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新人冒険者、走る-6(終)




「えっと、どしたん?」

「ウチは、根っからの百姓の家系だ」

「は、はあ・・・」

「リーミヤは百姓ってのがどんな存在かわかるか?」

「どんなって。職人が物を作るように、お米を育ててる人達でしょ?」

「違うっ!」


 平伏したまま、リーンは大声で叫んだ。

 その勢いにリーミヤは驚いたようだが、サイは目を細めてじっとリーンを見ている。何か思うところでもあるのだろうか。


「リーミヤ様。この国で百姓というのは、不作の年はもちろん豊作の年もロクにお米を食べられない人達を指すんですよ」

「・・・そんな重税なん、ベンタ王国って?」

「貴族によります。国が定める基本となる税は安いものですが、細かい部分は領地を任される貴族が決めるのですよ。米を育てる土地、それに必要な水。貴族によっては、太陽の光にまで税を課すのです」

「太陽光に税金って・・・」

「バカバカしいと思われるでしょうが、本当の事です。ノームがベンタ王国を出るぞと脅して無礼討ちは減りましたが、百姓とは貴族に虐げられるためにいるような存在なのですよ」

「そんな百姓の小倅がっ、必死で強くなって傭兵になった」


 叫びながら、だんだんとリーンの背筋が伸びてゆく。


「ハンパな努力じゃなかったんだろうね・・・」

「12で家を飛び出した時の武器は鎌だった。草刈り稲刈りに使うそれで、モンスターを狩りながら南を目指した。北で冒険者になろうかとも思ったが、アィダーヌには金獣騎士がいる。だから、南を目指した。一番になりたかったからだ。一番にならなきゃ、家族に田んぼを買ってやれるほどの金なんて稼げねえからだっ!」


 一息で言ったリーンは、熱に浮かされたように頬を紅潮させている。

 リーミヤもサイも、口を挟まない。

 大地についたままの両手でリーンが土を握りしめるのを、何も言わずに見ていた。


「南じゃ、モンスターを狩るより戦争で敵を殺す方が儲かった。だから、殺したっ! さっきの兵隊を始末したのなんか、子供の遊びにしか思えねえ凄惨な戦場でだ! 殺して殺して、飽きるほどに殺したっ!」


 大陸中央部、すなわちベンタ王国から2つほど国を越えた南は、北とは違った意味で過酷な土地である。今はその国々はダリアス帝国に飲み込まれたらしいが、過去にはダリアス王国はその国々に狙われ、攻め続けられた過去がある。

 そうやって肥沃な大地であるがゆえに、人々は土地を奪い合う。

 エルフやドワーフ、それにドラゴニュートやマーマンが人間族を嫌うのは、その人間族の尽きる事なき欲望と無関係ではないだろう。


「そんな俺でも、百姓のガキ共に腹いっぱい白い飯を食わせる手伝いが出来ねえだろうか。なあ、リーミヤ・・・」

「いや、だから雇うって言ったんだけど?」

「ふざけんな。戦争のためなら報酬はいただく。だがよ、百姓のガキの未来のためになら、俺ぁ金なんかいらねえぞ!」


 その言葉を聞き、リーミヤは自分も跪くと、笑顔でリーンの肩に手を置いた。


「なんて心の澄み切った男なんだ。リーン、俺はキミのような友人を持てて幸せだ!」

「・・・報酬の心配をしなくて良くなった途端、いい笑顔ですねえ。リーミヤ様」

「違うよ? 俺はリーンの人を思いやる気持ちに心を打たれてるんだよ? それとお互いの生活費のために、仕事がない日は一緒に冒険者をやれるのが嬉しいんだよ?」

「はいはい、そういう事にしておきましょう。それよりもうすぐ陽が暮れます。埋葬も終わりましたし、街に戻りましょう」

「了解。行こう、リーン」

「手伝わせてくれるんだな?」

「もちろんさ。今夜は飲みながら、南の話でも聞かせて。ナントカって国の将軍さんとかと連携して、ダリアス帝国を封じ込められないか考えたい」

「わかった」


 その夜、リーミヤは運転席でリーンと酒を飲んだ。

 広場に出したオルビスのシートに凭れ、2人は男同士の会話をしながら酒を楽しむ。

 そしてその翌朝、空きビンの数を見て呆れるサイに起こされ、朝食も摂らずにツダークを迎えに行った。


「お、兵隊共は覚悟を決めたようなツラが多いな」

「自分達にその気はなかったとしても、この約200は謀反人。でも今日からサージュ公爵の軍勢として心を入れ替えて戦うなら、命だけは助かる。そうツダークの家臣の爺ちゃんに説明してもらったからねえ」

「・・・キツイ使い方も出来るって訳か」

「そうはならないとは思うけどね。お、いたいた」


 ツダークは家臣達に囲まれ、口々に何かを言われているようだ。

 1つ1つ、その言葉に生真面目な表情で頷きを返している。

 サージュとカターニャの将や兵のように、和風の装備を身に着けてはいない。かといって200の兵のように茶色の軍服の上に鉄色の部分鎧を着けているのでもないツダークは、白い軍服だけを着て背に両手剣、左腰に片手剣、右腰に手弓、腰の後ろに小盾と矢筒、手には槍を携えるという武装過多の装備で2人を見つけて笑顔を見せた。

 家臣達に何かを言い、ツダークは振り返らずに歩き出す。


「おはようございます。客人様、傭兵殿」

「リーミヤさんかリーミヤ殿でいいよ。おはよう、ツダーク」

「俺はリーンでいいぜ。名目上はレオニウスの家臣だが、ベンタ生まれの百姓の倅だ」

「ではリーミヤ殿、リーン殿と」

「それより、その重装備はなんなの?」


 キョトンとしたツダークが、自分の装備を目で確認する。


「こ、これですか。実は。一兵卒として王都攻略戦に加えていただこうと思っているので、どの兵科に配置されても大丈夫なようにと考えたら、いつの間にかこんな状態に・・・」


 リーミヤとリーンが顔を見合わせる。

 どうすんだよ。こっちが訊きてえよ。そんな言葉が聞こえてきそうな表情だ。


(バンズールさーん、今って話せます?)

(ええ。ちょうど、出発の準備を終えて叔父上を待っているところですから)

(ヴォイス伯爵、ツダークが一兵卒として参戦するって言ってるんだけど、この国の貴族ってこんな気概のある連中じゃなかったはずだよねえ)

(・・・前ヴォイス伯爵は、叔父上の友人でした。幼いツダークが叔父上に引き合わされた時、叔父上はツダークの本質を見てそれを語ったらしいです。ですので、よほど厳しく育てられたのでしょう)

(俺としては将来、ビザンツくんの右腕になれるほどの男の子だと思うんだよねえ)

(そこまでですか。久しく顔を合わせておりませんから、早く会いたいものです)

(で、どうしよう。【嘘看破】に反応はなかったけど、徒歩で王都を目指す200は謀反人の集団なんだよねえ)

(リーミヤ、そのガキは人を斬った経験あんのかよ?)


 割り込んだ声はドアンだ。

 どこか面白がっているような口調である。

 嫌な予感がすると思いながらも、リーミヤは口を開いた。


(領都、なのかな。街の防衛戦で、破られた防壁からなだれ込もうとする敵を何人か斬ってる。それに敵の指揮官、まあ見習いみたいなものだろうけど、反乱を悪い事だと思ってない幼なじみも斬ったね。俺に斬りかかろうとしたのを、一太刀でバッサリ)

(槍は?)

(使うところは見てない。でも、王都には持って行くつもりみたい)

(なら槍と片手剣。それと伯爵家の私兵が携帯する食料や医薬品だけ持たせて、200の先頭を歩かせとけ。オイラは、そうだなあ。あと2刻もすりゃ街に着ける場所だ。小国だしヒャクダンならと思ったが、年のせいかねえ)

(爺ちゃんがボケたら、メシ食った後になんでメシくれねえんだって人殺しそうで怖い。・・・で、ツダークは爺ちゃんが見てくれるの?)

(失礼な奴だな。そのガキはこの戦争が初陣みてえなモンなんだろ。王都にゃロクに兵力が残ってねえはずだが、ダリアス帝国が援軍を出せばその200は死兵として使われるだろ。今から厳しくしとくから、その手伝いをさせて度胸をつけさせるって事でぇ)


 兵士、それも一兵卒には人権などない。

 月々の給金と、郷里に残した家族が虐げられたりしないという保証。

 それ以外に兵士に約束されたものなど、邪魔にしかならないのだ。飢えても進軍、武器の補充が出来ないなら敵の首を手で絞めてでも殺す、命令は絶対。死ねと言われて死ねない兵など、戦場にはいらない。

 南の軍はどこもそんな感じだ。訓練で見せしめのように殺されるやる気のない兵も多い。

 そんな厳しい一兵卒の世界を、ドアンはこの機会に見せてやろうというのだろう。


(やり過ぎないでよ?)

(わかってらぁ)

(ホントかなあ・・・)


 無線の会話を聞いていたリーンが、ツダークに説明をしている。

 雷槍のドアンに付いての従軍。

 そうと聞かされたツダークの表情が引き締まる。

 テキパキとした動きで装備を整え直すツダークを見て、リーミヤは嬉しそうに微笑んでいた。


(リーミヤ。オルビスが領都にないという事で、バダムさんが合流までトレーラーを出してくれるそうなの。いいわよね?)

(ありがたいねえ。そっちも出発が近いんでしょ)

(そうよ)

(ゴン、それとユーミィちゃんだけは何としてでも守って。お願い)

(もちろんよ。危険な事はさせないわ)

(お願い。じゃあセレス、王都で会おう)

(怪我だけはしないでね・・・)

(お互いに、ね。じゃあ、出発する)


 出発を告げると、約200の兵は整列してリーミヤとリーンに続いた。

 兵の先頭にはツダーク。

 広場から門までの大通りには、若き領主の初出征を見送る住民が、押し合いへし合いしての大混雑だ。


「ツダーク様、お気をつけてっ!」

「ご武運を、ツダーク様!」

「ヴォイス伯爵家、バンザーイ!」


 見送りの声は、平原に出て門が閉じられても聞こえていた。


「こんな貴族もいるんだな・・・」

「リーンがここで生まれてたら、ツダークの右腕としてこの戦いに参加してたのかもね」

「・・・ま、今の俺の方が楽しそうな未来だ」

「未来、か」

「百姓の暮らしが良くなるなら、いくらでも血を流してみせる」

「そう気負うんじゃないよ。ドアン爺ちゃんとの合流まで、ツダークを頼んでもいい?」

「任された」


 リーミヤがオルビスに乗り込み、リーンがツダークの隣に立つ。

 不思議そうな表情をすぐに真剣なものに改め、ツダークは前を見据えてその時を待った。


「これより我等は、王都に進発する。悪辣なる反逆を許すのは、ベンタの男のする事ではない」


 外部スピーカーからリーミヤの声が聞こえると、約200の小さな軍は鯨波の声を上げた。


「ベンタ王国の歴史が変わる。その手伝いができる俺達は、幸せ者だな」

「・・・お、私もそう思います、リーン殿」

「俺でいい。男同士ってのは、そんなモンだぜ」


 髭面でニヤリと笑むリーンに、ツダークも無邪気な微笑みを返す。

 家臣に無精髭を生やし、大きく胸元をはだけている男などいるはずもないので、ツダークは少年らしい興味を隠そうとはしないのだろう。

 義憤に駆られ、無謀な籠城を選択した少年伯爵は、表情を引き締めてオルビスを見上げた。


「ここから、始まるんだ・・・」



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