。そこでバンズール殿がこの内戦に幕を引くかと)

(そかそか。じゃあ、1つだけ教えて。ナギナタ以外に、この世界に片刃の曲刀ってある?)

(まさか、カタナ・・・)

(なんだって、ケーダ殿。ガンバールにはカタナがあるのかっ!?)

(ないですよ。言葉だけ伝わってます。バンズール殿の家は?)

(同じく言葉だけだ)

(小舟で旅に出たガンバールの若者が持って行ったと聞いてますが)

(・・・残念だ。存在するなら1度だけでも見てみたいと、子供の頃から思っていたのだ)

(家名がカターニャですものね)

(うむ・・・)


 リーミヤは2人がカタナに興味があるようなので、それなら後で作ればいいかとまずはビザンツの分の設計を始めている。


(ところでヒヤマ殿、それがどうかしたんですか?)

(・・・ああ。この世界にあるならいいの。今、ビザンツのカタナを作ってる。2人のも後で作るから、長さとか考えといてね。じゃ、忙しいトコ失礼しましたー)

(ちょ、まっ!)

(カタナを作るだと・・・)


 呆然と呟いたバンズールにも返事をせず、リーミヤは運転席を立った。


「どこに行くの、リーミヤ?」

「2階のジャンク置き場。2人はお茶でも飲んでて」


 運転席の後ろ、階段を降りた先にはリビングに続くドアがある。そのリビングにあるハシゴを上がるとベッドルームで、それは屋根裏部屋のような物だ。

 そこから荷台部分への接続ハッチを抜け、リーミヤはようやく目指していた場所に辿り着く。


 2階は狭い。

 3段しかない階段を上がり、リーミヤはドアを開けた。

 機械油が臭う。

 オルビスの設計時、リーミヤはわざと不要な設備まで作ったという。この小部屋も、そんな場所だ。内部にあった機械類はリーミヤの手でバラされ、こちらの世界では手に入らない素材として保管されている。


「鉄はこれと、これ。糸も必要なんだ、ドコだっけ。ああ、鮫皮なんてさすがにないなあ・・・」


 ブツブツ言いながらアイテムボックスに必要な物を入れ、リーミヤは眩い光に包まれた。【3級武器製作】のスキルを使用したのだ。

 そのままリーミヤはすぐに荷台部分から出たが、リビングで足を止めて手に持っている棒状の物をホルスに見せた。


「これは、だいぶ短いですが剣ですかな?」

「ええ。ビザンツ、ああ呼び捨てにする事にしました。本人にも言ったけど、この世界でたった3人の職業持ちだし」

「それはかまいませんが・・・」

「ビザンツのスキルがわかったんですよ」

「おおっ!」


 ホルスはそれがどんなスキルかも聞いていないのに、喜んでいるようだ。


「ほんで、予想通り剣系初級があるのはいいんだけど、それが刀術だったんですよねえ」

「・・・はて?」

「刀術ってのはカタナを使う剣術なんです。そんで直剣と曲刀の違いを理解するためと、護身用にってビザンツのカタナを作ったんですよ。スキルはちゃんと仲間の誰かがいる時にだけ使うって約束したし、【刀術初級】があるからカタナを持たせても怪我をしたりはしないとは思うんですが、やっぱ親御さんの意見を聞いておこうかと」

「・・・そうですか。籠城を決めた日、あれには家伝の短剣をいつでも懐に忍ばせておくように言いました。それを使うべき時も、説明してあります。そのカタナ、ですか。それを持たせても問題はありませぬよ。もし罪のない者をそれで傷つけたなら、私が親としてケジメを付けます」

「ビザンツなら大丈夫ですって。ゴンのも作るからね。どんなのがいいか、よく考えとくといい」

「うん!」


 頬を紅潮させて何度も頷いているゴンの頭を撫で、ついでに犬耳の手触りを堪能してからリーミヤはリビングを出た。

 撫でられるゴンは恍惚の笑みを浮かべていたが、リーミヤにはその手のスキルはない、はずだ。


「ただいま。って、もう勉強してんの?」


 助手席のテーブルで紙にペンを走らせるビザンツが顔を上げる。

 その教師役をしていたらしいセレスは、満面の笑みだ。


「ゴンと自分の名前を、この文字で書けるようになりたいんですって。だから、ミオの名前も合わせて教えてたのよ」

「へえっ。ゴンとミオが喜ぶね。ビザンツ、これをあげる。良かったら使って」

「・・・剣?」

「そ。カタナって種類の剣。さっきの紙を貸して。・・・ここ。この文字はね、【刀術初級】って読むんだ」

「とーじゅちゅしょきゅう・・・」

「うん、言えてないね」

(リーミヤ様、よろしいですか?)

(はいはーい。終わったのかな)

(ええ。ですので叔父上を迎えに行こうかと思いまして)

(ビザンツは?)

(可能なら、今夜だけでも安全なオルビスに泊めていただけるとありがたいです)

(おっけーですよ。そんじゃ、待ってまーす)


 話し終わる前にリーミヤはマイクを手にしている。


「ホルスさん、終わったみたい。バンズールさんが迎えに来るって」

「わかりました。着替えておくのでベッドルームをお借りします」

「はーい。なぜか今、メイドさんが兵士をしてるから大変だ」

「あの方に着替えの手伝いなどさせませぬよ。口調も人前でだけも命令形にせよと言われて、仕方なくです」

「見た目はユーミィちゃんと同じくらいか少し下なのに、サイさんは黒いからなあ。そんじゃ、迎えが来たらまた声をかけます」

「お願いします」


 マイクを置き、また紙を持ち上げる。

 刀術初級、刀術初級と繰り返し呟くビザンツを横目に、リーミヤはスキルを書いた紙のとある場所を指でトントンと叩いた。


「【挑発】、ねえ・・・」

「効果的ではあるのでしょうけど、それがない私達にはちょっと嫌なスキルね」

「うん。ビザンツが成長しても、俺達にしてみればかわいいかわいい弟分だからねえ。正直、使わせたくはないな」

「【挑発】・・・」

「聞いてたのか、ビザンツ。モンスターや敵兵の注意を自分に向けるスキルだよ。そうすれば、仲間が安全に攻撃できるからね」

「凄いっ!」

「この【オフェンスソード】も凄いよ。パーティー内の剣系装備者の攻撃力を5分間上昇。リキャストタイム10分。俺のいた世界じゃ剣を使うのなんて少数だったけど、こっちじゃ大多数が剣を使うからね。パーティーにいて10分に1回これを使うだけで、どれだけ戦闘が楽になるか」


 スキルの説明には書かれていないが、『剣系装備』とは銃などではなく斬撃をするための武器の事であるのかもしれない。

 もしそうならば、槍やナギナタの攻撃力も上昇させる事が可能なのか。


「パッシブスキルも良いのが揃ってるわ。【愛刀補正】に【馬術初級】。【体捌きの基礎】なんてのも有用そうね」

「近接戦闘特化の職業持ちか。バンズールさんもうかうかしてらんないね、こりゃ・・・」


 次々と飛び出す未知のスキルに、ビザンツの興味は最高潮である。

 苦笑したリーミヤとセレスがそれを1つ1つ説明している途中で、正装に着替えたホルスがビザンツを抱き上げて頬にキスをしてからオルビスを降りた。

 迎えに来たバンズールが、見えていない運転席に律儀に一礼してから城に戻る。

 ようやくすべてのスキルの説明を聞き終えると、ビザンツはカタナを握りしめながら目を閉じて天を仰いだ。


「疲れただろ。リビングでゆっくり休むといいよ。明日以降、ビザンツが勉強をしたくなったりスキルの事を聞きたくなったら俺かセレスに言えばいい」

「・・・ありがとう」

「さあ、行きましょう。ビザンツ」


 セレスとビザンツが立ち上がると、リーミヤは紙巻きタバコに火を点けた。

 紫煙は子供や妊婦に影響があるとジャスとダラスに説明していたので、ビザンツがいるうちは我慢していたのだろう。

 警告音の後で網膜ディスプレイにウィンドウが浮かぶと、そこにはドアンとサイ、それに率いられた兵達が映っていた。

 サイだけが隊列を離れ、オルビスに歩み寄る。

 ハッチを開けたリーミヤは、煙を吐きながらのんびりと待った。


「お疲れ様でした、リーミヤ様」

「仕事がなくてビザンツのスキルを調べてたよ。サイさんこそお疲れ様。犠牲は?」

「1兵たりとも欠けてませんわ」

「無線でダラスさんを呼ぶ人もなかったし、ユーミィちゃんもずっとリビングにいた。まさかの無血開城かもね」

「怪我人はいるのかもしれませんが、命に関わるほどの怪我ではなかったのでしょう。それで、ビザンツ様のスキルとは・・・」


 サイの目は真剣だった。

 元々、不思議な力を持つ者がサージュの家に生まれたら、それを見守るためにメイドをしているという話だ。気にもなるだろう。


「近接戦闘特化の職業持ちだね、ビザンツは」

「そうですか・・・」

「レベルを上げれば俺みたいに嘘を嗅ぎ分けたりも出来るし、苦労はするだろうけど大丈夫だって」

「はい。わたくしも助力は惜しまないつもりです」

「俺だってそうだよ。はい、スポーツドリンク」

「ありがとうございます」



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