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新人冒険者、兄になる-4




 腕組みをしたバダムが唸る。

 セレスもユーミィも難しい顔だ。

 シャルと一緒にミオと遊ぶリーミヤだけが、屈託のない笑顔である。

 サーミィとゴンは、今日も南門の前の広場で両手剣の稽古だ。門番は軍の精鋭でもあるので国一番と言われるサーミィの流派の使い手も多いらしく、師範の資格は持つが一応は女であるサーミィの稽古に、魔力が少なく腕力に恵まれた男からの視点でアドバイスをしてくれる兵もいるらしい。


「お父様、やはりムリです。発想は卓越したものだと思いますが、これでは初期投資がかさみ過ぎです。このまま始めてしまうと、ロンダールは破産しますよ」

「しかし・・・」

「バダムさん。リーミヤの案だからといって、この計画に固執する必要はありません。子供ではないのですから、リーミヤだって無理強いはしませんよ」


 ポフッ。

 この世界の紙は厚い。

 リーミヤがテーブルの真ん中に落とした音で、3人はその紙の束に気がついた。


「リーミヤ殿、これは?」

「革の仕入れ以外の、馬車の建造費用を抜いたこの案の計画書。手書きだから1つしかないんで、回し読みして下さい」

「・・・わかりました」


 バダムの瞳が見開かれる。

 それから尋常ではない勢いで計画書を隅まで読むと、何も言わずにセレスに紙の束を渡した。


「これは・・・」


 セレスもバダムと似たようなものだが、たまにブツブツ呟いたり頷いたりして読み終える。

 それを渡されたユーミィは怪訝な表情で1枚目を読み始めたが、2人と同じようにかなり驚いたようだ。


「凄い、純利益が出てる。試算だから、最低限の値段で計算してるのに・・・」

「どう?」

「これなら明日にでも始められます。ですがリーミヤ殿、これほどの数の馬車を無料で手に入れるなど、いくら客人でも」

「リーミヤ、まさか・・・」

「そのまさかだよ」

「国を脅してお金を出させるのね!」

「そうそう。って、ちがーう! 新婚旅行からこっちアレコレ我慢して夜の狩りを続けたおかげで、俺ことジャンクヤードの猟兵はレベル25になっちゃいましたっ!」


 それがどうした。

 全員の気持ちを率直に言えば、その一言に尽きるだろう。

 表情もそんな感じだが、リーミヤは怯まない。いつもの天真爛漫な笑顔だ。


「えっと、それがどうしたの?」

「レベル25だよ、25。脱初心者って感じ!」

「はあ、おめでとう?」

「ありがとう。なので、【車両修理】スキルを母さんとは逆の生産系に伸ばして、最上スキルを取得したいと思いまーっす!」


 飛び出す異世界語に、誰も理解が追いつかない。


「リーミヤ、ちゃんと説明してくれないとわからないわよ?」

「ああ、ゴメン。えっとね、最上スキルっていうのはスキルポイントを9も使わなきゃ取得できないから、すっごく有用なの。ここまではいいね?」

「ええ」

「んで、【車両修理】の生産系最上スキルは【孤独な天才設計者】っていうの。1年に1台、網膜ディスプレイで設計した車両を生み出せる」

「まさか・・・」

「はい。俺の乗機を作ってそれで車両部品を製作して歩いて、各街で組み立てますっ!」


 沈黙。

 まさか、と言ったバダムでさえリーミヤの言葉を理解できず、ギルドホールにはシャルの鳴き声とミオの笑い声だけが流れている。


「だからっ、わかるように言って下さいっ!」

「また敬語で怒る・・・えーっとね、まず最上スキルで、超エネルギーバッテリーを使用するトラックを作るの。これは1年もすればバッテリー切れで動かなくなるけど、こっちにはない鉄とか合金の唯一の補充手段になってくれる」


 トレーラーについて詳しく説明された時に、トラックの説明もされている。

 3人はそれをこの世界で生み出すと言われ、どう反応していいかわからないようだ。


「まず、クルマをこの世界で作ってしまってもいいの?」

「いいんじゃない? 初代ロンダールのクルマに劣化しにくい細工までして子孫にも使わせてるんだから、神様もクルマを持ち込まれたって文句は言わないでしょ」

「お待ちください、リーミヤ殿。試した事はありませんが、トレーラーはロンダールの血を引く者以外が動かそうとすると自壊するそうです。つまり神様は、クルマがこの世界に流通するのを望んではおりません」


 バダムは早口でまくし立てる。

 すっかりこの異世界の若者が好きになってしまっているから、万が一にもリーミヤに神の怒りを向かわせたくないらしい。目は真剣だ。


「バダムさん。1000年の間に、トレーラーで人を轢いたり、建物を壊したロンダール家の人間はいますか?」

「おりません。もしいれば国はトレーラーを取り上げようとし、商人ギルドはトレーラーの使用を禁止しようとしたでしょう」

「事故を仕掛けられた事は?」

「私が知るかぎり、ありませんな」


 リーミヤが考え込む。


「・・・事故がない。DNAに【第一種軍事車両免許】でも組み込まれてる? ロンダール以外の人間が動かせないのは、【専用装備化】に似てるよね。事故を仕組まないのは神託裁判って制度のせい? ・・・んー、まあ考えても仕方ないか。えっとね、作ったクルマは俺以外が動かせないように出来るの。その分のスキルポイントもあるから、大丈夫だよー」

「なんと・・・」

「凄いんですね、『すきる』って・・・」

「これね。【第一種軍事車両免許】、なるほど。【専用装備化】は、・・・また凄いスキルね。あのトレーラーがアイテムボックスに入れられるなんて、反則だわ」

「あ、そっか。セレス様も『しょくぎょうもち』で『もうまくでぃすぷれい』があるんだ・・・」

「ええ、そうよ」


 ニッコリと微笑んだセレスがユーミィの頭を撫でる。まだ成人前の13歳。優しくキレイなお姉さんに頭を撫でられるのは、ユーミィも嫌いではない。


「まずトラックを作る。それで最上スキルまでの過程で取得する【車両小部品製作】と【車両大部品製作】を使って森の木を馬車の部品にして、それをトラックに積み込んで街に行って俺が組み上げる。どう?」

「馬車の制作費と輸送費がいらないという事ですな。それならば初期投資が抑えられるので、この計画を真似できる商人はいない」

「さすがバダムさん。そこまで読みますか・・・」


 バダムが笑みを浮かべる。


「伊達にギルド運営に関わる事なく、ロンダールを存続させている訳ではありませんので。彼らなら同規模で同じ商売をするくらい、平気でやるでしょうから」

「やっぱり客人の子孫は手を組んで、ギルドの利益を独占してるんですか?」

「穏やかに、ですがね。客人会と呼ばれる組合組織が利益を蓄財に充てなければ、飢える者などとうの昔にいなくなっておりますよ」

「気に食わないねえ。それに客人会って、その組織にいるのは客人じゃないじゃん」

「ははは。まあ、客人の手助けを担う組織なのは間違いないのです。そのうち接触をしてくるでしょう。どうなさるおつもりで?」


 リーミヤがニヤリと笑う。

 たまに見せる、意地の悪い笑みだ。


「国との繋がりも深いでしょうから、公務員の汚職なんかを見たら我慢できずに暴れそうだとでも言っておきますよ。客人会そのものには、飢える人間を何千年も見殺しにしてた連中は二度と接触して来るなと」

「上手く使えば、引き出せる物も多いと思われますよ。それにあの日の夜のお話では、人員と資金を客人会から出させると聞きましたが?」

「2000年です」

「は?」


 バダムがきょとん、とする。


「ああ、バダムさんって愛嬌があるんだ。だからあの夜に、俺は迷いなく仲間になって欲しいとお願いしたのかも」

「・・・リーミヤ殿?」


 愛嬌があるなどと真っ向から言われ、バダムの頬がかすかに赤らんでいる。これでも名の通った商人。世辞には慣れているし、人間としての経験もリーミヤよりはるかに積んでいるが、さすがに面と向かって本音で言われたとなると照れるらしい。


「ごめんなさい。俺とセレスは、2000年は生きなきゃいけないらしいんです。ロンダール家には客人会ほどとはいかなくっても、国一番の商家になってもらわないと。忘れたんですか。ロンダールが使命を果たす必要があれば、俺はその手助けをするんですよ」

「待って下さい。リーミヤ様はこの、流通ギルドとでも言うべき新組織の利益で、餓死者をなくすのではないのですかっ!?」

「食料を配って? そんなのただの施しじゃん。与えられるだけじゃ、人間が歪むよ」


 ユーミィもそうだが、バダムも驚いているようだ。

 バダムはユーミィよりは先を読んでいる。

 ロンダールの資金でリーミヤの作る組織が動き出せば、食料の値段が安定する。大陸的に見れば中堅国家でしかないが、この国はそれなりに広い。流行り病が飛び火するのだけが心配だが、安定した流通さえ可能ならまだまだ発展の余地はある。

 その安定した食料価格と、流通を担う組織の情報と輸送力。それで餓死者が出ぬようにするのだと、バダムも思っていた。


「な、ならばどうするのですか?」

「最初は与えればいい。それを噛み締めて生きて、今度は自分で創り出してもらう。畑を耕してもいい。物を売ってもいい。狩りでも漁でもいい。それが出来る場所さえあれば、人間はそう簡単に餓死なんてしないよ」


 場所、そう呟いたのはユーミィだ。


「リーミヤ、まさか・・・」

「またレベル上げの日々になるね。【大規模土木工事】は【小規模土木工事】の5段階目。7レベル上げなきゃいけないのかー。キツイねえ」

「・・・いいの? いつか、父さんと同じ最上スキルを取るんだって言ってたじゃない」

「父さんはとにかく戦闘ばかりしてたら、王になるしかない状況になってたんだって。俺も冒険者だから戦闘スキルも取るけど、状況が状況だからね。まずは、生産系を伸ばすよ。ヒヤマの家の男が餓死者を見て何もしなかったなんて告げ口されたら、母さんが殴りに来そうだ」

「異世界まで?」

「そう。かわいい見た目に騙されちゃいけないよ、セレス。母さんもカチューシャの人間で、しかもあの父さんのパーティーメンバーなんだ。俺がヒトデナシになったら、時空とか色んな物を無視して説教に来て、また帰るくらい平気でやりそう」

「どんなお母さんなのよ・・・」


 不安そうなセレスにリーミヤが微笑む。

 いい雰囲気になりかけたが、バダムがすかさずそれを阻止した。


「リーミヤ殿、街を作るのですな?」

「そうなりますね。おっちゃん達の寝室ごもりが終われば、弟さんが村に来るらしいです。家督を譲るとかで。それなりの大貴族相手に、一世一代の大取引になりますよ。頼りにしていますから、よろしくお願いしますね」

「・・・力の限りを尽くします!」



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