新人冒険者は頑固者が嫌いではない-3
「客人には、秘密裏に接触したかった?」
サックスがまた頷く。
「自国に招きたかったから?」
頷き、首を横に振る。
「・・・かったりーな。猿轡、取る?」
「やめとけ。男でも契約魔法を使えるヤツだっているんだ。デカイ街にゃ魔法の発動を阻害する拘束具もあるんだが、さすがにそんなのは用意してなかったなあ」
「そんじゃ、面倒だけど地道にやるか。客人を利用したかった?」
首が横に振られる。
「あっ。・・・おっさん、契約魔法を使えんの?」
首が横に振られると同時に、ジャスがため息を吐いた。
「そんじゃ、自決する気はあるか?」
また横に首が振られる。
「面倒だからってオメエ・・・」
「かったりーじゃんか。猿轡、外すぞ?」
「・・・好きにしろ。だが、怪しい動きをした途端に首を飛ばす。いいな?」
サックスだけでなく、リーミヤも頷いた。
それから牢を出るリーミヤをジャスは不思議そうに見たが、止める気はないらしい。
リーミヤは牢を出て門番の休憩室に入り、半ばまで水で満たされた水差しを手に取った。
キョロキョロと休憩室を見回すと、カンテラのロウソクにライターで火を点けてから灰皿と一緒に持ち上げる。
リーミヤが牢に戻ると、ジャスは腕組みをしてサックスを見下ろしていた。
「どうせ長い話だろうから、のんびり聞こうぜ」
「だな。そんじゃ、俺が猿轡を外すぞ。って、何してんだ?」
「水を飲ませてやろうかと」
「俺達が飲むんじゃねえのかよ。優しいんだか極悪なんだか、わからんな」
ジャスが猿轡を外す。
リーミヤが水差しを口に近づけると、サックスは貪るようにそれを飲んだ。
「便所に行かせてくれって言われたらどうすんだ?」
「垂れ流しに決まってるだろう」
リーミヤの言葉を聞くと、サックスは即座に水を飲むのをやめた。口の端から垂れた水で、商人風の衣装の首元が濡れている。
「そんじゃ、話せ」
リーミヤが牢の鉄格子に寄りかかって座るが、ジャスは動かない。
キセルを使うリーミヤを恨めしそうに見ながらも、腰の剣の間合いから出る気はないようだ。
「私はベンタ王国サージュ公爵の臣、サックス・ウィダネース。何卒、客人様にお引き合わせ願いたい。その後になら、この首をはねてもらって結構です」
「うるせえよ。要求なんか出来る立場だと思ってんのか。話せとは言ったが、テメエの立場もわきまえず、言いてえ事をぬかせなんて言ってねえぞ? お仕置きが必要みてえだな・・・」
リーミヤの剣呑な眼差しに、ジャスまでが慌てる。
「お、おい、とりあえず話を・・・」
「テメエがしてた猿轡、見てみろ」
サックスがジャスの持つ手拭いを見る。
それがどうしたといった感じで視線を戻すと、これ以上ない嗜虐的な笑みを浮かべたリーミヤがいた。
「その手拭い、ただの手拭いに見えるだろ?」
「ま、まさか・・・」
遅効性の毒、経口投与する自白剤、あるいは魔術道具。そこまで考えて冷や汗を垂らしたサックスに、リーミヤが無慈悲な一言を浴びせた。
「そのおっさんの汗拭き用だ。朝から使ってるから、たっぷりと汗が染み込んでる」
「お、おうぇっ!」
「さらにおっさんは、便所に行っても手を洗わねえ」
「た、頼むからもう何も言わないでくれっ!」
「尋問されてんのに余裕あるなあ、これなら拷問でもいいんじゃねえか? ああん?」
「・・・もう、覚悟は決めてある。客人様に会えねば国に戻って敵陣に1人で斬り込んで死ぬし、間に合わなくても斬り込む事に変わりはない」
「間に合うってのは?」
「・・・落城」
リーミヤとジャスの視線が交差する。
(おっちゃん、ナントカ王国ってのは)
(内戦中だな。サージュの現公爵は、たしか王の従兄弟。すでに王族のほとんどが弑された今、本当ならベンタ王国の王になるべき人間だ)
(ふーん)
「で、客人様に何を頼もうってんだ?」
「私は籠城が決まってすぐに領都を出たのです。公爵は幼いご子息様だけでも、客人様のお力添えで落ち延びさせたいと・・・」
「客人の来訪を知った経緯は?」
「客人様にお話いたします」
「痛い思いをしたいと?」
「どうぞご自由に」
リーミヤがジャスを見る。
ジャスは無言で首を横に振ったが、リーミヤは悪い癖でサックスの覚悟を気に入ってしまっている。
(時間がないらしいから、バラすよ)
(そんで、手を貸すってのか?)
(話を聞かなきゃわかんない。でも内戦中の負けそうな勢力の公爵ってのが、500年も平和を保ってるこの国の極秘事項を知ってるって、どう考えたっておかしいでしょ。密偵を送り込むくらいなら、1兵でも戦場に出したいって)
(そりゃそうだが・・・)
(籠城なんて悪手中の悪手。時間はないよ、おっちゃん?)
(・・・ああもう。好きにしやがれ!)
リーミヤが微笑む。
そのまま自分の顔を指差していたずらっぽく胸を張ると、サックスの口が徐々に大きく開かれていった。
「客人のリーミヤ・ヒヤマ。そこの山賊みたいのは、冒険者のジャス。元レオニウス侯爵だ」
「金獣騎士・・・」
「そうだよ。さあ、話してもらおうか」
サックスが姿勢を正し、表情を引き締める。
それを見てリーミヤは立ち上がり、結束バンドをナイフで切った。
「ありがとうございます・・・」
「水は好きに飲んでいい。便所に行きたいなら、話の前に行ってもいいぞ」
「大丈夫です。客人様、これからお話する事は、どうかご内密に」
「誓おう、父と2柱の神に」
父とはヒヤマ王で、2柱の神とはリーミヤが育った世界の神と、彼をこの世界に招いたこちらの神の事だろう。
真摯な眼差しに、サックスは小さく頷いた。
「ありがとうございます。サージュ家には、不思議な力を持つお方が生まれる事があるのです。現公爵とそのご子息が、まさにそうなのです」
「へえ・・・」
「不思議な力は複数あるのですが公爵様は予知夢を、ご子息は御年5歳にして尋常ならざる剣技を得意とされています」
「その不思議な力を、公爵家ではなんと呼んでいる?」
「たしか『すきる』、と・・・」
「何だとっ!?」
ジャスが叫びながら腕組みを解く。
「十中八九、同郷人の子孫だな。異世界の職業持ち、か。・・・サックスさん、詳しい話はギルドで聞く。行こうぜ」
「え、あ・・・」
「ありゃもう止められねえな。良かったじゃねえか、密偵の旦那。嫁にしたばかりの俺の娘は泣いて止めるかもしんねえが、客人を内戦中の自国、それも籠城中の領都に連れて行けるんだからよ。・・・クソッ!」
足音荒く牢を出るジャスを、自分の武器と背負子を急いで回収したサックスが追う。
普通に歩いて出て来たサックスを見て門番が慌てるが、ジャスが仕草で止めると素直に職務に戻る。
少しだけ遠くなったギルドに着くと、休憩中の兵達だけでなくダラスとセレスもずいぶんと驚いていた。
「ダラスさん、会議室を借りるよ。セレスとケーダさんも来て。あ、お茶とかいらないからダラスさんも。これ、サックスさん。もうちょっと若かったら、サーミィ姐さんを任せてもいいくらいの男だよ」
「・・・嫌な予感しかしないわね」
「リーミヤちゃんが気に入ったんなら、普通の人間じゃないんだろうねえ・・・」
そんな2人の言葉は気にせず、リーミヤは会議室へ入る。
ジャス、サックス、ダラス、セレス、ケーダが揃うと、すぐに本題に入った。
「さて。隣国の、サージュ公爵って知ってる?」
「ベンタ王国のだね」
「内戦中で敗死寸前のようね。さっき、黒騎士団の副団長が念話魔法で言ってたわ」
「ふうん。で、その公爵と息子が職業持ちっぽい」
「なっ!?」
「嫌な話の流れだねえ・・・」
申し訳なさそうにリーミヤが苦笑を見せる。
「・・・行くの?」
「うん」
「・・・そう。死んだら許さないわよ?」
「こんなかわいいお嫁さんを残して、死ぬ気なんかないって。それに、車両を降りて戦うつもりなんかないし」
「それなら少しは安心だけど・・・」
「そんじゃ具体策に。サックスさん、公爵の領地はどの辺なんです?」
「我が国の北部、つまりはここアィダーヌ王国の南です」
「もしかしてガンバールの?」
「草原の向こうですよ、ヒヤマ殿」
リーミヤとケーダが肉食獣のような笑みを浮かべる。
リーミヤはトーダとケーダならある程度の便宜を図ってくれるだろうと思っているし、ケーダは自領の草原でなら誰よりもリーミヤの役に立てると確信しているからだろう。
「おっちゃん。客人が他国に殴り込みをかけるとしたら、この国はどう動く?」
「大国になら止めもするだろうが、ベンタぐれえなら喜んで手を貸すだろうな。特に今代、リーミヤは国との関わりをほとんど持ってねえ。いい機会だからベンタなんて小国は客人にくれてやって、貸しを作った気になるだろうさ」
「戦争はしなくていい。難民の受け入れ、って。この国の行政機関って、能無しのクズの集まりだったねえ・・・」
「クズなのは上の連中だけどな。下のモンはそれなりに、貧民街の炊き出しのために寄付なんかもしてたりするんだ」
リーミヤがキセルを使いながら悩んでいる。
ジャスとダラスも釣られて吸い始めたが、すぐにリーミヤは決断したようだ。
「セレス。最上スキルのリキャストタイムは?」
「えーっと、これね。234の54。その次の数字は絶えず動いてるわ」
「約10日か。悪いんだけど、バダムさんのトレーラーでファウンゼンさんと一緒に、なるべく早く街の建設場所を決めに行って」
「それはいいけど、なぜ急ぐの?」
「街が2つ必要になるかもしれないから。草原は牧畜には向くけど、農耕には向いてないらしいからね。難民を受け入れるなら、農業が出来るレオニウス領がいい」
「私の最上スキルのリキャストタイムは、工事の規模で変動する。だから1つ目の街は、急いで作る必要があるのね」
「うん。おっちゃん、国のバカ共を抑えられる?」
今度はジャスが悩む番らしい。
リーミヤに続いてキセルの火種を落とすと、ジャスはバリボリと頭を掻いた。




