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新人冒険者の初陣-2




 4人の行動は早かった。

 リーミヤ以外がオルビスを降り、ドアンとツダークに合流する。

 オルビスは素晴らしい速度で平原を駆け抜け、西門に砲口を向けた。


(バンズールさん、攻撃前に警告はしなくていいの?)

(ベンタでただ1人、念話魔法を使えるサイ様がおられるのです。住民には説明をしてあるのでしょう。兵にであれば、情けはいりませぬ)

(噂という形で、王都奪還は近いと知らせてあります。そしてサージュ公爵の軍は、決して民家を焼いたりはせぬと。ですから門が破られれば、兵士以外は頑丈な建物に身を隠すでしょう)

(ですので安心してお願いします、リーミヤ様)

(あいよっ。3番砲塔、安全装置解除。・・・狙いよーし、撃っていい?)

(どうぞ)

(戦車のない世界でも名前は対戦車砲、発射っ!)


 ドゴオンッ!


 そのたった1発で、王都の西門はモンスターや敵兵の襲撃を阻むという役割を果たせなくなっていた。

 それどころか、門の向こうに見える地面が抉れている。


(おっしゃ野郎共、モンスターが来ねえうちに門に取り付くぞ!)

(女も2人いる、師匠)

(なに言ってやがんでぇ。さっきおめえさん、オイラを年寄り扱いしただろうが。オイラが年寄りなら、ロイズは小便臭えガキさ。ガキにゃ男も女もねえ!)

(どんな理屈、それ)


 リーミヤは、ドアン達が門に布陣するまで待つようだ。

 万が一にもモンスターが王都に侵入し、住民に犠牲が出ぬようにだろう。

 緩やかな丘を駆け下りたサイが大穴の開いた門が崩れぬよう土魔法で補強し、王都からの攻撃とモンスターの襲撃のどちらにも備えた簡易陣地を構築するのを見届けてから、リーミヤはクラクションを鳴らして走り去る。


(ところでそっちはどうなの、おっちゃん?)

(兵に荷降ろしを頼んでる。もうすぐ終わるな)

(ゴンは元気? 戦争の雰囲気に怯えたりしてない?)

(元気なモンだぞ。ビザンツを弟のように感じてるらしくて、いい兄ちゃん役をやってる。今も客室で一緒に遊んでるだろ)

(オルビスはリビングと運転席を行き来できるから、おもちゃでも作ってプレゼントしようかなあ)

(喜ぶだろうな。雷槍の旦那、そっちは?)

(敵が来たが、街並みに身を隠して矢を射る事しかしてねえな。斬り込んでも大丈夫そうだぜ)

(バンズールの旦那に指示されてからにしなよ?)

(わかってらぁ)


 見えて来たトレーラーの荷台には、兵が群がって積み荷を卸している。

 すでに律儀に街道を走る気はなくなっているらしいリーミヤは、トレーラーの客室への入り口にハッチを寄せてオルビスを停めた。

 運転席は外から見えぬというのに嬉しそうに手を振るセレスに、リーミヤも手を振り返す。

 セレスはそのままトレーラーの客室へ姿を消し、すぐにゴン達を連れて出て来た。

 10歳のゴンが5歳のビザンツの手を引いている。

 それを笑顔で見るユーミィの肩には、黄と緑、それに青が混ざった羽毛を持つ小鳥が止まっていた。

 続々と、彼らがオルビスに乗り込む。


「りー兄、ビザンツ」

「知ってるよ。仲良くしてるかい、ゴン?」

「うん!」

「それは嬉しいな。ゴンが優しい弟で、俺もセレスも鼻が高い。昼ゴハンは食べた?」

「まだ」

「じゃあ、ユーミィちゃん。缶詰とか温めて皆で食べてくれる?」

「はいっ」


 ジャスやダラスは、運転席から見える場所でモンスターの襲撃に備えている。

 シャルを抱いて嬉しそうに助手席に座ったセレスに子供達も口にする食事の準備をさせるという選択肢はないのだろう。

 ユーミィとゴンとビザンツ、それとホルスがリビングに入ると、リーミヤはセレスを抱き寄せて軽いキスを唇に落とした。


「・・・外から見えてないわよね?」

「もちろん。お疲れ様ね、セレス」

「リーミヤこそ。人を殺してレベルアップの音を聞くの、辛いでしょ・・・」

「そんな事も言えない状況さ。門を破るの、オルビスでやろうか?」

「大丈夫よ、シャルもいるし」

「そういえばシャルって凄いんだって? これからもセレスをよろしくね」

「にゃあん」


 少しするとユーミィが2人の食事を運んできたのだが、片方の手でシャルを撫でながら手を握ったままの2人を見て、少し呆れていたようだ。

 食事を終えるとタバコに火を点ける前に、バンズールの指示で前進が始まった。

 先頭がオルビス。中軍が歩兵で、殿が騎馬隊。

 門前までオルビスが達すると、詠唱もせずにセレスが魔法で門を四角く切り裂いた。ちょうど、オルビスが入れるくらいの大きさである。


「・・・呆れたね。門をバターみたいに切っちゃった」

「考えて切ったから、王都に入ったら石を出して塞ぐわ。そうすれば、兵を配置しなくていいし」

「なんでもアリだねえ、魔法って」

「科学と職業持ちもね」

(リーミヤ様、城は町の中央。見えている大通りを直進すれば着きます)

(了解。敵影10、門のすぐ内側)

(そいつらは俺とダラスで殺る)

(気をつけてね。おっちゃん、ダラスさん)

(王都の兵は反乱貴族の子飼いで、リーミヤちゃんの言うクソヤロウばかりらしいからねえ。遠慮なくあの世に行ってもらうさ)


 オルビスが王都の土を踏む。

 門に配置されている兵は弓を射るでも槍を突き立てるでもなく、呆然とオルビスを見送った。

 運転席のディスプレイには後部カメラの映像が映し出され、10名の兵を次々に屠るジャスとダラスが浮かべた笑顔まで見えている。


「あの2人、何度見てもいい腕してるや」

「そうね。それより、敵兵がいないわね・・・」

(こちらリーミヤ。南門から城までの大通りに敵影なし。西門はどう?)

(3人ほど射殺したら顔も出さねえ。どうすんでぇ、バンズール)

(南門は殿が門を潜ると同時に、セレス様が岩を出して門の穴を塞いで下さいました)

(ならこちらもそうしていいのですか、バンズール様?)

(いえ、モンスターを防ぎきれるのならば、何か敵に策があった場合の逃げ道として西門を確保しておきたいのです。可能ですか?)

(もちろんですわ)


 そんな会話がなされているうちに、オルビスは城門の前に到着している。


(こちらリーミヤ。城門前にも敵はいない。ただ、門の向こうに20くらいいる)

(籠城してダリアス帝国に早馬でも飛ばす気か。いや、反乱貴族にヒャクダンを友とする兵などいない。なら・・・)

(バンズールさん、城門の脇の通用口が開いた!)


 リーミヤの言葉通り、大きな門を開けるまでもない時に使用する通用口が開け放たれた。

 飛び出してきた身なりの良い男達は、オルビスに怯えながらも城内には戻らず、門前で途方に暮れている。


「あーあー。反乱貴族の方々とお見受けする。そちらの声はこの鉄箱に問題なく届くので、城から出て来た訳を1人ずつお教え願いたい」


 マイクを手にしたリーミヤが言うと、男達の間に緊張が走ったようだ。


(勝てそうだから反乱側に付いたけど、負けそうになったから逃げ出してきた連中かなあ)

(そんな者共は、この機に殺しておくべきですな。騎馬隊を部下に任せ、先行いたします)

(バンズールさんが強いのはわかるけど、1人で20を斬る気?)

(恥ずかしながら、ベンタの貴族など目をつぶっていても楽に殺せます)

(まあセレスの魔法もあるし、俺が降りてもいいんだけど)

(そういう事なら。ジャスさん、アタイが行ってもいいかい?)

(まだ兵を小分けにはしねえ。好きにしろ、サーミィ)

(おうっ!)


 リーミヤとセレスが顔を見合わせる。

 しっかり話し合った訳ではないが、出来ればサーミィに人殺しはさせたくないと、どちらも思っているのだろう。

 城を出た反乱貴族は、敵の秘密兵器の銃口に狙われているというのに、のんきに集まって相談を始めている。


(西門は兵士じゃなくモンスターが相手になりそうだ。ロイズ、リーン。ちょっくら敵陣を突破して、バンズールを手伝って来いや。ヒャクダンに乗ってなくても無双のもののふに違いはねえが、城内に斬り込んで怪我でもされたら後が面倒だ)

(おうっ)

(わかった。手槍を借りて行く)

(敵陣突破って、大丈夫なんっ!?)

(あの2人にゃ、弓の狙いもついてけねえさ。おうおう、どっちもイノシシみてえに駆けやがって)


 リーミヤが判断に迷っていると、ヒャクダンの足に任せて単騎先行したバンズールがオルビスの前で足を止めた。


「この戦争の総指揮官が、単騎で23人の敵と向き合っちゃったよ・・・」

「大陸北部の諸国で、誰よりも実戦経験のあるバンズールさんだもの。オルビスも私も計算に入れてるから、問題ないって判断なんでしょ」

「にしてもなあ。このフットワークの軽さは、いつか痛い目を見そうで怖いよ・・・」


 反乱貴族は、抜き身のナギナタを持ったバンズールを目にしただけで激しく動揺している。


「ダリアス帝国の軍勢を国内に引き入れた恥知らず共が、最後に改心して首を差し出しに来たかっ!」

「わっ、我等は脅されて仕方なくっ・・・」

「なるほど。脅されて国を滅ぼしかけた不明を詫びて、死にに来たのだな」


 リーミヤは思念操作で頭上のハッチを開放し、アサルトライフルを出している。

 オルビスの砲弾を使うほどの相手ではないので、いざとなればそれでバンズール援護をしようという事だろう。


「ならばどうすれば良かったというのだっ!」


 反乱貴族の1人が叫ぶ。


「百姓の作った米を、数十年も食って生きて来たのだ。彼等を奴隷にしようとするダリアス帝国を許した時点で、ベンタ王国の貴族たる資格はない。今のうぬらは、ただの謀反人よ」

「その民も、我が家族も、ダリアス帝国に従わねば皆殺しにされるのだぞっ!」

「それでも民を守るための貴族。その事すら忘れたか・・・」


 リーミヤがシートの上に立ち、ハッチに手をかけて屋根に出る。

 この論調では衝突は避けられないという判断だろう。

 木々に溶け込むための迷彩柄のコンバットスーツを着た大柄な少年に、23名もいる反乱貴族は誰1人として気づかない。


「バンズール、貴様は我々が死ぬべきだったとでも言うのかっ」

「当たり前の事をぬかすなっ!」


 バンズールの怒声に、大気が震えた。


「っく・・・」

「民を守るために国があり、国を守るために貴族はあるのだ。その責務を放棄したうぬらは、盗人以下の謀反人。ベンタの男として死にたいのであれば、せめて潔く腹を切れ」

「・・・そこまで言うならば、我等の力を思い知らせてやろうではないか」


 反乱貴族の1人が腰の剣を抜くと、残る全員も覚悟を決めたように抜剣した。

 リーミヤはいつでもアサルトライフルを撃てる構えである。

 ナギナタの柄を握るバンズールの手に力が込められ、愛馬がわずかに姿勢を低くした。


「間に合ったねえ、【デー】!」



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