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新人冒険者、走る-3




「ありゃ。殺すって言われた方は、大人の後ろに隠れちゃってんじゃん」

「小太りの少年は運動不足。ツダークという少年は、なかなかに鍛えた体躯。勝負は見えている」


 オルビスを降りた3人は、小太りの少年を待っているツダークに歩み寄る。

 途中でサイに気がついたツダークが、貴族がメイドにするとは思えぬ仕草で頭を下げた。


「なんでサイさんに最敬礼?」

「あら、どうやら覚えていたようですね。まだビザンツ様と同じくらいの年齢の時に会っただけだというのに」


 笑顔のサイに言葉が届く距離になると、ツダークはまた丁寧に頭を下げる。それだけでなく、まるで臣下のように跪いて地面を見ながら口を開いた。


「お久しぶりでございます、姫様」

「嫌ですね。メイドを姫と呼ぶ貴族がどこにおりますか、ヴォイス伯爵様。そんな話し方もおやめ下さい。面も上げて」

「血煙の姫と呼ぶには、あまりにも可憐なお姿ですから」


 立ち上がり、サイと視線を合わせながらツダークが言う。

 あどけなさが多分に残ってはいるが顔立ちは端正であるので、普通の女性ならそんな言葉を受けて喜びを感じるのかもしれない。


「なにその物騒な呼び名・・・」

「我がヴォイス伯爵領の端には、エルフの治める深き森があります。その里の姫君であられるサイ様は、エルフに血煙の姫と呼ばれるお方なのですよ。サージュ公爵の客将殿、ですか」

「ああ。アィダーヌから来た客人のリーミヤ。こっちの美人さんは雷槍のドアンの弟子でアィダーヌの黒騎士団の副長、ロイズ。そんで、ロクに剣も振れそうにない坊っちゃんをなんで殺すんだい?」


 客人、そう呟いて固まってしまったツダークの頭を、サイがぽかりと殴って再起動させる。


「サイさん、伯爵を殴って大丈夫なん?」

「まあ、覚えていたみたいですから大丈夫です。この子の祖母は、わたくしの叔母の孫娘ですから」

「・・・長生きし過ぎて、親戚がもうほとんど他人になっちゃってんじゃん」

「人の世に出たエルフの血族とはそのようなものらしいですよ。それでツダーク、なぜあの子豚を自らの手で殺そうというのですか?」

「それは・・・」


 ツダークが歯を食い縛る音が、リーミヤの耳にまで届く。

 どうやら、小太りの少年はそれだけの事をしたらしい。

 胸ポケットから出したタバコを吸いながら、リーミヤは黙ってツダークとサイの会話を聞いていた。


「惚れた女を、親の権力でムリヤリ嫁にしたのか。ま、殺されても文句は言えないね」

「降伏を促す文書に、この城を焼き尽くしたら彼女を迎えに行ってどんな風に扱うかなどと、品性の欠片もない事が認められておりました。同じベンタの男として、とても生かしては置けませぬ!」

「まだヤラれてないなら良かったじゃん。人を殺した経験は?」

「破られた防壁から雪崩れ込む兵を、何人か斬り殺しました」

「ふうん。じゃ、お膳立てはするからサクッと終わらせるといい。・・・おーい、そこの兵隊さん達。今から、ツダークがその小太りの少年と斬り合う。手を出したりしようとすれば、その場で殺すぞ」


 小太りの少年は前に出るどころか、ますます屈強な兵の後ろで身を小さくする。


「庇っても殺す。早くそのガキを出しな?」


 リーミヤの言葉を聞いた兵達が、少年と体格の良い兵を取り囲んだ。

 見た事もないモンスターを操る男はアィダーヌの客人で、敵であるサージュ公爵の客将だという。ここで点数を稼げば、見逃してもらえる可能性もあるという計算だろう。

 少年に兵の腕が伸ばされると、体格の良い男は抜き打ちの一撃でその兵の首を飛ばした。

 腰を抜かした少年を庇い、男が兵達の前に立ち塞がる。


「・・・仲間割れかよ」

「どうせ死ぬのに」

「んだねえ。おお、どんどん倒してる。強いねえ、坊っちゃんの護衛」


 男はあっという間に6人を斬り殺し、小太りの少年を立たせてその背を押した。

 ツダークとリーミヤ達がいる方向に。


「およ?」

「男は、自分の行動に責任を持つべきだ」

「同感。そんで、アンタの行動とその責任の取り方は?」

「傭兵として雇われた。だが、女を口説きもせずに抱こうなんて下種のお守りはお断りさ。客人なんだろう、おまえさん」

「ああ。そんで?」

「客人が敵じゃ、雇い主であるコイツの父も生き残れはしねえ。少しばかり雲隠れすりゃ、この内戦も終わるだろう。まあその前に、客人と端金で咬み合わせるなんて契約違反だあな」

「逃してもらえると思ってんのか。おめでてぇなあ、アンタ。なんで傭兵なんかやってんだい?」

「傭兵として南でそれなりに稼いでな。故郷に錦を飾ろうと大威張りで帰ったら、内戦が勃発して領主に徴兵されそうになった。これでも南の傭兵ギルドに登録はしてあるってんで雑兵にされるのは免れたが、傭兵なら金で雇われろってな。さもなきゃ一族郎党、赤ん坊まで殺すと言われちまったらよ」

「反乱に参加した貴族は処断する。が、アンタの家族を狙って助けるのはムリだなあ」


 逃すと思っているのかとまで言われたのに、家族を助けたいような事を言われ、護衛の男は戸惑っている。リーミヤが嘘を嗅ぎ分けるなどとは、夢にも思っていないからだろう。

 無精髭で覆われた頬を掻くと、男は苦笑いしながら剣の血を払って腰の鞘に納めた。


「もしかして、客人様は南の情報が欲しいのか・・・」

「察しがいいねえ。ついでに言うと、情報だけじゃなくツテも欲しい。俺はリーミヤ。アンタは?」

「リーンだ。歳も近いし、名前も似てるな」

「リーミヤはおっさんじゃない」


 ボソリとロイズが呟く。


「誰がおっさんだ、真っ白娘。俺ぁまだ20だぞ!」

「そうは見えない・・・」

「気にしてんだから放っとけ!」

「そんじゃリーン、俺に雇われなよ」

「傭兵稼業はもうやめたんだよ。村で田んぼ買って、美人の嫁さんでも探そうってベンタに戻ったんだ」

「あちゃー。思わぬトコで良い人材をめっけたと思ったのになあ・・・」

「大丈夫ですよ、リーミヤ様。この男に米作りなんて出来るはずがありません。ノームの勘は当たるのです。3日も田んぼで働けば、嫌になってまた傭兵に戻るか、冒険者になって野山を駆け回る事でしょう」

「酷え言われようだ」

「農家の生まれなら野良仕事の手伝いは経験があるのでしょうが、ちゃんとやっていましたか? していたならなんで傭兵なんかになって、戦争ばかりで危険な南にまで流れたのです?」

「・・・ほら、俺もあの頃は若くってだな」

「断言します。あなたのような荒くれ者に、農家なんて出来るはずがありません。それより、今は千載一遇の機会なのですよ?」

「どういう意味だ、そりゃ?」


 サイが微笑む。

 メイド服の少女が凄絶な斬り合いをしたばかりの傭兵を諭しているというのは奇妙な光景なのだが、あいにくとそれを奇異な事と認識しているのは背を押されて震えている小太りの少年しかいない。


「客人様には部下がいない。歳近い同性の友人もです。英雄の最初の部下にして友人。そんな男は、さぞやモテるでしょうねえ」

「おおっ」

「吟遊詩人は酒場で唄うかもしれません。英雄と腹心の部下の活躍を」

「おおっ!」

「嫁など選び放題でしょうねえ」

「おし、リーミヤ。雇われてやろうじゃねえかっ!」


 単純な男だと呆れながらも、リーミヤは嬉しそうだ。


(おっちゃーん。元傭兵で腕の立つ男を拾ったんだけど、農家の生まれで今は仕事をしてないんだ。なんかいい身分ってない?)

(ベンタだけで使うんじゃねえなら、レオニウスの家臣って事にしときゃいい。いいよな、ファウンゼン?)

(ええ。でもベンタ王国の国民なのですから、サージュ公爵には兄上から話を通して下さいよ)

(お安いご用さ)

「そんじゃリーン、今からアィダーヌのレオニウス侯爵家の家臣ね」

「・・・は?」

「公的な身分はそうなるのでしょう。ですがレオニウス、北の獅子の家臣ですか。大出世ですねえ、リーン」

「北の獅子って、あの金獣騎士のかっ!?」

「それは先代。今のレオニウスは弟のファウンゼンさんだよ」

「ま、まさかっ!」


 驚くリーンを、リーミヤが不思議そうに見た。

 先程からツダークは小太りの少年に今にも斬りかかりそうなのだが、その腕をサイがしっかりと掴んでいる。


「なに?」

「カラエデズのコッズ将軍が愛読してたっつー軍学書の著者!?」

「ごめん、誰それ?」

「ダリアス帝国と渡り合うために、1000年も続いてた隣国との因縁に決着を着けた名将だよ。その指揮下で俺は、ベンタでいい暮らしができるくれえの報酬を得たんだ」

「ふーん。ま、そんなのは後で詳しく聞くよ。それよりツダーク。いい感じに間を置いたけど、この子を殺すって気は変わってないの?」

「・・・もちろんです」

「知り合い、それも友人だったヤツを殺すと後がツライよ?」

「反乱に参加した指揮官は例外なく死罪です。どんなに性根が腐っても、ベルンは幼なじみ。この手で引導を渡し、冥府に旅立たせてやらねば・・・」


 腕組みをして気持ちはわかるとでも言うように頷くリーンを見て、リーミヤは「じゃあオマエも死ねよ」なんて事を思っていたりする。

 だがそれを言うと話が進まないので、リーミヤは震えて俯いている小太りの少年の顔を覗き込んだ。


「リーンは殺さない。なのにキミが問答無用でツダークに殺されるのは不公平だ。よく考えて答えな。ベンタ王国に、貴族を飼う余裕なんてない。サージュ公爵が王位に就けば貴族も平民もなくなるけど、平民はロクな教育も受けてないだろう。今いる貴族は兵士や文官として、それぞれの能力に合った仕事をして暮らしを立てる事になる。親の権力を振りかざして好き勝手は出来なくなるよ。それでも、生きていたい?」

「アィダーヌのように、貴族から特権を奪おうというのかっ!」


 小太りの少年が叫ぶ。


「当然。身分なんてものがあるから、キミのような人間が勘違いして人を不幸にするんだよ」

「我が家は建国の際に王を助けっ・・・」

「そして今、祖国を売った」

「それは王が弑されたからでっ・・・」

「王が死んだら、新しい王が立つ。建国以来ずっとそうしてきたはずだろう?」

「だから新しい王が!」

「ナントカって貴族でしょ、それ。ソイツは国のルールを破った。血筋だの人望だの関係なく他国に兵力を借りて王座を奪ったら、ただの簒奪でしかない。キミはご先祖様が建国の際に王を助けたから、貴族が領地や特権を持つのは当たり前だと言うんだよね。王は国を守るために貴族という身分を作り、他国と戦いやすいように特権を与えた。でも、この国の貴族は国を守るどころか他国に売った。そうしてしまったキミの父親達だけでなく、それを見ているしか出来なかった貴族も同罪。今、この国で貴族というのは犯罪者、そして恩を忘れた能無しって意味なんだよ。自分は貴族だと胸を張れるのは、サージュとカターニャ。それにこのツダークだけだ」


 厳しい言葉に、小太りの少年は握りしめた拳を震わせている。

 このまま殺すのはかわいそうかな。そうリーミヤが思うと同時に、小太りの少年は剣の柄に手を伸ばした。

 まだ人を斬った事のない、曇りのない剣身が夏の陽射しを照り返す。


「ベルンッ!」



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