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それぞれの戦い-4




 登る朝陽を見ながらリーミヤとバンズールが語り合っているのは、ベンタ王国の未来でもサージュ侯爵家の行く末でもなく、ビザンツのこれからの事であった。

 戦が長引いても勉学はしっかりさせねばならぬと言うので、リーミヤがファウンゼンを連れて来るから講義をさせようと言うと、バンズールは目をひん剥いて驚く。

 どうやらバンズールはファウンゼンの書物をどこからか手に入れ、自身の用兵にかなり応用していたらしい。

 かわいがっている甥っ子がそのファウンゼンに軍学を学ぶと聞いて、バンズールは少年のように目を輝かせていた。


「それとビザンツくんの武器が片手剣なら、いい師匠に心当たりありますよー」

「ほう。どなたです?」

「元レオニウス卿で、ジャスっておっちゃん」

「・・・金獣騎士様、ですか」

「あれ、不満?」

「そうではありませんが、アィダーヌでもかなりの影響力を持つ元貴族のS級冒険者を師にするのは・・・」

「おっちゃん達はベンタの現状と、ビザンツくんが職業持ちだってのはもう知ってる。正直、俺の仲間がどんな選択をするかはわかんない。けど、会ってまだそんな時間が経ってないのに、あの人達の事を無条件で頼ってもいいくらいに信用してるんだ、俺」

「ほう・・・」


 バンズールは琥珀色の酒を舌の上で転がしながら、穏やかな微笑みを浮かべた。


「変、かな?」

「いいえ。人は関り合いの中で徐々に信頼関係を構築する生き物ですが、男というのはそんなものでしょう」

「そうだといいなあ。ねえ、バンズールさん。さっきナギナタを使ってたよね?」

「ええ。サージュ公爵家に代々伝わっていた業物を、叔父上が貸して下さっているのです」

「あれってアィダーヌのガンバール家にも残ってるんだよ。知ってました?」

「いいえ。ですがサージュ家には、ガンバールの血が入っております。この大鎧やナギナタは、そのガンバール家の戦士が伝えたらしいですよ」

「じゃ、バンズールさんはケーダさんの親戚になるのかあ・・・」


 リーミヤが楽しそうに酒を呷る。

 運転する時には飲まないと言っていたくせに、もうかなりの酒量だ。

 それでも飲みながら話しながら、網膜ディスプレイの映像で周囲を警戒するのは怠っていない。


「次期南の狼、ケーダ殿というお方はリーミヤ様のお気に入りですかな?」

「気持ち的には、ちょっとだけ年上の兄貴みたいな感じだけど。バンズールさんと同じで敬語だし、兄弟でも友達でもないような扱いをされるんだよねえ」

「客人様ですからね。隣国のベンタ人である某でも、気安く話したりは出来ませぬ。アィダーヌ人、それも大貴族となれば仕方のない事でしょう。わかってやらねば不憫ですぞ」

「かなあ。・・・お、爺ちゃんが戻ってくるみたい」


 その言葉通り、運転席に戻ってきたのはドアンだった。

 なぜかその表情は晴れないようで、運転席に着くなりリーミヤの酒瓶をひったくって呷る。

 バンズールが横に移動すると、ドアンはどっかりと助手席に腰を下ろした。


「どしたん、機嫌悪いじゃん?」

「ザックの若造が、オイラが入ると騎馬隊の動きが悪くなるからと同行を許そうとしねえんでぃ!」

「まあ、あの練度じゃねえ。よそ者が1騎でもいたら、全員の動きが遅れるからなあ」

「わかるのですか、リーミヤ殿?」

「俺がいた世界には騎兵なんて兵種はなかったけど、国内の移動には馬を使う事も多かったんですよ。だからオルビスが暴れてる時に敵の主力を削った、あの時の騎馬隊の動きは手放しで賞賛するしかない。あの動きに他人を混ぜたくないってのはわかります」


 バンズールは、少しホッとしているように見える。

 亡き父と叔父の友人とはいえ、大陸北部で名の売れた武芸者であるドアンの同行を断るのに、客人であるリーミヤの助けがあったのが喜ばしいのだろう。


「では、某はそろそろ・・・」

「もうすっかり陽も昇ったし、追撃戦?」

「物見を放って敵の陣を見てからですな。某の読みではそろそろダリアス帝国の兵だけではなく、国内の貴族が兵を出すはずです」

「パッと見、2000くらいしかいなかったもんねえ」

「ええ。反乱の首謀者であるハリス公爵家の兵は100ほどでしかありませんが、反乱に同調した諸侯の兵を掻き集めれば数百にはなります」

「この機に潰せるだけ潰しときたいねえ。・・・ちょっとアィダーヌの仲間がどうするのか聞いてみる。爺ちゃんがそのお酒を飲み終えるまで待って」


 リーミヤは少しだけ眉根を寄せながら、網膜ディスプレイを操作して【パーティー無線】を繋いだ。


(こちらケーダ、親父の説得完了!)

(バダムです。ダラス殿達のお迎えに、今さっき王都を出発しました)

(説得が早すぎだろう、ケーダ。私はまだ、議会に出席して意見を述べるための使いすら出せないんだぞ!?)

(ジャスだ。説得できたんならさっさと門内の馬屋まで来やがれ、ケーダ。セレスは借りた馬車にすぐにでもムチを入れそうだぞ)

(ちょ、セレス殿!?)

(サクラは大切な友人ですので待ちます。ええ、サクラは)

(セレス、サクラ。張り切るのはいいけど、アタイが行くまでに怪我でもしてたら承知しないよ?)

(・・・えっと、なにごと?)


 突如として聞こえたリーミヤの声に、賑やかだった無線が静まり返る。

 これは失敗したかと思わず頬を掻いたリーミヤだったが、すぐにさっき以上の騒々しい声が好き勝手に発せられた。


(リーミヤ、待ってろよ。4日もあればゴンを連れて合流すっから)

(ゴンをっ!?)

(ヒヤマ殿、待っていて下さい。今から馬車を飛ばせば、明日にはサージュ領都です! 途中で俺とサクラはヒャクダンを待たせていますから、もう少し早く到着するかもしれません!)

(・・・サクラ)

(セレスさん、馬術は?)

(嗜み程度ですが)

(ならケーダのヒャクダンを提供するので、2人で先行しましょう!)

(恩に着ます、サクラ!)

(ダメですよ、セレス殿!? 愛馬のナーダは気性が荒いので、俺以外を乗せてはくれませぬ!)

(えーっと・・・)


 若者組の勢いに困り果てたリーミヤがそう呟くと、ジャスとダラスの笑い声が聞こえた。


(どうなってんの、おっちゃん?)

(結論から言うぞ。アィダーヌが口出しできねえようにベンタの内戦を終わらせる。・・・奪るぞ、ベンタを)

(はぁ?)

(サージュ公爵家の手勢のみで内戦を終結させるんだとさ、リーミヤちゃん)

(・・・本気?)

(ファウンゼンが言うには、力押しでもどうにかなる算段らしいぞ。メンバーがメンバーだしな。そんでも無理そうなら随時、ファウンゼンが裏の手段で手に入れたベンタの地図を見ながら指示をするとさ)

(えっとね、今バンズールって武将と雷槍のドアンと一緒にいるんだよ。おっちゃん達が内戦に関わっていいのか訊くから、ちょっと待って!)


 リーミヤが目頭を揉みながらドアンとバンズールを見遣る。

 年の功ゆえかある程度を察したらしいドアンは、苦笑いを浮かべていた。


「ジャスの事だ。またアホぬかしてんだろ?」

「知り合いだって言ってたねえ、そういや。・・・サージュ公爵家の兵だけでベンタ王国を奪るって。たぶん、ホルスさんを王として即位させてビザンツくんを守ろうって肚だと思う」

「・・・・・・」

「簡単に言いやがって、あのアホウ」

「あ、あの、バンズールさん。怒ってらっしゃいます?」

「・・・某がなぜ怒るのです」


 吃るリーミヤに静かに返すその表情は、まさに鬼としか言えない。

 バンズールにしてみれば、サージュのナギナタである己は斬れるだけ敵を斬ってから壮絶な戦死を遂げるつもりであったのに、隣国の音に聞こえた勇士はわずか250の兵で戦を終わらせ、叔父を王に据えるとまで言っている。到底、心穏やかではいられぬであろう。


「えっと、バンズールさんだけでもオルビスで領都に行きません?」

「散ったダリアス帝国の兵が、近隣の村で略奪をなすかもしれませぬ。それに固まって逃げた本隊は王都でハリスや諸侯の兵と合流を図るでしょう。馬と兵をこれだけ休ませたのですから、すぐに追わせていただきます」

「やっぱムリかあ。そんじゃ俺とか金獣騎士、現レオニウスに、遠い親戚のガンバールと念話魔法でいつでも話せる状況にしといていいですか?」

「・・・そんな事が可能なので?」

「ええ、俺って客人だし。うるさかったら言ってくれたら声を聞こえなく出来るから、お願いしていいです?」

「叔父上の指示などを伝えていただく事は・・・」

「もちろん。約束します」

「ならばこちらから、是非ともお願いいたします」

「はーい。そんじゃ、パーティーインッ!」


 リーミヤがドアンとバンズールと話している間にも、【パーティー無線】では若者組を中心に他愛もない話や、ベンタに到着してからの動きが話し合われている。

 その喧騒の最中にいきなり放り込まれたバンズールは、助手席でただただ驚いているようだ。


「おい、リーミヤ。オイラは仲間はずれかぁ、ああん?」

「・・・はいはい、そうなるよねえ。雷槍のドアンがパーティーインッ!」

「おうおう、賑やかだなあ」

「声に出すんじゃなくて、頭の中で話しかける感じにしてみて。慣れたら話してる声も無線に乗せられるから」

「ほう、どらどら」


 ドアンが気さくな調子で無線を聞いている者達に挨拶をすると、すぐに全員から返事が返ってくる。のんきな話し方のバダムの妻、ミーティスにまで丁寧な挨拶をされ、ドアンはご機嫌のようだ。

 続いて挨拶をしたバンズールは、興奮気味のファウンゼンに現在の状況を尋ねられて面食らっている。


(ファウンゼンさん、バンズールさんが困ってるって。なんでそんなに興奮してるのさ?)

(リーミヤ殿。私は今、あのバンズール・カターニャ殿と話をしているのですよ! この20年、常に寡兵にてベンタの国境を護り抜いている、誰よりも実戦を重ねた騎馬隊の将バンズール殿とっ!)

(は、はあ・・・)

(リーミヤ殿は吟遊詩人の唄う英雄と実際に話す機会があっても、興奮しないとでも言うのですか!?)

(あー。各国の戦争の情報を集めて精査してるからこそ、誰よりもバンズールさんの偉大さを知ってるって感じ?)

(まさにそれです!)

(そっか。バンズールさんは今から追撃戦。俺はドアンさんと領都に戻ってホルスさん、サージュ公爵と今後を話し合います。申し訳ないけどファウンゼンさん、バンズールさんの時間が取れる時に打ち合わせして、それで戦略を考えてもらえますか?)

(お任せ下さいっ!)


 明らかにめんどくせえなあ、といった表情のリーミヤだが、声でそれを悟らせぬ事には成功したようだ。

 呆れ顔のバンズールを、リーミヤがハッチまで見送りに出る。


「無線、念話魔法みたいなので話せる連中は、気のいい奴らばかりです。能力が高いのが鼻につくこともありますが、まあ勘弁してやって下さい」

「・・・リーミヤ様でも、そうなのですか?」

「ええ。あの人達を見てるといつも思います。自分は中途半端でしかない職人であり戦士で、まだまだガキなんだよなあって」

「・・・良いお仲間なのですな」

「それだけは自慢ですね。それより、ここからはお互い連絡を密にしましょう。補給も援護も、このオルビスなら思いのままですから」

「その時は、お願いいたします」


 頭を下げたバンズールが顔を上げると、リーミヤとしっかり視線が合った。

 何かを確かめ合うように、ゆっくりと2人は頷き合う。

 どちらも言葉はなかったが、晴れ晴れとした表情で2人は別れた。



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