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新人冒険者、ファンタジー世界でトラックを作る-2




 妻の部屋に戻ったバダムは嬉しそうに、小さなテーブルと2脚の椅子をベッドのそばに運んだ。

 そしてミーティスのベッドに腰かけ、笑顔でリーミヤとセレスに椅子を勧める。


「本当に、なんとお礼を申し上げたら良いか!」

「だからいいですって。それより、今からは奥さんの様子を注意して見ていて下さい。またミノタウロスの肝が必要なら持って来ますから、とりあえず2日くらいは王都にいましょう」

「ですが、大計を進めるための大切な時期に・・・」

「今やれるのはセレスが取るって言ってるアレをどうするか決めるのと、狩りぐらいですから。どこでも一緒でしょ。ケーダさん達は宿に移動してもらう、セレス?」

「・・・そうね。でも昨日見た感じだと、リーミヤが日課にしてる狩りも一緒に行きたいって言うと思うわよ。ケーダさん」

「そっか。まあ、トーダさんに息子が怪我ぐらいしても気にするなって言われてるから、一緒に狩りをしてもいいけどね。トラック、先に作っとけばよかったなあ・・・」


 計画はまだ本格的に動き出してはいない。

 新たな流通業を起こすバダムと、新しい街を造るリーミヤとセレス。両者が一緒に動けるうちは、トラックはまだいらないとリーミヤは思っていたのだ。


「なぜ。・・・ああ。トラックにも客室を作るのね」

「もっちろん。そんじゃセレス、俺達はトレーラーに戻ろうか。バダムさん、ミーティスさんは痩せてしまっているので、消化の良い食べ物を用意してあげて下さい。それと、少しでも身体に異常が見られたらすぐに連絡を」

「ありがとうございます。ですが、まだお茶も・・・」

「お気になさらず。2人でゆっくり体を休めて下さいね」

「ではミーティスさん、またお会いしましょう。病み上がりなのですから、どうか無理はなさらないように」


 見送りに出ようとするバダムを部屋に押し戻し、「3人目、3人目」と言いながらリーミヤが親指を立てて笑う。

 たしかにミーティスはサーミィの母とは思えぬほどに若々しいので、年齢的にも可能なのかもしれないが。

 セレスはといえばバダムに真顔で「押し倒すなら明日以降、奥さんの体調を見てからですよ?」と釘を差している。

 苦笑いしながら頭を下げるバダムに手を振り、リーミヤとセレスは店舗から王都の大通りに出て門に向かった。


「あ、忘れてたや」

「どうしたの?」


 セレスが首を傾げる。

 擦れ違う男達の視線はどれもそんなセレスに行くのでリーミヤは少し腹を立てているが、これも美人の嫁さんをもらった男の務めかと気にしない事にした。


(バダムさーん。今って大丈夫です?)

(もちろんです。どうなさいましたかな)

(ミノタウロスの肝がナイエル病の特効薬って話は、バダムさんにすべてお任せします。宗教上の理由なんかで黙ってたほうがいいなら奥さんの完治は客人のおかげって言えばいいし、情報として売れそうなら売ってもいい。誰かに教えて、貸しにしとくのもいいね)

(・・・なるほど。お任せ下さい。効果的な使い方を考えてみます)

(病気で苦しんでる人もいるから、情報を流すならなるべく早目にお願いします。それと、バダムさん最近なんか体の調子がいいって言ってたでしょ?)

(ええ。なんとなくですが・・・)


 大通りをのんびりと歩くリーミヤが笑う。

 それを見るセレスは、また夫が天然ゆえの爆弾発言をするのではないかと気が気ではない。


(もしかしたらそれ、レベルが上がってるせいかも。だからミーティスさんもパーティーに入れて、無線だけ切っておけば回復が早くなるかもしんない)

(なっ、なんと!)

(いい? 体調がいいのがレベルが上がってるせいじゃなくても、特に害はないから。それに言ってくれれば無線を繋ぐから、家族でおしゃべり出来る。念話魔法って魔力をそれなりに使うみたいで、長い時間は話せないって聞いたし)

(・・・妻にもリーミヤ殿の秘密を明かすと?)

(王都に1人でいるなら、知ってた方がいいと思う。何かあれば無線で助けを呼べるように。おっちゃん達なら、王都の兵隊も少しは動かせるでしょ)

(正式な命令はムリだが、因縁をつけに来た客なんかの排除には、個人的に貸しのある連中を行かせるさ)


 無線で話しながら王都の門番に笑顔で頭を下げて、リーミヤが門を出る。

 樹国の美姫。S級冒険者であり魔法省の客人全権大使であるセレスの連れなので、門番は声をかける事すらしない。


(・・・ありがたい話です。妻にはこれからすべてを話し、命を狙われる危険性もキチンと説明した上で判断させます)

(了解。ごめんね、バダムさん。俺なんかが仲間に引き込んだせいで)

(命の恩人が何をおっしゃいますか)

(そうだぞ、リーミヤ。いや、旦那様かご主人様とでも呼ぶか?)

(勘弁してよ、サーミィ姐さん・・・)

(えっと。お兄ちゃん?)


 リーミヤが胸を押さえる仕草をする。

 苦笑しながらセレスが手を伸ばして頭をコンと叩くと、それはそれは楽しそうに2人は笑った。


(・・・破壊力あるなあ、ユーミィちゃん。でも、あんまりふざけちゃダメだよ。そんじゃ俺達はケーダさん達に説明を、って。これも面倒だねえ)

(リーミヤが気に入ったなら、そのまま仲間にしちまえばいいさ。それと、レベルがこっちの人間にもあるかも、って話は後でちゃんと聞かせろよ?)

(りょーかーい。仲間かあ、説明するならファウンゼンさんと一緒にだね。そんじゃ、とりあえず俺からは通信終わりー)


 ガンバール領のように荒涼とした景色ではないが、王都の周辺は草刈りがされているので緑の草原になっている。

 門から少し離れた街道の真ん中には、トレーラーを指差し、何かを囁き合う数人の男女がいた。

 見るからに冒険者だ。両手剣2、片手剣1、弓1、両手杖2。

 この数に近い間合いから襲いかかられれば、リーミヤは躊躇わず銃を使うだろう。


「お、おい・・・」


 冒険者の1人が仲間の肩を叩く。

 リーミヤは門を出た瞬間に気がついていたが、セレスが何も言わないなら大丈夫だと思っている。

 それでも冒険者が2人に視線を向けると、リーミヤはセレスの前に出た。


「ロンダールにご用でっか、お客はん」

「ああ? 用なんかねえ・・・」

「おい、やめろって。後ろのとんでもねえ美人、樹国の美姫だぞあれ!」


 途端に横柄な口を利いていた冒険者が黙る。

 リーミヤはロンダールの使用人の仮面を被りながら、心の中でそれを訝しんだ。


(門番さんもこの冒険者も、なんでセレスをちょっと怖がってる感じなんだろ?)

(S級冒険者には逮捕権があるのよ。脛に傷でもあるんでしょ)

(ふーん。殺っとく?)

(物騒な事は言わないの)

(へーい。つくづく甘い世界だよねえ)

「お、俺達はただ・・・」

「立ち去るならそれでいいわ。余計な事は口にしないで」

「あ、ああ。失礼した」


 下手なウソを口にされると、リーミヤがどう動くかわからない。セレスは、それだけを心配していた。

 冒険者が逃げるように足早に歩き出すと、客室のドアが開いてケーダが顔を出す。


「お帰りなさいませ」

「ちょ、ケーダさんっ。トレーラーのお客様が俺に敬語はマズイって!」


 リーミヤが慌てて立ち去った冒険者を見るが、誰一人振り返ったりはしていない。

 ケーダはサクラと外に出て軽い体操のようなものをしながら、リーミヤとセレスを待った。


「おかえりなさい。リーミヤさん、セレスさん」

「ただいま、サクラさん」

「やはり客室にずっといると、息が詰まるのね。2日ほどここで待機する事になったから、2人は王都のお屋敷か宿屋に移動する?」

「そうなんですか。おい、ケーダ。どうするんだ?」

「そんなん決まってんだろ。ヒヤマ殿と一緒にいる!」

「・・・あのなあ、お2人は新婚なんだぞ。ケーダと私だけを『うんてんせき』に置いとく事も出来ないから、2日間は客室で雑魚寝だ。そうなると、2人だけの時間がなくなる。リーミヤさんのためを思うなら、遠慮して宿を取るべきだぞ?」

「むう・・・」


 渋るケーダを、サクラが説得する。

 一緒に狩りをしてもいいと言っていたリーミヤは、下心からその説得を見守る事にしたようだ。


「リーミヤさんはまだ17。ケーダが17の時はどうだった。忘れたか? 成人前の私を、毎日毎日・・・」

「わかった。わかったからその話はやめてくれ。ヒヤマ殿の視線が痛い!」

「ロリコンは死ねばいいのに・・・」

「ヒヤマ殿!? 初めて耳にする単語ですが、敵意だけはビンビン感じます!」

「まだ無垢な子供時代を享受すべき女の子を、性的な目で見るクズの事。村にも成人前のかわいい女の子がいるけど、なんかしたら俺と金獣騎士が刻むよ?」

「しませんって!」

「ロリコンは皆そう言うって、母さんが言ってた・・・」

「おい、サクラ。どうしてくれるんだ!?」


 サクラが笑いながらケーダの肩を叩く。

 ザマアミロ。口には出していないが、そんな感じか。


「いや、リーミヤさんがこうも潔癖だとは思わなかった。褒められた話ではないんですけど、草原の民は初潮さえ来ていれば嫁に行けるんですよ。籍は成人を迎えてからという形で」

「・・・まあ、民族的な慣習に口は出さないけど、成人前に捨てられたらどうするんです?」

「嫁の一族で、その男をなぶり殺しです」

「怖っ!」

「ですから、本気でないのなら手は出せません。ケーダはバカでスケベですがこれでも草原の戦士ですので、そんなに嫌わないでやって下さい」

「サクラさんにそうまで言われたら仕方ないか。ケーダさん。サクラさんに感謝して、宿も食事も奮発して下さいね。それに結婚を認められて晴れて婚約者になったんだから、服かアクセサリーなんかも贈る。うん、それがいい」


 なにか言いかけたケーダが、口を噤んで頷く。この場に味方はいないと気がついたからだろう。

 2人が荷物をまとめて王都に向かうのを、リーミヤとセレスは並んで見送った。


「さて、お楽しみといきますか」

「朝から何を言ってるの。早く網膜ディスプレイでの設計を教えてくれなきゃ、私が建築系の最上スキルを取っても大丈夫か判断できないでしょ」

「スキルを取得すれば知識も手に入るから、大丈夫だと思うんだけどなあ」

「それでも念の為によ」

「・・・へーい」



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