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新人冒険者の初陣-3




 戦闘開始の合図は駆け込んできたサーミィが叫ぶ、火系最上契約魔法の発動言語だった。

 冒険者をしているのならば使い所がほとんどなく、魔法兵であるならば隊列を組んで戦場で放つ唯一の火魔法。


「【いー10】っ!」


 反乱貴族の中央にいた男が叫ぶと、その前に巨大な土の壁が現れる。


 ドゴオンッ!


 サーミィの【デー】を受け止めきれず、その壁は爆散した。

 浴びた土を落とし、うめき声を上げながら反乱貴族達が立ち上がる。

 起き上がってこないのは5人。

 戦争用とでも言うべき火魔法【デー】を受けてその程度の被害なら、【いー10】を使った男は腕の良い魔法使いなのだろう。


「へえっ、土魔法ってやつかな。魔法が使えるのに、戦う事を選べない男か・・・」


 片膝を屋根についてアサルトライフルを構えていたリーミヤが、少しも迷わずにトリガーを引いた。

 魔法を使える男はたしかに珍しいが戦えぬ者、さらに言えばベンタ王国という祖国を売るような輩はこれからも必要ないという事だろう。

 血が、ビシャリと音を立てて散る。

 男が地に倒れ伏す音は、その後で聞こえた。


「なんだっ!?」

「おい、ジュセイン。しっかりしろ、お主がおらねば魔法を使える者がおらん!」


 倒れた魔法使いはどう見ても即死だ。

 しかし反乱貴族の男はそれを認めたくないのか、何度も死体を激しく揺すっている。


「おらよっ、【ツェー】!」


 魔法を放ちながらサーミィが斬り込む。

 背の両手剣を抜く動作からそのまま振り下ろした刃は、太った反乱貴族の鳩尾までを両断した。

 そのまま周囲を薙ぎ払うように両手剣を振り、サーミィが次の獲物を品定めする。


「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・・・」

「ひいっ」


 『な』でサーミィと視線が合った男は、恥も外聞もなく後退りする。

 すると、横合いから別の男がサーミィに斬りかかった。

 リーミヤの銃口が男を追う。


「調子に乗るな女っ」

「甘い!」


 サーミィが男の膝を蹴る。

 嫌な音がしたのは、関節が砕けたからだろう。

 そのままサーミィは最初に決めた獲物を袈裟懸けに斬り下ろし、それから膝を砕かれて倒れた男に剣を突き立てた。

 リーミヤの銃口は、すでに他の反乱貴族に向いている。


「バケモノだっ、俺は逃げるぞっ!」

「はい、それはムリ」


 リーミヤが逃げ出そうとした反乱貴族の眉間あたりを撃ち抜く。


「逃げるとあの魔法道具の的だぞ!」

「固まれ、身を寄せ合うんだ。死にたくなければ急げ!」


 城に逃げ戻る事を諦めた反乱貴族は白刃を手にサーミィを睨むが、ヒャクダンを降りたバンズールが彼女を庇うように前に出る。


「バンズールさん、カッコイイ・・・」

「風の槍、壱之突き!」

「・・・ロイズ、空気を読もうよ」


 リーミヤが呟いたように、サーミィの前に出たバンズールの背後から、ロイズが突き技を繰り出して敵の真ん中に飛び込んでいる。真っ白な髪としっぽが風に靡き、獣人族の俊敏さでロイズは8メートルは跳躍してみせた。

 続く影は、リーンだろう。

 大技を使って間合いに入ったロイズの隙を埋めるように、彼の剣がいつもより小刻みな動きで振られている。


「おおっ、何だあの美人!」

「サーミィ姐さんだよ。でも残念、リーンが来る直前にバンズールさんに惚れたね。あれは。間違いない」

「何だとっ!」

「リーミヤ、高みの見物しながら言うじゃないか。後でお仕置きが必要だねえ。それとロイズにリーン、だったな。人の獲物を横取りしてんじゃねえっ。【ベー】!」


 またも魔法を発動しながらサーミィが斬り込む。

 ロイズが敵の剣を柄で受けたと同時だ。

 柄で剣を受けたロイズ、それをフォローしようと動いたリーンが、反乱貴族を倒した爆発の煽りを受けて咳き込む。


「なにをする、牛族の女っ」

「アタイは人間だっ!」

「でっけえもんなあ。サーミィ、終わったらメシでも行こうぜ。酒でもいい。2人っきりでよ。そんで、ぐふふ・・・」


 ああだこうだと騒ぎながら、3人は反乱貴族を斬りまくる。


「バンズールさん、あれはほっといていいですよ」

「はあ、若さが眩しいですなあ・・・」

「バンズールさんだってまだ若いでしょ。それと、コレ」


 リーミヤが右手で持つアサルトライフルを顔の横に立て、左手の親指で指差す。


「恐ろしい武器ですな。驚きました」

「あのね、神様から神託があってこの武器、銃って言うんだけど。これをオルビスに装備しとけって言われたの」

「そんな事が・・・」

「だからもしかしたら俺以外にも、こんな飛び道具を持ってる存在がいるかもしれない。斬り合いなら絶対の自信があるんだろうけど、1人で20以上を相手にするとかなるべくしないで下さいね。バンズールさんは総指揮官で、これからのこの国に絶対必要な人なんだから」

「・・・これは。心配させてしまったようですね。ベンタ王国の貴族の弱さに歯痒い思いばかりしてきたせいで、無意識に侮っていたようです。ご忠告の通りにいたします」


 バンズールは生真面目な表情で小さく頭を下げ、リーン達の戦闘に視線を戻す。

 もう立っている貴族はいない。

 まだ息のある者にリーンが止めを刺し、ロイズとサーミィが死体を脇に寄せる。

 少し待つとジャスを先頭に、サージュ公爵家の兵とケーダもいる騎馬隊が到着した。


「おうおう、派手にやったなあ」

「某は見ていただけでしたよ、ジャス殿。いずれも手練ですなあ」

「個人戦闘は合格か。サーミィ、次は指揮もやってもらうぞ」

「望むところだ!」


 ロイズは黒騎士団に2人しかいない副団長。実戦の指揮には慣れている。

 リーンは傭兵を500も指揮していたというし、リーミヤが何も言わないのでその言葉は真実だ。

 なのでジャスは、人間を相手にした時のサーミィを城への突入前に見たかったのだろう。


「休憩なしで突入、バンズールさん?」

「そうなります。無線を使えるジャス殿、ダラス殿、リーン殿、ロイズ殿、サクラ殿、サーミィ殿に10名ずつ率いてもらって城内の掃除。これは小部屋まで、ですな」

「俺の名前はないかあ・・・」

「ないとは思いますが、王都の外から援軍が来た時は、リーミヤ様とセレス様にお願いいたします。サックス、お前は50を使って使用人や投降する貴族を広場に集めろ。広場の守りと捕虜の監視は、ザックに任せる。残る騎馬隊とケーダ殿は、ヒャクダンを降りて俺に続け」


 バンズールの声はよく通る。

 名前が出た人間の後ろに騎馬隊。その後ろに本隊の歩兵がいるのだが、騎馬隊は反乱貴族の首魁を討ち取る機会を得たと知って歓声を上げていた。ケーダもまるで昔から騎馬隊にいたような顔をして、隣に立つ若い兵と肩を叩き合っている。


「俺も行きたいけどなあ・・・」

「ジャス殿達にも掃除をお願いしました。謀反人の首は譲って下さい」

「・・・了解。忙しくなるだろうから、今のうちにビザンツくんのアレを確認しときますよ」

「お願いいたします」


 リーミヤが屋根から運転席に戻ると、セレスが立ち上がってリビングに向かうところだった。

 会話を聞いていたので、ビザンツを連れてくるつもりなのだろう。


「ありがと、セレス」


 微笑みながらセレスがリビングに姿を消す。

 リーミヤはハンドルに覆い被さるようなだらしない姿勢で、サージュ公爵軍の兵達が続々と入場する光景をぼんやりと見ていた。


(サーミィ姐さんは俺と一緒で初陣なんだから、ムチャは禁止だよ?)

(わかってるっての。城の中を歩きまわって、武器を抜いたやつを殺す。そうじゃない人間は広場に行かせる。それだけのつまんねえ仕事さ)

(さっきあれだけ暴れたんだからいいじゃん。それに、俺なんかオルビスでお留守番だって)

(のんびり待ってりゃいいさ。じゃあな)

(へーい)


 セレスがリビングから連れて来たのは、ビザンツ1人だ。

 2人が助手席に座ると、リーミヤはオルビスのディスプレイに数字と文字を表示させる。

 そしてアイテムボックスから紙とペンを取り出してみせると、ビザンツは愛らしい目をまんまるに見開いて驚く。


「そっか、アイテムボックスの使い方も知らないのか。ビザンツくん、・・・呼び捨てでいっか。ビザンツ、このペンを収納って心の中で思ってみて。・・・そうだなあ。誰にも見えない、ビザンツだけに触れる宝箱があって、それに入れる感じ」

「は、はい」


 ビザンツが渡されたペンを持って目を閉じる。

 するとそれだけで、いつの間にかペンは消えていた。


「1発か。いいねえ、さすがだよ。次は今のペンを取り出す。・・・そうそう。子供の飲み込みの早さってやっぱ凄いや。次はここを見て」


 リーミヤが指差したのは、オルビスのディスプレイだ。

 あちらの世界の1から10までの数字と、アルファベットとヒヤマ王が名づけたらしい数十の文字。


「これ・・・」

「見覚えがある?」

「うん。・・・あ、はい」

「あはは。うんでいいよ。かたっ苦しいのは好きじゃない。それにこの世界にいる職業持ちは、俺とセレスとビザンツだけなんだよ。たった3人しかいない仲間。もっと気楽に話そう」

「・・・うん!」


 仲間と言われた事が嬉しかったのか、ビザンツはそれはそれはかわいらしい笑顔を浮かべた。

 だが見えている網膜ディスプレイの線から数字、それらより複雑な文字を紙に書き写せと言われて顔を青くしている。

 公爵家の嫡男なので、まだ5歳だが書見などもするのだろう。だが、あまりそれが得意ではなさそうだ。


「そんな顔をしないの。お姉ちゃんが手伝うから、ね?」

「うん・・・」


 リーミヤが手を伸ばし、助手席の手摺りの下を引く。

 すると金属を暖かみがある素材でコーティングした板が出て、机のようになった。


「ビザンツ、シートを上げるから書きやすい位置で教えて」

「うん。・・・ここ」


 シートは1人が座る部分だけせり上がり、リーミヤが置いた紙にビザンツは真剣な表情で向き合った。

 一心不乱に手を動かすビザンツが見慣れぬ文字を書くのに苦戦すると、セレスがそれを書いてやったり直したりする。

 休憩を挟みながら見えている網膜ディスプレイを書き写したビザンツは、精魂尽き果てた様子で大きく息を吐きながらシートに凭れた。


「お疲れさん。どれどれ・・・」


 リーミヤが紙を手に取って文字に目を走らせる。


「わあ、良いページを書き写したねえ」

「でしょ。手伝いながら、笑っちゃったわ」

「えっと・・・」

「この紙に書かれてるのは、ビザンツが持ってるスキルとその詳細」

「スキル・・・」

「サージュの家にたまに生まれるっていう能力者、キミのお父さんなんかにある能力だよ」

「僕にも人の色が見えるようになるのっ!?」



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