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アナタ

「坊主大丈夫かい?顔が真っ青だ」


語り終えたのちサンタンデールへ店主はそう言った

その話を聞いてふとサンタンデールは昔の事を思い出した


青白い、青臭い、碧坊主


群青色の悲劇


悲劇は総じて青いものだとブラウンは言っていた


それは人間は青いものに対して少なからず拒否反応を示すからなのだと、青とは自然界にとって奇特であり異端であり毒である印なのだから


だから悲劇は相応にして青色でなければならないと


しかしながらサンタンデールは思い出した情景は赤いものであった


家が燃やされる光景や

自分の腹から血が滴り落ちる景色や

育ての親の皮を剥かれる場面や

最後に見た父の顔

 

これは悲劇と呼ばずに何と言おうかと


「あれは悪いジョークでした」



なる程私に対してその何かしらの疑いがあったようだ


「老人の話に訂正が御座います。レアトリック家の当主はいつも腰に剣を差しておりません、遠出する時だけです。そして今のお話を私に聞かせる前から、いやパカルが剣の話を貴方に持ちかけた時にも薄々気がついたのでしょう」


「私は貴方の推察通りの人物です」


老人とパカルは礼儀正しく頭を下げるサンタンデールを見て絶句する


ハズレて欲しかった現実が今目の前に現れたような顔をしながら首を捻る


その様子を俯きがちに見ながらサンタンデールは話を続ける


「当主は殺される前の晩あの時、当主は私に一切れのパンとこの剣を渡されました」


「それがレアトリック家の全財産の三分の一だったと知るにはそう時間は掛かりませんでした。理由は私が奴隷として売られるまで」


「モウイイ」


パカルはサンタンデールへ語るのを止めるよう

要求した


パカルは、苦労話が大嫌いだった

この想像力豊かな男は人の悲惨な体験をまるで自分の事のように感じる事が出来たのだから


「結構…では老人、そしてパカル、この話は聞かなかった事にしてくれないか?私はサンタンデールは第2の人生を歩んでいるんだ。レアトリック家なる滅んだ侯爵に今更未練などないのだよ」


「いや未練なんてアリアリだね」


老人はサンタンデールの意見に真っ向から反論した


「坊やは、あれだろ誰かに自分の存在を肯定してほしかったんだろ?自分とはいわず自分の家族だった存在も含めてだが」


「何故そう思うのです?」


「何故黙っていた?」


「……一介の武器屋風情が言うのも何だがね、これは終わった事だ坊主のお涙頂戴なんぞ今時のご時世珍しくもない、だが坊主の口調からはそれは思い違いのような感じを受けたよ切り離したい過去の物にしたいとは思ってないんじゃないか、坊主は戻りたいんじゃないかい?あの頃の自分にさ」


「それは貴方の妄想だろうに、私はそうは思わない」


「まあいい、それから話すがこの剣、これは宝剣じゃねえな」

サンタンデールの剣をしげしげと見つめながら

武器屋の老人はそう言った


「いやまて確かに私は見たぞこの剣が粘土のように曲がっていく過程を」


「宝剣ってのは、誰が持っても真価を発揮するもんだ。奥で試してみたが俺には出来そうもなかったぞ」


「いやこの柄にある玉ー」



ザッザッザ

と歩く度に砂を踏む足音がする

本来石畳であるブブゼブラでは聞こえる筈ではない

音なのだが、それは1000年の時の流れによって変えられたようだ


持ち主そっちのけで展開するパカルと武器屋の老人の議論は、サンタンデールには聞こえて来なかった


しばらくしてパカルと一緒に武器屋を出たあと

サンタンデールはパカルに不満を漏らした


「あのオッサンはまだ隠している」


「ほうそれは何故だ?サンタンデール?」


「ガンドラの事さ、あのオッサンは途中でこの剣の話をはっしょったようだ」


「フン、あの人もお前もガンドラでの出来事には口に出したくないようだな」


「そう言うこった。何も知らなかったのはパカルだけなようだ」


二人の前にある男が通り過ぎようとしている

帝国の象徴である青いローブを着込んだ男であった

頬に傷有る金髪の男、名前はジャニス

帝国の親衛隊の名前でもあった


「あんまり言ってくれるなサンタンデール、……おいアルバ人が歩いているぞ。帝国の人間がブブゼブブラに何しに来てるのだ」


「ん」




サンタンデールにとってブブゼブラの武器屋での暇つぶしは少々重いものであったのかもしれない


下を向いて歩くのも、また当然の結末なのだろう


運命と呼ばれるものがあるのだとすれば

奇跡と呼ばれるものがあるのだとすれば


ノーリターンポイント

決して引き返す事の出来ない道のりは

今この時この場所に表れたのかもしれない


もしサンタンデールが男の何かしらに気付いたのであるならば


私達はまた違う世界を目にしていたのであろう

だが運命はそうはならなかった


サンタンデールとこのすれ違った男


一人は革命の為の初まりの血となり

一人は王国の為の最後の犠牲となる



「何処にいるんだ?」


「もう通り過ぎたぞ、しかし不思議な男だったな、金の髪で目が黒色」


「王族の人間なんだろう。気にする事はない。ここはブブゼブラ、何一つ奇特な事はない」


「だな、そういえばその服装といい髪といいサンタンデールお前どうしたのだ?」


「おうパカルやい、コレから私は劇場に遊びに行くのさ、その為に色々とな」


「劇場は中央であったな成る程、ではサンタンデール急いだ方が良い、受付がもうすぐ終わ」


「さよならだパカル!!」


走りながら口に出す

それに答えるかのようにパカルは手を振った



1000年の時流れを持ってしても

変わらないものがある


ブブゼブラに建つ

ポンポンという男が作ったこの劇場は

作った当初と変わらぬままに人に満ちていた


サンタンデールは受け付けの人間にチケットの切れ端を渡したあと、ポンポン劇場の中に入る、そのあとチケットに書いてある席へ着く

暫くしてサンタンデールの目の前に不服そうに若い女性がやってきた


「貴方のチケットは何色ですか?」


「銀色です」


サンタンデールはその女性に銀色のチケットを見せる


「もう一度聞きますこのチケットは何色ですか?」


「銀色です」


「衛兵を呼び出しますよ。貴方風情が何ゆえにそれを持っているのかは存じ上げていませんが、今一度聞きましょう。このチケットは何色ですか?」


「スピカの友人です」


「まあ、銀色のチケットでは御座いませんか。このチケットに書いてある番号によると、私のお隣ですことよ、よろしくお願い致しますわ。所でお名前は……」


「サンタンデールです。」


「そう、サンタンデールと仰るのね。生憎とわたくし、名前と顔を覚える事が不得手なもので申し訳ありません。その整った顔を見るにさぞや名のある領主の息子なのでしょう」


「私は貴女の名前を知っていますよ。ティティ」


忘れる筈なかろうて


サンタンデールは見惚れ人と再会した



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