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それぞれの戦い-8




 サージュ城、会議室。

 食事はすでに終わり酒宴へと移ってはいるが、場の雰囲気は敵国の兵を全滅させた祝いという感じではない。

 皆が、難しい顔をしている。


 城の主であるホルス。その腹心の部下であるサックス。サージュ家の分家であるカターニャ家の当主、バンズール。

 大陸北部の各国にその名を轟かす武芸者、雷槍のドアン。その唯一の弟子で黒騎士団の副長であるロイズ。

 3賢者にしてS級冒険者のジャス、ダラス、セレス。

 アィダーヌ王国の南端を領地とする大貴族、ガンバールの次期当主であるケーダに、その婚約者であり草原の女戦士を束ねるサクラ。

 そして伝説の存在として大陸中の国がその動向に注目するリーミヤ。

 これだけの人材が顔を揃えても、どうにもならない問題というのはあるらしい。


「・・・つまり、奴隷兵を助ける方法はないと?」

「残念ですが、リーミヤの言う外科手術を受けた後では」

「その前に助けるしかないって事か。ダリアス帝国って、どんくらいの国なの?」

「簡単に言うと、アィダーヌの10倍くらいの国力ね」

「・・・うっそーん」

「だからこそファウンゼンはそのダリアス帝国と国境を接する事になる危険性を説いて、議会の連中に今回の内戦への介入を認めさせたのさ」

「ダリアス帝国はこの数十年、精力的に版図を広げていますからね。このまま行けば、10倍どころの国力差ではなくなるわよ」


 リーミヤが金属製のカップを呷る。

 ベンタ王国でのみ栽培されている米。それで造られた酒だ。

 その香りと味にリーミヤはわずかに唇の端を上げたが、すぐに表情は真剣なものになった。


「暗殺はヒヤマのお家芸。・・・アタマを殺る?」

「おいおい、リーミヤ。物騒な事を呟くんじゃねえよ」

「楽しそうじゃねえか、リーミヤ。行くならオイラも連れてけ」

「師匠。リーミヤにそんな事させたら、賢者セレス様がアィダーヌを焼き尽くす」

「そしたらベンタで暮らしゃあ良いじゃねえか」

「さすがにセレスでもそこまでしねえとは思うが、・・・思いてえが、な」

「失礼ですね、ジャスさん」


 ジャスがキセルに葉を詰めると、リーミヤはあちらの世界のタバコの箱を放った。

 それを受け取って、ジャスがニヤリと笑う。


「ありがてえが、いいのか?」

「それなりの数を手に入れたけど、おっちゃんとダラスさんと俺くらいしか喫煙者いないからね。週に1箱ぐらいは吸えるよ」

「こりゃ味が良いからなあ。ダラスも喜ぶ」

「やめろとは言わないけど、控える事は覚えましょうね。リーミヤ?」

「・・・はぁい。でも、すっかり癖になってるからなあ」

「あっちでは学生、それも義務教育期間を終えてもまだ学生をしてたんでしょう。なんでタバコなんか吸ってたのよ」

「言わなかったっけ。・・・俺は父さんに似たのか体が大きいけど、弟のタクミは母さんに似て体が小さくってねえ。商人になる俺が大きくて、軍人か冒険者になりたがってる自分は小さいのをタクミが気にしててさ。これ以上背が伸びないように長期休暇のバイト代でタバコを吸い出したら、すっかり癖になっちゃって。15で冒険者になったタクミは、遺跡の帰りのお土産にお酒とタバコばっか持って来るし。いつの間にか、ね」


 弟との思い出を語るリーミヤは、セレスの事を口にする時とはまた違った幸福感を感じているようだ。

 酒を飲みながら微笑むリーミヤを見て、他の連中も笑顔を浮かべている。


「ファウンゼンから伝言だ。まあ、俺達には聞こえてるんだけどよ。ホルス公爵、ここは考え方を変えて欲しいと愚弟は申しております」

「考え方、ですか?」

「ええ。ここまでの会話で、ダリアス帝国の脅威は感じていただけたはず。そうですね?」

「それはもちろん。ベンタは小国。皆様のお力添えがなくては、国境を侵した3000の兵すらどうにも出来ずに滅んでおりました」

「なら、そのダリアス帝国の侵攻に備えるのに、今までのベンタ王国のままで良いとお思いですか?」

「それは・・・」


 ホルスが言い澱む。

 それは、の後に続くのは、「ベンタ王国を作り変えろと申されるのか」という言葉だったのかもしれない。

 ホルスは戦いに関する才こそないが、決して頭の悪い人間ではないのだ。

 ジャスが、彼に伝言を頼んだファウンゼンが、何を言いたいのかはわかっている。


「決心のしどころですよ、ホルスさん」

「リーミヤ殿・・・」

「諸侯がダリアス帝国に刃向かえなかった理由なんか、関係ねえんです」

「・・・・・・」

「村々の食料が米ひと粒も残らず奪われ、幼い女の子までが犯される。面白半分で殺された人もいるでしょう。戦争ってのは、そんなモンなんですよ?」

「・・・それを許したのが、我々。税を貪り続ける貴族なのですね」

「このままでいいんですか?」


 ホルスが瞳を閉じる。

 鍛えられてはいないが、組んだ腕にはこれ以上ないほどに力が込められているのが見て取れた。


「・・・具体策を、お聞かせ願えますでしょうか」

「この世界で国として在り続けるには、最低限の兵力が必要なんです」

「それはそうでしょうが・・・」


 ホルスが意外そうにリーミヤを見る。そんな当たり前の事を、といった感じだ。

 リーミヤは苦笑しながら、金属製のカップを置いた。


「最低限の兵。それは5000です」

「5000・・・」


 狭いベンタ王国内に、諸侯が約30。

 200の兵を持つサージュ公爵家は別格で、最も位の低い男爵ともなれば十数人の兵しか養えぬほどの台所事情である。

 それをよく知るホルスは、唇を噛み締めた。


「リーミヤ様、ベンタは小国。国中の兵を掻き集めても、4000ほどにしかなりませぬ。叔父上が王となってどんな改革を行ったとしても、5000は無理があるかと・・・」

「とりあえずは4000でいいでしょ。それをバンズールさんが率いれば、1000の戦力差ぐらいはなんとでもなる。ドラゴンのせいで万を超える軍勢がぶつかり合う戦争はない。いやぁ、ドラゴンサマサマ。ありがたいねえ」

「そしてバンズールが次代のビザンツを鍛え上げる、といった算段ですか」


 ホルスの言葉に、リーミヤははっきりと首を横に振った。


「それだけじゃ足りない。貴族が使うだけだった税を、役人の給料に充てる。役人の不正を防止するためにそれなりの給金を支払う必要はあるけど、貴族が贅沢をするよりは安く済むでしょ」

「その浮いた分で、傭兵でも集めるのですか?」

「それじゃベンタ王国はいつまでも貧しいままでしょ、バンズールさん。税を安くするんだよ」

「そんな事をすれば、ただでさえ兵力の少ないベンタ王国は!」


 バンズールが立ち上がって叫ぶように言う。

 それを宥めたのは、叔父であるホルスだ。

 仕草で座るように促し、リーミヤの言葉を待つ。

 未来を見据えるというのは、誰にでも出来る事ではないのだろう。どんな軍勢にでも騎馬で飛び込んでゆけると自負するバンズールだが、そういった事は苦手であるのかもしれない。


「ビザンツくんが軍を率いる時、5000の兵がいればいいんです。騎馬隊の補給に行った時にチラッと見ただけですが、村々の暮らしは貧しいものでしょう。あれでは、成人前に亡くなる子供も多いはず。その子供が成人できるまで生き残れる環境さえ用意すれば、1000はどうにかなるでしょう。職業持ちで剣の才能があるとはいえ、軍勢の指揮となればまた別物です。ビザンツくんに苦労をさせたくないなら、緒戦だけでもベンタ王国の兵だけで戦えないとキツイですよ?」


 バンズールも、そう言われると思い当たる事があるようだ。

 国内のモンスターを狩り歩いていたというし、税さえ低くなれば救える命は多いと感じていたのかもしれない。


「ですが税を安くすれば、それだけ国力が・・・」

「そこが小国の利点ですよ」

「リーミヤ殿、それは?」

「ロクな商人もいないから、国が貧しいんでしょう。米とその栽培技術があるんだから、役人の中で商売に向いた人を使ってそれを売りましょう。まずは、アィダーヌのガンバール相手にです」

「・・・それをするには、少しばかり問題がありますな」

「ホルスさん。まさかベンタ王国には、米やその栽培技術を外部に漏らすなって法律でもあるんですか?」

「それはありませぬ。ですが米は、ノームがベンタ王国の民に伝えてくれた宝。王の一存でそれを売り物にするなど・・・」


 久しぶりに、リーミヤの頭上に?が浮かんでいる。


「のーむ?」

「ドワーフの親戚のような種族よ。ドワーフが土を掘って鉱脈を探してそれを加工するように、土を耕して作物を育てる事に無上の喜びを覚えるらしいわ」

「ふうん。そのノームの国が近くにあるの?」

「ノームはエルフやドワーフのように、単一種族での拠点を持たなかったはずよ」

「はい。ノームは人間と暮らすのを好みます。なので気に入った街や村に住んで、人間と一緒に農業をしておるのですよ」

「リーダー的な存在、長とかはいないの?」

「王都におります」

「なら、王都を取り戻してから話し合うしかないか。そんじゃそろそろ寝ましょうか。ホルスさん、明日までに答えを出して下さいね。小国であるベンタ王国が生き残るには、貴族なんてものをいつまでも飼ってはいられない。国民のためを思うなら、答えは決まっています。そのための手助けは約束しますよ」


 リーミヤが立ち上がり、部屋を出てゆく。

 その背を追ったのは、セレスだ。

 2人は魔力灯すら節約している廊下を歩き、城門の前の広場にオルビスを出して乗り込んだ。

 寝室に直行せずリビングに座ったリーミヤの隣に、セレスが無言で腰掛ける。


「・・・ごめんね。戦争なんかに巻き込んでおいて、さらに面倒事を押し付ける」

「いいのよ。リーミヤのしたいようにしていいの。それがセレスの喜びなのだから」


 リーミヤの前でだけは自分をセレスと言う。それは寝室ごもりの初日に2人がした約束だ。

 いつの間にかどちらも、自然な笑顔を浮かべている。


「ねえ、セレス。お願いがあるんだ」

「なんでも言いなさい。ベンタの王宮を焼き尽くす? 【嘘看破】を取って役人の試験をするのは任せてくれていいわよ」

「なんでも、か。じゃ、とりあえず一緒にお風呂入ろ」

「・・・は?」



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