お着替え八方よろしくどろん!!
太陽が昇る、朝が来る
それでもブブゼブラの街では小鳥の囀りは聞こえない
ならば誰が朝の訪れを知らせるのか
カン カン カン
どこからか金属を叩く音がする
朝の静けさの中でその音はよく響いた
すると、合図するかのようにまた違う所で
カン カン カン、と響いてくる。するとまたどこから
同じ音が聞こえてくる。それらが繰り返されそして重なり大きな音になり。何処からか荷車を引きずる音、その後で世間話や商談や談笑が始まる。
ブブゼブラでは小鳥が朝を知らせるのではない
ブブゼブラでは人間が朝を知らせるのだ
「……」
サンタンデールは頭をクルクルと回していた
起きた時首が痛かった
どうやら私はスピカと手をつないだままシーツが乱れたベットに頭を乗せる形で眠っていたらしい
「……またか」
前と同じようにスピカはもういなかった
大きく欠伸をしながら部屋から出て一階へ降りて見れば、宿屋のおっさんが顔を赤く腫らしていてサンタンデールは吹き出しそうになった
「おじさんその顔はどうしたんです?」
「小僧お前より先に降りてきたお嬢さんにな「昨晩はお楽しみましたね」と言うとコノザマだよ」
ざまぁ
「それは残念な事ですねおじさん」
「しっかしあれくらいでキレるかねえ」
「今時の若者はそんなものです期待する方がおかしいや」
「そんなもんかねぇ、でも小僧お前もあのお嬢さんとそれ程年は変わらんぞ、小僧が今時の若者と言うとなんだか怪しく思えちまう」
「私は特別ですから」
「それ流行ってんのかい?」
そう質問しながらおっさんはメモを取り出した
「それは?」
「お嬢さんが小僧に渡しといてくれとよ」
【絶対に舞台に来いそして絶対に風呂に入れそしてちゃんとした身なりにしろ】
「コレですかい?」
「そうそれ、何て書いてるんだい?」
「汚いから風呂入れと」
「へッあのお嬢さんの言いそうな事だな奥の風呂場なら貸してやる」
サンタンデールはぺこりと頭を下げた
「ご苦労かけます」
「」
「ただ今あがりました」
「まだ爪の先が汚れてる」
「」
「もう汚れは取れましたか?」
「おう次は髭だな」
「」
「もう髭は良いですよね?」
「おう…全部剃ったのかじゃあ次は髪だな」
「」
「ここもですか?」
「そうだぞ小僧」
「ですが誰も気付かないのでは?」
「匂いだ匂いが酷い酷すぎる」
「」
風呂に入ってから出てまた風呂場に行っては出ての繰り返しで、次から次へとそのおっさんの要求は続いてサンタンデールは参ってしまった
「おっさん脇の整理終わりました」
「今おっさんって…まあいい小僧中々の色男になったじゃねえか、毎日こうしとけや女を一人や二人侍らせるのによ」
「褒めすぎですおじさん私に褒めても何も出ませんよ」
「憎いねえこの色男、あと服装さえ整えてば道行く女性人はおめえさんの虜だぜ」
「あぁおじさんそいえば宿のお代をお支払いしていなかったですね」
「おいおいこんなに沢山銀貨だして小僧大丈夫なのかよ」
「スピカの分も含めればそうなりますよ、それにこんなにきれいにして貰ったお礼ですよ」
宿屋から出る時「やっぱガキはちょれええわ」という心無い声がサンタンデールの耳に聞こえたが
まさかあのおじさんに限ってそんな事を言う筈はないと頭を振り
サンタンデールは近く洋服店へ向かった
「」
店に並ぶ様々な服を眺めるも
サンタンデールは
見れば見るほど色が違うだけで全てのものが同じ服に思えた
「いやはやお目が高い」
後ろから洋服屋の店主が話かけてきた
「今貴方がお触りになられているものはジュメールの樹脂と十数年前に狩られたドラゴンの蒼い鱗を粉末状にし混合させ絹に染め上げたスーツで御座います」
「この餃子の皮は?」
「それはシャツでございます」
「なぜこんなビラビラしたものが付いているんだ?」
「お客様魔に毒されなかった生物の中で目と目の間隔が通常では考えられぬ程離れたハエがいる事をご存知でしょうか?」
「いや知らないな」
そのハエとこのヒラヒラはどういう関係なのか
「そのハエ何ですがね色々な学者達で何故目と目が離れるのか様々な意見が出てますがどれ一つとして正解と言えないものなのですよ。そのハエの体長にまで匹敵する程目を離す意味は何処にあるのかとまた女性の小指の幅ぐらいまでも離すまでハエは何故進化出来たのかと、我々の世界は分からないものだらけで御座います。さてこのフリルの話に戻させてもらいます。先ほどのヒラヒラしたものが何故付いたのかという事ですが、コレもハエと同じように分からないのです、このヒラヒラは一体全体何故?
これを付けると装飾屋が手間取って中々仕上がりませんし
女性から好感モテるというかもと言う人もいますが
その女性の間でもこのヒラヒラは不評です。こんなヒラヒラなにか枝とかに引っかかってビリビリなりそうとかなんか気持ち悪いとか、それが世間の風評なのですよ。一体全体昔の男達は何故こんなものを付けたがったのか、そして何故今もある一定の評価を受けるのかは
今世紀最大の謎なので御座います」
「謎か」
しばしサンタンデールは顎をさすりながら黙りこんだ、今世紀最大の謎という部分しか聞いてなかったからだ
「実はな今日とある舞台を見に行こうと思っているのだが」
「あぁ[アオサギとドラゴン]でしたか、主演の女優がいないという理由で公開が遅れた」
「そうだ、が、ある問題が発生してな」
「着ていく服がないと」
「ご名答で」
拍手したい
「フフ、世の若者達は外に出られぬ事を着ていく服がないと言うのを思い出しました。そして服屋に行けばいいと言うと服屋まできていく服がないなどとのたまう輩がはびこる中私の店にようこそおいで下さいました」
店主が頭を下げるとそれにつられるようにサンタンデールも頭を下げた
「不躾かとは思いますがお客様手持ちは幾らぐらいで?」
「金額4枚ぐらいは持っている」
「左様で御座いますか、丁度今お客様が手にしている服の値段は2枚なので十分に買えます。今ならこのフリルを取り除いてお売りしたいと思うのですが」
高いこの服ってそんなにするものなのか
「お客様お高いと考えてますね。そうで御座いますこれは非常に高い、金貨2枚あればリンゴが何個買えるか分かりません大樽10個分?いやいやもっともっと買えるでしょうしかし店主としてはこれは妥当な額だと思います」
「あのメドベーヌの宿屋とてこの服で入るのならば文句は言わぬでしょうて」
「アソコは敷居が高くてな、私など何を着ようがメドベーヌには入ろうとは思わんよ。ただどちらにせよ失礼ながら私としてはコレにそこまでの価値はないと思うんだが」
「おっしゃる通りですそう思われる通り見かけでは何の味付けもない質素な服です。ですがこの服にはですね魔法耐性があるのですよ。先に申し上げたとおりこの服にはドラゴンの鱗を粉末状にしたもので染めております。そしてジュメールもね、そうすると魔法で作り上げた火、或いは風に対して絶大なる防御力が付与されたのですよ」
「これが?」
紺色の生地を触りながらサンタンデールは店主に自分の疑惑の気持ちを表した
「お客様、私は魔法使いではないのでこの事は確認のしようがありませんが実はもう一つ特殊なものがありましてね」
「そのスーツの裏側をご覧ください」
「三角形が2つ重なっている」
小さいが基本的な魔法陣のマークだ
例外なく白く淡い光を放っている
「そうで御座いましょう、これは付呪も有りましてね例えばー」
店主は今サンタンデールが手に持つスーツを小さなナイフで切りつけた
「ちょ、商売道具だろ!!」
店主はにやつている
「切り口をご覧ください」
店主のその言葉を聞いてサンタンデールは強行に入った店主からスーツに目を向けた
「徐々に修復していってるでしょ?」
「確かに」
「次はナイフを見て下さい」
そう言って店の近くに放置してあった大きな石を手に持ったナイフで真っ二つにした
「訂正として私の持つナイフは 20年程ともにしておりますから私の土の属性が乗り移ったので、そのドラゴンの鱗でコーティングされたスーツに切れ目を入れる事に成功したのですが、生半可な武器でこのスーツを傷つけようとしてもとてもじゃありませんが出来やしません」
「次は別のナイフで試してみます」
そう言って店主は他のナイフを取り出してスーツを切ろうとしたが生憎とスーツが裂ける事はなかった
「」
「この服ヤバくね?」
「フフ、そうで御座いましょう。お客様今の説明を聞いてこれが金貨2枚で買える事がお高いと尚思いますか?」
「お、思わない思わない!!」
「お買い上げで?」
「よ、喜んで買わせて貰います!」
そのあと裾あげやら何やら色々あって
終わったのは日が高く上った頃だった
「フフ、ところでお客様運命というものを信じますか?」
「いや、全く信じないが」
「そうですかそれは残念な事で、お客様私は思うんですよ我々が無知なだけで本当は神様の決める意思があるのではないのかと、それを私達が気づいていないだけで」
「そんな運命なんぞあるわけがないだろう?人は自分の意思で動き自分の意思で未来を決めるのさ、そこに神様やら運命とやらが絡んでくる隙間なんてありゃしねえ」
「お客様今日【アオサギとドラゴン】の舞台を見に行くとおっしゃいましたよね?」
「ああそうだな」
「この服は…このスーツはそのお話の元になったドラゴンの鱗が使われております」
「……」
その話を聞いて
サンタンデールは何だか背中がこしょばゆくなった




