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新人冒険者、兄になる-3




 ジャスとダラスの寝室ごもりが始まった。

 当然、セレスはギルドを留守には出来ない。が、サーミィとリーミヤを組ませて薬草採取や狩りに出すのがどうしても不満な様子だ。ユーミィがいるから大丈夫だと言っても、なかなか信用しない。


「・・・仕方ない。バダムさん、ユーミィちゃん。昨日の披露宴で話したアレの試算をしましょう」

「アタイは?」

「ゴンと散歩でも行ってて。あ、村から出るのは禁止ね」

「・・・こんな狭い村を散歩したって、1刻もかかんねえよ。そうだっ! ゴン、姉ちゃんが剣を教えてやるぞ。どうだ?」

「やりたい。・・・リーにい。いい?」

「んー、剣はおっちゃんが仕込むんじゃないかなあ。セレス、なんか聞いてる?」

「なにも聞いてないわ。寝室ごもりだから一時的に抜けたけど、パーティーに編成して無線で訊いたら?」

「さすがにそれは・・・」


 どうしたもんかと悩む面々。

 だが、なにか思いついたのかバダムが顔を上げた。


「というか、槍の聖印があるなら主武器は槍でしょう。それは誰が教えるので?」

「・・・わかんない。徒手格闘と片手鈍器は、俺が教えるつもりだけど」

「弓は私ね。これでもエルフだから、スキル頼りのリーミヤより教えるのに向いてると思うし」

「全部を仕込めばいいんだよ。盾と片手剣はジャスさんで、両手剣がアタイ。ダラスさんに両手鎚を教わりゃ、聖印のあるゴンなら槍も上達するだろ」

「そんな乱暴な。・・・いや、でも一理あるかな」

「私、頑張って常識を教えますっ!」


 何かを強く決意したようにユーミィが言う。

 その様子を見て、あの大人しい娘が言うようになったものだとバダムは笑みを浮かべた。


「おお、そりゃいいね。こんな兄や姉ばかりだと、そこもきちんと教えないと。お願いするよ、ユーミィちゃん」

「心配なのはリーミヤに似る事だから、ユーミィちゃんはこう言ってくれてるのよ?」

「よし。そんじゃ両手剣の稽古に行くぞ、ゴン。剣は姉ちゃんが買ってやる!」

「この村の商店に両手剣なんか売ってないって。サーミィ姐さん、その両手剣を見せて」

「いいけど、どうすんだ?」

「俺、こっちの両手剣を見た事ないからね」


 両手剣を受け取ったリーミヤが、それをスラリと抜く。

 その剣身の輝きを、ゴンは少年らしい期待に満ちた瞳で見詰めていた。

 強くなる、その第一歩が始まる。そんな感情なのだろう。


「幅広の直剣。バランスも特に変わってないね。ゴンが稽古で使うなら、長さは?」

「それのちょうど半分くらいか。背負えないと意味がないから、背中に当ててみるといい」

「稽古の時から背負わせるのか。ゴン、ちょっと動かないでね」


 ゴンの背中に、リーミヤが両手剣を立てる。


「なんか身長測定みたいだ。ゴン、ミオも後で壁に今年の身長を書こうね。・・・えーと、鞘もあるからこのくらいか。もういいよ、ゴン。サーミィ姐さん、ありがと」


 サーミィに剣を返し、リーミヤは宙を睨む。時折、指まで無意識に動かしているようだ。


「木剣を作るのか?」

「そうだよー。これでいいかな。【3級武器製作】っと」


 いつもの光が収まると、リーミヤの手にはサーミィの両手剣をそのまま小さくしたような剣が握られていた。


「なん、で・・・」

「そういえばゴンは見た事なかったね。リー兄の得意技だよ。でもこれは、家族だけの秘密。それ以外の人に言っちゃダメだよ?」

「かぞく・・・」

「嫌かい?」


 ゴンが首を横に振る。力一杯だ。

 いい笑顔で自分を見上げるゴンの頭を撫で、リーミヤは手ずからゴンに両手剣を装備させた。


「それ、いいな。リーミヤ、今度この背負ベルト付きの鞘だけでもいいから、アタイにも作っておくれよ」

「革はまだあるからいいよ。どうせなら、防具として作ろうか。サーミィ姐さんが革鎧なのは、重さを嫌ってだよね?」

「それもあるけど、コイツはガランゴの革なんだよ。運良く狩れたから、鎧に仕立ててもらったのさ」

「ガランゴ?」


 リーミヤがいつものように首を傾げると、それを見たゴンも同じ仕草を見せた。


「ふふっ。大きなサル型のモンスターよ。皮は貴重品なの。柔らかいのに、普通の革より強度があるから」

「さすが異世界。そんなのがあるのかー。使ってみたいなあ・・・」

「なら、お分けしましょう」

「持ってるの、バダムさん!?」

「トレーラーにはある程度ですが、何かあった時のために換金性の良い品を積んでおります」

「商人の嗜みかー。さすがです」

「いえいえ。では、取ってまいりますよ」

「護衛に俺も行きますよ」

「アタイが行くよ。稽古は南門の前の広場でやるし。ゴンは親父が手を引いてりゃいい。ほら、行こうぜ」


 3人がギルドを出てゆく。

 今日からいつものテーブルにもう1つのテーブルをくっつけてあるのだが、その上でシャルのしっぽとじゃれていたミオが笑顔で手を振った。猫と猫の獣人であるからか、シャルは嫌がらずにミオの相手をする。

 リーミヤが真っ白な紙らしき物と、細長い不思議な材質の物体をテーブルに置いた。


「リ、リーミヤ様!?」

「んー?」

「ちょっとリーミヤ。結界魔法を張ってないのに、そんなの出さないで!」

「そんなのって、ただの紙とペンだよ?」

「紙の白さと薄さと裁断技術! それにこの世界には、そんなツヤツヤした材質のペンはありません!」

「はぁ、ギルドのペンって使いにくいんだよなあ・・・」

「いいから仕舞いなさい!」

「はぁい・・・」

「やっぱり私が常識を・・・」

「ん? なにか言った、ユーミィちゃん?」

「いえ、なんでもありません」


 やがてバダムが1人で戻って来ると、一抱えほどの革をリーミヤに渡した。

 それを観察するリーミヤを横目に、バダムもセレスとユーミィが行っている試算に加わる。

 紙に予想される出費をユーミィが書き、セレスがそれを計算しているのだが、バダムまでユーミィと同じ作業を始めたので、商人ではないセレスはどうしても遅れてしまう。

 それなのにリーミヤはセレスを手伝いもせず、ニヤニヤ笑いながらガランゴの革を眺め回し、それが終わると今度は網膜ディスプレイでの作業を開始してしまった。


「・・・えっと、いいんですか。セレス様?」

「ああ、こうなったリーミヤは梃子でも動かないのよ。興味がある事を始めちゃったら、ゴハンも睡眠も関係ないみたいなの」

「そ、それは大変ですね・・・」

「ちょっとサーミィ姐さんに、鞘の取付角度を訊いて来るっ!」

「はい、いってらっしゃい。ちゃんと前を見て歩くのよ?」

「うんっ」


 顔も上げずに言うセレスといい笑顔で頷いてから急いで出てゆくリーミヤを見て、ユーミィは結婚とは子育てでもあるのかもしれないと思った。

 ペンを走らせる。

 お茶を飲むにも凝った肩を回してほぐすにも、キリの良い時にやらなければミスの元になるのだ。気は抜けない。

 そんな作業の合間にミオの世話こそしていたが、集中していたユーミィは不思議な香りでようやく異変に気がついた。


「なんですか、この臭い。まさか火事っ!?」

「落ち着いて、ユーミィちゃん。リーミヤが昼食を用意しているだけだから」

「それ、食べられるんでしょうか・・・」

「朝ゴハンを作ったのもリーミヤよ?」

「うそっ!?」

「本当よ。うーんっ、この辺で午前の部は終わりましょうか」

「ですな。ユーミィ、リーミヤ殿の手伝いを頼む」

「はっ、はい」


 恐る恐る厨房に入ったユーミィは、リーミヤの調理を見て悲鳴を上げかけた。


「リーミヤ様、なにをっ!?」

「なにって、料理だけど?」

「鍋はカマドの上に置くんです! 中に突っ込んではいけませんっ!」

「ああ、これはそういう鍋なんだよ。ちょうど出来上がるから、大皿を2つ出してくれる?」

「は、はあ・・・」


 分厚いグローブをしたリーミヤが、調理台に置いた木の板の上に鍋を置く。

 大皿を用意したユーミィは、その鍋の中を見て驚いていた。


「うん、いい感じ」

「・・・鶏の丸焼き、ですか?」

「蒸し焼きかな。人参とか大丈夫、ユーミィちゃん?」

「はい。でも姉さんは・・・」

「ならいっぱいよそってあげるといい。テーブルでの切り分けは、ユーミィちゃんに任せるからね」

「はいっ」


 鍋の中に残っている肉汁をスープ鍋に足し、リーミヤは味見をしてから笑顔で頷いた。

 大皿とパン籠はすでにユーミィが運んでいる。

 スープをカップに注いではお盆に並べると、これもまたユーミィの手でテーブルに運ばれた。


「よく働く妹だなあ・・・」

「リーにいたん! とりにゃ~♪」

「たくさんお食べ。って、男前になったねえゴン」


 テーブルに着いているゴンは、その幼くかわいらしい顔に、べったりと青あざを貼り付けている。


「リーミヤからも言って下さいっ! まだ小さいのにこんな怪我をするような稽古なんかしてっ! 聞いてるんですかっ、サーミィさん!?」

「聞いてるって・・・」

「てゆーか、稽古なんだから怪我するに決まってるじゃん。サーミィ姐さん、骨は折れてないんでしょ?」

「当然だ。加減も出来なきゃ、師範にはなれねえんだから」

「ならいいじゃん。さ、食べよー」

「えっと、リーミヤ?」


 セレスが信じられないといった表情でリーミヤを見る。

 いつも優しい夫なら、一緒にサーミィの行き過ぎた稽古を叱ってくれると信じていたのだろう。


「そっか。セレスは魔法使いだから、武器の戦闘訓練とかした事ないんだね。あ、切り分けていいよ、ユーミィちゃん。えーっとね、セレス。怪我を治す魔法ってあるんでしょ?」

「あるに決まってるじゃないですか」

「うん。なら、痛い思いをして訓練しなきゃ意味ないんだよ。怪我を治す魔法を使える人がいないなら、アオタンが出来るくらいの訓練。骨折を治せる人がいるなら、骨が折れるまで傷めつけられて、それで初めて強くなれるの。俺と弟なんか【応急処置】とその最上スキルまで使える人に格闘を教わったから、いつもどこかしらの骨が折れてる状態で殴り合いをさせられたよ?」


 その過激な訓練内容を聞いて、サーミィまでが顔を引き攣らせている。


「さすがにそこまでする稽古なんか、王都で一番厳しいウチの道場でもねえぞ・・・」

「マジで!?」

「ゴン、リーミヤに徒手格闘を教わるのはやめましょうね。どうしても覚えたいなら、王都から教師を呼ぶわ」

「ええっ!」

「姉さん、こっそり人参をミオちゃんのお皿に移さない!」



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