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新人冒険者はあの日に見上げた背中を覚えている-4




 やがてテーブルにダラスの料理が運ばれる頃には延び延びになっていた自己紹介も終わり、和やかにとは言い辛いが睨み合いなどはなく食事が始まっていた。


「ふーん。客人を待つ3賢者、ねえ・・・」

「俺の後任はリーミヤで決まりだな」

「え、客人が客人を待つ3賢者になれるのっ?」

「いいんじゃねえか。軍務省のは、誰より腕っぷしが強くてそこそこ先が読めりゃいいんだし」

「となると、あたしの後任探しが問題だねえ」

「鉄腕聖女様の後任となると、難しいでしょうなあ」


 髭に肉汁の1滴すら付けずにホーホーのソテーを口に運んだバダムが言う。

 バダム・ロンダール。

 ロンダール商会の当主であり、この村で冒険者をする事になったサーミィとユーミィの父親であると自己紹介していた。


「サーミィさんも強そうだけど、この世界の女の人ってみんな強いの?」

「女は生まれ持つ魔力が多いからな。でも、冒険者や兵士になるのは女ばっかじゃねえぞ。半々くれえか」

「門番さんは男ばっかだもんね」

「交代で月の巡り1つを村で過ごしてもらうからな、女は入れてねえのさ」

「話は変わるけどバダムさん、露店って明日もやってます?」

「さっき念話魔法で確認したら、希少品は売り切れたみたいですよ」

「わお。やっぱり、珍しい物はすぐ売れるよねえ。教えてくれてありがとう、ユーミィさん」

「呼び捨てになさって下さい、年下ですし」

「いえいえ、癖ですのでお気になさらず」

「何か欲しい物でもあったのですか、リーミヤ殿?」


 苦笑しながらリーミヤが首を横に振る。

 自己紹介のついでに、ロンダール商会はリーミヤへの無償援助を惜しまないと宣言した。それはすでに断ったが、バダムがリーミヤの力になれる期待で目を輝かせたからだろう。

 自分の代で客人がこの世界に訪れ、しかもその客人がサイエンスを知りながらこの世界に広めないと断言したので、どうにか少しでもリーミヤを援助したいらしい。


「冷やかしに行こうかなと思っただけですよ。ところでバダムさん、あのトラックは何で動いてるんですか。燃料なんてこの世界にはないでしょう?」

「理屈はわかりません。ただ、あれは神に授けられた物だと家には伝わっております」

「・・・車を神が? あれを見れば、自走式の馬車を作ろうって思う人間やドワーフは多いはず。そんでロンダール家のご先祖様は、科学をこの世界に持ち込ませまいと子孫に命令までしてるんでしょ。・・・なんかチグハグだな」


 食事の手を止め、リーミヤが腕組みまでして悩んでいる。


「神託でも神の真意なんて聞けないのよ。考えるだけムダだと思うわ」

「『もしも異世界に着の身着のままで放り出されたら最終巻』、神様なんてモンの考えはわからん、悩む暇があれば楽しめ、か。バダムさんのご先祖様って、いつ頃の人です?」

「1000年ほど前の客人ですな」

「で、自走式の馬車はまだ開発されていないと?」

「ええ。泥棒避けの加護があるので、中も見られてはおりませんから。運転席に入れるのは当主とその妻と子だけで、従業員やお客様はトレーラーの客室ですし」

「まあ、見ても理解できないとは思うけど。まさか魔法的なアプローチをしてないとかないよねえ・・・」


 食事を再開したリーミヤに、サーミィが葡萄酒を満たした金属製のカップを押し付ける。


「飲めるんだろう?」

「多少はね」

「なら酌み交わそう。この村に冒険者はリーミヤ1人。ユーミィも冒険者登録したばかりだから、仲良くなっておかないとな」

「あー、その問題があったか・・・」


 頭を抱えるジャスを不思議そうに見る、ロンダール家の3人。


「ユーミィちゃんは念話魔法を使えるようですから、すぐにバレます。話しておいた方がいいんじゃないですか、ジャスさん?」

「だねえ。C級の冒険者であるサーミィをこの村に住まわせるのは、リーミヤちゃんの護衛と教育係のつもりなんだろうし」

「とんでもない! 金獣騎士、鉄腕聖女、樹国の美姫のお三方がおられるのに護衛や教育係など!」

「だがよ、ロンダールの旦那。冒険者になったリーミヤのパーティーにちょうどいいと思って、大事な娘2人をこの村に置こうってんだろ?」

「サーミィが言うには、冒険者になったなら同じ程度の仕事をこなす、信頼できる仲間がいた方がいいとの事ですので」

「だがな、本気を出したリーミヤは俺達より強いんだよ。本気じゃなくても、戦闘や狩りだけならCかBだぁな」

「なんですとっ!?」


 バダムの目が、これ以上ないほど見開かれている。

 記録に残っている戦闘系の客人3人が3人共、国を滅ぼしかけたのだから当然か。


「こりゃ驚いた。リーミヤは4人目の戦闘系かあ」

「4人目? 戦闘系? ああ、奴隷制度を廃止するために王族を皆殺し寸前にまでしたって話とかかな」


 実際には王族の中でもマトモだった者達は、客人に何の手出しもされていない。それどころか、奴隷制度廃止の数年後に突如として始まった隣国の侵攻を跳ね返したのは、王族を何人も殺した客人の力によるところが大きい。


「戦闘系の客人ですか。王も頭が痛いでしょうなあ」

「ハン。今代はD級のボンクラだ。客人に会う資格もないんだから、気にする必要はないよ親父」

「D級?」


 葡萄酒を舐めるように飲んでいたリーミヤが、サーミィの言葉に反応する。


「知らなかったのか。冒険者と同じで、王にもランクがあるんだよ。Dは国政に関わる事すら許されない。ま、お飾りなのさ」

「誰が王のランクを決めるの?」

「神様さ。戴冠式の儀式で、神託が下される。そうなったのは、教会の腐敗を正した客人が来てかららしいけどね」

「また神様かあ・・・」


 神様って暇なの?

 リーミヤはそんな事を思いながらダラスを見遣るが、豪快な笑い声が返って来ただけだ。


「リーミヤ殿。露店を出している者達は、トレーラーの客室に泊まります。興味がおありでしたら、運転席にもご案内いたしますが」

「おー、行きたいです」

「では、まいりましょうか」

(ちょっと行って来るね)


 リーミヤとバダムが席を立つ。

 続く者はいないが、セレスだけは心配そうにその背中を見送っていた。


(手加減してね、リーミヤ)

(ま、殺しはしないと思うよ)

(おいおい、穏やかじゃねえな。大丈夫か?)

(平気だって。ちょっと宣戦布告するだけだから)


 4人の秘密である異世界のパーティーシステム。その【パーティー無線】から聞こえたリーミヤらしくない物騒なセリフに、3人は度肝を抜かれた。


 月明かりの道を2人は歩く。

 バダムは上機嫌だった。客人に巡り会った幸運、その客人が聡明であった奇跡に感謝しながら夜の通りを歩く。


「しかし客人の子孫が客人の援助をするなんて、面白いですね」

「客人に会う事があればそれを助けよ、どの家にもそう伝わっておるそうですよ」

「バダムさんのご先祖様も助けてもらったんですか?」

「それはもう。それぞれの稼業の他に各ギルドの創設から運営までを、数千年前も続けてきた方々ですからな。その援助がなければ、いくらトレーラーがあっても先祖は財を成せなかったでしょう」

「なるほど・・・」


 南門の前にはいつも焚き火があり、そこには店仕舞いをした露店の屋台と3人の男達がいた。


「旦さん、お疲れさんです。門番さんには酒壺を差し入れて、朝までここに屋台を置かせてもらえるよう頼みました」

「待たせたようだね、すぐに客室を開けよう。好きなお酒を1樽と、保存食も好きに食べてからゆっくり寝るといい」

「ありがとうございます」


 3人の男が滲ませた喜色に、リーミヤはこの3人は護衛ですらないのだなと悟る。

 村の外に出るとトレーラーの横のドアをバダムが開け、3人はおやすみなさいと挨拶しながら乗り込んでいった。


「施錠は内側からなんですねー」

「それはそうです。人間は犬猫ではないのですから」


 その言葉を聞きながら、リーミヤは枝を払った丸太で組まれた防壁を見た。

 ちょうどトレーラーを見下ろす位置に、猫のシャルが丸くなっている。月明かりに照らされる彼女は、まるでセレスのように美しい。リーミヤは、心から思った。


「鍵を開けましたよ、どうぞ」

「はい、おじゃましまーす」


 リーミヤは笑顔で運転席に乗り込む。

 ハンドルのある方のドアをバダムが譲ったのは、純粋な好意からだろうと思いながら。


「・・・やっぱり超エネルギーバッテリー動力じゃない。かと言って、運び屋の爺ちゃんのガソリンエンジン車とも少し違うな」


 助手席に回ったバダムがドアを閉め、しっかり施錠までしたのでリーミヤもそれに習う。


「おや。お気遣いありが・・・」


 口を開いてから絶句するまでの僅かな間に、バダムの額には汗が噴き出している。

 リーミヤの手にあるものを見たからだ。


「見誤ったのか、私は・・・」


 その呟きを聞き、リーミヤが微笑みながら手を開く。

 それで、握られていた拳銃は消えた。だが、バダムの冷や汗は消えてくれない。


「さて、好意には好意を返す。ヒヤマの家はそんな感じです」

「す、素晴らしい事ですな・・・」

「ロンダール家も素晴らしい。ここで、その懐の銃で俺を殺しても、あの3人が娘さん達を助けてくれるって計算は正解だと思います」

「その必要はなくなったと、心の浮き立つ思いだったのですが・・・」

「まあ、殺す気で会いに来られたんですから、殺される覚悟もして来たのでしょう?」

「・・・はい」


 バダムは腹を据えたようだ。

 薄く笑んでからキセルを取り出して葉を詰める。


「良かったらこれを。地球の煙草と同じ物ですよ」

「これはこれは。最後に先祖への自慢話の種をいただけるのですな」


 リーミヤのライターにバダムが顔を寄せる。

 目を閉じてその紫煙の薫りをうっとりと楽しんでいると、スモークの貼られた窓が少しだけ開いて煙を散らした。


「メシも、酒も、煙草も、女も。何もかもが地球に劣る。ただひとつ、生きる力を除いては・・・」

「ご先祖様の言葉ですか」

「ええ。生きる力とは、何なのでしょうね」


 リーミヤは答えない。

 バダムも問いかけた形ではあるが、それを待っている風ではなかった。


「ガキが生意気を言うんじゃねえと怒られそうですが、どうにも飢えている人間を放っておける奴らが嫌いでしてね。だから、客人の子孫も好きじゃねえんです」

「ほう・・・」

「地球よりマズイ食事くらい、誰もが毎日ちゃんと食える国にしませんか?」



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