真実と現実
王都アリクスから東
シュメールから南
そこにガンドラはあった
ガンドラは代々レアトリック家が統治しており
当時レアトリック家の当主は
民からは親しみを込めてお父と呼ばれていた
お父
威厳などなく偉大ともいえない当主は
民からすれば接しやすかったからであろう
当主は部下にも大きな声で怒鳴る事もなく
不可解な命令を下した事はなかった
代々レアトリック家は民を家族と思えとの教訓があり現当主はその教訓どおり家族として接した
当主は人の笑顔が好きだった
他人とも言うべき人間が笑顔になった時
まるで自分の事のように当主も喜んだ
田を耕す民に向け手を振って
民も気軽に当主へ「やあ」と声をかける
中には近寄る者もいる
「お父、見てくれ!!今月は随分とトマトがとれてよお」
「嘘をつくな。今年は寒冷だったから昨年よりとれんかもしれねえと言ってたじゃないか」
領地の道を歩く当主に民は笑顔で話しかける
その笑顔を見てもう答えは分かっていたが
当主は分からない振りをしてふっかけた
「じゃーーん!!」
背中に隠していた大きな樽一杯に入ったトマトを
民は当主に見せびらかす
「どうよ!!何故かは知らないがね今年は鳥が襲いにこなくてよお例年より豊富にとれたのさ!!」
「そうか、そうか、それは良かった」
「へへありがとうよ」
「おい良いのか?こんなに貰って」
「お父!かたいこと言うなやザル一杯でそんなおおげさな」
「大袈裟なもんかお前から貰うものはいつだって貴重な品さ」
また手を振って別れをつげて
当主は民と離れた
当主はこのトマトをまだ幼き子供達に持っていけば
どれほど喜んでくれるのかと想像し
少しはにかみ帰路につく
当主は幸せだった
レアトリック家には城はなかった。
元あった城を解体して出来た木材を畑に群がる魔獣の為の柵に使った
減税したお陰で貯蓄もなくレアトリック家は諸侯と比べて質素な生活を強いられた
その事で他の豪族達からせせら笑えようとも
当主には民から善意で建てられた屋敷があり
そしてガンドラには人の笑顔と民からの当主への感謝の気持ちがあった
「今戻ったぞ」
家に戻り玄関口から大声をだすと
かけ寄っていく二人の子供達
貧相とも言われようとも
汚ならしいと侮蔑を受けようとも
当主には
「おちゃえりー」と
舌が足りなくてそして
可愛いらしく微笑む息子達がいたそして妻がいて
当主にはそれで十分だった
当主はその息子達を優しく抱きしめる
ガンドラが醜悪に包まれるのはそれから半年程経った頃だ
この時期
民達は疑問を抱いた
病と飢餓この2つが等しくガンドラに降りかかったのだ
最初は家畜が倒れた
それから人へと連鎖的に病が侵攻する
「畑から虫が多量に沸いてきやがる」
一人が酒瓶を片手に不満を漏らす
「全くだ、俺の畑も害虫のせいで殆どがお陀仏よ」
「何故だ」
「分からん」
「おい聞いたか?あすこの村また病人が出たらしい」
「またかよ最近になって倒れた人間が増えてるぞ」
「何故だ?」
「分からん」
「生まれて初めてだよこんな苦痛は、おい女房が倒れても俺は何も出来なかったんだぜ。毛布からはみ出た枯れ木のような震える手を握りしめる事しか出来なかったんだぜ」
このままなのか何か解決はないのか
村の代表らが顔を合わせ集会を開き
病と飢餓の原因を探ろうとするも
民達は答えを見つけられずにいた
疑問は焦りと苛立ちが生まれ
そして問いは違う形になってくる
何故、我らがこのような不幸を受けねばならぬのか
何故、我らがいらだこのような犠牲を払わねばならぬのか
なぜ我々が
「当主は何と?」
民達は当主をお父と呼ぶのを辞めた
「何も」
「何も?」
「この場にきた旅の者に病に付いて問いただしていたよ
俺ではなくな」
「あぁアイツは笑顔で手を振ることしか出来ねえよ」
「前の当主の時はこのような事は起こらなかったのじゃが」
集会に顔を出した老人がこの言葉を口に出した時
当主への失望と沈黙が場を制した
「当主のせいだ」
集まった民の中でポツリと漏れたこの一言は
すんなりとそして深く民の心に侵入する
「前はこんな事なかったんだろ?じゃあ当主のせいだ」
「そうなのか?」
「アイツの家族は何も起きてないんだろ?じゃあ当主のせいだ」
先ほどの一言に同調する者が出始める
「そうなのか?」
「他に何がある?アイツが当主になってからこうなったんだアイツのせいだ」
「アイツが俺の妻の命を奪ったんだ俺の妻を屍へと化したんだ」
何故当主がそんな事をするのか理解するより先に
民達は答えを欲していた
その中で当主の優しさが芝居のように民達の中で見えてきて、幾度となく振りまいていた当主の笑顔が邪なる物にも見えてきて
「天はアイツを当主からひきづりおろす為に我々に苦難を与えた」
と結論付けるまで
民達の笑顔は戻らなかった
◇
「お前達!何故このような事をするのか?」
大きな広場の中心に立てられた木の柱に縛られ身動き出来ない当主は周りに集う民へ答えを求めた
ある民はせせら笑う
「まだわからんか」
ある民が槍で当主の腹をえぐる
槍が赤く染まる様を見て
民はせせら笑う
「まだわからんか」
ある民は鍬で当主の顔を傷つける
当主の顔から血が垂れるのを見て
民はせせら笑う
「まだわからんか」
ある民はカマで足を切りつける
当主の足の皮が剥がれ肉がむき出しになった時
民はせせら笑う
「まだわからんか」
民からの罰を受けた当主の瞳は次第に光を失った
民の笑顔をまるで人ではない者を見るようになった
「本性を現したぞ!!」
「悪魔だ悪魔の瞳だ」
木の柱火をつけられた時
当主は絶望しただろう
や妻と息子達がいち早くこの土地から逃げただけでも当主にとっては幸運だったのかもしれないが
民の笑い声が良く響いた
当主がよく燃えたからだ
しゃがれた声で呻く当主の悲鳴も民の笑顔に花を添えた
当主が良民と呼んだ
当主が息子達と呼んだ民は
当主が黒く炭になる事を喜んだ
威厳は必要だったのだ貯えも必要だった
危機に対しては
優しさなどいらないのだ
当主は当主たるにはガンドラには不適当なもの
ガンドラの当主が良き民、良き息子達と呼んだ者は当主を焼き殺したあと嬉々として屋敷を襲撃した
此処には財宝が山ほどあり
此処には餓えなど存在しなくなる理由があると
当主には伝えなかったが
逃げた当主の妻を発見して磔にして焼き殺し
息子と娘を奴隷へと売り飛ばした時のように
善良な市民達は屋敷を襲撃する理由を探した
「アイツは我々をたばかったのだ」
「そうだそうだ」
「アイツのせいだ」
「そうだそうだ」
そういって屋敷の中へ入ると
良民には驚愕がまっていた
良民達自らが好意を持って建てた屋敷の中は何も無かった
埃まみれの玄関口
生活観のないロビー
明かりが灯らない蝋燭
詳細として
当主は屋敷にはあまり近寄らなかったようだ
大きな屋敷に一々通っていては
移動するものが疲れようと嘆かれ
必要最低限のものしか置いてはおらず
当主自身は前の家の中で過ごしていた
ただ良民への奉公の為にと通う振りをしていたのだから気づかぬのも無理からぬ事であろう
ただそれだけの屋敷の中で
さも特別な物のように大切に保管された厳かな箱があり
それを発見した者達はそうらと皆が皆拳を力強く握りしめ手を上げ
た
「ガンドラの当主の不正を見たぞ!!」
勝利者のように雄叫びをあげ
厳重にそして幾重に鍵をかけた箱を無理矢理こじ開ければ
大きな箱の中には書類の束が山のように見つかった
土地の借用書か何かと期待するも
その紙の束を手に掴んだ時
良民達はまたしても驚愕した
それはその書類の束は
良民と呼ばれたもの達からの感謝の手紙だった
それがさも大事そうにしまってあった
大事そうに大きな箱にいれ
大事そうに鍵をかけ
民からの感謝の手紙
まるでそれがとても高価な宝石であるかのように
大事にされていた
そんな筈はない
そんな事はない
アイツは悪党だ
いや
じゃあどうして?
「ウオ゛オ゛オ゛オ゛オオ」
誰かが泣き声を出したのをかわきりに
民は次々と目に涙を溜めた
真実は民の現実を打ち崩した
民の不安と不信が募ると同時に
良民達がお父と呼んだ男の最後の瞳がありありと浮かんだ
そしてそれはとてもつもなく重圧へと変貌し
あるものは崩れ落ち、あるものは泣き出し
あるものは自身が書いたであろう手紙の内容を読み返す、またあるものは手紙を握りしめる
屋敷に火がつけられた後
ガンドラには地獄が待っていた
◇
「ガンドラの民はそのあと諸国を旅していた芸人達に濡れ衣を着せようとしたが、ある男のせいで事実が露見した。ガンドラの民の邪悪さ残虐が浮きぼりとなり、多くの人間が罰を受けた、その罰は幼き子供達にまで行き渡ったらしい」
「その男とは私の事でね、その剣は滅んだレアトリック家の物だ当時私はそこで馬車で旅を商売をしていた、当主の腰にあったんだよ坊やが手に握りしめるその剣は」
武器屋のおっさんは苦々しく語り終え
サンタンデールへ質問した
「それで坊や、この剣はどこで手に入れた?」
サンタンデールにはそれが恐喝に聞こえた
元ネタは石田光成の治めていた領地の話と
ロビンフットの処刑の逸話のコピペです
両方とも結構しんどい内容です
補足として
鳥インフル→鳥死ぬ→鳥が居なくなる→鳥が餌にしていた虫が増殖→コオロギやバッタが畑の食物を食い散らす→飢餓
鳥インフル→鳥に移る→鳥から豚などの家畜へ→家畜から人へ→疾病が流行
こんな感じです
誰のせいでもありません




