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新人冒険者はあの日に見上げた背中を覚えている-5




 沈黙が続く。

 それを破ったのは、バダムだ。


「国を、政治を変えようとおっしゃるので?」

「いいえ。せっかく何人もの客人が国政に関わって少しずつ良くなってきたのに、それを大きく変える必要はないでしょう」

「ならば、どうなさるおつもりで?」

「国は客人を恐れている」

「まあ、歴史が歴史ですから・・・」

「王侯貴族もそれなりに自重を覚えた。議会とやらにも自分の儲けしか頭にない人間は多いでしょうが、客人の子孫達がある程度は目を光らせているんでしょう?」

「政治家ギルドは小さな組織ですが、汚職を許したりはしませんな」

「そこを利用すれば、いくらかは人も資金も動かせるでしょう」

「ハンパな人員と資金では・・・」


 リーミヤがタバコを消す。バダムもその視線でもう消すべきだと気が付いたのか、名残惜しそうに灰皿で揉み消した。


「要は仕事があればいいんです。怠けてメシも食えない男は死ねばいい。でも仕事がなくて家族を飢えさせる男には、誰かが仕事を与えるべきでしょう」

「それはわかりますが・・・」

「理想論。笑ってくれていいですよ。でもね、俺がリーミヤ・ヒヤマである限りは何とかしようと努力します。手伝って下さいよ、バダム・ロンダールさん」


 バダムが目を閉じる。

 長女は幼少の頃に先祖の言葉を伝えると、何も言わずに剣の道に進んでしまった。王都の道場で剣術小町などと言われているうちは良かったが、冒険者になられてからは心配の日々。妻と2人で眠れぬ夜もあった。

 そんな長女の人生を歪めてしまったのを本気で後悔していたので次女には先日、客人が現れてから先祖の言葉を伝えたが、次女はすでに知っていた。

 いつの間にか男前に育った、育ってしまっていたサーミィが伝えたらしい。

 その上で次女のユーミィも、客人がこの世界にサイエンスを持ち込むのならば一命をもってそれを阻止すると決め、魔法の習得に励んでいたそうだ。

 その2人の気持ちは嬉しかったが、バダムとて父であり一族の長である。

 客人の命をどうこうするなどという極刑確定の使命に、2人を巻き込むつもりなどない。金獣騎士、鉄腕聖女、樹国の美姫とは商売柄もあって顔見知りだ。あの3人なら娘達を助けてくれるだろうと信じて、2人をこの村に預ける事にした。

 客人がサイエンスを知らぬか、知っていても広める気がないのならこの村で冒険者をやればいい。下手な大学等より優秀な人材が集まっている村なのだから、学べる事はいくらでもあるだろう。親の欲目だが2人は性格も能力も悪くない、そうする事はきっと客人の助けにもなる。

 そして客人がサイエンスをこの世界に広めるつもりなら、先祖がそのために残してくれた武器で客人と刺し違える、つもりだったのだが・・・


「・・・いやはや。こうも覚悟が無駄になったのに、すぐ新たな決断を迫られるとは」

「死ぬ覚悟は見事でしたよ。男はそうじゃなきゃいけねえ、なんてうちの爺様なら言いそうです」

「もちろん、その覚悟はしておりました。ですがこれは、理想を体現するお方の手助けをするかしないかの決断でしょう」

「ははっ、大げさな。俺のいた世界じゃ父が王様やってたんですけどね、ガキが飢えてるのを放っとくような国ならなくなっちまえって言ってました」

「父君が、王・・・」

「ああ、俺は商人になる前に勉強してたただの学生ですよ? うちの国には、王子なんて立場はなかったんです」

「それはどういう?」

「父もその仲間も、父が国を作ったからってだけの理由で子孫がその立場を継ぐのはおかしいと思っているからですよ」

「なら父君は何のために!?」


 バダムは心の底から驚愕している。

 富、名誉、それを手に入れたのなら、それを子に残したいというのは自然な心の動きなのではないのか。


「だからー、飢える人とかいないようにするためですって。ついでに子供が外を駆け回って遊び、老人達が散歩なんかに気軽に行けるようにしたいってのもあったみたいですけど。まあそんな訳で、ここは俺が暮らしていく国ですから、せめて飢える人だけはなくしたいんです。手伝ってくれません?」

「具体的には、・・・いや。案を聞いてからの決断に意味はありませんな」

「そうですか?」

「ええ、そう思います。・・・条件を出してもよろしいでしょうか?」

「もちろん。たぶん断りませんから、ドーンっとおっきく出て下さい」

「おやおや、商人になるはずだったお方がそんな事をおっしゃいますか」

「カチューシャは100年後の平和のためになら、すべてを投げ出せる商家です。お気になさらず」


 リーミヤの瞳は鋭い。

 それを見たバダムは、何かを確信したように頷いた。


「条件は、簡単です。我が家の子孫がサイエンスを広めようとする客人を始末する時があれば、どうか手助けをしていただきたい」

「約束しましょう。なんなら俺が手を下します」

「いえ、それはロンダールの仕事ですので。では、具体策をお聞かせ願えますかな?」

「ギルドホールで話しましょう。それまでに、娘さん2人をどこまで関わらせるか決断して下さい」


 具体策なんてないんだけどなあと内心で溜息を吐いたリーミヤはそう言ってハンドルをひと撫でし、さっさと運転席から降りてしまう。

 慌てて追ったバダムが施錠を終えると、2人は南門の門番に声をかけて村に戻った。


「たっだいまー!」

「ロンダールの旦那は、・・・無事のようだな。安心したぜ」

「セレス、ロンダール家より前に科学を持ち込んだ客人は?」

「いきなりね。ないとは思うけど、その判断が正しいとは断言できないわよ。現にトレーラーがクルマだった事は、リーミヤに教えられるまで知らなかったし」

「その程度で充分。おっちゃん、ダラスさん、セレス、俺はこのバダム・ロンダールさんに仲間になってもらおうって決めた。そうすると、隠し事もなしになる。いい?」


 3人が考える仕草を見せる。

 だが、すぐに顔を上げた。

 リーミヤはニコニコ顔でテーブルに着いたが、バダムは緊張しているようだ。

 仲間になるって、王国の至宝とも称される3人と肩を並べなくてはいけないのか!? 叫べるならそう叫んでしまっているだろう。


「『すきる』のあるリーミヤの判断なら間違いねえだろ。俺はいい」

「あたしも任せるよ」

「同じく。ですが、なぜロンダールさんなの? どこから見てもリーミヤは、ロンダールをよく思っていないように見えたわ」

「覚悟の決め方。それと死なせたくない娘2人をおっちゃん達の懐に委ねる事で命を救う策、だね。つまりバダムさんはおっちゃんみたいに死ぬと決めた時に死ねる男で、おっちゃんみたいに戦えないけどその分ずうっと頭が回る。こりゃ仲間になってもらうしかないでしょ」

「・・・買い被られたものですなあ、これは」

「カチューシャは商売の家、買い被りなんてしませんよ。正当な評価」


 言いながら、リーミヤが金属製のカップをバダムに向かって突き出す。

 それにバダムは勢い良くカップをぶつけ、2人は一息で葡萄酒を乾した。


「ふふっ。なんだこれ、楽しいなあ。・・・父さんもこうだったのかな」

「おいおい、2人だけで乾杯してんじゃねえよ。俺も混ぜろ」

「もっちろん。あ、それでバダムさん、どうします?」

「サーミィ、ユーミィ。私はリーミヤ殿の夢に賭ける。正直、商人の追う夢ではない。損を恐れぬし、苦労もするだろう。だが、私はリーミヤ殿と共に夢を追う。2人は好きにするといい」

「いい歳の親父が熱くなりやがって。夢ってのはなんだよ?」

「この国から、飢えている者をなくす」

「はっ・・・」

「え・・・」


 2人は声もない。

 冗談を言うような父ではないが、さすがにこれは冗談だろう。そう判断すると同時に、バダムの目に気がつく。

 3日、寝ずに話し合ってこの村に来た。

 母とお前達は王都の自宅にいてくれ、そう言ったのはその初日。

 いい目をしていた。

 親でなければ惚れそうなほど、自分への愛が感じられる瞳だった。だからこそ、そんな父の力になろうと、どんな過酷な刑に処される覚悟も決めて着いて来たのだ。


「本気、なんだね?」


 サーミィの声に、バダムが頷く。


「待って下さい、お父様。たしかにロンダールの家財とトレーラーを売りに出せば、今年の餓死者は出さずに済むかもしれません。ですがそれでは、来年はどうするのです!」

「リーミヤ殿がどうやってそれを成すのかは聞いていない。聞かなければ決められないなら、王都に帰るといい。母を頼む」

「そんなっ!」

「えっと、なんか想像以上の話になってるんだけど。夢とか覚悟とか・・・」

「そりゃそうだろ。どうせリーミヤの事だから、王位を奪ったりせずにそれをするってんだろ?」

「そんなん当たり前。まだ使える船に乗ってるのに一部の乗組員が飢えてるからって、わざわざ新しい船を作る必要はないでしょ」


 その笑いながらの発言を聞いて、ユーミィはプルプルと震え出した。

 そんな妹の肩を、サーミィが優しく押さえる。


「アタイは乗るよ、その話」

「姉さん!?」

「ほう、剣術小町は賛成か」

「ぎゃっ、ジャスさん。その呼び方は、それだけはご勘弁をっ!」

「まあまあ、落ち着こうよ剣術小町。それとこれからよろしくね。お父さんの商会を潰したりはしないから、それだけは安心して欲しい。ね、剣術小町?」

「こんの、客人だと思って優しくしてれば!」

「はっはーっ。それじゃ、乾杯をやり直そうかねえ。これを飲んだら追加のツマミも出すよ」

「ホーホーの焼き鳥、美味しかったから嬉しいや」


 それぞれのカップに、葡萄酒が満たされる。

 リーミヤが笑顔でそれを持ち上げると、皆もそれに続いた。


「お待ち下さい!」


 叫んだのはユーミィだ。

 顔が赤いのは、このメンバーに自分の思いをぶつける事が不遜だとでも思っているのか。


「はい、待ちますよー」

「わ、私はまだ子供です。魔法は使えますが、セレス様のように精霊魔法は使えません」

「それがどうしたの?」

「ですが父様には劣りますが、代金の計算や商品の手配は出来ますっ!」

「うんうん」

「ですから、ですから・・・」

「飢えている人がいない国。乱暴な手段は取らない。それにユーミィちゃんが言ったように、今年の食事を用意して終わり、なんて簡単な話じゃない。大変だと思うけど、手伝ってくれる?」

「はいっ!」



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