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それぞれの戦い-6




(どっちにも食料を届けたよ、バンズールさん)

(ありがとうございます。街道を移動中ですか、リーミヤ様?)

(うん。南に向かってフルスロットル)

(敵の主力は、まっすぐに王都を目指しています。2度ほど削ってやりましたので、歩みは遅々としておりますが)

(追いついたらオルビスで突っ込むんで、出来れば副官を・・・)

(ええ。せっかくリーミヤ様が敵将を討って下さったのです。副官も仕留めれば、ダリアス帝国の貴族階級はもうおらぬかもしれませぬ。さぞや混乱してくれる事でしょう)

(・・・たった3000とはいえ、国境を越える軍勢に貴族が2人しかいない?)

(ダリアス帝国の兵のほとんどは、貴族に率いられた奴隷兵ですから。それに何人かは、これまでの戦闘で貴族らしき兵装の者を討ち取っております)

(奴隷か。クソヤロウばっかの国みたいだねえ、ダリアス帝国。敵を視認したら、また声をかけます)

(わかりました)


 リーミヤの常識では、指揮官とその副官以外が奴隷兵だなどとは信じがたい事のようだ。


「ロイズさん、ほい」

「これは、缶ビールですか?」

「うんにゃ、ミルクティー。アルコール、酒精の入ってない飲み物だよ。タバコもカリスもやらないみたいだし、こんくらいの楽しみはいいでしょ。どうぞ」

「・・・いただきます」


 リーミヤがアイテムボックスから出したミルクティーを、ロイズが恐る恐る口に運ぶ。

 美味しいと呟きながら揺れる純白のしっぽを盗み見てリーミヤは鼻の下を伸ばしているが、特殊な性癖でも持ち合わせているのだろうか。


「ロイズさんって、まだ若いよねえ?」

「たぶん、20を1つか2つ過ぎているくらいだと思われます」

「・・・たぶんって」


 リーミヤの少し沈んだ声に、ロイズが屈託のない笑顔を見せる。


「師匠は自分の歳すら覚えていない人ですから。幼い頃に拾われたアタシの年齢なんて、いちいち数えてません」

「あんのジジイ・・・」

「仕方ありませんよ。拾われた時のアタシは、ようやく立ち上がれるかどうかの幼子だったそうですし」

「そこを1歳とすればいいだけじゃん。黒騎士団ってのに入るまでは、ずっと槍の修行?」

「はい。槍を使う事だけを考えた10数年でしたね」

「そんで場数を踏むために実働部隊に就職、かあ」

「どうしたのです、急にアタシの過去など気にされて?」


 リーミヤは片手でハンドルを操りながら、カリスを右手に持って苦笑している。

 シフトレバーは速度が安定すればずっと握っている必要はないそうなので、飲み物を飲んだり音楽を変えたりも右手で行っているのだ。


「・・・いやあ。爺ちゃんに会うまでは、ゴンって弟の槍の師匠になってもらおうと思ってたんだよねえ」

「そ、それは。あんな修行をしていては、槍で戦う事しか出来ない人間になってしまいます。ゴンという男の子には会った事もありませんが同じ獣人族だそうですし、どうかそれだけは・・・」

「まあ、学ぶ気があるなら、修行の日々を過ごしてからでも遅くないけどね」

「・・・そうなんでしょうか?」

「当たり前だよ。たとえばロイズさんだって槍で一流になったけど、ここからさらに別の何かを学んで一流と呼ばれるようにだってなれる」

「そんな事が・・・」


 揺れる運転席でミルクティーの缶を両手で包むように持ち、ロイズは考え込んでいる。

 リーミヤはカリスを咥えながら、声をかけずに待った。


 夏の午後である。

 陽射しに焼かれて熱を持ったオルビスの車体を、もう1刻もすれば夕闇が優しく冷ましてくれるだろう。

 だがその前に、隣国の非戦闘員をなぶって日頃の憂さを晴らす奴隷兵の血肉が、物言わぬオルビスの体を赤く染めるのかもしれない。


「・・・あ、失礼しました。急に黙り込んでしまって」

「いえいえ。ロイズさんは、槍以外に何かしたい事があるの?」


 ロイズは答えない。

 ただ、缶を握る手に力を込めた。


「・・・です」

「ん?」

「・・・ないのです。修行中、師匠と暮らしていた頃は人助けも人殺しも禁じられていました」

「へぇ。人助けも禁止って面白いね」

「下手に助けてもその後の面倒が見れないのなら、自己満足でしかないと」

「それは同感だね。ま、俺もたいがい自分勝手だからセレスにはツッコまれそうだけど」

「人助けも人殺しも、黒騎士団でそれなりに経験しました。ですが・・・」

「満足してない?」

「・・・そうなのかもしれません。自分が何かを学ぶより、今できる何かをしたい、です」

「人助けがしたいって事?」

「いいえ。善人が苦しんでいるのなら、そこから脱する手助けを。悪人が笑っているのなら、その顔に槍で風穴を開けてやりたいです」

「そ、そう・・・」


 顔に槍で風穴を、と言った時のロイズの笑みを見て、リーミヤの表情が引き攣っている。

 気を取り直すためにか、リーミヤは両手でハンドルを握ってしっかりと前を見た。

 アィダーヌの街道に比べ、明らかに馬車が少ない。

 これだけの距離を走ったというのに、オルビスはまだ1度しか馬車を避けるために路肩を進んでいないのだ。


「黒騎士団、そろそろ辞めようかと思ってるんです」

「ふーん。辞めて何をするの?」

「それを探すんですよ。とりあえず冒険者になって、若き日の賢者ダラス様のように弱者救済の旅でもしますかね」

「んな事してたのか、ダラスさん。じゃあさ、村においでよ」

「・・・聖域の村に、ですか?」

「うん。戦争が終わったら、アィダーヌから餓死者をなくす。俺達はそのために動き出してた。手伝ってよ、ロイズさん」


 ロイズの手に力が込められ、ミルクティーの缶が悲鳴を上げる。

 だがそれは、すぐに止んだ。


「アタシなんか・・・」

「そんな言い方はダメ。仕事は山ほどあるよ。身分は冒険者になるけど、S級が3人もいるパーティーのメンバーだから、貴族の横暴にも抗える。ロイズさんが冒険者になったら、貴族とか客人会がうるさく何か言ってくると思わない?」

「・・・それは、思います」

「ならおいで。あの村には一芸に秀でた人が多い。そこで学べばいいんだよ」

「何を、ですか?」


 ニカッ、とリーミヤが笑う。


「好きな事を、好きなように。好きな事がないなら、それを探すトコから始めればいい。国内をオルビスやトレーラーで駆け回るから、お婿さんも探しやすいよー」

「む、ムコっ!?」

「くくっ、声が裏返ってる。どんな男の人が好みなの、ロイズさんは?」

「か、考えた事もありませんっ!」

「そ。なら、ゆっくり考えよう。俺達はまだ若いんだ」

「・・・はい」

「なら、仲間になってくれるんだね? あ、なんかタメ口んなってたや。俺、敬語が苦手だからなあ。ごめんなさいね」

「いえ、どうかそのままで。・・・仲間、なのでしょう?」

「あっるぇー? 仲間だからタメ口でいいって言う人が敬語なんですけどー?」

「うっ・・・」


 ニヤニヤ顔のリーミヤに横目で見られ、ロイズがたじろぐ。

 客人に気安く話しかけるなど、黒騎士団の副長のしていい事ではない。そう考えてから、ロイズは自分が黒騎士団の副長職を辞すつもりだった事を思い出した。


「ねえねえ。自分はいいけど他人はダメとか、そんな事は言わないよねえ?」

「・・・言わない。これでいい?」

「おおっ。ぶっきらぼうな感じが良いねえ。普段はそんな感じなんだ?」

「師匠は敬語すら教えてくれなかった」

「あのジジイ、いつかぶちのめしてやる・・・」

「2人がかりでも敵わなかったのに?」

「だからいつかだよ、いつか。そうだっ、老衰でくたばる直前とか!」

「・・・意外とクズ?」


 リーミヤが笑う。

 ジャス達の他にそんなセリフを言われた事がないので、どうやら喜んでいるようだ。


「いやぁ。なんか口調に違和感があったから素が気になってたんだけど、ロイズって楽しい人だねえ。これからよろしくっ!」

「・・・はい。じゃなくって、うん」

「よしよし。それでいいんだよ。そんじゃパーティーに入れてっと」

「パーティー?」

(はぁい、皆の衆。ロイズの勧誘に成功しましたー、拍手っ!)


 返答がない。


(リーミヤお兄ちゃん。無線に拍手の音が乗せられるのかと、思わず手を叩いてしまったじゃないですかっ!)

(口で言えばいいんだって、ユーミィちゃん)

(・・・ずいぶん仲良くなったみたいね、リーミヤ?)

(まーたセレスは妬いちゃって。かわいいんだから、もう。アィダーヌに帰って仕事を再開したら、サーミィ姐さんとロイズのお婿さんも探すからね。良さそうな人がいたら、セレスもチェックしといて)

(お婿さん。ロイズはわかりますが、サーミィにそれは・・・)

(喧嘩を売ってるんなら買うよ、セレス?)


 リーミヤがブレーキを蹴っ飛ばす。

 その衝撃で座席と手摺りの間に落ちたロイズが恨みがましい視線を向けるが、リーミヤが顎で前方を示すとその表情は真剣なものになった。


(だいたいサーミィは黙っていれば美人なのに、口を開くと残念すぎるんですっ!)

(しゃあねえだろうが。男ばっかの道場だったから、ナメられたら食われちまうんだよっ!)

(サーミィ、ゴンちゃんとミオちゃんも聞いてるんだから)

(サクラは黙ってな。この色ボケ新婚女には、ビシッと言ってやらなきゃと思ってたのさ!)

(はいはい、そこまで。お遊びの時間は終わり。バンズールさん、煮炊きの煙を視認。敵はもう野営の準備?)

(え、ええ。もうすぐ陽が沈むので、早目に準備をしておるようです)

(斥候は?)

(出しておりません。代わりと言ってはなんですが、地面に穴を掘っておりますな)


 地面の穴とは、オルビス対策であるのだろう。

 生半可な堀では止められはしないと思うのが普通だが、ダリアス帝国軍は気休め程度の効果でもあればと期待しているのかもしれない。


(指揮官を狙撃でもしてやろうかねえ)

(慣れた村の周辺じゃねえんだ。索敵に自信があっても、どんなモンスターがいるかわからん。やめとけ)

(おっちゃんが言うならやめとくか。ところで、今どの辺?)

(ヒャクダンを借りたからな。深夜にはサージュ領都だ)

(夜も走って大丈夫なの?)

(セレスがいるんだ。魔法の明かりがあるから問題ねえ。たまに立ち塞がるモンスターは、ケーダのナギナタとサクラの槍であっさり沈むしな)

(4人なら何が来ても平気だと思うけど、それでも用心はしてね。・・・そんじゃバンズールさん、陽のあるうちにオルビスで突っ込むんで、動きを合わせて下さい。車は急に止まれないので、それにだけは気をつけて)

(お任せ下さい。23騎しかおりませんが、貴族と思われる将兵のみを目指して駈けます)



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