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新人冒険者は頑固者が嫌いではない-9




「結局、すべて躱しきった。・・・爺ちゃん、ホントに人間?」

「・・・ぜえっ、ぜえっ。中身は化け物に決まってます、リーミヤ様」

「ヒヨコが吠えやがる。いい感じに息が切れてるな。バカ弟子、形を見せろ。そうだなあ、水の一番、次に火の一番でいい」

「・・・はい!」


 槍を持って舞うように槍の形を披露するロイズを、リーミヤはサージュの隣に立って見守った。


「水っていうだけあって、流れるような動きだ。おお、槍を風車みたいに使った。大技もあるのかー」

「雨の一滴が川となり、海になる。一粒の雨に端を発したそれがこれまでどれほどの人々を助け、人の命を奪った事か。ドアンが飲みながら言っておりました」

「ただの狂気のジジイじゃないんですねえ。動きが変わった。溜めを作っての突き? ・・・うっひゃ、助走なしで5メートル以上も先にジャンプしてるし!」

「そこまで!」

「・・・え。もしかして、成長してませんか?」


 うなだれてしまったしっぽが、ロイズの心中を如実に表している。

 それを見たドアンは、豪快に笑った。


「アホか、逆だってんだよ。雷槍のドアン最初で最後の弟子、ロイズ」

「はっ、はい・・・」

「許す!」


 そうとだけ言われて、ロイズは困惑しているようだ。


「・・・何をでしょうか?」

「ああん? すべてをだよ。名前すらねえ流派だが、そのすべてをロイズは学んだってこった。ずいぶんと人も殺したようだし、ここらで良かろうよ。だが忘れるんじゃねえぞ。その若さでオイラに『許す』と言わしたのは、聖印の力に寄るトコがでっけえ」

「・・・はい」

「そうしょぼくれるんじゃねえよ。その聖印のおかげで、ロイズはまだまだ先まで行けるってんだ」

「・・・精進を重ねます」

「おう、そうしてくんな。リーミヤ、ホルス、待たせたな。城で酒でも酌み交わそうぜ。バカ弟子がいっぱしの使い手になった祝いでぇ」


 サージュ公爵の名はホルスであるらしい。

 ヘッドギアを外したリーミヤがオルビスを収納すると、それを見ていたサックス以外の全員が驚いて大騒ぎになったが、『客人だから』の一言で強引に納得させてリーミヤは城に向かって歩き出した。


「北門には損傷がなかったけど、他の門が破られそうなの? これって完全に門が破られた時の備えだよね、爺ちゃん」

「酷えのは南門よ。薄い鉄を貼っちゃいるが、門自体は木製だからな。火矢で破られる一歩手前だった」

「で、その窮地に籠城に呼応した兵が背後から襲いかかったと」

「ああ。わずか47騎で敵陣を突っ切って、叔父上が無事ならサージュの旗を3度振れと叫んだ兵がいた。ホルスの甥っ子で分家の当主、バンズールって男でえ。3度振られた旗を見て、笑いながら敵陣にまた突っ込んでったよ」

「・・・やるねえ、その人。犠牲は?」


 馬車に乗り込みかけたドアンがニヤリと笑う。


「なしだ。1騎も失う事なく、南に消えた。そんなんが3べんも続いてな。今日の昼に、敵は南に向かったのさ」

「と、なると、今度は城の兵が背後を衝く番か・・・」


 6人は乗れそうな馬車だが、サックスは御者台に座ったようだ。

 ホルス、ドアン、リーミヤ、ロイズを乗せた馬車は静かに動き出す。槍は屋根に置く場所があった。


「だが、こっちにゃ軍馬がねえ。だからオイラ1人で斬り込んで、この夜明けに死のうかと思ってよ」

「俺が来ちゃったから、それは諦めてもらおうかな。あ、先に言っとくけど、俺は男だけど念話魔法みたいなのが使えるから、アィダーヌの仲間といつでも連絡が取れる。それとウソがわかるんだ」

「・・・まさか、スキルですか?」

「ホルスさん。あ、サージュ公爵って呼んだ方がいいですか?」

「いえ、ホルスで結構です。それでリーミヤ様はまさか・・・」

「職業持ちで、スキルもそれなりにあります。網膜ディスプレイはないんですか、ホルスさん?」

「私には、ありません」

「息子さんは持ってるのかあ。ホルスさんは、予知夢が得意って聞きましたけど?」


 サックスが口にしたのだから、この場で訊いても問題はなかろうとリーミヤが言う。


「ええ。ですが私のスキルは多くの先祖と同じように、ボンヤリとしたものでしかないのです。明瞭な夢が後に真実となったり、子供を見て感じた言葉が成長した後にその者を表すにぴったりなものであったりと」

「でも、息子さんはそうではない?」

「・・・はい。歩けるようになると同時に棒を振り回していたのですが、今では木剣を握ればサックスといい勝負をするのです。まだ、5つでしかないのに。そしてある日、このずっと見えている不思議な文字を教えてくれる者はいないのか、と言い出しました」

「そっか。網膜ディスプレイの文字は、俺のいた世界の言語だ。セレスはあっちの言語知識を俺との結婚で得たけど、息子さんには読めないか。まだ5歳だって言ってたしなあ」

「しかも家に伝わる職業持ち、『ベガスのギャンブラー』という職業であった初代公爵が持っていたという、アイテムボックスというスキルまであるようで・・・」

「アイテムボックスはスキルじゃないけど、まあいっか。停まったね。爺ちゃん、お城に着いたの?」

「そうに決まってらあ。さあ、降りた降りた」


 ドアンを先頭に全員が馬車を降りる。

 白亜の城、などとはお世辞にも言えないこぢんまりとした城にも、その主ではなくドアンがまず足を踏み入れた。


「・・・あれ?」

「どうしました、リーミヤ様?」

「なんか引っかかる。ベガスのギャンブラー? ベガス? はああああっ!?」


 突然の叫びに、先頭のドアンまでが何事かとリーミヤを見ている。


「リーミヤ様!?」

「ベガスって、うちの国のベガスだよねえ!? だってモデルになった地球には、職業持ちいないじゃん! じゃあベガスのギャンブラーって、なんでさ!? ベガスが出来たのって俺が10歳くらいの時だよっ!?」

「・・・えっと。乱心、ですか?」

「スターップ! 黒騎士団の裏の役目は知ってるけど、乱心なんかしてないから殺さないでロイズさん!?」

「はあ。でしたら何よりまず落ち着いて下さい。でないと敵わぬと知っていてもアタシは・・・」

「わかってる。クールになるよ。出来る男は常にクールなんだ。・・・落ち着こう、俺。よし、落ち着いた。ホルスさん、初代って何歳くらいでこっちに来たかわかります?」

「14だったと伝わっております。成人の直前だったので、武器を持っていなかったのを老いても悔やんでいたとか」

「なるほど。・・・ってゆーか、違う世界に喚ばれるくらいだから時間、時代すら関係なくて当たり前かもねえ。お騒がせしました」


 城の廊下にも、そこかしこに土嚢が積まれている。

 擦れ違う者は胴丸を着けた兵が多いが、メイドのような女も少しは残っているらしい。

 会議室のような部屋に一同が到着すると、まだ少女としか言いようのないメイドと、小さな男の子がリーミヤ達を出迎えた。


 メイドはすぐに部屋を出てゆく。

 少しだけ汗ばんでいる柔らかな黒髪を持つかわいらしい男の子は、父に駆け寄るでもなくじっとリーミヤを見ていた。


「はじめまして。俺はリーミヤ・ヒヤマ。君はビザンツ。ビザンツ・キル・サージュでいいのかな?」

「なぜ、僕の名前を・・・」

「おおっ、おりこうさんなんだねえ。言葉がはっきりしてる。コレだよ、コレ」


 言いながら微笑みを浮かべ、リーミヤは自分の頭上を指差す。

 それを見たビザンツは、くりっとした大きな黒い瞳を、めいっぱい見開いている。


「よ、読めるの?」

「もちろん。これは俺のいた世界の言葉。ビザンツのご先祖様が使っていた言葉でもある」

「教えて! 僕、これが読めるようになりたいんだ!」


 ビザンツの言う『これ』とは、リーミヤと同じ網膜ディスプレイの事だろう。

 わずか5歳でしかないとはいえ、ビザンツは聡明そうな男の子である。好奇心いっぱいのこの年頃に、誰も教えてくれない文字をずっと目にしていれば、初対面のリーミヤにこうも必死に頼み込むのも理解できる。


「・・・んー。いろいろと問題があってねえ。ビザンツは、お父さんに反対されてもこの文字を覚えたい?」


 ビザンツがホルスを見る。

 見詰め合う時間が長くなると、先にビザンツの瞳が揺れた。


「泣くでない、ビザンツ」

「・・・泣いてなどおりませぬ!」

「とりあえず、座って話しましょうか。ねえ、爺ちゃん」

「おうよ。メイドに酒を頼んどいたから、すぐに持って来るだろうさ」


 尻に伸ばされたドアンの手をそっと押さえたメイドは、リーミヤから見てもいい腕をしていた。少なくとも、怪我をさせずに無力化するのは困難であるくらいの実力。

 なぜあんな少女がそこまでの実力を備えているのか、なぜそんな実力を持つ少女がメイドのような下働きをしているのか。リーミヤは考えない事にして椅子に座った。


「息子も同席させた方がよろしいでしょうか、リーミヤ様?」

「様はやめて下さい。せめて殿、ロイズさんもね」

「・・・ならば、遠慮なくリーミヤ殿と」

「ヒヤマ殿にします」

「ヒヤマくんじゃないの?」

「それは客人である事を知られたくない人前だけですね」

「固いんだからー。まあ、いっか。ちょっと3賢者に相談してみるから、皆さんは旧交でも温めといて」


 リーミヤはすっかり癖になってしまったカリスを咥え、無線でジャス、ダラス、セレスに呼びかける。

 3人共なんとか会話をするくらいの時間はあるそうなので、かいつまんで状況を説明した。

 ジャスのため息が無線に乗る。


(ったく。そのビザンツっておこちゃまもレベルが上がれば、リーミヤやセレスみてえに、とんでもねえスキルを手に入れられるってのかよ・・・)

(リーミヤちゃんとセレスは、アィダーヌになんの未練もない。その子の世代になったら、アィダーヌはベンタに膝を折るしかないのかもねえ)

(俺かセレスが網膜ディスプレイの言語と、スキルの使い方なんかを教えたらね。さあ、北の獅子、南の狼。どうする? いっそ今のうちにビザンツを殺しておけば、アィダーヌ王国は安泰だよ)


 リーミヤが話し合いには加わっていないファウンゼンとケーダの名前を出すと、ため息と呵々とした笑い声が聞こえた。

 ため息がファウンゼン。

 大笑いはケーダだ。

 何がおかしいのかケーダの笑いは、サージュ城の会議室に酒と料理が並ぶまで続いた。



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