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新人冒険者はあの日に見上げた背中を覚えている-6(終)




 酒を飲みながら、6人はリーミヤのいた世界の話を聞いた。

 ロンダール家の人間は銃とトレーラーをよく知っているので、ジャス達3人より理解が早い。だが、職業持ちやスキルの話になると、そう簡単には理解できないようだった。


「なんと言うか、私のような商人には理解し難い話ですな・・・」

「凄いです、リーミヤ様」

「トレーラーを与えられた客人の次がリーミヤ。それはつまり、今までこの世界になかったサイエンス、次にリーミヤの言うトンデモ科学がこの世界に来たって事になる。それを怪しむのはわかるけど、偶然ってセンは考えらんねえのかい?」

「そこを真っ先に聞くんだ。サーミィさんて意外と頭脳派?」

「茶化すんじゃないよ。いいから答えな」

「わからないと言うしかないね。俺のいた世界でも稀人、こっちで言う客人はいたけど、現れる場所はバラバラだった。父さんと爺ちゃんは地球の同じ国から来たんだよね。そんでやっぱり、神が何かをさせようとしてるのかって勘ぐったんだ。そしたら神様は稀人を遊んで配置したりはしてるかもしれないけど、人生を誘導したりはしていないって結論だったみたいだよ」


 リーミヤはそこまで言って、チビリと葡萄酒を口に含む。

 人並み以上に父や祖父を敬愛しているらしい。家族を語る表情は寂しげではあったが、それ以上に誇らしさを感じているようだった。


「それにしても、『すきる』ですか。まるで物語ですね。想像も出来ません」

「見せた方が早いかな。【3級武器製作】発動。・・・はい、ユーミィちゃん」

「え? え?」


 ロンダール家の3人は目を丸くしている。


「リーミヤ殿は無から有を生み出すのですかっ!?」

「これは材料を使ってますって。ユーミィちゃん、ナイフを出してみて」

「あ、はい」


 ユーミィが目の前の皿とカップをどかし、恐る恐るナイフを出していく。


「小さな斧みたいのは、骨や関節を切り落とすのに使う。先が湾曲してるのは太い筋を切ったりするのね。慣れるとその湾曲部で腹を裂いたりも出来るけど、それまでは一番小さなナイフでやるといいよ。それでこれが何より大切な事なんだけど、これってこの世界じゃ質が良すぎるらしいんだ。だから人前では、今まで使ってたナイフを使ってね」

「ええっ!」

「あれ、気に入らなかった?」


 ユーミィが首を横に振る。

 ブンブンと音がするのではないかとまで思える慌てようを、ロンダール家以外の4人が微笑みを浮かべて見ていた。


「逆ですよっ、逆っ! こんなの王都で売りに出せば、5百万ダルの値が付きますよっ!」

「へーっ。バダムさん、ユーミィちゃんの目利きはどんなもんですか?」

「え、ああ。そうですな。まずは合格点でしょう。ですが5百万は最低でも、です。大々的に宣伝をした後で競りにかければ、その倍も狙えますよ」

「それをポンとくれてやるとは。リーミヤは太っ腹だねえ」

「仲間に引き入れたのは俺ですからね。しばらくはこの村で冒険者をしてもらうから、これくらいは。サーミィさんのは1時間後に作ります」

「1、えーっと『じかん』?」

「半刻だよ、サーミィ。俺もこの頃やっと慣れた」

「なるほど。にしても、アタイにまでいいのかい?」

「もちろん。バダムさんには、あれかな。セレス、ギルドホールに誰も入れない、魔法でも覗けないようにする魔法ってない?」

「結界魔法があるわよ。はい、これでいいわ」


 セレスが言うと同時に、ジャスとダラスが笑い出した。

 リーミヤはキョトンとしているが、セレスは真っ赤になって俯いている。


「何がおかしいの?」

「結界魔法には欠点があってねえ」

「まあ、どんな武器や防具にも欠点はあるでしょ」

「いいから聞きなよ、リーミヤちゃん。結界魔法は寝ると切れる」

「展開して放置は出来ないって事か。それがどうしたの?」

「他にも、痛みなんかで意識が飛びそうになると切れるんだよ」

「そりゃそうでしょ。寝たら切れるなら、維持するのに集中か魔法を行使する何かしらの行動が必要なんだから」

「入って欲しくない、聞かれたくない、そんな状況って何がある?」

「・・・密談。トイレ。後はー、寝室?」

「だね。じゃあ、寝室ごもりで2階から物音が聞こえたって事は?」

「・・・結界魔法が切れるくらいには喜んでもらってる!」


 いい笑顔でリーミヤは言うが、セレスはさらに顔を赤くした。ついでに、まだまだそちら方面には疎いユーミィも真っ赤になっている。


「そうだね。だから、あんまりセレスをイジメるんじゃないよ?」

「・・・セレスが話したんだっけ。ど、努力します」

「そうしておくれ。それで、結界魔法まで張って何をしようってんだい?」

「そうだった。バダムさん、銃を持ってますよね。見せてもらってもいいですか」

「なんだとっ!?」


 叫んだのは、ジャスだ。

 セレスとダラスは少し驚いたくらいだが、立ち上がってバダムを見詰めている。


「ジャス殿、これは一族の秘密なのです。所持を隠していた事はご容赦願いたい」

「あ、いや。責めてるんじゃねえんだ。ただ、驚いたんだよ・・・」

「銃のおかげでバダムさんに仲間になってもらおうって決めたんだから、怒るはずないですよ」

「リーミヤ殿、それはどういう意味で?」

「えーっとねー、客人を殺してでもサイエンスを広めない。なのにトレーラーを乗り回す。そうすると隠したいのは、自走式の乗り物じゃない。もっと恐ろしい物だ。車のある時代なら、武器は銃だろう。ならロンダール家がこの世界に広めたくないのは、銃。強力な武器なら、当主の自衛手段として受け継がれているはず。そんな秘密を常に身に付けているなら、国の上層部にも客人の子孫達の組織にも深入りはしてないだろう。見事な覚悟、俺より見事な作戦。こりゃ得難い人材だ。じゃあ、仲間になってもらおう、って感じ?」


 心の動きを詳しく聞かされ言葉もない6人だったが、サーミィが笑い出すとそれは瞬く間に伝播してギルドホールに笑い声が響いた。


「なんだよそれ、客人ってのはおんもしれえなあっ!」

「姉さん、失礼よ。でも自分の思考を淡々となぞって聞かせる人なんて、初めて見ましたっ」

「リーミヤちゃんらしいねえ。かわいい顔して、ニコニコしながら誰より深く物事を考えてる」

「まあ、リーミヤですから」

「軍をリーミヤに預けたら、この国は2000年の繁栄を約束されたも同じだな。どうだ、リーミヤ?」

「やんないよ!?」

「ジャス殿、軍だけでは足りませんぞ。いっそ国を! ・・・ああ、この国では些か狭すぎる。南か北に漕ぎ出て、広大な地域を手中にせねば!」

「絶対やんないよ! 建国がどんだけ面倒臭いか知ってんだからねっ!」


 あーでもないこーでもないと騒ぐ面々だが、呆れ顔のリーミヤが手を叩いて注意を集め、やっとの事で静かになった。


「と、取り乱しました。セレス殿、結界魔法は?」

「大丈夫ですよ」

「では、客人の先祖が残してくれた銃はこれになります」


 ゴトリ。

 その重々しい音で、リーミヤとバダムを除く5人の表情が引き締まる。若いユーミィなどは、緊張で喉を鳴らして唾を飲み込んだ。


「リーミヤが使うのとは違うな・・・」

「俺のはオートマチック。これはリボルバーだからね。思った通り、32口径か。バダムさん、触ってもいいですか?」

「もちろん。どうぞ」

「じゃ、遠慮なく。・・・各部はヘタれてるけど、まあ動作に支障はないか。薬莢にサビもなし。あれ、ハンマーに叩かれた痕がある。残りは、3発か。これじゃ、しくじる可能性のほうが高いねえ。はい、ありがとうございます」

「もうよろしいので?」

「はい。いい銃ですよ。ダブルアクションだし。で、32口径拳銃とメンテナンスセット取り出し。あ、弾薬30も、だね」


 あっさりと出された銃を、リーミヤは鮮やかな手捌きで分解してゆく。


「な、何してんだ、リーミヤ?」

「んー? 部品取り。おっちゃんだってご先祖様の使ってた古い剣があったら、それと同じ新しい剣を貰ったとしても古い方を使いたいでしょ?」

「ま、まあそうだが・・・」

「まさかこれを修理するとっ!?」

「トレーラーもね。たぶんどっちも永遠に使えるんじゃなくて、劣化しにくいだけだから。このままじゃいつか壊れるよ。うし、こんなもんかな。バダムさん?」

「・・・はっ、はい」

「見てわかる通り、その銃は様々な部品を組み合わせて出来てます。バレルとかシリンダー。あ、これとこれね。それにグリップ、ここ。これはご先祖様の武器を使います。でもそれらを繋いで動かすためのいくつかの部品はもう古くて傷んでるんで、この新しいのと変えちゃいますよ?」


 バダムは声を出せずにいた。

 堪え切れぬ涙が溢れて、テーブルに落ちる。


「・・・えっと、バダムさん?」

「このトレーラーと銃は、千年もすれば使い物にならなくなるだろう。だが、私が子孫であるロンダールの当主に命じた役目は、ロンダールが滅びるまで続く。トレーラーのあるうちに財を成せ、無駄遣いは許さん。トレーラーのない子孫のためにそれはあるのだ。銃の弾が切れれば、鬼になってでも子を鍛えよ。一切の妥協は許さん。銃がなければ剣で斬れ。それが出来ぬなら、ロンダールの名は捨てよ・・・」

「ご先祖様もカッコイイなあ・・・」

「その後もあるぞ、リーミヤ。重ねて言うが、客人を殺す必要がなければ手を貸してやれ。幼子ならば親となり、年近ければ無二の友となれ。老いていたなら親として敬い、決して苦労はさせるでない。違う世界にひとり、そんな人間のなんと心細き事か。ってな」


 サーミィが胸を張る。

 このリーミヤより少しばかり年嵩の美女も、先祖を心から誇りに思っているらしい。

 たまに葡萄酒を舐めながら作業していたリーミヤが拳銃をバダムの前に置くと、彼は震える手で包み込むようにそれを持ち上げた。


「弾も新しいのを込めてあります。これが予備の弾。手入れの道具なんかは、後で渡しますよ」

「ありがとう、ございます・・・」

「親父、ロンダールはこの礼に何を渡せばいいんだろうなあ。ここまでしてもらったんだからよ。てか泣くんじゃねえ。いい歳なんだから」

「泣いてなどおらん! リーミヤ殿、私に何かできる事があればなんなりと・・・」

「え、そうですかー。じゃあ遠慮なくっ」


 セレスが苦笑する。

 ダラスも似たような感じの笑顔だが、ジャスは大げさに頭を抱えていた。


「あんまり無茶は言わないのよ?」

「お手柔らかに頼むよ、リーミヤちゃん」

「俺達ならもう慣れたが、ロンダールの旦那達は耐性がねえからな」

「俺をなんだと思ってるんだか・・・」

「どんなに困難でも、やり遂げてみせます。なんなりとおっしゃって下さい」

「ありがとうございます。じゃ、俺とセレスをトレーラーでの仕事に連れてって下さい。あ、客人ってバレないように使用人として」

「はっ?」

「本気なの、リーミヤ?」

「もちろんっ。新婚旅行、行くよっ!」



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