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さんどめのしょうじき!!銀色チケット!!

ブブルゼブラの町の内側は東と西の丁度真ん中に大きな道があった



馬車を横に連結させて7台通過させてもまだ幾人かの通りを確保出来るぐらい大きな道で


この街では大通りと呼ばれていた


大通りには日が昇る限り常に人で溢れており、通行人相手に店を出す商連中は大金をかけても、その道近辺の土地を買おうとする。


首都を移転したとはいえブブルゼブラはやはり国の重要拠点なのだからそこに多額の税がかけられている事もあるし、遠方と遠方を結ぶ中継地点な意味合いもあって行商人が宿屋に泊まりに来くる、そのお陰かブブルゼブラは多種多様な情報源となっている

ブブルゼブラの土地の価格が高いのはそのせいかも知れない


この街の住人は

他人に対して興味もしくは親近感めいた感情が少ない


街中で喧騒があったとしても気にもとめない


よく言えば活気あり

悪く言えば物騒な街であったのだから

異常ともいえる行動もブブルゼブラではごくごく自然な日常なのだろう


それでも周囲の目が集まる時がある


日が沈みかけるが

ブブルゼブラの多くの家の窓から漏れる灯の光が夜のとばりの邪魔をする


まだ多くの人が行きするこの大通りで

オルティススピカは脱兎の如く駆けていく


薄いビスチェ姿で裸足で目を真っ赤に腫らし

人々はその様を見て何事かと目を丸くする



お嬢様一体どうしたと言うのです!?

出会え出会え男装の麗人のご乱心じゃあ!


スピカの身の回りの世話をする家政婦や執事らが

口々にそう叫びながらスピカの行くてを阻もうと奮起するも獣耳族の証である脚力はその執事らを頭上から通り越し容易にメドレーヌの宿屋から抜け出した



麗人は何を考えているのか!!

背後からあたしを罵る声がする


「ハア、ハア、ハア」


自分が周りからどう思われようが関係なかった



今までのスピカは人にとって満足や充分といった概念の代表たる幸せは、人を頽廃させ、退化させ、堕落させるものであると位置付けていた


あたしは満足ちゃいけないの、あたしは、ここまでで充分とか思っちゃいけないの、いつだって上へ上へ駆け上るのよ


それが男装の麗人と謳われ国内で王族からも絶賛される演技を兼ね備えた舞台女優に取っての幸せだった



「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア」

スピカはただ走っていた


間違いだったとスピカは感じる


自分の何らかの部分を損失する前と今と比べその前を未練たらしく思う気持ち、それが幸せなのではないのかと


今までのあたしの考えは

それこそが幸せ者の考え方だったのよ



「フーフー………」


目的地に着いた時

スピカは皮膚から白い湯気が出てくるのを見て

自分の体が燃えているのかと思った



「開門の近く」


サンタンデールがこの宿屋を指差した事を思い出した


多分サンタンデールは此処にいるの

多分サンタンデールは此処にいるの

多分サンタンデールは此処にいるのよ


ドキドキするのは走ったからよオルティススピカ


決してサンタンデールがこの貧相な建物にいるのからではないの、落ち着いてあたしはどうも思ってないの、サンタンデールがあたしの事が好きだから。


人を気遣えるあたしが敏感に反応しただけなの

ただあたし的にはそのサンタンデールの気持ちに答えなきゃみたいな感じなのよね


貧相な建物だった、サンタンデールから見れば何処にでもありそうだと言うかも知れないが

メドレーヌの宿屋の内室に入っていたスピカからすれば、全体的に茶色で味気のない質感の壁や、頭部に埃が溜まってる煙突と窓際が所々汚れているこの二階建ての宿屋は、スピカから見て貧相と言わせる範疇だった



呼吸を整えてその宿屋を正面から見据える


何て言おうかしら


サンタンデール相手にただ会いたかったと言うのは

癪だし、コレから先「アイツは俺に会いたいがためこんな所まで来たんだぜww」とサンタンデールから、からかわれると思うと嫌だし


「………」


仲直り


その言葉が浮かんだ時、スピカは口元が歪むのを堪えきれないでいた


そうよあたしは仲直りに来たのよ!!


スピカは急遽弁明を考える


「始祖族の文化は分からないがハインリヒ教では友人を大事にしろという教えがあってだな、サンタンデールお前が何故怒って出ていったのかは、私にとって知る由も無い事だが、お前がお父様に嫌われたままでいるのは中々堪える」


「そして礼節を重んじるオルティス家にとっては私の友人たるお前がお父様に侮辱の限りを尽くした行為を許すのは少々立場的に苦しいものがある」


「だがサンタンデールお前にチャンスをやろう、明日この街ブブルゼブラで舞台があるのだが私が主演なのだが中に入る為のチケットをお前に上げよ

う。これで進んでお父様に近付いて昨日のご無礼はと続けて謝罪しろ、その身なりを整えてな」


もしその場にサンタンデールがいればスピカが女だろうが顔面を殴りつけただろうが


完璧だとスピカは思った


スピカの中にある種の達成感が生まれ

高揚した気持ちになる


威風堂々と宿屋の扉の右上にあるベルを鳴らす頃には、自分が会いに行く理由はサンタンデールがお父様に謝罪させる為だと認識するまでになっている


チリーンと和らげで穏やかな音が鳴ってすぐ

宿屋の木造の扉から声が聞こえて来た


「どなたかな?」


老人の男の嗄れた声だ

サンタンデールじゃない

いやそれこそ当たり前なのだろう店番の人が出てきただけで何をあたしは落胆しているのかしら


「オルティススピカと申す者です。失礼かもしれませんがここにサンタンデールという名の男が訪れやしませんでしたか?」


「ああサンタンデールの知り合いかい?」


「ええ」


扉が空いた


「あの小僧はまだ来てないが中で待ってると良いよ」


「え」

何故?どうして?


スピカの頭の中が真っ白になった


「来てない?」


「そうだよ」



スピカは戸惑ってしまった。老人の答えはスピカの予想していたものと大きく違っていたのだから


そんな筈ないわこの老人は嘘をついているのよ

だってサンタンデールはここに泊まろうと言ったの


「サンタンデールはここに来てるのかい?よくよく考えれば諦めた方が良いかもな、いつもだったら泊まる時は太陽が沈む前にここに来て予約を入れるから。もしかすると今日はシオト村に帰ったかもな」


「嘘言わないでだって…だって…」


諦める?何故そんな非道な事を言うの

もしサンタンデールがいなかったら……



「ちょっとお嬢ちゃん!!」


その時の老人の目には

スピカと名乗るの女性の大きくて灰色の綺麗な瞳から涙が頬を伝う場面が映った


それこそ声をかけてもその涙の流れは止められそうになくぽたぽたと床に雫が落ちた


女は同一を好むがそれ以上に真実の冒涜を敬愛する


スピカもまたそれに習うが如く、ヴッヴッと嗚咽混じりに「嘘よ嘘よ嘘よ」と喚くも此処にサンタンデールが居ない事実は変わらない



スピカは涙を拭う事が出来なかった

スピカは己の涙に気付かなかった


自身の顔から滑り落ちる水の流れをせき止めるよりも先にスピカにはやるべき事があった


「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」


老人の発言への否定

それがスピカのやるべき事だった


もしメドレーヌの宿屋にサンタンデールが居る時間に後ろから抱きしめれば結果は変わっていたのかもしれない


でもその時のスピカはサンタンデールの事を愛していなかったから


「嘘よ嘘っぱちよ」

そう叫べば何もかも解決するとスピカは思った


でもスピカの心の中で、心の奥底で


納得出来るものがあった語りかけて来るもののがあった

 

スピカは膝を屈した、その場で泣き叫んだ


あたしは幸せになりたくないと思ったから

神様が意地悪したの


あたしはコレから先なくしたものが一生取り戻す事が出来ないの


そんなどん底の気分となって尚自分の心内にそんな悲しみにくれる自分の事を何て美しいのかしらんと感じる事に驚いた


あたしに人並みの感情があること

それがスピカを慰めたのだろう


でも今の彼女は彼女の体は泣き叫ぶ事を選んだ


愛や恋というものの存在をスピカは信じれずにいた


それは他の女共が理想の王子様を思い浮かべる時に見える錯覚なのであり、そしてただの性行為を幻想化させる偏の紙芝居なのだと、愛を安易に語る女達を鼻で笑っていた


だがこの胸を縛りつけるかのような裂けるような

苦しみは心労は重苦は懊悩は傷心は心痛は苦悶は水火は惨痛は窮愁は疾衷は苦衷は苦患は憂悶は責苦は

この絶望する心はこの辛さは……


何なのだろうと


コレはこれこそが愛なのではないかと



あたしはサンタンデールを愛していたのよ


スピカが自分の気持ちに気付いたとしてもサンタンデールがこの場に居ない事実は覆りようがなかった


スピカは胸を押さえつけ赤子のように泣き叫ぶ

今の気持ちを抑えるにはこのぐらいにしかスピカには出来なかった


スピカにとって幸せは無くしてから気付くものなのであろう


愛も幸せも


スピカにとって無くして初めて気付くものなのだろう





ただただ愛している

ただそれだけの事が彼女をオルティススピカを苦しめた



「ー、ーーーー、ーーー。」

大粒の涙を流しながら声にならない叫びと嗚咽を混じえスピカはくずおれる





涙は血の出来そこないと人は言うが

今老人の目にする綺麗な雫はとても純粋で美しくあった


老人自身しばし見とれはしたが、慌てて慰めにはいる


「と、取り敢えず何かほら中に入って!あ、温かいココアでも飲みながら落ち着くといいよ」


これが老人に出来る精一杯の優しさだった





「」




コップに熱いココアを注ぐ頃、


スピカは泣くのを止めた。老人が持って来た毛布は冷え切ったスピカの体にぬくもりを取り戻した


「はい」


老人は熱いコップを差し出し、その後老人は口々にサンタンデールを罵った



熱いコップを受け取り、それを放心した気持ちで聞いているとしばらくしてスピカの心は次は怒りが支配した


次にサンタンデールに会ったら殺してやる

あたしの気持ちを踏みにじった罰を与えてやる


そうスピカが決意していると


チリーンの涼やかな音が流れた


「おや?お客さんかな?」


老人がスピカの元から離れようとするも

スピカは老人の手を握る


「独りきりにしないで下さい」


今はただ老人の優しさに甘えたかった


「大丈夫だよお嬢さんすぐに戻ってくるから」


そう言ってスピカの手を振りほどき

そのまま玄関口に行ってしまう


あの老人もあたしの事を何とも思ってないの

あたしの苦しみを分かってくれないの

あたしは独りぼっち


奇妙な孤独感がスピカの胸を揺さぶる時、スピカの頭についた大きな耳には玄関での老人の怒号が聞こえなかった

うなだれた孤独感はそうそう拭いきれるものではなかったから

でも一つだけ一人だけの声がスピカの耳を目覚めさせた


低い声そしてとても懐かしい響き


「スピカ」





サンタンデールの声

スピカは驚いた

ただ声を聞いただけで、ただサンタンデールの顔を見ただけでスピカの心は悲しみや怒りがなくなったのだから


信じられなかった。ただサンタンデールの顔を見ただけでスピカの心は黄金色のローブを纏うような華やかな気持ちになって

サンタンデールの声を聞いただけでスピカの心は

金色の小麦畑を歩くような穏やかな気持ちになるのだから


サンタンデールの所へ急いで走ってスピカは自分が

何故ここに来ているのかを説明しようとした


「あたし!サンタンデールが心配になってそれであたしあのなにかその…」


「スピカ熱あんのか?顔がどんどん赤くなってるぞ」


サンタンデールは心配になった。スピカをよく見れば分厚い毛布を被ってるものの下着姿でとても寒そうな格好であったのだから


スピカの足が土で汚れてる


「すいませんおじさんお湯の入った桶と何か拭くものを用意してくれませんか?」


「ん、別に良いがどうしたんだ?急に?」


「いやなんとなくで」


「ああわかった」

おじさんは私とスピカの方を見て何となく事情を察知してくれた


「そ、それで何する気だ」


矢張りいつもと違う

スピカの声は少し喉がかすれた感じがした

風邪を引いたのか


「おい足拭いてやるからいもう一回ソファに座ってろ」



「」 


お湯が入った桶にスピカが足を入れて

その足についた汚れをサンタンデールは洗っていた

最初「そのくらいの事は自分でする」とやや反抗的だったスピカも今ではどこかの女王みたいにふんぞり返って、サンタンデールを上から見据えている


「おいサンタンデール。こしょばゆいぞ真面目にやらぬか」


「ははースピカ様の言うとおりで御座いますー」


砂利でも踏んだのだろうか

スピカの右足のくるぶしから血が出ていた

痛々しかった。もし自分にあそこの酒屋にいた魔術師のように回復魔法が使えたら、とサンタンデールは自分の無力さに嘆いた


「…。またあの頃に戻ったみたいだな」


スピカは小さい顎を動かして小さく微笑んだ

「…あぁ思い出したか」


「自己紹介もしてないのに私の名前をスピカが言った時から怪しいとは思ってたがな」


「懐かしいなほら、ガンドラで一番高い山で一緒に夕日を見に行ったろ?沈みゆく太陽を見てその時青と赤の織り成すコントラストが魅力的だと私が言うとお前は意味が分からなかったようで「コントラスト!!」「コントラスト!!」と叫んでいたな」


「コントラスト?…ん?……あれ?どちら様で?」


桶から足を抜いて蹴りを顔面に放とうとするスピカの猛攻をサンタンデールは必死で避けた


「じょ、冗談で御座いますよw」


「サンタンデール私は冗談が嫌い、特に今はな」


「そりゃあ失礼。ですがね私から冗談をとったら骨すら残りませんよ」


「……なあサンタンデール私はなこう思うんだ」


「こうって?」


「冗談だと思って聞いてくれ」


「おいさっきと違うぞ」


「私は特別だからいいの、時にサンタンデール、私達は一度ガンドラから別れた、そしてメドレーヌの宿屋でまた二度別れた。こう思わないかい?一回目は偶然で二回目も偶然だとするとじゃあ三回目は何て言うのか」

スピカはそう言って立ち上がる

糞ッこの位置からでは微妙なラインで見えやしねえ


サンタンデールはスピカの下着が見えない事に後悔した


立ち上がった後スピカはサンタンデールに白く光る銀色のチケットを手渡した

「三度目の正直だよ、サンタンデール。明日このチケットを持って舞台へ来てくれ。きっときっと素敵な夜にする事を誓う。これは本当さ、知っているかい?サンタンデール私は冗談が嫌いなんだ」


今度こそ、今度こそ自分の想いを伝えよう

そうスピカは堅く心に誓った





「ご冗談をwwwww」


サンタンデールがそうスピカを中傷した時、スピカの次の蹴りは見事サンタンデールの顔にヒットした






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