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新人冒険者、ファンタジー世界でトラックを作る-3




 夏の陽射しに照らされ、サクラの汗が輝く。

 その動きを食い入るように見ているのは、ゴンだ。

 長い黒髪は後ろで一つにまとめられ、槍を突きながら大きく踏み込むとそれが踊るように動く。

 胸こそユーミィに少し勝る程度しかないが、スラリとした肢体で思うままに槍を振る様は、誰が見ても美しいと思えるだろう。

 勝ち気がちではあるが整った眉目も、国内の街ではめったにお目にかかれぬ程のものだ。


「いい腕だなあ。さすがは草原の女戦士だ」

「おっちゃん、槍も使えるの?」

「そりゃ、少しくれえはな」


 王都への滞在中はさしたる出来事もなく、ミーティスの体調も追加のミノタウロスの肝なしで落ち着いたという事で、5人は聖域の村にトレーラーを走らせた。

 翌日の昼過ぎに聖域の村に到着。

 ギルドホールで自己紹介をして一息つくと、ゴンがサクラの槍に尋常ではない興味を示したので、こうして広場に戻ってサクラが槍の演武を披露しているのである。


「聞いてるのか、ケーダ!」

「うっせえなあ。聞こえてるっての」

「だから『さらまんだあ』が何か気になるだろ、な? な?」

「・・・セレス、結界魔法お願い。固有名詞だけなら、なんとでもごまかせるけど」

「あのファウンゼンさんが、凄いはしゃぎっぷりね。はい、張ったわよ」

「それと、24時間体制でユーミィちゃんの護衛を。俺は大事な事に気づいてなかったよ」

「また大げさな。何に気づいてなかったの?」

「ケーダさんはロリコン。そしてサクラさんは胸が小さっ、あぶっ! サクラさん、危ないって!?」


 スキルで作った練習用の槍が、リーミヤのいた場所を突いた。


「ごめんなさい、リーミヤさん。手が滑りました」

「・・・そんな豪快なウソ言う人、初めて見た」

「ヒヤマ殿、その話題は危険です。俺は事の最中にからかって、短剣でナニを切り落とされそうになりました。大き過ぎるよりいいと何度も言ったのですが」

「・・・よし、ケーダさんとは良い友人になれそうだ。俺はダラスさんに用事があったのを思い出したから、先に戻ってるね」

「どんな用事?」

「神様関係。それに今夜の宴会の準備をしてるはずだから、少しだけでも手伝ってくる」

「・・・私も料理を覚えようかしら」

「急いで覚えなくていいさ。俺達には、時間だけはたくさんあるんだから。じゃ、俺は行って来るね。ミオとゴンの熱中症には気をつけて」

「わかったわ。また後でね」


 リーミヤがギルドの厨房に入ると、ダラスは鼻歌を歌いながら鍋をかき回していた。


「あら。どうしたんだい、リーミヤちゃん」

「手伝いに来たー」

「ふーん。じゃあ、そこのジャガイモの皮を剥いておくれ」

「はーい」


 リーミヤが小さな包丁でジャガイモを剥き、水を張った大鍋に入れてゆく。

 なかなかの手際だがジャガイモの量がハンパではないので、かき回していた鍋から離れたダラスもその作業に加わった。


「それで、用件は?」

「うん。さっき、今夜にはトラックを作るって言ったでしょ」

「ああ。それがどうしたんだい」

「神託ってゆーの? 来てないかなって」

「ないねえ。何を心配してるんだい。リーミヤちゃん程の男が」


 皮剥きの手を止め、リーミヤが苦笑する。

 ダラスは何も言わず、氷の浮いたポットを傾けて2人分の茶を注いだ。


「ありがと」

「いいさ。ちょうど一服したかったんだ」

「トラックを作るって宣言しても、神託ってので止められたりはしないのか。じゃ、大丈夫そうだね」

「銃を使っても神様は咎めたりしなかったからね。いいかい、リーミヤちゃん。神様が何も言わなくったって、あたしらはリーミヤちゃんに会えた事を心から喜んでる。父君のように神に招かれた証拠がないからって、気にするんじゃないよ?」

「・・・うん。ありがとう」


 くすぐったそうにリーミヤが笑う。

 それを見たダラスは、いつもジャスがするようにリーミヤの頭を撫でた。


「きゃっ!」

「・・・おお、ダラスさんがかわいい悲鳴を上げるなんて」

「うるさいよ、リーミヤちゃん。ちょっと黙っときな!」


 ダラスの剣幕に、リーミヤはそれ以上からかう事はしなかった。

 瞳を閉じて跪き、胸で手を組んでいるダラスをじっと見詰めている。


「・・・ふう。待たせたね」

「そんなに長い時間じゃなかったよ。なんだったの?」

「神託さ。リーミヤちゃん絡みの、ね」


 ウインクってこっちにもあるんだなあと思いながら、リーミヤがツバを飲み込む。


「・・・で?」

「招いたって言い忘れてたと・・・」

「は?」

「だから、神様がリーミヤちゃんをこの世界に招いたんだけど、それを伝え忘れてたってさ」

「・・・はぁ。神様ってドジっ子?」

「何を言ってるんだい、バチあたりな。それで『とらっく』だけど、銃とかも付けとけって神様はおっしゃってたよ」

「・・・何のために?」

「さあね。あたしゃ伝言を頼まれただけさ」

「そもそも、なんで俺がこの世界に招かれたのかは言ってた?」


 ダラスがなんとも言えないような表情をする。

 それでも、冷えた茶で唇を湿らせてから口を開いた。


「教えてくれなかったねえ、それは。伝言は父君であるヒヤマ王と同じように、リーミヤちゃんはこの世界に招かれたって事。それと『とらっく』を作って身内だけで使うなら遠慮せず、銃とかも付けていい。それだけさ」

「・・・神様が、戦争に備えろって言ってるのかな?」

「どうかねえ。ミノタウロス以上のモンスターもいるから、そんなのを相手にするなら銃とか使っていいよ、って事かもしれない。ま、あたしらがどんなに考えても、神様の真意なんてわかりゃしないさ」

「なんか不安だなあ・・・」


 銃を使っていい。

 そのお墨付きを得た事が、リーミヤは引っかかるようだ。

 茶を飲み干して、2人で皮剥きを再開する。


「設計やり直しかー。ああ、武器製造スキル3級だけど大丈夫なの? ・・・ほむ。車両製作の最上スキルって、武装も込みなんだね」

「なんか器用な事をやってるねえ・・・」


 ジャガイモの皮剥きをしながら網膜ディスプレイを操作するリーミヤを見て、ダラスは呆れている。それでもリーミヤが皮を剥くスピードはダラスとさほど変わらないのだから、よくよく器用な男だ。


「トラちゃんがギリギリ軽車両扱いだったっけ。じゃあ、トラちゃんの設計をそのまま流用。・・・待てよ?」


 リーミヤは手を止めて考え込んでいる。

 こんな状態のリーミヤにはダラスももう慣れたようで、何も言わずに皮剥きを続けるようだ。


(セレス、ちょっといい?)

(あら、いいわよ)

(大規模工事。ああ、建築系の最上スキルにするんだっけか。それをセレスが取ってくれるんなら、俺のスキルポイントにはだいぶ余裕が出るでしょ。それで【第一種軍事車両免許】に4スキルポイントを使って、【第二種軍事車両免許】を取っていいかな? そしたらかなり大きな、トレーラーくらいの車両で装甲と武装を充実させたのが作れるんだけど)

(武装って、まさか銃を見せながら国内を移動するつもりなのっ!?)


 セレスが驚くのもムリはない。

 このリーミヤという男は、いつも致命的に大事な言葉が足りないのだ。

 まずダラスが聞いた神託の事を説明してから話していれば、セレスはここまで驚きはしなかっただろう。


(あー、ダラスだよ。さっき、神託があった)

(ええっ!)

(マジかよ、ダラス)

(大マジさ。神託は2つ。神様はリーミヤちゃんをこの世界にお招きになった。その移動中? まあ聖域にリーミヤちゃんが着く前になら話も出来たそうなんだが、この世界の説明やリーミヤちゃんをお招きになったんだって事を伝え忘れたと)

(なんつーか、説明されてりゃリーミヤも楽だっただろうに・・・)

(それと『とらっく』を作って身内だけで使うなら、銃とかも付けるといいっておっしゃってたよ)


 全員が考えているのは同じ事だろう。

 神が銃の製造を認めた。

 その意味は?


(この世界で、剣や魔法の代わりに銃が使われるようになっても構わんって事か?)

(身内だけならって言ってたんだろ、ダラスさん?)

(そうだよ、サーミィ)

(なら、この世界の人間やドワーフが銃を見ても、それを製造できるようにはならないと確信してらっしゃるのでしょうか?)

(そうかもしれないわね、ユーミィちゃん。リーミヤが言ってたわ。1000年も鉄箱を見ているのに、自走式の馬車が出来ていないのはなぜだろう、って)

(ドワーフの国に探りを入れてみるかい? 母はもう死んじまってるが、親戚はそれなりにいるんだ)

(そっか。ダラスさんってドワーフのお母さんがいたんだっけ。んー・・・)


 すでにリーミヤは包丁を置いて、厨房用の小さな椅子に腰掛けている。

 悩みながらキセルを使い、長く細く紫煙を吐いてリーミヤは立ち上がった。


(探りを入れて逆に秘密を知ってるのがバレて、この村に人を寄越されても困る。とりあえず放置で。ダラスさん、悪いけど部屋で設計を1から練っていい?)

(もちろんさ。お茶のポットを『あいてむぼっくす』に入れて行きな)

(ありがとっ)


 何事かをブツブツ呟きながら、厨房を出たリーミヤは2階への階段を上がる。

 リーミヤとセレスの部屋は2階の一番奥だ。一番手前の左右をサーミィとユーミィが。その隣をファウンゼンが使用している。

 大き目のベッド、ありふれた机、それに2人用のテーブルと椅子。その他にはタンスや化粧台もあるが、まず標準的なギルド職員の宿舎と言っていい。

 ベッドに仰向けで寝そべると、リーミヤは手まで動かして網膜ディスプレイを操作し始めた。


「目指すのは武装トラックなんかじゃない。なんてったって、【第二種軍事車両免許】で動かせるギリギリの装甲と武装を積めるんだ。銃座は・・・4つはいけるね。いや、待て待て俺。まずは求められる仕事を考えないと・・・」


 楽しげな独り言と瞳の輝きは、技術者ゆえの創造する喜びがそうさせるのだろうか。


「まず、積載性は大切。だって流通業を開始するこの1年は、荷運びがメインだもんね。でも、ダラスさんはわかんないって言ってたけど、銃を使えって神様が言うからにはそれなりの敵がいるって事でしょ。えーっと、最上スキルだから武装は納品時の状態。つまり弾薬保管庫を設置すれば、そこに弾薬が満載された状態で車両製作が可能なのか。・・・うわー。やっちゃう? 榴弾砲に対戦車砲、高射砲に長バレルの機関砲、やっちゃう? やっちゃおっかー! 神様いいって言ってるしー!」



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