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新人冒険者は頑固者が嫌いではない-8




「おっかしーな。サックスさん、領都に門はいくつあるの?」

「東西南北に4つです」

「前方に見えてるのは?」

「北門ですね」

「見張りはっと。・・・いたいた。えっとね、何だあれ。まるで時代劇の胴丸と鉢巻じゃん!」

「こ、この距離で見えるのですか。それにしても、胴丸も鉢巻もご存知なのですね。それがサージュ公爵領軍の正式装備です。ならば、まだ落城はしていない。間に合いました」

「でも、なんで敵がいないんだろ? 籠城中のはずだよね」

「わかりません。とりあえず門の前で俺が降りて、領都に入れるように話を通します」

「りょーかい」


 オルビスが門に近づくと、リーミヤはマイクを手に取った。

 リビングに【パーティー無線】が使えない人間がいる時のための道具。


「あーあー、テステス。・・・こちらはアィダーヌの客人、リーミヤ・ヒヤマ。密命を受けたサックス殿の願いで参上した。今すぐ本人を降ろすから、間違っても矢を射掛けたりしないように」


 大音量に驚くサックスが、ロイズに促されてオルビスを降りる。

 その姿を見て、見張りの兵は卒倒してしまった。

 鉄箱を初めて見たならば、ドラゴンのようなお伽話に出て来る巨大なモンスターと勘違いしても仕方がないだろう。その口から普通ではない大きさの人間の言葉が発せられ、さらにそこから五体満足な知人が吐き出されるのを目撃すれば、卒倒してしまうのも頷ける。

 サックスは仕方なく、通用口の扉を叩く事にしたようだ。

 恐る恐る覗き穴からサックスを見る兵に何事かを言い、すぐに領都へと消えた。


「ロイズさんは驚いてないね?」

「はい。先程、賢者セレス様から念話魔法がありまして。リーミヤ様のする事にいちいち驚いていたらせっかくの毛並みが台無しになるから、驚かずに呆れているくらいでいいと」

「・・・真理だねえ。ロイズさんも念話魔法は使えるの?」

「いいえ。なんとか会話が可能な程度しか魔力がありません。アタシから賢者セレス様へ、とか呼びかけは行えませんよ」

「魔法にもいろいろ制約があるんだろうねえ。お、サックスさん出て来た。早いね」


 リーミヤがオルビスのハッチを開けると同時に、北門もゆっくりと開いてゆく。

 小国とはいえ領都であるからか、オルビスで潜るのに支障がないほどの門である。

 戻ったサックスが礼を言って座席に掴まって発車に備えても、まだ門は開ききってはいない。


「そのくらいでいいですよー。領都に入っても、危ないから鉄箱の近くには寄らないで下さいねー」


 リーミヤがマイクで言いながら、ゆっくりと門を抜けた。

 門を破られた後の備えか、大通りのそこかしこに土嚢が積まれている。

 その向こうに、2頭立ての馬車が北門を目指しているのが見えた。

 その馬車は土嚢の手前で停まり、槍を持った白髪の老人と、それより少し若いくらいの男が降りる。


「・・・やはり。師はこの戦場を死に場所としたようですね」

「あれが雷槍のドアン。サックスさん、その隣が?」

「ええ。サージュ公爵です」


 すでに北門は閉じている。

 リーミヤはサイドブレーキをかけ、ヘッドギアを被ったまま立ち上がった。


「スピーカーで挨拶じゃ失礼だし、ロイズさんもお師匠さんに顔を見せなきゃね」

「リーミヤ様。その、師は戦う事の他はなんというか。・・・ダメ人間、なんです」

「ええっ!?」

「なので失礼な態度を取ると予想されますが、師が決めたのなら戦場で死なせてやりたいのです。どうか、この場で殺すのだけは・・・」


 しゅん、となったしっぽをガン見しながら、リーミヤは優しくロイズの頭を撫でた。


「俺が嫌いなのは、自分の事は棚に上げて平気で人様を貶す人間。槍の技で二つ名まで付いちゃうようなお師匠さんなら、そんな心配はないでしょ?」

「はい。それは胸を張って言えます」

「なら大丈夫じゃん、行こう」


 サックスを先頭に、ロイズ、リーミヤとオルビスを降りる。

 こちらに向かって歩いていた雷槍のドアンは表情も変えず、サージュ公爵は少しだけ驚いたようだ。

 客人の若さ。それとその供が、槍を持った獣人族の若い娘1人のみであるからだろう。

 声の届く距離になると、雷槍のドアンはニヤニヤと笑った。


「おい、バカ弟子。やっと男を作ったのかあ?」

「第一声がそれですか、師匠・・・。リーミヤ様は妻帯しておられます。邪推はやめていただきたい」

「なんでえ。若えのにかなりの腕をしてるみてえだから、おめえの選んだ男にしちゃ悪かねえと思ったのによ」

「・・・それより、死ぬ気ですか?」

「おうよ。城を囲んでた敵3000は、たった50ほどの騎馬隊を追って陣を下げた。今夜から夜襲だあな」

「呼応した兵がいるんだ。そっちは大丈夫なの? ああ、俺はリーミヤ・ヒヤマ。アィダーヌで客人と冒険者やってます」


 ドアンが片足を引いて半身に構える。

 リーミヤは逆に、半歩踏み込んで半身になった。

 緊張したのは、ロイズだけのようである。

 遠目から主と客人の邂逅を見守る兵も、それを率いる立場であるサックスも、2人の仕草とぶつかり合う視線の意味には気が付かないようだ。


「・・・参ったね、こりゃ。数十年も槍で人を殺す事ばかり考えて生きて来たってのに、良くて相討ちかよ。しかもその相手が、こんなボウズだとはな」

「普通は相討ちも狙えねえ、そんな切り札を俺は持ってるんですがねえ。どんな修行すれば、そんな境地に立てるってんだか・・・」

「人を殺す事だけ考えるんだよ。目に見えている人間を殺す。そしたら衛兵が飛んで来るだろ? それも殺せる自信がつくまで、体と技を鍛える。それを、繰り返すんだ。ジャスとダラスがおらにゃ、アィダーヌのほとんどを殺せるまでになったぜ。ま、こんな老いぼれるまで時間がかかったがな」

「・・・イカれてるねえ、爺ちゃん」

「そんなに褒めんなよ。バカ弟子、今の立合いが理解できたか?」


 ロイズがツバを飲み込む。

 槍を握る手は、白く変色している。だがそれほどに力を込めている自覚はないようで、そのままロイズは口を開いた。


「師匠が、神速とまで言われる突きを繰り出そうとしたのはわかります。リーミヤ様の方は、まったくわかりません」

「30点だ、バカ弟子。ボウズ、手練をそんな呼び方しちゃいけねえな。リーミヤは足捌きも重心のかけ方も悪くはねえが、腰の物でオイラと遣り合えるほどの剣術の腕はねえ。だから、腰の剣は飾りよ。本人が切り札って言ったろう? それが何かはわからんが、この位置の槍がテメエの喉に向いてオイラが踏み込むまでに、オイラを殺せるってあの一瞬で判断したんだよ。なあ、リーミヤ?」

「でも相討ちまで持ってくんだろ、爺ちゃん?」


 ドアンが凶暴な笑みを浮かべる。


「踏み込むまでに、なんて甘い考えだからさ。踏み込む動作に入ってさえいりゃ、たとえ首を飛ばされようが頭を潰されようが、オイラの槍はテメエの首を貫くぜぇ?」

「・・・うん。ゴンの師匠にとか考えてた自分をぶん殴りたい。爺ちゃんはあれだ。獣の凶暴さを持ってるとかそんな次元じゃなくて、人間の凶暴さをトコトン突き詰めた感じだ。そんな名人もいるんだねえ。人間として成長したからこその強さとかじゃなきゃ、1つの武器を極めるなんて出来ないんだと思ってたよ」

「人間として成長した男が、いい歳して武器なんか振り回すかってんだ」

「まあ利口な人間は争わないし、そんな人間が成長したら声すら出さずに死んでくのかもねえ。あ、サージュ公爵ですね。どうもどうも」


 サージュは帯剣こそしているが鎧は着けておらず、頭髪と同じ白いものが混じった黒い髭によく合う上品な服を着ている。太っても痩せてもいないが、そのふっくらとした手を見る限り、自身の体を動かして戦う事が得意そうには見えない。


「わざわざのお運び、誠にかたじけない。ふむ。見れば見るほどに不思議ですが、戦う強さと生み出す技、それに英断を成す聡明さが、客人様の中で並び立っておられますな。さすがでございます」

「・・・あー。そういや職業持ちかもって思ってたんだ。爺ちゃんのインパクトが強すぎて忘れてたよ。名前もHPバーも見えないですね。えーっと、その『客人様の中で並び立ってる』ってのを説明してもらえますか?」

「はい。それでは城においで下さい。籠城している城ですので、何のおもてなしも出来ないのが残念です」

「あ、荷台に食料と水があるんで、人を出してもらえますか?」

「それは。ですが今の私には対価が。城の調度品まで売り払い、領民に持たせたので・・・」

「なに言ってんですか。なんもいらないですって。サックスさん、兵隊さん集めてとりあえず荷物を降ろそう。じゃないと俺、お城に行けないよ」

「わかりました。すぐにやります」


 サックスが駆けてゆく。

 ドアンに尻を撫でられたロイズが、飛び退きながら石突きを跳ね上げた。

 その鋭い攻撃はドアンの槍の柄で力を受け流され、ロイズは体勢を崩す。

 その胸を狙って伸ばしたドアンの手に、リーミヤが蹴りを放った。

 唐突に始まった師弟の攻防とそれに介入したリーミヤを見て、サージュは大口を開けて何も言えずにいる。


「ほう、予備動作もなしにその蹴りかい」

「躱されるかあ。まだまだだねえ、俺の徒手格闘も・・・」

「剣よりよっぽど見込みがありそうだ。どら、バカ弟子と一緒に稽古をつけてやるかい」

「ええっ。俺、剣って言うか鉈には自信があったんだけど!?」


 スキルがあるから、とまでは言わずにリーミヤが驚く。


「だがその構え、鉈よりよっぽど体術の稽古を積んでるだろ?」

「そりゃ、鉈は何もしなくてもそれなりに使えるから。徒手格闘はそうじゃないんだよねえ。だから、稽古はたくさんした」

「だからさ。稽古は使い手を裏切らねえ。覚えときな」

「なるほど。スキルを超えるほど訓練すれば、心得や初級術より使えるようになるのか。考えた事もなかった・・・」


 呟きながら、リーミヤが踏み込む。

 拳。

 捉えた。リーミヤはそう思っただろう。

 だが、ドアンはその場から動かずその拳を避けてみせた。


「うっひょー。簡単に躱すねえ」


 空振ってすぐ飛び退きながら、リーミヤがロイズを見る。

 ハッ、と何かに気がついたロイズは、鞘を付けたままの槍でドアンに突きを繰り出した。

 避けられた槍が引かれるのに合わせ、リーミヤが踏み込む。

 蹴り。

 膝を狙った最小限の動き。

 それも、片足を上げる事でドアンは避ける。


「もらったぁ!」


 ロイズの突き。

 それが3度、ドアンの槍で払われるのを見て、リーミヤはまた動いた。

 今度は両足を刈るような蹴りである。


「ロイズさん、ぶん殴ってやれ!」


 ドアンが飛び退く。

 その軌道に唸りを上げるロイズの槍が待ち受けていたが、その斬撃もドアンの槍で軽く払われた。


「クッソ、爺ちゃんつえー!」

「2人がかりでも攻撃すら出させられないとは・・・」

「こちとら、人殺しだけを考えて生きて来た武芸者よ。年季が違うってんでい」


 そのドアンだけが楽しそうな稽古は、サックスが指揮する20ほどの兵が、オルビスから荷をすべて降ろすまで続いた。

 ちなみにドアンに攻撃が当たる事は最後までなかったし、ドアンから2人に攻撃が出される事もなかった。



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