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新人冒険者、走る-2




 そんな獣人族の1人であるロイズに惚れているのが、ファウンゼンだ。

 だが当の本人は面識があるのに、ファウンゼンを気にしている様子は欠片も見られない。

 リーミヤは心の中でファウンゼンをどう慰めるか考えてはみたが、面倒だから別にいいかと、サイの言う紐とは何なのかを考え始めた。

 網膜ディスプレイを操作し、【3級武器製作】の設計画面を開く。


(まあ、結論。ゴンは頑張れ。ファウンゼンさんは、・・・今度会った時に上等なお酒を奢らせてもらいます)

(どういう意味ですか、リーミヤ殿?)

(・・・通信終わり)

(リーミヤ殿っ!?)


 ファウンゼンを無視して、リーミヤは運転しながら網膜ディスプレイを思念操作する。


「鞭に鎖鎌、流星錘なんて武器もあるのかあ。サイさん、紐ってのを見せてもらってもいい?」

「はい。これです」


 音もなく、サイの袖口から金属製の武器が顔を出す。

 拳ほどの大きさの黒い金属は先が尖り、その尻の丸い穴には編まれた革紐が結ばれている。かなりの太さなのでどうやっても服の下に忍ばせておけそうにはないが、服を脱いで見せろと言えるはずもないリーミヤは黙って頷いた。


「・・・クナイか」

「ご存知なのですね」

「ガンバールの家から伝わった武器でしょ?」

「はい。そう聞いております」

「紐は革紐じゃないとダメなん?」

「鎖では音が鳴りますし、重くなります。強度的にも不安ですね」

「なら材質は・・・。掌が切れるか? じゃあ【3級防具製作】で手袋を。ああ、メイドさんだから色は白で、見た目だけでも薄くて柔らかそうじゃないと・・・」


 ブツブツ言いながら運転するリーミヤを、サイは怪訝な目で見ている。

 そんなサイに、ドリーを構うのをやめたロイズが笑顔を向けた。


「客人のやる事に驚いてたら身が保たない。隣で戦うなら戦友。サイって呼んでもいい?」

「あ、はい。それはもちろん」

「じゃ、アタシの事もロイズと」

「それはさすがに。メイドがリーミヤ様の護衛の方を呼び捨てには・・・」

「サイもビザンツくんの護衛。立場は同じ」

「ですが・・・」

「よーっし、こんなモンかなあ。サイさん。一族の秘密を話してくれたから、客人の秘密も明かすね」

「ええっ!?」


 驚くサイには構わず、リーミヤはまた網膜ディスプレイを操作する。


「先に手袋かな。眩しいけど目に悪い光じゃないから、不思議だけどね。【3級防具製作】発動!」

「・・・眩しいっ!」

「目が、目がああっ!」

「だから大丈夫だって、ロイズ。はい、サイさん。この手袋をして。肘まであるからちょっと暑いかもだけど、怪我をするよりはいいいから」

「これは?」

「余ってたガランゴの革の上に、絹に似せた質感の合成繊維を被せた手袋。合成繊維の強度はそれなりだけど、使ってるうちに痛むと思う。ほつれたら俺に渡して」

「ガランゴの革に絹!? そのように高価なっ!」

「はいはい。また眩しいのいくよー」


 ロイズが力を込めてまぶたを閉じる。

 少し待って恐る恐るロイズが目を開けてから、リーミヤは【3級武器製作】発動と呟いた。


「・・・目が、目がああっ!」

「あっはっは。いやー、いいリアクションだなあ。これが武器ね、サイさん」


 リーミヤがサイに渡したのは、結束バンドで束ねられた黒い糸にクナイが結んである奇妙な物体だ。


「なんですか、この素材はっ。糸でも革でもない!」

「カーボン繊維。トンデモ科学の産物だけど、神様はオルビスも許したからまあ大丈夫でしょ。いきなりコレに命を預けろとは言わないから、時間が出来たら試してから使って。ああ、あとナイフはこれね」


 リーミヤがアイテムボックスから出したのは、聖域の村のドワーフ、ダッツ老にこんな物を人前で出すなと散々叱られた3種のナイフセットだ。

 リーミヤは約束を忘れてはいないが、メイドであるサイが人前で気軽にナイフを使う事はないだろうと思っている。


「・・・こんな業物、ドワーフの名工でも鍛えられませんよ」

「だから戦う時以外は使わないでね。形状はどうかな。使いづらそうなら、後でオーソドックスなのを作るけど?」

「今回の戦闘にこれらを貸して下さるのですか。わたくし程度の使い手には分不相応な物だと思うのですが・・・」

「そうでもないって。それに手袋と流星錘、ナイフは返さなくっていいよ。投げナイフは時間がある時に作ろう」

「返さずとも良いなど・・・」

「ノームの皆さんのおかげでお米が食べられるんだし、ドアン爺ちゃんの友達だっていうサイさんのお爺さんに会ってみたいって下心もあるんだ。気にしないで。早くロイズと爺ちゃんの槍も造らないとなあ」

「アタシと師匠の槍・・・」

「うん。オルビスを設計する時、銃座への通路とかに本当ならいらないドアとか付けといたんだ。だから鉄もゴムもたっぷりある。楽しみにしてて」


 ゴムなどという素材をロイズが知るはずもないが、彼女は無表情でしっぽを揺らしている。

 ばっさばっさと鳴る音でロイズの喜びを察したリーミヤは、笑顔で運転を続けた。

 ベンタ王国は狭い。

 しかも平地ばかりなので、3人が昼食を取る前に目的地が見えて来た。


「リーミヤ様、あれがヴォイス伯爵の領都です」

「燃えてるねえ・・・」


 たしかに街から黒煙が上がっているし、防壁の一部は破られている。その破られた防壁の辺りが、激戦となっているようだ。

 攻め手が街に入り込もうとすれば、守るヴォイス伯爵の兵が槍で突き殺す。

 サージュ領都のように土嚢を積むなどの準備をしていなかったらしく、攻め手の弓でやられた兵が何人か倒れた。


「防壁も木製ですので。それにしても、苦戦しているようですわね」

「昨日まで仲間だった少年の街を焼くのか。クズだねえ」

「城もサージュ領都のよりだいぶ小さいな、サイ」

「伯爵ですから、城というよりは砦ですわ」


 軍勢の直前でオルビスは砲塔を出しながら停まり、リーミヤはマイクを手に取った。


「なんだこのモンスターは!」

「まさか、ドラゴンなのか!?」

「あーあー。こちらはサージュ公爵の客将、リーミヤ・ヒヤマ。ヴォイス伯爵領を攻めている裏切り者共に告げる。ダリアス帝国が送り込んだ3000の軍勢は全滅した。勝ち戦だと思い込んで兵を出したアホ貴族は死罪とするが、嫌々従った兵の命までは取らない。ただちに投降せよ。繰り返す。ダリアス帝国の3000は1人残らず死んだ。彼らは奴隷兵であり、貴族が死ねば奴隷兵も死ぬ魔道具を体内に埋め込まれていたからだ。ここにいる兵も、ダリアス帝国に寝返ったベンタ貴族は奴隷兵にするつもりである。そんな身分に落とされたくなければ、ただちに武器を捨てて投降せよ」


 突如として姿を見せた異形の物体から人間の声が発せられ、戦場は水を打ったような静けさである。

 動く者すらいない数分が過ぎると、趣味の悪い金銀で飾られた鎧を着込んだ兵士が、顔を真赤にしてオルビスに抜身の剣を向けた。


「3000の兵が全滅なぞするものかっ! 弓を射よ。剣で斬り、槍で突けばこのようなモンスターなど恐るるに足らぬわっ!」

「はい、ご苦労さんっと」


 リーミヤが1番と呼ぶ銃が火を吐いた。

 轟音を聞き、原型を留めぬ犠牲者の骸を見た兵が、我先にと逃げ出す。


「動くんじゃねえっ! 動くと今のアホみてえにブチ殺すぞっ!」

「ひいっ」

「動くな、動くとワン侯爵のように殺されるぞ!」

「どうすりゃいいんだよ。神様・・・」

「動かずに武器を捨てりゃいいんだよ。武器を捨てた兵は、街の右手に移動しろ。武器を隠し持っていたり、武器を捨てない兵は殺す」


 兵達は少しの間は周りを窺ったりしていたが、武器を捨てて移動する仲間を見ると、すぐにそれを真似て右へと移動を始める。

 動かないのは、見るからに雑兵ではない兵達だ。

 武器を捨てたのが200ほど。

 そうしなかったのは、10にも満たない人数しかいない。


「ヴォイス伯爵。いるのなら武器を捨てた200を拘束し、街の広場にでも集めておいていただけるとありがたい。だが投降した兵への暴行は、決して許さない。街を焼かれた恨みはあるだろうが、ここはこらえてくれ」


 元は防壁の一部であった丸太の残骸を踏み、1人の少年が街の敷地から出て来る。

 その年齢と彼を庇うように前に出た兵を見て、リーミヤはそれがヴォイス伯爵なのだろうと思った。


「俺はツダーク・ヴォイス。サージュ公爵の客将であるのなら、なぜに裏切り者達を処断するななどと甘い事を言うのかっ!」

「ベンタ王国が小国で、たった200の兵でも貴重だからに決まってるだろうが。武器を捨てない連中は殺していい。だが、武器を捨てた200はこれからの戦いに使う。これはサージュ公爵の決定でもあるのだ。従わねば、ヴォイス伯爵も反逆者として扱う」


 慌ててロイズがドアンに伝言を頼んでいるのを聞きながら、リーミヤはタバコを咥えて火を点けた。

 ツダークは抜身の剣を右手にぶら下げたまま、武器を捨てていない8人に歩み寄る。


「貴様だけはこの手で殺す、ベルンッ!」


 怒鳴りながら剣先を向けられた相手も、ツダークとそう変わらぬ年齢の少年だった。


「この期に及んで私闘。それも投降した兵を収容するより先にかよ。ロイズ、あのツダークってガキンチョぶん殴っていいかな?」

「話しぐらいは聞いてやってから」

「面倒だねえ、まったく・・・。あーあー。ヴォイス伯爵の兵は、投降した連中を拘束して街に入れる準備を。1人ずつ確認したい事があるので、猿轡はしないように」


 後半はマイクで言ってから、リーミヤは運転席を立った。

 ロイズが先にハッチへと向かい、サイはリーミヤの後に続く。

 ヘッドギアさえ外さなければオルビスの銃はいつでも撃てるので、危険はないとの判断らしい。アィダーヌの王都のように、この辺りが見晴らしの良い地形であるのも関係しているのだろう。

 長く伸びた3人分の影。その先ではまるで役者のように、ツダークが剣を少年に向けて立っている。


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