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新人冒険者はあの日に見上げた背中を覚えている-3




 ジャスは、我が目を疑った。

 ゴシゴシと目を擦って、またホーホーを見る。

 両目に矢が突き立ったホーホー。たしかに倒れているのはそれだ。


(周囲にマーカーなし。これならアイテムボックスに入るね。なんでかガルー2匹分の100も経験値があるし、もっといないかなー)

(どうでした、ジャスさん。リーミヤの弓の腕前は?)

(・・・どうもこうもねえよ。右目に矢が生えたと思ったら、瞬きするより早く左目にも矢が突き立ってた。どのくらいまで接近して矢を放ったんだよ)

(15メートル、ってわかんないか。ギルドホールの端から端までくらい。あ、横じゃなくて縦ね。玄関から入って、壁にぶつかるまで歩いたくらいだよ)

(あの臆病なホーホーに、そこまで接近したのかよ。・・・おい、リーミヤ。正直に言え、もしかして俺が一緒にいたら狩りのジャマなんじゃねえか?)

(んな訳ないじゃん。モンスターの種類とか生態を教えてくれるし。収納っと)

(それを覚えた後は?)


 リーミヤが戻るのを待ちながら呟くジャスの目は真剣である。

 二つ名までついている冒険者。それも国内に3人しかいないS級だ。プライドも人一倍あるのだろう。


(同じでしょ。敵が弱くて単独なら、今みたいに【隠密】を活かして倒せる。でも一矢で倒せない強さのモンスターとか、弱くても群れてるモンスターなら?)

(まあ、な・・・)

(戦いは数だって、運び屋の爺ちゃんも言ってたよ。まあ、その後の演習で120人の部隊を壊滅させたらしいけど。それより、そろそろ戻らないと村に着く前に日が暮れちゃうかも。おっちゃん、帰りにこの時期の薬草があったら教えてね?)

(ああ、それはいいが薬草採取より、狩りの方が稼ぎになるぞ。今日から再開するギルドの酒場は、国から運営費が出てて仕入れ値もそこそこいいんだ。毛皮はキャラバンが買取るしな)

(国から?)

(この村は、客人に会わせても大丈夫な人間しかいないだろう。酒場の料金は国から支払われるのさ。娯楽のない辺境で暮らす奴らへの、ちょっとしたご褒美だな)

(それなのに、俺が来たせいで酒場は閉店してたのか。申し訳ないなあ・・・)


 弓を背負って戻って来たリーミヤの頭をジャスが撫でた。

 すぐに2人は村を目指して歩き出すが、ギルドに納品できる薬草を見つけるとジャスがその値段と採取方法を教えるために立ち止まる。


「あれ、なんの音だろ?」

「どした、リーミヤ」

(アンタ達。どうやら、面倒事のようだよ。セレスに念話魔法が来てる)

(そろそろ貴族共が、客人の来訪を嗅ぎつける頃だからなあ。だが法を無視するバカがなんかするようなら、黒騎士団が動く。不幸な事故が何件か起こって終わりだろ)

(貴族絡みではないようです。魔法省のネール情報室長と、ジラント村に配置されている暗部の老夫婦に裏は取りました)

(で、何が起こったってんだ?)

(ロンダール商会の当主達が、この村を目指しているようです)

(おいおい、鉄箱のロンダールかよ・・・)


 リーミヤの頭の上に?が浮かぶ。

 だが何も言わずに足を速めたジャスに歩調は合わせているので、急ぐ事に否はないらしい。


(ジラント村で暗部がそれとなく警告したようですが、爵位を持たない客人の子孫が客人の手助けをするのは合法だと突っぱねたようですね)

(面倒だな。何が目的なんだか・・・)

(セレス、そのナントカ商会って?)

(リーミヤの前にこの国を訪れた客人の子孫よ。鉄の箱を操って、馬車より速く遠距離を移動するの。それで商売をする事で財を成した客人の子孫だから、鉄箱のロンダール家と呼ばれてるのよ)

(それって車じゃん! なら、さっきの音はクラクションかー。大っきいモンスターでもいるのかと思って警戒してたよー)

(車・・・ああ、あれがそうなのね。言葉で聞いただけじゃわからなかったわ)

(なんの事かはわからないけど、酒場の営業再開は明日っからになるねえ。ロンダールはリーミヤちゃんに会いに来たんだから、ギルドホールを使うしかないし)


 リーミヤは歩きながら考え込んでいる。

 考え事は南門に辿り着くまで続いたが、門の前にある馬車よりずっと大きな鉄の箱の前に立つと、酷く眩しそうにそれを見上げた。


(やっぱトラックだね。ずいぶんトラちゃんよりでっかいなあ。それにしても、どこの世界の車だろう。ああっ! マフラーがあるから、もしかして地球!?)

(なんだそりゃ?)

(地球は父さんの故郷だよっ。会いたかったなあ、その客人に)

(子孫とはすぐに会えるさ。まあ、そいつらの目的次第では俺の出番だな)

(客人を利用しようとすれば犯罪、か。どこまで行ったら犯罪なの?)

「あ、門番さん、お疲れさまでーす」

「おかえりなさい。商店の前にロンダール商会が露店を出してるそうですよ。なんでも、この村の商店といつも来るキャラバンが取り扱っていない商品を持って来たそうで」

「おー。楽しみだね、おっちゃん」

「のんきでいいなあ、リーミヤは・・・」

「大使、我が隊はいつでも捕縛に動けます」

「もしもの時は頼む。頼りにしてるぜ、精鋭」

「はっ!」


 ジャスと門番の若者のやりとりを、リーミヤはニコニコしながら眺めている。

 門を抜けて通りを進んでも、リーミヤはまだ笑顔を浮かべていた。


「なんでえ、ニコニコしやがって」

「いやー。俺は商人になるって決めてたからあまり関わらなかったけど、故郷にも軍人と冒険者はいたんだよねっ。さっきの会話とか、男の世界って感じでカッコイイなあって」

「なるほど。お、あれが露店らしいな。夕暮れ時だってのに、村中の人間が集まってんのかよ」

「明日も店を出すなら、セレスと見に行こっかなー」


 狭い村なのでそれだけの会話をすれば、露店の前を通り過ぎてギルドに到着してしまう。

 ドアに手をかける前に、ジャスはリーミヤと視線を合わせた。


「さっきの話だがな。客人に金や物を渡すにも、犯罪になるかならないか細かい取り決めがあるんだ。だが、爵位を持たない客人の子孫であればその額が大幅に緩和される。そして、その金品の見返りとして客人に何かを求めれば犯罪になるんだが・・・」

「大丈夫。何も受け取るつもりはないし、必要以上に親しくなるつもりもないよ」

「父親の故郷から来た人間の子孫でもか?」

「うん。だから大丈夫。ほら、早く行こう」

「イマイチ心配なんだよなあ・・・」


 ジャスがギルドのドアを開けると、壮年の男がまず立ち上がった。

 立派な口髭を蓄えた大男。帯剣はしていない。

 セレスと同じような貫頭衣を着た少女と、革鎧を身に付けた女も続いて立ち上がった。少女は両手杖を、女は両手剣をテーブルに立てかけている。


「はじめまして、客人殿」

「はあ、どうも。セレス、ダラスさんは厨房?」

「そうよ」

「りょーかい」


 珍しくギルドカウンターの向こうに座って書き物をしているセレスが顔も上げずに答えると、リーミヤはそのまま厨房へと足を向けた。

 置いてけぼりの男は困惑している。

 それはそうだろう。

 立ち上がったのは、挨拶と自己紹介をするためだ。


「ちょ・・・」

「まあ、座りなよ。ロンダールの旦那」

「これは、レオニウス卿。お久しぶりでございます」

「その呼び方は勘弁してくれ。ここじゃ、ただのジャスだ」

「噂は本当だったのですね。お三方が賢者を継がれたとは・・・」

「爺様達も歳だったからなあ。1人が欠けたら、春を待たずに2人も死んだ」

「お悔やみ申し上げます」


 4人が椅子に座ると、盆にカップを乗せたリーミヤが来て茶を配った。

 その様子を見て慌てたのはロンダールの当主と少女だ。女だけは、気軽に礼を言って新しい茶を口に運んでいる。


「リーミヤも座れよ」

「腹芸は得意じゃないんだけど?」

「上達してもらわにゃ困るぞ。セレスの様子を見る限り、いい稽古になりそうだから大丈夫だろ」

「・・・セレス、今って何してんの?」

「そちらの女性2人の、冒険者転居申請よ。村に住む許可を、議会が出したらしいの。それを村長も承認。3省の全権大使である私とダラスさん2人も承認したから、ジャスさんの承認を待たずに2人はこれから村に住む冒険者」

「本人達の前で言うのもアレだけど、面倒な事になったねえ。俺達が違う村にでも引っ越す?」

「そうしたいけど客人の来訪に関する全権大使、賢者と呼ばれる私達は後任を指名しないと職を捨てられないのよ」

「おっちゃん、後任に心当たりない?」

「あったらこんな役目を引き受けるかよ。いいから座れって」


 渋々リーミヤがテーブルに着く。

 そればかりではなく、うんざりした表情を隠さずにジャスから貰ったキセルを使い始めた。


「いやはや、嫌われたものですな・・・」

「監視役を嫌わない人間なんていないでしょう。監視なんて恥知らずな事をする人間は、自分達の事は棚に上げてるって相場は決まってるし」

「ほう、嬢ちゃん2人は監視役なのか」

「客人、どうしてアタイらを監視役だなんて思ってるんだい?」

「車を使うくらいの文明世界から来た人間の子孫だから。そして、商人って仕事も引っかかるね」

「ほう・・・」


 リーミヤと女が睨み合う。


「同じ村に住む、同じ職業の人間を疑いながら暮らすのは疲れる。お互いに1つだけ嘘なしで質問に答えるってのはどうかな、姐さん?」

「話が早くていいねえ」

「ちょっと、姉さんっ!?」

「ユーミィは黙ってな。まずはこちらからだ。サイエンスを知っているか? 知っているなら、この世界に広める気はあるか?」

「さらっと質問2つにしてるし・・・」

「面倒は嫌いなんだよ。腹の探り合いもね。さっさと答えな」

「知ってる。広める気はない。これでいいかな、地球人の末裔さん」


 女が満足そうに頷く。


「じゃ、俺の番だ。ご先祖様がいた世界の武器の作り方を知ってる?」

「知らないねえ」

「妹さんとお父さんかな。お2人は?」

「知りません」

「私も存じませんな」

「質問が余ったか。何を聞こうかな。・・・ああ、サイエンスは家に伝わってるの?」

「言葉だけ、な」

「なるほど。サイエンスを知ってる客人が来たら、殺してでも知識の流入を止めるのが目的って事か」

「その質問に答える義理はないね」



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