新人冒険者は頑固者が嫌いではない-2
結局、雷槍のドアンがいる街へは、移住者のための街を作るための下見の時に寄る事になった。その時にリーミヤが雷槍のドアンを口説き落とせれば聖域の村へ引っ越してもらい、ダメなら違う師を探す。
ドアンの弟子がいるならその人でもいいのではないかとリーミヤが言うと、その弟子は黒騎士団という組織でそれなりの地位にいるので、客人が引っ張り出すといらぬ軋轢が生じるとジャスが止めた。
それらの話を決めているうちに、リーミヤはムームーを2匹も弓で仕留めている。
そのままリーミヤは徒歩で、のんびりと村へ向かって歩き出した。
(ムームー2匹じゃ足りないかなあ、ダラスさん?)
(充分さ。元々、狩りをしなくても困らないくらいの食料は用意してあるからね)
(ったく。いつ来るかわかんない客人のために村を作って食料を運ぶなら、まず餓死なんて死因をなくせってんだよね)
(耳が痛いねえ。ミオ、ちゃんと野菜もお食べ。でないと、セレスやサーミィのように大きくなれないよ?)
(・・・野菜か。野菜なのか?)
(サクラ様、野菜のおかわりをもらいに行きましょう!)
(だな、ユーミィ。他意はないが、私は野菜が食べたい気分だ!)
「ユーミィちゃんも気にしてたのかあ。周りが大き過ぎるだけなんだけどなあ・・・」
セレス、サーミィ、母であるミーティス。それにダラスも胸が大きい。
ダラスはユーミィが目指す場所に立っているのか定かではないが、成人前の多感なお年頃のユーミィは、自身の身体的成長にいささか不満を持っているようだ。
「ま、俺に出来る事なんてないけどね」
リーミヤはゆるやかな坂道を下る。
「夏の昼下がり、坂道を下る。北海道のS市だっけ、父さんの故郷。ふふっ。バイクで転んで、半日も歩いて家まで帰った夏休み、かあ・・・」
リーミヤが呟くのは、父の思い出話だろうか。
世界を渡り、愛する人と出会った。
リーミヤは決して口にする事はないが、それでも家族に会いたい気持ちはそう簡単になくなりはしないだろう。
(兄上、知恵をお貸し下さい・・・)
しょんぼりしたファウンゼンの声。
リーミヤは自分に出来る事がありそうならそこで口を挟めばいいと、何も言わずに2人の会話を耳に入れていた。
ファウンゼンの相談事とは、子供のわがままにどう対処すれば良いか、という話らしい。
これは自分には出番がなさそうだと、リーミヤはアイテムボックスから出した水筒を呷りながら、見えて来た聖域の村の南門を目指す。
(だから、王女のワガママってのは何なんだよ。それを言わにゃ、知恵を貸すもクソもねえだろうが)
(・・・剣術小町とパーティーを組んで、客人を探しに行きたいと)
(はあっ?)
(困るでしょう? 涙目で縋るようにしてそう言われたら)
面白そうな話をしてるなあと思いながらも、リーミヤは見慣れぬ背中を見つけて気を引き締める。
大きな荷物を背負っているが、モンスターの闊歩する街の外に単独で出るのだから、それなりの腕をしているのだろう。
「こんにちはー!」
大声で言い、足を速める。
リーミヤの声で振り返ったのは、商人のような風体の中年男だ。
ニコニコ笑いながら、近づいてくるリーミヤを待っている。
「どうもどうも。あの村の方ですか?」
「ええ。リーミヤといいます。駆け出しの冒険者」
「ほうほう。私は行商人のサックス。道に迷っているうちにこの街道を見つけましてね。見えて来たあの村で、数日の商売でもさせてもらおうかと」
「そうですか。でもお1人で行商なんて、お強いんですねえ」
「はっはっはっ。逃げ足だけは自信がありますので」
「じゃあ、一緒に村まで行きましょう」
「ありがたい。やはり武装した方がいらっしゃると、心強いですなあ」
笑顔の会話である。
サックスと名乗る男の左を歩きながら、リーミヤはジャスの髪の毛の心配を始めた。
(ねえ、ちょっといい?)
(どした、リーミヤ)
(あと5分で村に着くんだけど、スパイのおっさんと一緒なんだよねえ)
(スパイ?)
(ああ、密偵)
(はあああっ!?)
(道に迷った行商人って設定だけど、名前以外すべてがウソ。門前で捕縛するから、俺だけじゃ危なそうならおっちゃんは見張り台から助けて)
(ダラス、セレス、出るぞっ!)
世間話をしながら、行商人と冒険者は肩を並べて歩く。
リーミヤの言葉が真実であるのなら、密偵と客人が笑顔で会話しながら歩いているのだ。密偵の狙いが客人であるのなら、なんともマヌケな話である。
(見張り台に到着した。俺達3人はいつでも行けるぞ!)
(気絶させるのと、「動くな」って武器を突きつけるの、どっちがいい? 知らんぷりして村に入れてから無力化するのには、俺は反対。自爆でもされたら被害が出るからねえ)
(可能なら意識を刈り取って欲しいが・・・)
(了解。そんじゃ、やるよ?)
(ああ、いつでもいいぞ)
南門は目の前である。
何も持っていなかったリーミヤの右手には、いつの間にか拳銃に似た金属製の物体が握られていた。
「はい、ご苦労さん」
歩みを止めたリーミヤが、半歩前に出たサックスを撃つ。
「ぎゃ、っ・・・」
短い悲鳴を上げ、サックスは倒れた。
銃弾は発射されてはいない。それに、倒れたサックスは気絶してはいるが、怪我もしていないようだ。
不思議な武器をアイテムボックスに入れ、リーミヤがサックスの体をまさぐる。
「終わったのか、リーミヤ?」
「うん。手足を縛るのは、結束バンドでいっか。猿轡にする布かなんかちょうだーい」
「わかった。ほれ、俺の汗拭き用の手拭いだがこれでいいだろう」
見張り台から、ひらひらと手拭いが落ちた。
結束バンドとやらは不思議な素材の紐状の物で、締めると緩まずに物を固定できるらしい。
それでサックスの足首と手首、手の親指と親指を締めてから猿轡を咬ませ、リーミヤは作業を再開する。
背負子を外されたサックスの腰の後ろや懐から、武器がどんどん出て来た。
それをひとまとめにしたリーミヤはサックスの背負子を手に持って、通用口から出て来たジャス達を迎える。
「怪我はない、リーミヤ?」
「もちろん。尋問場所どうしよっか、おっちゃん?」
「とりあえず門番の詰め所だ。狭いが牢もある」
「了解。尋問は俺がやるしかないよねえ。殺る気スイッチ入れて頑張るしかないか」
「狩りならいいけど、人間相手に殺る気スイッチを入れたリーミヤは見たくないわね・・・」
「セレスはギルドに戻って、念話魔法で各所と連絡を取って。諜報機関とかに回した方がいい情報も引き出せるかもしんないし」
「客人絡みの事なら私達ですべて決定できるけど、暗部とそれを統率する情報省辺りには恩を売っておいて損はないわね。リーミヤ、やり過ぎないでよ?」
「はいなー」
サックスの武器をジャスが、背負子をリーミヤが、サックス本人をダラスが持って南門を潜る。
門番の詰め所は、見張り台の横だ。
リーミヤの鼻歌を聞きながら、緊張した表情で通用口を開けた門番が頭を下げた。
「詰め所の牢を借りるぞ。宿舎にまで、声は届かねえと思う。わりいが休憩はギルドで頼むよ」
「はっ!」
「リーミヤ、鼻歌が出てるぞ。初めて聞く節回しだ。あっちの歌か?」
「うん。家畜を屠殺場に連れてく時に歌う曲ー」
いつの間に意識を取り戻していたのか、ダラスに担がれているサックスが暴れる。
「ほう、元気なもんだなあ」
「調整する時間なかったから、それなりの威力で気絶させたのにね」
「かなり鍛えてるみたいだよ。冒険者で言うなら、C級以上だね」
「最低でもサーミィ姐さんクラスかあ。・・・おい、密偵のおっさん。暴れたら、それだけ苦痛を味わうぜ?」
殺る気スイッチ。
狩りの時などに昂って口調が変わるのを、リーミヤはセレスにそのスイッチが入るからだと説明していた。
魔力灯の明かりを点けたり消したりするように、技術者であるいつもの自分と、無慈悲に敵を殺す兵士を使い分ける。それは、こちらに来てから覚えた事らしい。
「また口調が変わってやがるし・・・」
「ジャス大使。総員、詰め所を出ました!」
「すまねえな。今日は夜だけじゃなく、昼もギルドの酒場は俺のオゴリだ。休憩中は遠慮なく飲み食いしてくれ。ダラスは荷物を牢に置いたら、すぐギルドに戻るからな」
「はっ。ありがとうございます!」
ジャスの言葉の通り、ダラスはすぐに詰め所を出て行った。
狭い牢の中央に、椅子に座らされたサックスがうなだれている。
それを見下ろすジャスとリーミヤだが、先に動いたのはリーミヤだ。
「さて、密偵。肯定なら頷き、否定なら首を横に振る。テメエが許されているのは、それだけだ。ウソを言うのはいい。だが、俺達にウソを付くんだから、それなりに痛い思いをしてもらうぜ?」
リーミヤがステンレス製ではない、数打ちのナイフを抜く。
サックスは反抗的な瞳でそれを見ていたが、ナイフが自分の体ではなく背負子の木枠に入れられたので訝しんでいるようだ。
「まず、どこから来たかだ。今から、このおっさんが国の名前を言う。自分が属する国の名が出たら頷け。いいな?」
サックスが頷く。
(へぇ、素直に自分の国を教えるつもりみたい)
(・・・寝返る気もあるのかもな。それなら黒騎士団にくれてやるか)
ジャスがゆっくりと国の名を口にする。
3つ目で、サックスは頷いた。
(ウソじゃないらしい)
(頷いてもウソがわかるのか。便利だよなあ、スキル)
(銃と猟兵以外も発音できるようになったんだ。やるじゃんか)
(フン。これでもアタマは悪くねえんだよ)
「そんじゃ、次だ。狙いは客人か?」
頷いてから首が横に振られる。
「そうだけど狙いってんじゃねえと?」
今度は、頷きだけ。
リーミヤは背負子の木を削る手を止めた。
「そんじゃ目的を言っていく。近いのがあれば頷け」
「ところでその削ってる木、何に使うんだ?」
「これ? 先を尖らせて、ウソを言ったら指の爪のトコに刺すんだよ」
「うへぇ・・・」
「爪の下っていつも露出してねえし、神経が集中してるとかで、尋常じゃねえ痛みを感じるらしい。それに傷が小せえから、拷問したってバレにくい」
「・・・エグいな。おい、素直に吐いちまえよ? 出来ればコイツに、そんな真似はさせたくねえんだ」
サックスが頷く。
かなりの勢いで、何度も。




