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新人冒険者は頑固者が嫌いではない-4




「・・・ある程度はな。どのくれえまでやらかす気だ?」

「領都って街の住民を北、つまりガンバール領に向かわせる」

「そこで追手を迎え討つのは任せて下さい、ヒヤマ殿」

「話が早い男は好きだよ、南の狼。でも、難民をモンスターから守るのも頼みたい」

「やり遂げてみせます」

「そんじゃ、おっちゃんは王都でバカ共の相手。セレスは王都でバダムさんとファウンゼンさんの用事が終わるのを待って、レオニウス領で建設地探し。ケーダさんはサクラさん連れて、王都のトーダさんに話を通してからガンバール領へ。ダラスさんとサーミィ姐さん、ユーミィちゃんは村でもしも客人が来た時のために待機。それでいい?」


 反対意見はないようだ。

 こんな短時間で、内戦中の他国に軍事介入して、その地の領民を奪うと決めたというのに。


「ったく。俺達も毒されてきたなあ・・・」

「準備が終わったら南門の前に集合ね。俺はバダムさんに無線で説明して、食料を集めてもらう」


 すぐにジャス達は動き出す。

 会議室に残っているのは、リーミヤとサックスだけだ。


(バダムさん、ちょっといい?)

(ご無事なようですな。安心しました)

(ああ、無線で断片的に聞いてるだけじゃ心配かけましたよね。ごめんなさい)

(いえいえ)

「あ、あの。客人様?」

「ん、なにー?」

「公爵家の領都の住民を、アィダーヌで受け入れるというような話に聞こえたのですが・・・」

「もしかして公爵って、自分の子供は助けたいけど平民のガキなんかどうなってもいいって思ってる人?」


 もしそうなら、平民だけ助ければいいとリーミヤは思っている。

 そのついでになら、職業持ちと思われる子供と女達を保護してもいいと。


「その逆です。公爵は敗色が濃厚になると同時に、民に食料とお金を分け与えて他の街に逃げるようにとおっしゃいました。今の領都に残っているのは、そんな公爵の人柄に惚れ込んで、最後まで共に戦うと決めた民。それが500ほどです」

「名君って事?」

「・・・ですが、戦を嫌っております」

「なるほどね。ま、会ってから説得するよ」

(お待たせ、バダムさん。そんでね、隣国のサージュ公爵ってのが籠城戦をしてるんだって。その公爵と息子が、職業持ちみたいなんだよね)

(なんと・・・)


 バダムは言葉もないようだ。


(だからちょっと行って、撤退戦やって来る)

(は?)

「サックスさん、民間人が500ならその他の人数は?」

「うちは小国ですから、公爵家の私兵が200。それと公爵家のご家族と使用人を合わせると、50ほどかと」

「りょーかい」

(えっとね。800人分ぐらいだけど、食料は多い方が助かるかなー。俺の乗機の荷台は見たでしょ。あれに積めるだけの、水と食料を用意しといて欲しいんだ。お金はステンレス製の剣をめちゃくちゃ豪華な感じに作ってそれ売って払うから、その準備も。お願いっ、バダムさん!)

(それはよろしいのですが。そうですなあ・・・)


 バダムには、なにか考えがありそうだ。

 それを察して、リーミヤはバダムの考えが固まるのを待つ。


(ミノタウロスの肝の件は、製薬ギルドに貸しとして情報を渡しました。撤退戦となれば神聖魔法の使い手以外にも、医薬品だって必要でしょう。運ぶ先は、ガンバール領でよろしいのですかな?)

(そこまで考えてなかったよ。ありがとうっ!)

(まだありますよ。この国の議会も王族も、客人が来訪されたのは知っておりますが、一切の関わりを3賢者に止められております。この機にリーミヤ殿の気を引こうと、一斉に助力を申し出るでしょう。サージュ公爵に国を獲らせますか?)


 簡単な事のようにバダムが言う。

 たしかに、アィダーヌ王国は大陸的に見ても中堅国家。取るに足らぬ小国の内戦に介入し、サージュ公爵を王位につけるなど簡単な事だ。

 しかもそれが大陸中に名を轟かせる、伝説の客人という存在の意志であると発表すれば、アィダーヌ王国は客人を手にしたという事実で、周辺各国に睨みを効かせられる。


(そこまではしなくていい。助けられる民間人と侯爵家の女子供を助けて、人並みに生きてゆける環境さえ用意できればそれでいいんだ)

(ならば兵は最低限で、そのぶん金を多く出させましょう。ガンバール領に、食料や生活用品を積んだ荷車を運ばせます。リーミヤ殿の嫌いな客人会には、その後の餓死者を減らす独自の動きまで始めさせますかな)

(バカな手段を取ったりしない、客人会?)


 リーミヤは、とことん客人会を信用していないらしい。

 無線で話しているだけなのに、表情は歪んでいる。


(そこまで愚かではありませぬよ。これでいいのかと思いながら、道を示してくれる存在がないので、惰性的に金を稼いでいるのがこの国の商人です。王の等級制度が出来ると同時に、議会の影響力も削られました。議会を束ねる、代表という役職がなくなったのです。仰ぎ見るお方がいるのなら、商人とて出せる範囲の金は惜しみません)

(凡人の横暴を抑止するシステムだから、強烈なリーダーシップを発揮する人間がいても大きく動けないのか。難儀なモンだねえ、人間社会って。・・・なら、客人会は任せます。食料はいつまでに用意できますか?)

(秋の移住のために、春小麦はもう買い集めてあります。いつでも門まで運べますよ)

(ありがたい。じゃあ、今から出ますので明日の朝に王都の門前で積み込みを)

(わかりました。お気をつけて)


 大きく息を吐き、リーミヤが立ち上がる。


「行こうか、サックスさん。明日の朝には王都で800人分の水と食料を積み込んで、そのまま侯爵家の領都に向かう。道案内と領都への説明は任せたよ?」

「へ、兵を出してくださるのですかっ!?」

「違う違う。俺とサックスさんで助けに行くんだって」


 言いながらリーミヤは歩き出しているので、ピシリと固まってしまったサックスを見ていない。

 ギルドホールに出てダラスから事情を説明されていたサーミィとユーミィに挨拶し、連れて行けとゴネるサーミィを説得しても、サックスは会議室でまだ固まっていた。

 ゴンとミオ、それにシャルを抱き締め、少しだけ留守にするからいい子にしているんだよと言ってからギルドを出たリーミヤに、再起動したサックスがようやく追いつく。


「客人様のお力でご子息を落ち延びさせるという話が、どうやったらたった2人で800もの人間を助けに行くという話になるのですかっ!?」

「うるさくするの禁止。大きい声で怒鳴られたら、大抵の人は気を悪くするよ? 密命を帯びてここまで来たのに、客人に嫌われていいの?」

「・・・も、申し訳ない」

「じゃ、行きましょう。2人で大丈夫な理由は、すぐにわかるから」

「はあ・・・」


 南門の前には、王都に行くメンバーがすでに顔を揃えていた。

 門番が通用口を開けると、誰もが迷う事なく防壁の外に踏み出す。


「さて、サックスさん。これから貴方には客人の秘密をお見せして、それを使って領都まで同行してもらいます。ただ、貴方はそれを見ても、その詳細を誰にも語らないと誓えますか?」

「・・・助けていただけるのならば、一言も語りません。たとえ、主命であっても」

「ん。まあ、誓いを守るために死ぬくらいなら、この村に来て静かに暮らすといいですよ。いいよね、おっちゃん?」

「死なれるよりはいいな」

「そんじゃ、乗機を出してっと」


 突然現れた巨大な鉄箱に、サックスが目を剥いて驚いている。

 いつもの面子は慣れたものだ。セレスから乗り込んでいくのだが、サックスの動きは完全に停止していた。


「・・・やっぱこうなるか。ていっ!」


 リーミヤが手刀をサックスの頭頂部に振り下ろす。結構な力が入っていたようだ。


「あいたっ。・・・きゃきゃきゃ客人様、これはっ!」

「ロンダールの鉄箱って聞いた事ない?」

「領都に一度だけ、荷を運んで下さった事があります・・・」

「それとおんなじ物。さ、時間がないから行くよ」


 サックスを先に乗せ、リーミヤがハッチを閉める。


「そこ左。階段の上に座れるトコあるから」

「は、はい。こんな大量の鉄と、見た事もない素材が・・・」


 トレーラーと同じくらいの車幅があるので、運転席の隣には大人が2人座っても余裕がある。

 その助手席の運転席側に、ジャスが座っていた。


「密偵の旦那もこっちか。ほら、窓側に座ってな」

「・・・はい」


 ジャスが立って助手席の窓側にサックスを座らせ、自分は運転席に近い場所に座る。

 リーミヤは運転席でヘッドギアを被ってマイクを手にすると、出発するとだけ告げてギアをローに入れた。

 滑るように、巨大な鉄箱が走り出す。


「・・・妙な理由で、国と関わる事になっちまったな」

「ホントだねえ。やっぱ挨拶は必要だろうなあ」

「そりゃな。相手が小国とはいえ、国境を越える理由を与えちまうんだ。それに備えるために、国も軍を動かす。そこまでさせて礼も言わねえ男じゃねえだろ、リーミヤは」

「ドラゴン対策で、万を超える軍勢は動かせない。トーダさんの軍かな?」

「だろうな。そんな時のために国は、春と秋にそれなりの量の穀物をガンバールに与えてるんだ。侯爵としての収入以外にだぞ。そこまでされてるのは、ガンバールの他にねえ」

「褒美も出るよね?」

「働き次第、だな」


 あまりのスピードに目を回しているサックスは意に介さず、2人は静かな口調で話し合う。


「3000の兵の働きを俺がしてみせるって前に言ったよね?」

「言ったな」

「コイツなら、可能だよ」

「だな。『とらっく』じゃねえんだろ。名前はねえのか?」

「んー。トラちゃんⅡ!」

「・・・なんとなくマヌケな響きだから却下だ」

「むー。でも国に抑止力として認めさせるには、こっち風の名前の方がいいのかな。・・・オルビス、とかどう?」

「悪くねえな。意味は?」

「父さんのいた世界の、古い言葉。俺達の世界にもその言語を使う人達が来た痕跡があって、夢中で調べてた時期があるんだ。タイヤみたいに回転する物とか、円状や球状の物。転じて世界や星って意味でも使われる言葉だよ」


 ジャスがキセルを出して葉を詰める。

 ディスプレイの少し下にある横長の出っ張りをリーミヤが押すと、シャコンッと音がして灰皿が出て来た。


「至れり尽くせりだな」

「音楽もあるよ。聴く?」

「・・・マジか。今はいい。それより、抑止力って言ったな」

「フロントバンパー、って言ってもわかんないか。オルビスの前面に、丈夫そうなギザギザの鉄塊が付いてたでしょ。このスピードで軍勢に突っ込んだらどうなると思う?」

「鉄箱、・・・オルビスだけでもとんでもねえ兵器なのか。それに、銃」

「オルビス、聞いたばかりなのにいい発音だねえ。こんなの相手に喧嘩を売ろうって人間がいると思う?」

「ま、いねえな。そんで、この国が攻められたら手を貸すのか?」

「バダムさんが今回の難民に渡す食料や生活用品を、王家と議会に出させようとしてる。客人会には、餓死者をなくすための新たな取り組みまで求めるみたい。その結果次第かな」

「オルビスの存在と、屋根の銃の事は伝えていいんだな?」


 リーミヤが頷く。

 疾駆する巨大な鉄の塊と人間が戦うなど、結果はわかり切っている。

 リーミヤが言うには契約魔法をどんなに当てられても傷すら付かないとの事なので、どんな軍とてオルビスには敵わないであろう。

 抑止力。

 自分で使っておきながら嫌な言葉だ、と思いながら、リーミヤはスピードを落として隣村の迂回路にハンドルを向けた。



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