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新人冒険者の初陣-1




 歩兵の足に合わせてオルビスを進めながら、リーミヤはかなり仲良くなった様子のロイズとサイの話を、聞くともなしに耳に入れていた。

 なんといっても、オルビスと歩兵では進軍速度が違う。

 先行してはモンスターを探し、小規模な群れならロイズとサイを降ろして狩る。まだそんな状況はないが、2人で対応できない群れが出たなら、リーンとロイズが相応の兵を指揮して狩るつもりだ。

 荷台には冷蔵設備もあるので、獲物は多ければ多いほど良い。

 王都を回復する。

 それも、住民に犠牲をなるべく出さずにだ。

 時間がかかれば、トレーラーで運んでいる食料だけでは足りなくなるかもしれない。


「お、ロイズ。おっしょさんが見えたよ」

「師匠、嬉しそう」


 ヒャクダンの手綱を持ち、前傾姿勢で白髪を靡かせるドアンは、たしかに乗馬を覚えたての少年のようにも見えた。


「元気な爺ちゃんだよねえ。そんな戦争が好きなら、軍人になれば良かったのに」

「サージュ公爵の助言で、軍人ではなく武芸者となる道を選んだそうですよ」

「へえ。何かを感じたんだろうね、ホルスさんは」


 ベンタ王国の街道はロクに整備もされておらず、狭い。

 オルビスを路肩に停めて待っていると、ドアンはヒャクダンの足を緩めずに横を駆け抜けた。


「あれっ?」

「視線も合わせませんでしたね・・・」

「ツダークを早く見たいから」

「まさか、弟子にしようってんじゃないよね!?」

「わからない。才次第。でも、人間族ではアタシ達の槍術はムリ。師匠は人外」

「ならなんで、あんなに急いでるんだろ?」


 周囲にマーカーはない。

 なのでリーミヤはタバコを吸いながらのんびりと、ドアンと合流してその指揮下に入った約200が追いつくのを待った。


(リーミヤ、俺はそっちで露払いに参加しろってさ。それと明日以降は、歩兵がわざとモンスターに襲われるようにするんだと)

(爺ちゃん、行軍しながら兵を鍛えるつもり?)

(あったりめえよ)


 オルビスに乗り込んだリーンは、ロイズとサイが並んで座る助手席ではなく、運転席に上がるための階段に座った。


 翌日からはドアンの指揮で兵がモンスターの襲撃に対処したので、4人は朝から夕暮れまでオルビスに揺られながらのんびりと世間話だ。

 王都までの3日で、リーミヤとリーンもロイズとサイのようにすっかり打ち解けている。リーンは女好きのような口を利くくせに、ロイズとサイにはまったく興味がないらしい。

 リーンとロイズは良くてケンカ友達といった感じで、サイはリーンをやんちゃな弟程度にしか考えていないようだ。


「また見事にモンスターを誘き出して、一網打尽。爺ちゃんやるねえ」

「でも囮とその後の槍隊の指揮はツダークですよ。成人したばかりの男の子にさせていい役割なのでしょうか・・・」


 サイの言葉に、リーミヤが頷く。


「師匠は、認めたのかもしれない」

「ツダークに爺ちゃんが認めるほどの才能があるって事?」

「そうとしか思えない」

「それよりよ、あの伯爵様って似てねえか?」

「似てるって、バンズールさんとか?」

「ちげえよ。雷槍のドアンに!」


 リーンが言うと、ちょうど氷の浮いたグラスの水を飲もうとしたリーミヤが噎せた。

 慌ててコンバットスーツの袖口でハンドルを拭いている。

 サイがハンカチを出してそれを手伝うと、リーミヤは礼を言いながらカメラを思念操作でドアンとツダークに向けた。

 4人がディスプレイを覗き込む。

 馬上のドアンを見上げるツダークは笑顔だ。そのツダークの顔も見ずに何かを言うドアンも、わずかにだが口の端を上げている。


「似て、る?」

「ツダークを50年くらい戦場で戦わせたら似る、かも?」

「似てるって、ほら。なんでわかんねえかなあ!」

「・・・言われてみれば、眉は吊り上がっているのにタレ目気味。ツダークと同じく、ドアンさんも昔は豊かな黒髪でした」

「さすが爺ちゃんより年上、いてっ」

「何かおっしゃいました、リーミヤ様?」

「・・・いえ、何も」

「そして何より、先々代のヴォイスは女伯爵でした」


 サイが苦笑いを浮かべながら言う。


「まさか・・・」

「先代の父親は誰なのか、わたくしも知りません。貴族の夜会で誑かされたか、もしや爵位の低さで強要されて、なんて問い詰めようとしたわたくしに、彼女ははっきりと言いましたわ。愛する人との子供です、と」

「・・・本人に訊ねていいと思う?」

「微妙ですね。ツダークの祖母はすでに故人。ドアンさんだって言いたくない事もあるでしょう」

「でもよう、俺も爺ちゃんっ子だったから言うんだが、もう家族なんて死んじまったと思ってる伯爵様が雷槍のドアンを爺様と呼べるなら、そうしてやった方がいいんじゃねえかなあ」

「師匠も家族はいない。でも孫がいて爺ちゃん爺ちゃんと頼られたら、死に場所なんか探さないかも」


 リーンの言う事も、ロイズの言う事も、リーミヤとサイにだってわかり過ぎるほどわかる。

 だが、他人が踏み込んでいい領域なのかどうか。

 2人が迷っているのはそこだろう。


「王都が落ち着いたら、ホルスさんに話を聞こう。この様子だと爺ちゃんは自分の孫だって確信してるんじゃなく、そうかもしれないって思ってる感じだ」

「それがいいですね。しかし、あの雷槍のドアンに孫ですか・・・」

「しかもベンタの貴族。アィダーヌの北の獅子と南の狼、レオニウスとガンバールが、ベンタじゃカターニャとヴォイスって事になるのかもねえ」

「ですが、ベンタは小国。ツダークやビザンツ様は苦労されるのでしょうね・・・」


 現状でも、利口な金持ちなら明日にでもベンタ王国を逃げ出す。

 ダリアス帝国の脅威とは、それほどのものだ。

 だがサージュ公爵であるホルスは王となり、バンズールは兵を率いる立場でそれを支えるつもりだ。

 2人はリーミヤの故郷の話を聞いて、新しい国をそんな風にしたいと言っていた。大国に攻められながら、貴族制度を廃止して安価で食料が流通する国を目指す。

 その大仕事は、確実にツダークやビザンツの世代まで時間がかかるだろう。


「2人が大人になっても、俺やサイさんは今のままだ。なるべく手助けするしかないねえ」

「あれ、リーミヤってエルフの血でも入ってんのか?」

「そんな感じ。セレス、奥さんと同じ日に死ぬ予定。まあ、戦争なんかで死ななきゃだけどね」

「大変だなあ。でもま、惚れた女を残して死ぬよりはいいのか。俺も早く、人間か獣人かノームの嫁さんを探さねえと」

「どんな人がいいの、リーン?」

「女は胸だ! その大きさだ! 南じゃ巨乳と書いて魅力的と読むんだぜ!」


 リーンは床に膝をつくようにしてディスプレイを覗き込んでいる。

 その頭に足を伸ばしたロイズが踵を落とし、サイが笑顔を引き攣らせながら足裏で踏みつけた。


「ぎゃっ」

「さて、少し前進っと」

「た、助けろよリーミヤ!」

「いいかい、リーン。女性の魅力は内面で決まるんだ。決して身体的特徴なんかに左右はされない。いいね?」

「くっそ。どっちの足かわかんねえが、横も向けねえくらい的確に体重をかけてんじゃねえっ! ・・・この足の大きさはメイドの方か? 胸だけじゃなく足も、いでっ、いでえって!」

「リーン。女性の魅力は決して身体的特徴なんかに左右はされない。そうだよね?」

「そうだ、そうに決まってる! 頭が割れるっ!」

「舌の根も乾かぬうちに、いけないお子様ですねえ。ごめんなさい、は?」

「がっ、ぎっ、・・・ゴメンナサイ!」


 ごめんなさいは? と言いながら目を輝かせ、さらに足に力を込めたサイを、リーミヤもロイズも見なかった事にしている。

 我関せずとオルビスを前進させたリーミヤは、丘の向こうに灰色の城壁を仰いだ。


「あれって・・・」

「王都ですね。住民達は無事のようですが、門には兵が配置されているそうですよ」

「数は?」

「西門と北門、どちらも10ほどらしいです」

「門を破るのは簡単だけど、その人達に怪我をさせるのもなあ」

(そろそろ王都が見えたんじゃねえか、リーミヤ?)

(爺ちゃん。ちょうど見えたトコ)

(だろうなあ。バンズール、兵は王都の目に晒していいのかよ?)

(えっ?)


 バンズールの呆けた声に、運転席の4人は苦笑した。


(指揮はバンズールなんだよな、リーミヤ?)

(あったりまえじゃん)

(てっきりリーミヤ様が指揮をお執りになるのだと・・・)

(ないない。バンズールさんとの合流前は、おっちゃんとファウンゼンさんに指揮を頼むつもりだったし。俺、戦争の経験ないもん。初陣だよ?)

(となると・・・)


 思考を巡らせるバンズールを、誰1人声も出さずに待つ。

 リーミヤがドリンクホルダーの水を飲むと、リーンがそれを横からかっさらった。


「自分の分をリビングに取りに行けばいいのに」

「面倒だ。・・・ああっ、美味え!」

「貴族に近い兵は簡単に投降しないと思う。リーンは降りて手伝うの?」

「当然だ。言ったろ、百姓のガキが腹いっぱい食えるようになるなら何だってするって」

「これでもベンタの国民ですから、同じく」

「サイは友達。アタシも戦う」

「・・・俺、オルビスを運転しなくちゃいけないからなあ」


 リーミヤは3人と同じように、白兵戦にも参加したいのだろう。

 だがホルスは今は安全なトレーラーに乗っているらしいが、彼を討たれればこの内戦は負けだ。そしてバダムは王都の手前に兵糧や医療品を下ろしてすぐに帰る。

 大将であるホルスを守るにはモンスターと敵の両方を跳ね返すほどの兵力を割くか、オルビスの中にいてもらうしかない。

 ゴンやユーミィ、まだ5つでしかないビザンツまで連れて来ているので、リーミヤはオルビスにいるつもりではあるようだ。


(セレス様が、魔法で門を破れるとおっしゃっておりました)

(オルビスでも可能だよ)

(そうなのですか。ですがリーミヤ様には、こちらで幼子達と叔父上をお願いしたいのです)

(だろうねえ。だからやるとしたら、オルビスでこっちの門、西門か。それを破ってからそっちに合流って感じになる)

(敵が西門に集中しますな。いくら雷槍のドアン殿の指揮とはいえ、200足らずの練度の低い軍勢をそこに当てるのは・・・)

(お久しぶりです、バンズール様)

(この声は、血煙のっ! サイ殿も無線を使えたのですか)

(お仲間には入れてもらってましたの。ですがメイドが挨拶をするのも変な話かと思いまして)

(エルフの里の姫がそのような)

(エルフ?)


 声はセレスのものだ。

 冒険者になるまではエルフの里で暮らしていたというし、気になったのだろう。


(祖父がエルフというだけで、わたくしはノームですわ。セレス様)

(混血だからエルフ臭くなかったのね。その割に魔力が凄いしアレだから不思議だったのよ。夫が迷惑をかけてると思うけど、悪気はないので許してあげてね)

(いえいえ。それでバンズール様。セレス様の言うアレの事なのですが、私には土属性の使い魔がおりますの。もう2000年もすれば、大精霊になれるくらいの子です)

(なんですとっ!?)

(なのでわたくしは、西門を担当するドアン様のお手伝いをします)

(年老いた師匠の面倒はアタシが看る)

(俺もこっちかな。リーンだ、バンズール侯爵様。南の戦争じゃ500の傭兵の指揮を任されてた)

(・・・これはリーミヤ様に門を破っていただき、それからこちらと合流しても安心ですな)



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