過ぎたるは!!
サンタンデールの答えは決まっていた
パカルに連れられて通りを散策していると
紫色で縁取られた大きな看板が目にはいった
「武器屋ってそのまんまじゃん」
「ああそのまんまだな、だがここの親父には昔世話になった事があってな。「そのまんま」それが侮辱の言葉だとするならば、私は親父殿の名誉が為、お前の口に私の剣を放り込まなければならないな。さあ所で同じ金属を長年握っていると自分の属性が乗り移る事を知っているか?」
「物に魂が宿るってヤツだろ、それでも20から30年ぐらい使わないと乗り移らないっていうんだけどそれはそれで私の剣がそうなるには年月が少な過ぎるんじゃないか。」
ヒューと流れる風の音と一緒にパカルは話を続ける
「、だが二つ例外があってな、宝剣と故人の物がその類だ」
「血縁者に渡されると同じ力が宿るってか冗談言うな」
そんな事が可能なのだろうか
血縁者同士とはいえ扱う属性が違えば性質も違ってくるのではないのか
「宿るというよりかは、いや、乗り移るというより、いやこれも語弊があるな、染みる、この表現が正しいかもしれん。なあサンタンデールコレは現実にあった話だ、魔法を使う人間と魔法を使えない人間の違いがお前には分かるか?」
魔力を体外へ放出が可能な者と魔力を体内へ留める事しか出来ない者。その分別が魔法使いと他の者との壁を作る
サンタンデールはその事を話そうとしたが言葉を上手くまとめきれずにいた
まとめるより先にサンタンデールの中ではこの寒空の下で話す事はない内容ではないとある程度の憤りがあり、長くなるのではあれば武器屋の室内で話そうとパカルが兜から太く重量ある声を漏らした当初から切り出したかった
「そんなに私と武器屋の親父を会わせたくないのかよ」
イライラしながらサンタンデールが質問すると
パカルも自身の想像した返答の内容と大幅に違っていたようで次にパカルがしゃべった声の質に多少戸惑いの色が混じっていた
「いや、そう言う訳ではない。失礼した、未だ冬の名残ある季節に立ち話するものではなかったな」
武器屋の扉の取っ手を掴みながらパカルは謝った
「さあ入ってくれ」
◇
武器屋の中は暖かく
ずうっと此処にいたいとサンタンデールは思った
室内にサンタンデールが目を向けると
扉から入ってすぐ右には大小のいくつもの槍がありまた槍の先端部分が三つか二つに分かれていたりそのまま真っ直ぐだったりと多種多様な物で溢れていた。
それら全ての槍は無造作にサンタンデールの腰の辺りまである長く丸い筒の中に入っていた
それが店の奥のカウンターまで壁に沿うように並べてある、そして壁には柄の装飾が見事な宝剣とおぼしき品が飾られていた
左側には、幾分か槍より数は劣るもののそれでもサンタンデールの目測上では40は越える程の剣が立てかけられてある。左の窓から漏れる光によって剣は鈍く光っていた
「意外と広いな」
サンタンデールは室内に入ってそう言った
事実、これだけの武器があるにも関わらず部屋の真ん中に人が容易に通れるスペースを確保したお陰で武器屋の中は広々と感じられた
「いらっしゃい」
頭の毛が少ない
それがサンタンデールのカウンター越しに立つパイプを口に加えたオッサンの第一印象である
頭のてっぺんに一本だけチョロチョロと波打ちながら揺れる髪の毛を見て、もしかしてネタでこのオッサンはそういう髪型にしてるのではとサンタンデールは思った
これは笑わないといけないのではないか?
「パカルよソイツが噂の奴かい?」
オッサンは紫煙を四辺に巻きながらハスキーな声でパカルに尋ねた
その後サンタンデールの顔をジロジロと眺め、「こんな奴が」と小さくささやく
「その通りだ、」
カウンターの近くにある椅子に座りながら
パカルはオッサンの問い掛けに答える
今この二人が何を言ってるのかサンタンデールには皆目見当が付かなかった
「何が噂なんだ?」
話についていけん
取り残された気分だ
「そうたなあ真相をしりたければ、腰にぶら下げてあるその直剣を俺に渡せ。色々と鑑定した後すぐに返すから」
オッサンはそう言い
サンタンデールへ皺くちゃな手を差しだした
この手に剣を置けという意味らしい
訝しげながらも
オッサンの鑑定した後すぐに返すという言葉を信じてサンタンデールは自身の愛用品を手放した
「ふむ少々重く作られているな」
奥の部屋で小一時間程過ごした後
サンタンデールの剣を優しくまるで赤子を抱くかのように持ち揺らしながら
二人の前へと戻り髪の薄いオッサンはそう言った
「右側の奴はフェイクか、なあ坊や、これはどういう剣だい?」
柄の中心に位置する宝玉を指差しながら
相好を崩してオッサンは私に話しかけた
「どうって?」
質問の意図が分からん
「装飾が豪華なだけのただの直剣だろ?ちとばかし私の魔力が染み付いた剣だ」
何処にでもある剣それを伝えたくて
ちょっとばかしをちょっとばかし強調してみたが
この後のパカルの反応を見てどうやら私の努力は杞憂へと変貌したようだ
「すまないサンタンデール。私の目から見ればお前が真実をはぐらかしているように感じるよ」
パカルは私に対して冷やしに似た態度で小馬鹿にしてくる
「…」
二人の男は共通秘密があり
その秘密を共用している
そこに私という存在を除いて
二人は話を進める
それがこの二人と私の間に
隔意を生じさせているのだろう
「…」
サンタンデールは不快に思った
「私があなた達にこの剣に対して秘密にしている事などない、私の答えは昨日酒場でパカルに話したとおりだ。この剣について私は何も知らない。だからこそ私は此処に居るのだ」
自然にドスのきいた声では話してみて
サンタンデールは自分が自分でない気がした
「怒っているようだな、サンタンデール心配するな俺らはちょっと鎌を掛けたのさ」
そう言ったパカルへサンタンデールが顔を向けると
パカルは降参といった感じで両手を上げていた
「サンタンデールといったっけ?坊やよく聞いておけ、今俺らでもお前が何故この剣を手にしているのかを分かっておらんのだよ、謎解きがまだ残っている。坊やに聞けや何かしら分かるのではないかと期待していたんだが…取り敢えずこの剣とガンドラの話をさせてもらおうか」
そう諭すようにサンタンデールへ話かけ
一呼吸置いてオッサンは煙を吐き出した
「今お前が手にしてる剣は11年前に民衆の手で滅ぼされた貴族、レアトリック家の宝剣だ」
「……」
「坊やは分からんかも知れないから一応説明させておく、レアトリック家というのはガンドラの一地方を統治するそれはそれは大きな権力と権威を持った貴族でな、何よりも民の事を愛し家族のように接してきたと聞く」
「ガンドラには剣よりもバターをといったことわざがあってな、今では信じられないだろうが、当時は農業が盛んな地方だったよ。地方を治めるレアトリック家は剣よりもバターをの通り質素で慎ましくそして優しかった。知ってるか?ガンドラの地方には城なんてなかったんだよ、城はなくともここに暮らす民の顔を見ればガンドラが如何に素晴らしいかを分かる筈だとその時の当主は苦笑混じりに答えてた」
「だが優し過ぎた。過ぎたるは猶及ばざるが如しってな、今から話すのはおとぎ話みたいに結があるもんじゃねえ、シュメールの南方ガンドラで起きた悲劇だよ」
オッサンは笑わなくなった
そして私も笑わなかった
その話を聞く前に耳を塞ぐかもしくは途中で終わらせ早々と此処から出ていきたかった
サンタンデールが実行に移さなかったのは
あの頃の恐怖より好奇心が勝っていたのだろうか
それとも……
サンタンデールは胸の奥底が痛くなるのを感じ
世界が反転したのかと思ってしまう
それはあながち嘘ではないのだろう




