新人冒険者、ファンタジー世界でトラックを作る-6(終)
やがてスープが煮込まれて食べごろになると、白々と夜が明け始めた。
太陽が顔を出してからならば、生産スキルの光が発見される確率は減る。それでもリーミヤは、ゴンとミオとユーミィが起きてから、最上スキルを使う事にしたようだ。
「あ、バダムさん。車両を作ったら、実験に協力してもらえますか?」
「それはもちろん大丈夫ですが。実験、ですか・・・」
「ええ。俺のいた世界じゃこのトレーラーは軽車両扱い。装甲が薄いですからね。そんで、全員揃ったら作るのが完全な戦闘車両。それをバダムさんが動かせるなら【第一種軍事車両免許】の縛りと、ロンダールの家に生まれた人の、そうだなあ。技能とでも言うべきものは別だって事になる」
「技能・・・」
「1000年もトレーラーを壊さず運用する技能、スキルみたいなもんだよね」
誰もが、言葉もない。
リーミヤの所持する様々なスキル。それを羨ましいと思いながらも、国家すらマトモにないという過酷な環境の世界に生まれたリーミヤゆえと、それぞれが自分を納得させていたのだ。
それがこの世界にもスキルのようなものがあると言われれば、すぐには言葉も出なくて当然だろう。
「そうか、神託・・・」
「ファウンゼンさん、いいトコに目をつけたねえ」
「それだけじゃねえぞ。セレスのケタ外れの魔力や、精霊に愛される心」
「うんうん。そう言うおっちゃんの剣技と小盾の鮮やかな手並みだって、ちょっと異常だよねえ。ダラスさんも神託だけじゃなく、異常な腕力してるし。それとファウンゼンさんの軍略と統治能力。ケーダさんも人外じみたトコあるでしょ、サクラさん?」
「え、ええ。馬に乗って騎馬隊を率いた時のケーダの判断力や武技は、尋常ではないです・・・」
呆然としながら、それぞれが顔を見合わせる。
話には出ていないがサーミィの魔法と剣技を組み合わせる戦闘は王都で剣術小町と二つ名を付けられ、冒険者になってからは恐るべき早さでC級まで駆け上がった原動力だ。
サクラもサクラで弓の腕はエルフの手練にこそ劣るが、槍は人並み以上に使うし、草原の女戦士を率いれば国軍の将軍職が率いる同数の軍勢などたやすく蹴散らす自信がある。
「俺の予想じゃ、その技能とでも呼ぶべきものを認識する技能もある」
「・・・なぜそう思う?」
「神様ナメちゃいけないよ。ああいう存在のやる事は、不思議なくらいソツがないんだ。天網恢々疎にして漏らさず、ってね」
「むう・・・」
手放しで歓迎は出来ない。
ジャスの反応は、そんな感じだ。
人に粗野な印象を与える事も多いこの男は意外と思慮深く、至極常識的な思考をする。
技能などというものがこの世界にあるのなら、それを持つ者と持たざる者の間に溝が出来ると考えているのだろう。
「おっちゃん、人は生まれる家を選べない」
「まあ、そりゃそうだ」
「美醜もね」
「ああ・・・」
「技能とでも呼ぶべきものがあるとして、それを周知させるかどうかに口出しはしない。でも、人生なんてものは理不尽なほどに不公平なんだよ。父さんは、運命って言葉が嫌いなんだ。そんな言葉を使う人間と、話してる時に瞳が揺れる男は信用するなって『男だけに伝える生き方1巻』でも言ってた」
「運命か・・・」
ジャスは思うところがあるのか、小さく頷きながら呟いた。
「産まれる前に殺される子供。産まれても苦しい思いしかしないで死ぬ人。そんな現実も見ずに運命なんて言葉を使うんじゃねえ、ってね」
「いい親父さんじゃねえか」
「当然。母さんが選んだ男で、俺とタクミの親父なんだよ? まあそれは置いといて、他人の技能を見る事が出来る人を見つけてから悩めばいいよ。今はまだ、妄想としか言えない話だから」
「・・・わかった。ふうっ。酔いが覚めちまったな」
「そろそろゴン達も起きて、って。噂をすれば。おはよー、ユーミィちゃん。ゴン、ミオ」
寝ぼけ眼で朝の挨拶をした3人は、ダラスが生活魔法で出した水で顔を洗う。
枝の先を細かく裂いた歯ブラシを渡されたゴンは少しだけ嫌そうにしたが、それでも素直に歯を磨いてから、うがいをして食事を始めた。
「どうだい、眠る鹿の肉は?」
「ねむる鹿、は、神様のごほうび」
「そうだね。リーミヤちゃんはご褒美をもらったのさ」
「ほんと?」
「そうなんだよ。ね、リーミヤちゃん」
「まあね。神様のご褒美か。・・・この世界の事を伝え忘れたお詫びなのかもね」
ありそうな事だ、とリーミヤは思う。
神に招かれたんじゃないかもしれない、それをリーミヤが少しだけ気にしているのをダラスが慰めたと同時に、あの神託なのだ。
「リーにい、すごい」
「うんま~♪」
「凄いです、リーミヤお兄ちゃん。眠る鹿は神の祝福で味が良くなり、寿命を伸ばすとも言われているんですよっ!」
「え、お兄ちゃんは決定なんだ。サーミィ姐さんのお婿さん、早く見つけないとなあ・・・」
3人が食事を終え、アイテムボックスに入れてある牛乳を使ったミルクティーまで飲み終えると、芝居っ気たっぷりな仕草でリーミヤが立ち上がる。
「さて、皆様お立会い。これより披露しまするは、異世界の秘技スキルの行使。秘中の秘たる最上スキルの、【孤独な天才設計者】にございまするー!」
独特な節回しの口上を聞いた面々は、また妙な事をと思ったが拗ねられると面倒なので、おざなりに拍手だけはしておいた。
それに気を良くしたのか、リーミヤは笑顔で網膜ディスプレイを操作する。
「最終チェック。・・・OK。ミスったら1年は欠陥車に乗るしかないんだ。もっかいー、チェックチェック!」
「あたしゃ不安だよ・・・」
「まあ、自重しねえリーミヤなら、何を出しても不思議じゃねえが・・・」
「ドラゴンが出て来る心構えをしておけば、それを超えてくる事はないでしょう」
「不安を煽るんじゃねえよ、セレス・・・」
「おし。行っくよー! 【孤独な天才設計者】発動っ!」
眩い光が溢れ出す。
ゴンの木剣を作った時の比ではない。
「にゃ~!?」
「ミオ、わふっ!?」
「2人の目がおかしくなったら、リーミヤといえどぶちのめすからなっ!」
「大丈夫だって。ほら、もう光は消えたよー」
恐る恐る目を開けた一同が見たのは、トレーラーほどの長さと横幅だが、それより少し高さのある鉄箱だった。
「ほぼトレーラーと同じ大きさですな・・・」
「さすがバダムさん、いい目です。火器を積んだ分、車高は高くなったけど、俺はアイテムボックスに入れられるから、迂回路さえ使えればもし街の門を潜れなくっても問題はないなって」
「リーミヤ、銃を付けるのは思いとどまってくれたんだな・・・」
ジャスが感慨深そうに言う。
だが、それを聞いたリーミヤは笑顔を浮かべて鉄箱に走った。
車内、おそらく運転席に入ったリーミヤはすぐに戻って来る。その手には、陽射しから頭部を守れない帽子のような物があった。
「じゃーん。思念反応型ヘッドギア!」
「はあ?」
「これを、被るっ!」
「・・・そんで?」
「思い浮かべる。1番から4番までの砲塔、射撃準備!」
駆動音。
ポカンと大口を開けるジャスが見たのは、鉄箱の屋根が割れて姿を現した巨大な銃だ。
リーミヤは機関砲、榴弾砲、対戦車砲、高射砲と呼んでいた。
「この人はまた・・・」
「まあ、ドラゴンよりはマシかねえ」
「・・・威力は?」
「どれか1つでも、あっという間にトレーラーを壊せるっ!」
「なんて物を作りやがったんだ。・・・ったく、また秘密が増えたじゃねえか」
「気にしたら負けだよ。さ、焚き火を消して試運転に行こう。バダムさん、トレーラーはちゃんとロックして下さいね」
「わかりました」
リーミヤ以外はどこか重い動きで、焚き火を消したり飲みかけの茶を呷ったりする。
準備が出来ると、それはそれは嬉しそうなリーミヤが皆を先導した。
「さ、どうぞどうぞ」
「トレーラーの運転席より位置が低いのですね」
「これはハッチ、入り口だから。運転席は少し高い場所にあるんですよ」
「なるほど。では、失礼します」
実験を頼まれているバダムから乗る。
「何してんの。入った入った」
「全員がここから乗っていいのか? ロンダールの鉄箱は、別に入口があるだろ」
「そっか。ここからでもリビングに行けるから大丈夫だよー。あ、リビングに入る前に靴を入れる箱があるから、靴は脱いで上がってね」
「中を見るのがこええなあ・・・」
それでもジャスが中に踏み込む。
続々と乗り込み、最後にミオをだっこしたセレスと一緒にリーミヤも中に入った。
ハッチを閉めると、皆が驚く声がリーミヤの耳に届く。
「暑くないにゃ!」
「さっきクーラーをかけといたからね。セレス、進んで右のドアがリビングね。その手前にある左右のドアは、トイレとお風呂」
「・・・はあ、もう何も言わないわ」
数歩進むとセレスが右に折れる。
だが、ジャス達が固まっているのでリビングには入れないようだ。
「おっちゃん、ジャマだってば」
「ジャスさん、リーミヤのやる事に驚いてたらハゲますよ?」
「お、おう。しかしなんだ、この見た事もねえ不思議な設備・・・」
「狭いのはガマンしてね。リビングの奥のハシゴからベッドルームに行けるから、何人かそっちにいてもいいし。バダムさん、運転席はどうですかー?」
リーミヤが振り返って階段の上にいるバダムに尋ねる。
バダムは少しだけ哀しそうに、首を横に振った。
「初めてトレーラーに乗った時のように、動かせるという確信はありません。たぶんですが、私では動かせないでしょうなあ」
「なるほど。じゃ、乗機設定して専用装備化、っと。軽くドライブするけど、助手席で見学でもします?」
「ぜひお願いします」
「ほーい」
バダムがハンドルのない方に座ると、リーミヤはハンドルに左手を置きながら右手に紐で繋がれたような部品を持った。
「リーミヤ殿、それは?」
「マイク、って言ってもわかんないか。このディスプレイ、じゃなくてモニター、でもなく。んー、とにかくここを見てて下さい」
リーミヤがディスプレイの下の突起を押す。
すると、リビングの様子がまるで目で見ているかのように映し出された。
「こっ、これはっ!?」
「あーあー。マイクチェック。・・・OKだね。これから試運転です」
「なんだっ、リーミヤの声がするけど無線じゃねえぞこれっ!?」
「運転席でリビングの様子を見たり、会話したりする機能があるんだよ。それより動くから、ちゃんと座っててね?」
「リーミヤ。言いにくいんだけど、これってもうトラックじゃないわよね?」
「・・・・・・」
リーミヤはセレスの問いに答えず、足で何かを踏みながら、バダムの座る助手席側にある棒のようなものを倒した。




