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新人冒険者、走る-1




 ジャス達が会議室に駆け込むと、バンズールとケーダもすぐに戻って来た。

 リーミヤは、すでに部屋を出ようとしている。続くのは、メイド服のサイと槍を持ったロイズだけだ。

 セレスは椅子に座ったまま、夫の背中を見送るようである。


「何があった!?」

「ちょっと血気盛んな若者にゲンコツ落としに行って来る。とりあえずはホルスさんから状況を聞いて、ファウンゼンさんに無線で状況を説明して、そんでやるべき事を話し合っておいて。じゃ、いってきます!」


 リーミヤが駆け出す。

 どんな脚力をしているのかはわからないが、スカートを靡かせてサイがリーミヤを追い越した。どうやら、まだ城に慣れていないリーミヤとロイズを先導するつもりらしい。


「メイド服でよく走れるねえっ。抑えてるけど、結構なスピードだよっ!」

「これくらい、メイドのたしなみでございます」

「まだ成人もしていない少女には負けないっ!」


 威勢のよいセリフだが、ロイズは必死の形相で走っている。


「成人はしております、ロイズ様」

「へえっ、いくつだっ?」

「115です」

「ヒャクッ!?」

「父がノーム。母がドワーフ。父方の祖父がエルフで、見た目はこのような感じです。あまりに若く見えるので、ノームのまとめ役が代替わりするたびに養女にされるのが悩みの種ですねえ」

「ノームとドワーフが結婚すると超人が産まれるの、サイさん?」

「わたくしはただのノームです、リーミヤ様」

「こんなに走れるノームがいてたまるかっ!」


 ロイズが叫ぶと同時に、3人は城から飛び出した。

 住民のほとんどが避難しているので、通りに人の姿はない。

 リーミヤが出したオルビスは西門までをあっという間に走破し、通用口から出たリーミヤが、収納したオルビスをまた出して走らせる。

 無線ではホルスから状況を聞いたジャスと、それを説明されたファウンゼンの話が続いているようだ。


「サイさん、少年侯爵に面識はあるの?」

「はい。ですがあちらが、わたくしの顔を覚えているかどうか。それとヴォイス様は伯爵でございます、リーミヤ様」

「ふーん。あ、ロイズ。リビングの冷蔵庫からミルクティーを2つと、ブラックコーヒーを持って来てくんない?」

「ミルクティーはわかるけど、ぶらなんとかはどんな缶?」

「真っ黒なやつ」

「わかった」


 リーミヤは運転をしながら、紙巻きタバコに火を点ける。

 無線では騎馬隊でオルビスを追うと言うバンズールとケーダを、ファウンゼンが諌めているようだ。


「これがそう?」

「そうそう、ありがとね。サイさんに飲み方を教えてあげて。ドリンクホルダーの使い方も」

「了解」

(だからケーダ、諸侯のすべてが兵を出したはずがないんだから大丈夫だって。それより義姉上達が到着したらすぐに警護が手薄な王都を攻めるから、今はその準備をするんだ)

(そうそう。下手をするとオルビスなしで王都を攻めるんだから、キツイ戦いになると思うよー)

(ヒヤマ殿!)

(夜は結界魔法を張るから、馬車も出してもらわないと)

(移動中に寝て夜は結界魔法、セレス?)

(そうしないと、夜行性のモンスターの襲撃でそれなりの犠牲を出す事になるわ)


 リーミヤがコーヒーの缶を開けて口に運ぶ。

 声こそ出してはいないが、ミルクティーを初めて飲んだサイはその甘さに驚いているようだ。

 甘味の少ないこの世界、砂糖は貴重品なのである。


(結界魔法を使える人、もう1人くらい欲しいねえ)

(あれは契約魔法じゃないのよ。よほど精霊に好かれている存在じゃないと使えないわ。人間では、ほぼ不可能ね)

(その辺の条件とか、俺にはさっぱりわかんないからなあ)


 いつか魔法を学び、魔法道具を作ろうとリーミヤは考えている。

 だがサックスが村を訪れてからは、怒涛の日々。

 魔法を学ぶどころか、ロクに自由な時間すら取れていないのが現状だ。


(・・・あの、セレスさん?)

(あら、ユーミィちゃん。どうしたのかな)

(シャルちゃんって念話魔法を使えたりします?)

(使い魔だからもちろん使えるけど。・・・まさか!)

「リーミヤ様、次を右です」

「あいよー」


 セレスとユーミィの会話を耳に入れながら、リーミヤはサイの言う通りにハンドルを切って街道を折れる。

 専門的な知識がないリーミヤにはぼんやりとしか理解できないが、どうやらユーミィは精霊に好かれやすい心の持ち主であるらしい。


「シャルと話せるとか、セレスもユーミィちゃんも羨ましいなあ」

「リーミヤ、闇の大精霊様を呼び捨て?」

「ええっ。シャルってただの子猫じゃないのっ!?」

「あれは村で暮らすための仮の姿。アタシが見た時は、真っ黒に淡い銀の縞模様があるトラのようなお姿でモンスターを丸齧りしてた」

「普段はあんなかわいいのに・・・」

「さすがはアィダーヌ。闇の大精霊様までいらっしゃるのですね」

「サイさん、魔法は?」

「農耕と鍛冶に関するものは得意です。それと、これは一族の秘密なのですが・・・」


 秘密ならムリに明かす必要はない。

 そうリーミヤが言いかけると、サイの胸元から小さな生き物が飛び出し、リーミヤの腕を登って頭の上まで移動した。

 無論、リーミヤにはその姿は見えない。

 なので頭を揺らさずバックミラーを調節すると、鏡越しに小動物とリーミヤの目が合った。


「・・・えっと、モグラ?」

「はい。土精霊で私の使い魔です。ドリー、リーミヤ様の頭に登ったりしてはいけません。下りてご挨拶なさい」

「いや、かわいいからOK! ドリー、よろしくね」

「キュイッ」

「鳴き声までかわいいなあ。クッキー食べな、ドリー。あ、サイさんとロイズもどうぞ。ダラスさん特製、ハチミツ入りクッキー。はい」


 アイテムボックスから皿ごとクッキーが出される。

 サイは何かを言いかけたが、リーミヤの頭から下りたドリーがクッキーに突撃するのを止める事を優先した。


「使い魔、ねえ。今こっちに向かってる成人前の女の子も、使い魔ってのをシャルに紹介されたみたいだよ。小鳥の姿だって」

「エルフの女の子ですね。セレス様の血縁者でいらっしゃるのですか?」

「うんにゃ。ただの人間のはず」

「・・・人間が使い魔を?」

「うん」

「それは有史以来初、人間族の大魔法使い誕生という事ではないですか!」

「そんな大事じゃないみたいだよ。母親は小さな頃からペットを飼いたいって言ってたから良かったわねえ、なんて言ってるし。父親は使い魔に手紙とか運ばせていいのかセレスに確認して、商売にしないならいいって言われてがっかりしてる。ロイズはユーミィちゃんに会った事ないんだっけ?」


 何気なく会話を振ったリーミヤが返事がないのを不審に思ってバックミラーでロイズを見ると、彼女は俯いて声を出さずに笑っていた。頬が引き攣っているので、楽しくて笑っているのではないのだろう。

 その不気味さに怯みかけたリーミヤが何かを言う前に、ロイズは笑顔のまま顔を上げる。


「・・・黒騎士団はロンダールの娘2人が聖域の村に移住する件で出し抜かれた。その許可が出た後で、遠目には人相を確認した」

「何かあれば始末するためにかあ。物騒だねえ、黒騎士団。それと怖いから、その笑顔はやめて。話は変わるけどサイさん、魔法だけじゃなく武器もかなり使うでしょ?」

「お見通しでしたか。セレス様も一目でドリーに気がついてらっしゃいましたし、やはり客人様と3賢者に隠し事は出来ませんね」


 セレスはリーミヤにもドリーの事を話してはいない。

 それを告げると、サイは酷く驚いたようだ。


「セレスは、精霊に関わる魔法使いとしてのルールに従ったんでしょ。それより隠し武器を使うなら、戦闘中はオルビスの中にいてね。俺とロイズも、なるべく白兵戦はしないけど」

「ナイフは投げられますし、紐はこのオルビスの全長くらいの距離なら的を外しません。出来れば白兵戦にも参加させていただきたいのですが・・・」

「紐ってのも気になるけど、成人したかしないかぐらいのメイド服を着た女の子を戦場に出すのはなあ・・・」


 リーミヤの言う事も理解できるのか、サイは苦笑しながらミルクティーを口に運ぶ。

 きゅいきゅい鳴きながらクッキーを頬張るドリーは幸せそうだ。頬袋でもあるような詰め込みようなので、キミはハムスターかとロイズに指先で突っつかれている。


「立場はメイドでしかありませんからね、わたくしは」

「その腕に魔法まで使えるなら、サックスさんと同じくらいのお給料で家臣として雇われてもいいでしょ。なんでメイドなんかしてんのさ?」

「祖父の氏族には、特異な才を持つ子がサージュの家に生まれたならそれを守れ、との言い伝えがあるそうなのです」

「エルフは氏族で里を作るんだったねえ。それってベンタ国内?」

「一部ではありますが」

「なるほど。んー。ちょっと待ってね?」

「はい」


 リーミヤは無線の会話が途切れるのを少し待ち、サーミィが自分にも精霊を紹介しろとセレスに詰め寄ったところで口を挟んだ。


(爺ちゃん、ちょっといい)

(なんでぇ?)

(メイドのサイさんの正体って知ってる?)

(おう。アレの爺さんはエルフのくせになかなかの男でなあ。酒飲み友達よ)

(やっぱ知ってたか。サイさん、白兵戦になっても戦うつもりみたいなんだよねえ)

(あの娘はサージュの兵の誰よりも強え。童貞も捨ててるしな。強さで言やあ、リーミヤの嫁とロイズを足して割った感じだぜ。本人が戦うってんなら、遠慮なく使うといい。ホルスにゃオイラから言っとくさ)


 ドアンがそこまで言うなら、サイの腕はたしかなのだろう。

 リーミヤはすぐさま、ロイズとサイは同じ扱いでいいのだと考えを改めたようだ。


(そこまでの戦力なのかぁ。わかった。ありがとね爺ちゃん)

(おう)

(それとユーミィちゃん、良かったねえ。でも、ムリはしちゃいけないよ?)

(はいっ。ピウィー、えっと、小鳥の姿の使い魔なんですけど、彼女がいれば結界魔法と神聖魔法のような治癒魔法が使えるそうなので、ダラスさんの代わりをしようと思いますっ!)

(うんうん。それと兵士にもロリコンはいるから、そんな兵は魔法で焼いちゃっていいからね)

(ユーミィ、守る)

(・・・えっと、ゴン?)

(ゴン、ユーミィ守る。さわる、ゆるさない!)

「ちょ、ちょっとロイズ、獣人族って早熟だったりするの? ゴンはまだ10歳なんだよ!?」

「かなり早熟。それにエルフほどじゃないけど、匂いが気に入った相手がいたらそれはもう情熱的に口説く」

「わあを・・・」



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