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それぞれの戦い-5




(そんじゃ、領都に戻りまーす。ファウンゼンさん、王都で根回しをしながらバンズールさんと作戦を決定すんのは大変だと思うけど、出来れば戦死者が出ないようによろしく)

(お任せ下さい!)

(そんでおっちゃん、ビザンツくんに俺の世界の文字を教えてもいいんだね?)

(それなんだが個人的には・・・)

(んーっとね。人格が歪んでたり、いけ好かない貴族のお坊ちゃんだったりしたら教えない。それに将来的に小国の王様だから追い詰められて暴走する可能性もあるけど、そうなったら俺がこの手で殺す。それでどう?)

(・・・出来るのか?)


 ジャスが心配しているのは、リーミヤが生まれ持った優しさだろう。

 ビザンツを殺す事が本当に可能なのか問う声には、ジャスが滅多に見せない真剣な響きがあった。

 オルビスを走らせながら、リーミヤが目を細める。


(やるさ。同郷人の子孫が悪名高き王なんかになったら、父さんに申し訳ないもん)

(・・・なら、仕方ねえのかもな)

(ああもう。遅いですよサクラ、ケーダさん。出発します!)

(おわっ。セレス、馬の体力配分を考えやがれ! サージュ領都に着く前に馬が潰れたらどうすんだ!)

(それなのですがジャス様。念話魔法で連絡して、4頭のヒャクダンをガンバール領に入ってすぐの村に移動させています。馬術は大丈夫ですよね?)

(問題ねえよ。ヒャクダンを貸してくれるとはありがてえ。良い嫁をもらったなあ、ケーダ)

(それでリーミヤ。そのビザンツくんの職業は?)


 ハンドルを切りながら、リーミヤがカリスを咥える。

 ドアンはまだ【パーティー無線】が珍しいようで、耳を塞いでみたりして自分なりに検証しているようだ。


(ああ、荒野に立つ剣士。なかなかカッコイイよね)

(・・・剣士。それなら初期スキルに、銃を作ったりするスキルはないわね)

(それに荒野に立つ、だからね。大陸を覇する、とかじゃないから少しは安心。ま、レベルが上ってどんなスキルを取るのかはまだわかんないけど)


 見えて来たサージュ領都を眺めながら、リーミヤが言う。

 【鷹の目】という遠目が利くスキルを持っているリーミヤには、投石や矢で貼った鉄が破れ、火矢でところどころ焼けた南門の無残な姿がはっきりと見えていた。

 オルビスは損傷した南門を避け、西に迂回する。


(そうそう。ガンバールからの秋の移民だけど、ケーダさんの要請でレオニウス領ではなく、ガンバール領に街を造る事にしたわよ)

(農業よりも牧畜を取ったのか。なら、街は広めに造ったげて。どの辺に造るの?)

(それが、カルサネ村のあった辺りなのよ)

(なんだとっ!)


 叫んだのは、ドアンだ。

 無線に乗る声だけでなく肉声でも叫んだので、リーミヤが座ったまま跳び上がるほどに驚いている。


(び、びっくりしたあ。どしたの、爺ちゃん?)

(・・・カルサネ村は、オイラの故郷よ)

(ありゃま。土地を使われるの嫌?)

(んなわきゃねえ。逆に礼を言いてえくれえだ。だが、カルサネ村はかなり前に一夜にして灰になった)

(・・・何があったん?)

(それがわかってりゃ、やったヤツをとっくにぶち殺してるさ。1000もの村人と、それなりの防壁や建物がたった一晩で焼き尽くされた。理由もわからんままにな。そんな土地に街を造って大丈夫なのかよ・・・)

(ケーダです。移住予定の5000は、一族の男が多く亡くなって思うように狩りが出来ぬようになった者達です。ですがそれが5000も集まれば、男手はそれなりの数になるのですよ。すべての住人には行き渡らないかもしれませんが狩りも出来るでしょうし、街を守る衛兵も用意できます。何かあれば狼煙を上げ、早馬を近隣の村に走らせる事は可能ですし)


 ケーダには自信がありそうだ。


(なら、それでいいんじゃないかな。おお、西門が開いた。まるで自動ドアだねえ)

(もう領都に到着したの?)

(うん。敵兵はバンズールさんをよほど怖がってたのか、亀みたいな速度で南下してたみたい。だから領都からすぐの場所で野営してたよ)

(なるべく急いで行くからサージュ公爵への説明は頼むぜ、リーミヤ)

(りょーかい。いくら戦争が好きじゃないホルスさんでも、国民と一人息子の幸せのためなら重い腰を上げるでしょ。バンズールさん、聞いてますよね?)

(ええ。馬を操りながらですが)

(3000の敵兵、略奪は?)

(酷いものです。米のひと粒も残さず食料を奪われ、まだ幼い子まで・・・)

(ホルスさんが渋るようなら、見た事を話してあげて下さい。伝言でだけど)

(・・・わかりました)

(大通りの土嚢が片付けられてたから、もうお城に到着っと。そんじゃ、ホルスさんが王になるべきだって説得して、初戦の打ち合わせしてきまーす)


 ホルスの説得そのものは、ものの10分もかからずに終わった。

 問題は、その後だ。

 可能なら戦を避けたいと願う性格が災いして後手に回り、籠城という最悪の手を打つしかなかったが、ホルスもこうなれば戦うべきだと心の中では思っていたらしい。

 敵が2000ほどにまで減っていて打って出るのが可能なら、自分が先頭に立って兵を鼓舞すると言い出したので、リーミヤはホルスを宥めるのに苦労した。


 動きの悪い兵が1人でもいれば、軍はその動きの悪い兵と同じ速度でしか動けない。

 遅れる者を放っておけと厳命しても、戦友が遅れそうになれば兵はそれを庇う。そこで軍の動きは遅れ、寡兵の数少ない利点である行軍速度が落ちてしまうのだ。

 その動きの悪い兵が大将その人であるのなら、もう邪魔にしかならないとまで言ってリーミヤはホルスを説得した。


 反乱の首謀者であるハリス侯爵は、王都の城にいるらしい。

 そのハリス侯爵を誅した後、それに与していた貴族は処断する事になる。しかしそれだけではなく、ハリス公爵の率いる反乱軍にも、ハリス侯爵を恩知らずの謀反者と名指しして全国の貴族に援軍を募る檄文を出して籠城したサージュ公爵にも兵を出さず、日和見をしていた諸侯への対応をすぐにでも決めなくてはならない。

 それは王となって新しいベンタ王国を治めるホルスの仕事だと言われ、どうにかホルスは諸侯への対応を検討するという仕事に納得した。


「いやー、まさか説得に昼過ぎまでかかるとはねえ」

「リーミヤ様。師匠はなぜ城に残ったのでしょう。バンズールの騎馬隊といえば、この国で一番の精鋭。それに糧食を届けに行くというのに、リーミヤ様の護衛をアタシにさせるなんて」


 その言葉通り、疾走するオルビスの運転席にはリーミヤとロイズしかいない。

 戦闘を望んでいるドアンが城に残ったのが、ロイズには意外に思えるようだった。


「バンズールの騎馬隊は3隊に分かれてる。そのすべてに軍用の炊飯道具とお米や干し肉なんかを届けるでしょ。帰りは今夜遅くか明日の朝になる予定だし、途中で戦闘になればそのまま俺達は前線に留まる事になるかもしれない。そしたらその間に、アィダーヌからおっちゃんが到着するでしょ。軍馬には空きがないそうだから、爺ちゃんはおっちゃんの指揮する歩兵に混ぜてもらえるように脅しでもかけるんじゃないかなあ」

「リーミヤ様の念話魔法で言えば良いのでは?」

「なんか企んでるんでしょ。俺達の倍以上も生きてる爺婆のやる事を詮索しても仕方ないよ。爺ちゃんなんかもう、バケモノみたいなもんだし」

「・・・バケモノには同意します。ですがまさか、サージュ公爵が賢者ジャス様に全指揮権を委ねるとは」

「おっちゃんは軍を率いる立場での実戦経験ほとんどないみたいだけど、それでもホルスさんよりは巧くやれる。今まで実際の指揮をしてたっていう、サックスさんよりもね。北の獅子としての教育を受けたっていうのは、それほどの事らしいよ。バンズールさんも伝言でだけど口添えしてくれたし、勝つにはそれしかないって言われたら頷くさ」


 オルビスは道幅も狭く土が剥き出しの街道を走り、粗末な防壁の村の門前で停止した。

 すぐにバンズールの部下の1人がオルビスに走り寄る。

 リーミヤはヘッドギアを着けたまま、1人でオルビスを降りた。


「どもどもー。バンズールさんの麾下の方ですよね」

「はい。・・・きゃ、客人様でよろしいのでしょうか?」

「ですよー。ここは何騎いるんです?」

「12騎であります」

「そんじゃ、軍用調理器具セットを2つと、米や干し肉10日分を下ろしましょう。手伝って下さい」

「はい!」


 炊飯道具も10日分の糧食も、騎兵に持たせる前提で作ってあるので大してかさ張らない。騎兵の腰の後ろや馬の鞍に結べるようになっているからだ。

 荷を下ろし終えたリーミヤはバンズールの伝言を伝えるとすぐに運転席に戻り、次の村を目指してオルビスを発進させた。


「次の村にも12人だってさ」

「本隊は、たった23騎で2000もの敵を追ったのですか・・・」

「バラけてるから1800いるかいないかだろうけどね。まあ、バンズールさんなら無謀な突撃なんかしないから大丈夫でしょ」

「ですが人数が人数ですから、効果的な打撃を与える事など・・・」

「出来るさ」


 カリスを噛みながらリーミヤが笑う。


「え・・・」

「この世界は、モンスターのせいで斥候を放つのが凄く難しい。たとえば進軍する敵が丘を越えようとしても、わざわざ斥候を出したりはしないんだってさ。だからその丘の上に敵が立つと同時に、反対側に姿を隠してた騎馬隊が全速での一撃をぶちかましたりも出来る」

「・・・そして下り坂を駆け下りる騎馬隊を、歩兵の足では追えない」

「うん。そんな襲撃を受けて、次の丘を見た敵はどうする?」

「当然、警戒しますね。犠牲を覚悟して、物見も放つでしょう」

「そしたら丘以外の場所から突撃してやればいい」

「・・・もしや、敵の進軍を遅らせるのが目的なのですか?」

「だね。王都で王様気取りのナントカ侯爵ってのに、簡単に合流させる訳にはいかない。次の村の騎馬に食料を渡したら、俺達も本隊を追うよ。楽しみだねえ。街道を進んでる1800の兵隊に、全速力で突っ込んでやらなくっちゃ」


 ロイズの顔が青ざめる。

 家よりも大きく、馬よりも速く走るオルビスが、敵に突っ込んだ所を想像したようだ。

 昨夜の襲撃で、敵兵はある程度オルビスへの対処法を学んでいる。それを知らないロイズの想像では、敵兵の尽くが肉片に変えられているらしい。

 伏せられたロイズの真っ白な耳を横目で見たリーミヤは、困ったように微笑みながらアクセルを踏み込んだ。



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