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新人冒険者は頑固者が嫌いではない-7




 氷の箱を入れる物がない事に気がついたリーミヤがオルビスに戻り、【3級防具製作】で肩掛けベルト付きの木箱を作ってジャジーに渡す。


「・・・なんで俺なんだ、ジャス?」

「重いからだろ。セイロンに氷の箱を持たせて、街中を歩き回らせる気か?」

「・・・なるほど。ならもう行くか、セイロン?」

「お願いしますわ。ではリーミヤ様、本当にありがとうございます。それでその、お代の方は?」

「あー。それぞれの患者さんがムリなく払えるぐらいの金額だけもらって、それでお金のない人達に薬を渡してもらえたら嬉しいかな」

「承りましたわっ!」


 笑顔でそう言って歩き出したセイロンを、ジャジーが慌てて追う。だが、ジャジーは振り返ってリーミヤの目をしっかりと見た。


「ジャスの言う通り、気のいい客人だな。貴族絡みじゃねえ揉め事になら力になれる。王都で何かあれば、冒険者ギルドのカウンターで俺の名を言ってくれ」

「何をしてるのジャジーさん。患者さんが待っているのよ!」

「わかったからそう急ぐな。じゃあな」

「ほーい。荷物持ちが終わったら喉も渇くだろうから、頑張って下さいねえ」

「・・・かわいくねえガキだ」


 強面を赤らめ、今度こそジャジーがセイロンの後を追って駆け出す。

 にしし、と笑ってそれを見送るリーミヤを、呆れた様子でジャスが見ていた。


「あんまりからかってやんな。目と腕を失った死にかけのジャジーは、セイロンのおかげで命だけは取り留めたんだからよ」

「神聖魔法ってのは?」

「それを使えるパーティーメンバーが真っ先にやられて、他を逃がすためにジャジーは瀕死の重傷を負った。王都に運び込まれてから神聖魔法をかけたんだが、欠損した目と腕は取り戻せるはずもねえ。自分で血止めはしたらしいがだいぶ血を失ってたのと、夏だったんで傷口がもう膿んじまっててな。セイロンがいなきゃ、ジャジーは酷く苦しみながら死んじまっただろうよ」

「ふーん。お医者さんのいない世界じゃ、製薬ってのは重要な仕事なんだろうねえ」

「でもセイロンさんは、客人の子孫でないギルドマスターなのよ」


 セレスの言葉で、リーミヤが考え込む。


「・・・もしかして、儲からないから?」

「正解。怪我は教会が寄付で治すと、かなり前に来た客人が決めたの。寄付金の額は問わないというのもね」

「そんで?」

「怪我を治す教会が利益を優先しなくなった。だから病人を治す製薬ギルドも、儲けが少なくても安く薬を売るしかなくなったのよ。派手に儲けてたら、客人が怒るかもしれないでしょう」

「だから、客人会は製薬ギルドを捨てた?」

「さあ、それはわからないわ。でも教会の改革をした客人の存命中に、客人会が製薬ギルドをセイロンさんの祖先に譲ったのは事実」

「・・・ホント、腐ってんねえ。バダムさん、俺がウソを嗅ぎ分ける事は客人会もすぐ掴むと思う。それだけでいい脅しになるでしょ。でもそれで足りなそうなら、ある程度の情報をわざと流してね」

「わかりました。おや、荷の積み込みが終わったようですな。すぐに出られますか?」

「もちろん。そんじゃ皆さん、面倒だと思うけどなるべく誰も死なないように、どうかよろしくお願いします。ごめんね。俺の同郷人の子孫って言っても、この国には関係ないのに」


 申し訳なさそうにリーミヤが頭を下げる。

 それを見て、クアンは意外そうな顔をしていた。


 客人が戦場に出るとなれば、議会の判断で国軍が動く。

 ここにいないトーダがガンバール軍の兵だけで国境は守れると議会場で説得をしているはずだが、客人のために兵を動かしたという実績を残す魅力に、戦場を知らぬ議員達は抗えまい。

 そんなムダな出兵で部下を死なせるのは心が痛むと思っていたのだが、どうやらリーミヤも同じ気持でいるらしいと知って驚いているようだ。


「サージュ領都を囲む3000のうち2000は、サージュ公爵を逃がすまいと国境を越える可能性がございます。それでもリーミヤ様は、人死には出ないと思われてらっしゃるので?」

「それについてはおっちゃん、ジャスさんに聞いて下さい。その上で国軍ってのが動くなら、議会とやらに失望した俺はもうクアンさんに会う事もないでしょう。そんじゃ、急ぎますので失礼します。セレス、なるべく早く帰るからあの件はお願いね」

「ええ。無事で帰ってくれればそれでいいわ。いってらっしゃい」

「・・・この場でキスは、しちゃダメだよねえ」

「当然ね」

「はぁ。・・・じゃ、いってきまーす!」


 無事を祈る言葉を背に受けながら、リーミヤがオルビスに乗り込む。

 助手席には居心地が悪そうなサックスと、腕を組んで背筋を伸ばしフロントガラスを見据えるロイズがいた。


「なにこの、優雅な音楽を聴いてるのにギスギスした雰囲気?」

「客人様の秘宝ともいうべき『おるびす』に隣国の家臣が乗っているのですから、その監視も黒騎士団の副団長である自分の仕事です」


 エンジンがかけられ、リーミヤがクラッチを繋いでアクセルを踏み込む。

 どうやら、乗り心地よりも速度を優先してサージュ公爵領に向かうようだ。


「ふーん。ま、サックスさんは仲間って訳でもないからねえ」

「え、ええ。ゆ、揺れが凄いですね・・・」

「でも、仲間じゃないってのはロイズさんも同じでしょ」

「ええっ!?」

「何を驚いてんですか?」

「・・・いえ。賢者ジャス様のようにリーミヤ様に接したいなどとは言いませんが、信用していただいてないのは少し哀しいかな、と」

「だって俺、黒騎士団に監視される側の客人じゃん」

「監視などと・・・」

「もし、弟の槍の師匠になってくれたりしたら、また話は別なんだけどねえ」


 言いながらチラッとロイズを見たので、彼女が面白いほど悩んでいるのがリーミヤにもわかったのだろう。

 笑いながら、ディスプレイの上の装置をリーミヤが操作する。

 鍵盤楽器の音が止み、激しい音楽が運転席に流れ出した。


「荒々しい音楽ですね・・・」

「敵の兵隊をどんだけ殺すかもわかんないし、領都に入れば飢えてる人達をこの目で見る事になるんでしょ。ロックを大音量で聴いてたい気分なの」

「客人様。領都には、1000人が秋まで籠城できるだけの食料が残っております」

「なんで今になって言うの!? 積み込んだ食料がムダ、それどころか到着が遅れたし!」

「も、申し訳ありません。俺、自分はその、頭が回る方ではないので・・・」

「脳筋を使者にするとか、大丈夫なのサージュ公爵!?」

「はあ、なんでも単独でモンスターから逃れながら旅をするには、自分が向いているとかで」

「腕の問題かあ。なるほどねえ・・・」


 胸ポケットからカリスを出し、ため息を吐きながらそれを咥える。

 リーミヤは朝、コンバットスーツなるものに着替えをしていた。それは、銃で戦う世界の軍服であるらしい。

 以前【3級防具製作】で作った物だが、特殊な繊維が足りないのをリーミヤは酷く悔しがっていた。


「そう落ち込むな、サックス殿。アタシだって、槍を使って人やモンスターを殺すしか能がない。それより次に念話魔法が来たら、領都に雷槍のドアンがいないか訊いてもらいたい」

「雷槍さんがなんでサージュ領都に? たしかレオニウス領にいるって聞いたけど」

「現サージュ公爵は、師の友人だと言っていたのです。その友人が死を覚悟して籠城しているとなれば、師なら良い死に場所を見つけたと喜ぶでしょう」

「・・・物騒なんだねえ、武芸者って」

「というか、我が国は領土が狭いので火と風の大聖霊様がおられません。なので、風の念話魔法を使える者などおりませんよ」

「マジかー・・・」


 リーミヤが表情を歪めたのは、サージュ領都に入る際の面倒を予想したからだろう。3000もの敵に囲まれている領都に入るのに、念話魔法でいつどこから入るかを打ち合わせ出来ないのはたしかにキツイ。

 オルビスは砂埃を巻き上げ、その巨体で馬の数倍も速く駈けている。

 そのおかげで、夕暮れ前にはガンバール領の草原を抜けた。


「あの川が国境です、リーミヤ様」

「渡るのが怖いくらいのボロい橋だねえ。まあ、トレーラーがいけたなら大丈夫って信じるしかないか。一応、衝撃に備えて!」


 ロイズとサックスが、座席の前に付いている手すりを握って身を硬くする。

 一瞬の後、オルビスは何事もなく国境を越えた。


「・・・ふうっ、もう大丈夫。にしても、内戦中のこの国はわかるけど、アィダーヌ王国も国境に兵を置いてないのはなんで?」

「なんでと言われましても。国境の街道すべてに兵を置いていたら、国庫が破綻しますよ」

「レオニウス軍は、北の海岸線に兵を置いてるはずだよ?」

「北からの交易船が途絶えているので警戒、そういう名目でしょう」

「本当の意味は?」

「S級冒険者であり、客人を待つ3賢者。そして、北の獅子とまで呼ばれる名門貴族の当主。賢者ジャス様はそんな存在です。兵を駐屯させるなら、その資金は議会の承認を得て国庫から出るはずですが、法にない警戒状態だからと、レオニウス侯爵家は資金どころか麦のひと粒も支給されていないようです」

「・・・議会の嫌がらせ?」

「そう取られても仕方がない事は、議員達も理解しているのでしょう。食料の積み込みをしている時、議員が1人でもいましたか?」

「いなかったねえ。・・・そんな見方もあるのか」


 歳若い割に、リーミヤはとても用心深い。

 3賢者の信奉者のようにも思えるロイズの言葉を、そのまま鵜呑みにする気はないようだ。


(おっちゃーん、議会の嫌がらせってどう対応してんの?)

(正論をぶつけてるぞ。ロイズになんか言われたのか)

(まあねえ。ファウンゼンさん、今回の王都訪問で状況は変化した?)

(北の軍船に備えている我軍に、食料と戦時に準ずる俸給が出るそうです。ゴンくんとミオちゃんを聖域の村に住まわせる住民登録で議会の承認が必要だったんですよ。その時に兄上が父、リーミヤ殿が兄と説明したら、その1刻後に決定されました)

(・・・なんだかなあ。今すぐ乗り込んで全員ぶん殴っちゃえ、おっちゃん)

(やんねえよ。ファウンゼンが餓死者を減らしたやり方を、各領地の標準政策にしてえんだ。過去の嫌がらせをチラつかせて、議会には少しでもいい条件でそれを公布してもらわんとな。ははっ、どんな顔で決を採るのか楽しみだぜ)

(おぬしもワルよのう・・・)


 流れる景色は、草原が荒れ地に。走る石畳の街道は、土を踏み固めただけの道に変化している。

 それほどオルビスの速度が変化したようには見えないが、ベンタ王国サージュ公爵領に入ってから明らかに道は悪くなっていた。

 運転席の3人の口数も減っている。

 やがて夕陽に照らされた城と、街をモンスターから守る防壁が、フロントガラスの向こうに見えた。



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