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新人冒険者、走る-5




(ロイズ、運転席じゃなくてリビングにいていいからね。飲み物と食べ物も自由にどうぞ)

(わかった)

(気を使ったヴォイスの人間が弁当をくれたんだが、いらんかったか?)

(せっかくだしもらおうよ。お米のおむすびなんてご馳走だし)

(リーミヤも米好きか)

(缶詰の白ご飯なんて、誕生日にしか食べられなかったからねえ。魔法みたいな食料生産プラントがあるのに、和食には対応してなかったから)

(『わしょっく』が何かは知らんが、食うならありがたくもらっておくぞ)


 リーンは戻ると屋根のリーミヤに握り飯を包んだ竹の葉の包みを投げ、おっかなびっくりといった感じでオルビスに入った。

 ロイズとサイにも握り飯を渡し、そのまま外に戻る。


「中で食べてていいよ。外は暑いし」

「女2人に混ざるのもな。しかし、あの涼しい空気は何なんだ?」

「魔法のない世界で、楽をしたいと思った人間が編み出した技術だよ。こっちでも生み出されてたっておかしくないんだけどなあ・・・」

「人間は数だけは多いが、何かを作るのは苦手なんだ。俺達ゃ壊してばかりさ、いつもな」

「・・・性質の全く違う種族が混在する世界だからこそ発展がない? いや、戦争が好きな人間族なら、武器の開発なんかを血眼になってやると思うんだけどなあ」

「武器作りじゃドワーフに勝てねえ。人間族なら、いいトコ村の鍛冶屋にしかなれねえさ」

「もしかしてドワーフって、効率を求める人が少ない?」


 リーンは地べたに座り込んで握り飯を食っている。

 それを見て、リーミヤも自分の包みを開けた。

 炊いた穀物を握り固めただけの食事なのだが、2人は実に美味そうにかぶりつく。

 自分はエルフでもドワーフでもなくノームだと言ったサイが2人の表情を見れば、心から土を耕すのが好きな自分達を誇らしく思うだろう。


「ドワーフは、そうだなあ。・・・仕事と酒にしか興味のねえヤツばかりだ」

「ふーん。そういえばリーン、南の国ってダリアス帝国とやり合ってるんだよね?」

「と言うよりは、ダリアス帝国を脅威だと認識してる国がその侵攻に備えてる感じだな。南の小国はもう、喰らい尽くされてる。だから北のベンタにもちょっかいかけて来たんだろ」

「南の国々がダリアス帝国と組む可能性は?」

「それはねえ。断言する」


 リーンのきっぱりとした言葉に、リーミヤは屋根から怪訝な表情を向けた。


「そんな嫌われてんの、ダリアス帝国?」

「蛇蝎の如く、な。元はダリアス王国って南でもそれなりの大国だったんだが、今の皇帝の先代が即位してからは奴隷制を敷いてやりたい放題だ。それに、ダリアス帝国が今のような大国になったきっかけの戦争がな」

「何したのさ、ダリアス帝国・・・」


 リーンが早くも握り飯を食い終え、腰からぶら下げていた水筒を呷る。

 死体を集めてはサイの土魔法で掘った穴に投げ入れる兵達を見ながら、リーンはベンタの男の嗜みとでも言うべきカリスを咥えた。


「禁じ手だよ。8000の奴隷兵を組織して、対立していた隣国の王都を攻めさせた」

「・・・ドラゴン、か」

「ああ。生き残りがそれなりにいたんで、その悪行はすぐに広まった。南には里って規模じゃねえ、ドワーフの国があってな。そこの長はブチ切れて、ダリアス帝国からドワーフをひそかに脱出させた。そんで宣言したのさ。ダリアス帝国に与する国家には、未来永劫ドワーフを住まわせないってな」

「大陸中央部で孤立した軍事国家、か。ダリアス帝国の版図に海は?」

「ねえよ。真南への道にはカラエデズ王国、俺が傭兵をやってた国がある。そして東には、夏でも雪が溶けねえフェルスト大山脈が横たわる。問題は西だが、エルフの里やドラゴニュートの里があるんでな。両者も普段はほとんど交流すらねえけど、ダリアス帝国が侵攻するとなりゃ手を結ぶだろうって話だ」

「ドラゴニュート?」

「素手で岩を割るような種族だ。トカゲみてえな見た目で、固い肌には矢も刺さらねえ。間違いなく前衛として最強の種族だあな」

「それと最強の後衛魔法兵、エルフが手を組むのかあ。ダリアス帝国の北上、待ったなしじゃん」


 リーンのいた国を手強いと見たからこそ、ダリアス帝国は北に食指を伸ばしたのだろう。北で奴隷兵を増やし、あわよくば海を移動する手段も手に入れたいという目論見か。

 リーミヤはやれやれと呟きながら握り飯を包んでいた竹の葉をアイテムボックスに入れ、灰皿を出して食後の一服を始める。

 その視線は兵士達の動きに注がれているが、頭では南の情勢を考えているようだ。


 限界まで肥大したダリアス帝国。

 後回しにしていた雪深い北方への侵攻は、ベンタの内戦が収まっても簡単には止まないであろう。

 問題はドラゴンをわざと誘き寄せる奥の手。

 ベンタの犠牲を減らすには、国境でダリアス帝国の軍勢を削るしかない。

 だが一番簡単な対応策である、8000の軍が来たならば国境に2000を出してそこにドラゴンを誘き寄せる、という事が小国であるベンタには出来ない。


「どうしたモンかねえ・・・」

「南のカラエデズは、もう覚悟を決めてるぜ」

「覚悟?」

「8000には2000をぶつけてダリアス帝国を止める。7000なら3000だ。そしていつか、最後に侵略のための5000以下の兵を出したダリアス帝国に、3000から4000の生き残りで挑んで勝利を拾う」

「そんな上手く行くかねえ。誰だって、死にたくなんかないじゃん」

「まあな。コッズ将軍もそう言ってた。だがそうしなきゃ、大陸に住むすべての人間がダリアス帝国の奴隷になるしかねえってよ。だから将軍はムリをして隣国を奪ったんだ。それで数の上では、ダリアス帝国の奴隷の4分の1になる兵をカラエデズは持てるからってな」

「・・・命のあり方とか、考えさせられるねえ」

「だな」


 それから2人は、言葉少なに兵士達の仕事を見守った。

 重い足取りで兵士達がオルビスのところに集まろうとすると、リーミヤは屋根から飛び降りてスナイパーライフルをアサルトライフルに変える。

 それを見た兵士達の顔が引き攣っているのは当然だろう。

 リーミヤは、死体が山のようになっている穴の前に彼らを並ばせた。

 その数、17。


「さて。わかってるよな、内戦中の故郷で略奪を楽しんでたクソヤロウ共?」


 兵士達がたじろぐ。

 中には諦めたように俯いた者もいるが、ほとんどはこれから始まる闘争の気配に目をギラつかせていた。


「・・・証拠でもあんのかよ?」

「俺は客人っていう別の世界から来た人間でなあ。嘘がわかるんだよ、クソヤロウ」

「信じられっか。おい、相手は2人だけだ、やっちまえ!」


 刃の光。

 ツダークが斬った少年の佩剣のような輝きはない。

 リーンが振り抜いたのは、何人も、何十人もの人間の血を吸った両手剣。

 リーミヤより少しばかり背の高いこの傭兵は、腰に佩いた剣で1人の首を飛ばした。


「直剣の抜き打ちでそれかよ!」


 言いながら、リーミヤも腰の剣で1人の頭をカチ割っている。


「うわ、なんだその剣?」

「鉈だよ。猟師が山とか森で邪魔な木を払ったりするじゃん」


 リーミヤはアサルトライフルも手放してはいない。

 銃口を向けられた兵士が怯んだ隙に、首筋に鉈を振り下ろす。


「重さでスパッと斬る武器なんだな。扱いが難しそうだぜ」

「その腕なら、俺より巧く使えるだろうさ!」


 リーミヤが1人を斬る間に、リーンは2人、もしくは3人を屠っている。

 悔しそうなリーミヤに苦笑しながら、彼はまた1人を斬り下げた。


「そのおっかねえ武器にゃ勝てる気がしねえがなっ」

「雷槍のドアンは、これと相討ち出来るとさっ!」

「とんでもねえなっ、そりゃ!」


 兵でありながら罪のない人々から略奪をなした男達はそれなりに鍛えられてはいるが、弱兵の多い貴族の私兵であり何より素手である。

 いつの間にか彼らは、殴りかかるよりも逃げる事に必死になっていた。

 だが、リーンとリーミヤが出会ったばかりとは思えぬ連携で逃走を阻む。


「物足りねえなあ、リーミヤ!」

「人殺しを楽しむようなら許さねえよ?」

「悪人限定でもかよっ!」

「それでも!」

「お固いねえ、我が主は」

「・・・主?」


 リーミヤが動きを止めると同時に、最後の1人をリーンが斬り殺す。


「ふうっ。何を驚いてんだよ。俺を雇ったんだから、名目上はレオニウスの家臣でもリーミヤが俺の主だろうが」

「だからって主はないって。友達感覚だぞ、俺」

「知るか。ところで給金はどのくれえ出るんだ?」


 リーンの素朴な疑問に、答えが返る事はなかった。

 暑さが原因とは思えぬ汗を掻きながら、リーミヤがオルビスに向かって歩き出す。


「・・・リーンは死体を穴に放り込んどいて」

「お、おい。リーミヤ?」


 そそくさと立ち去ったリーミヤは、オルビスのリビングでサイに傭兵の相場を聞いて立ち尽くすしかなかった。

 とても、新人冒険者に払える金額ではない。


「どうしよ・・・」

「レオニウスの家かロンダール商会に甘えるしかない」

「いやいやいや。さすがにそれはないっしょ!」

「ならばベンタ王国に、今回の内戦に手を貸した報酬を・・・」

「サイさん、鬼なの!?」

「王宮や殺した貴族の家には、それなりの財宝もあるはずですよ。小国とはいえ」

「それは新しい国のために使わなきゃ。・・・困ったなあ。あ、サイさん、穴を埋めるの頼んでもいいですか?」

「お任せ下さい」


 ロイズを残してオルビスを降りた2人は、やる気なさそうに立っているリーンの元に向かう。

 リーミヤの足取りは重い。


「それでは、埋めてしまいますね。目印に岩でも置きましょうか?」

「・・・ああ、お願い。ヴォイス家の兵は街で普通に弔うから、花の1つも手向けてくれる人すらいないお墓かもだけど」

「リーミヤ様が許した墓です。街の外なので毎日とはいかなくても、弔う者が訪れる事でしょう。何の見返りも求めずベンタ王国を救い、餓死者をなくそうとまでなされているリーミヤ様が建てた墓ならば」

「お、おいお嬢ちゃん。今、なんて言った!?」


 慌てているのは、リーンだ。


「はい?」

「餓死者をなくそうとしてるって言わなかったか!?」

「言いましたが」


 リーンが風を切るような速度でリーミヤに視線を移す。


「どしたん、リーン?」

「どうやって餓死者をなくそうってんだよ!」

「アィダーヌの? ベンタの?」

「・・・とりあえずベンタだ!」

「はあ。ベンタは人口が少ないし、ノームの人達がたくさんいる。なにより作れば作るほど土地が痩せる麦じゃなく、収穫量の多い米を作ってるのが大きいねえ。大規模な農業をやる街を作って、そこの米作りに今の貧困層の人達を使えばいい。何年か給金をもらいながら働いたら、田んぼを手に入れられる。それなら頑張るでしょ」

「貧乏人が田んぼを買えるようになるってのか・・・」


 リーンが呟くと、リーミヤは満面の笑みで頷いた。

 そして、沈黙。

 突然黙り込むなんてどうしたのだろうと思いながら、それでもリーミヤは辛抱強くリーンが口を開くのを待っている。

 サイはそんな2人を見ながら使い魔のドリーに頼んで穴を埋め、大きな自然石を墓碑の代わりに設置した。


「・・・リーミヤ、いや。リーミヤ様!」


 いきなりの土下座である。

 田舎村の悪童がそのまま大きくなったようなリーンが、農家の平民が貴族にするように平伏していた。



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