それでもスピカはがまんする
「全く信じらんない!」
そう言いながらマーズは酒場へ担ぎ込まれた2人の男に回復魔法をかけていた。
「馬鹿しかいないの!?決闘っていったら普通手のひらか脇腹にチョイと相手にかすり傷負わせてハイお終いがデフォでしょ!?、貴殿の太刀捌きお見逸れ致し候。とか適当な事言ってイヤイヤ貴殿の突きの鋭さたるや敬服の領域で御座いました。みたいな互いを褒めて、そこからお互いの名前を言い合って挨拶するためのものでしょ!?」
丸みを帯びた緑の光に包まれるマーズの手がサンタンデールの自身の胸に触れた時、呼吸が楽になっていくのが感じた
「おうお前ら2人とも俺に感謝しろよ、どえれぇ音が聞こえたと思って酒場から出て来てみれば一人は横になって倒れているし、もう一人は胸に手あててうずくまってたし」
レオが愚痴をこぼしながらパカルからサンタンデールの方へと視線を移す
パカルは椅子に寄りかかりながらも立ち上がるまで治りはしたがどうやら私の方はそうもいかんらしい何でも肋骨が肺に刺さって穴が空いたらしくもうしばらくはこのままだそうだ
矢張り最後に大声出したのがまずったか
「あんた名前は?」
喋って大丈夫なのだろうか?
「サンタンデール」
「サンタンデール……あぁシオト村の奴らかお前らの噂はこっちまで届いてるよ、」
噂、どんな内容のものなのか凄く気になるな
「レオだ宜しく」
レオはそう言いながらサンタンデールへ笑いかけ手を差し伸べる
サンタンデールはレオの手を握り締めた
「マーズよ、で私の隣に居るのがベナトシュ。可愛いでしょうけどあの子に手は出さない事を進めるわ。殺されたいなら別でしょうけど」
「あんたマーズって言うのか宜しくな」
「お前さんに見事完敗したパカルだ決闘ん時少し暑くなっちまってしまったがコレから宜しくな」
パカルがそうサンタンデールに声を掛けた時
胸が少し痛くなるのを感じた
「…お前はいいや」
鎧の男はサンタンデールの反応がいたく気に入ったようで豪快に笑い、サンタンデールの背中をバンバン叩いた
「ちょっと!!まだ治療中よ!まだ折れた肋骨が完治してないのに!パカル何てことしてんの!!」
そのままマーズはパカルの顔にグーを放った
兜を被っているせいかパカルよりマーズの拳がいたそうだった
「それはそうとお前さん、どえれぇ立派な剣を持っているじゃねえか」
レオはサンタンデールへ疑惑の目を向けながら鉤爪のような剣を取り出した
どうやら私が鎧の男ことパカルとの決闘の際
大通りに落としたものをこのオールバックの男が拾ってくれたらしい
「コレは私の師匠がBランクに昇格した時に記念にと貰ったものだよ。だからそんな盗っ人を見るような目つきをするなって」
サンタンデールは腰のポーチから赤い百合の花が刻まれたバッチを手にし良く見えるようにレオの顔面につきつけた
「面白くないですね…。」
酒場の隅でジッとしていた影の薄い女ことベナトシュはボソボソと呟いた
「これから謎の盗賊の組織と光竹護衛団との壮絶な死闘の幕が開く筈でしたのに…」
この女は日常に何を求めているのか
「ベナ、真実は時として残酷なものよ、そしてそれを受け入れてこそ大人の女性へと変わるのよ」
私が盗っ人ではない事がそんな酷な話なのか
「おいお前達私を盗っ人扱いした事への謝罪がないんだけど」
マーズとベナトシュの2人は目を合わせ
しばらく経つとかん高い声で笑い
「貴方ご自分の容姿を確認したらどう?」
と涙目になりながらマーズは侮辱混じりにそうサンタンデールに話かけるのだが
当のサンタンデールはプイッと顔を背けレオとパカルに助けを求めた
「すまんな。サンタンデール最近任務に失敗してイライラが募っているのだよ」
「任務に失敗!?違うわあの女が私達が魔獣と戦っている時に馬車から降りて逃げ出したせいよ!!」
マーズが憤慨しながらヒステリックに喚く
どっちにしろ失敗してんじゃん
「あの女最後私達に何て言ったと思う!?[貴様らのような肥溜めの吹き溜まりと一緒に旅をするぐらいなら孤独に死ぬ事を選ぶ]って言うのよ、信じらんない!!」
富族って皆そうなのかしら!!
少し大きな声を出しすぎたのか私の治療そっちのけ
で近くのテーブルにあったコップの水をガブガブと雄々しく飲み干す
「貴方サンタンデールって言ったわね!!もうソイツの名前は知らないけど、オルティス家ってことだけは覚えてるわ!!オルティス家の娘だけは気をつけなさい!!私達が置いていったのに、どっかの馬鹿がご丁寧にもこの街まで運んだせいで我が見よがしにこの辺りをうろついているらしいわ!!
」
我が見よがしっておかしくね?
治療が終わったならそう言ってくれればいいのに
「分かった気をつけとく」
「話を戻すがサンタンデール、少し真っ直ぐな方のその剣の事を質問していいか?」
パカルがそう問いただして来た
「いいんだけどよ、何も変哲もない普通の剣だぞ」
そう答えてパカルに剣を渡した
「ふむ…ホントに何でもなさそうだが」
「パカルといったっけ?お前何か引っかかる事でもあんのか?」
「いや、決闘の時その剣が直角になるほど曲がったから一体どういう理屈でと思ってだな」
「そりゃ鞘走りつってな剣に負荷をかけて…
「デコピンの要領だろそのくらい見れば分かる」
まだ話の途中だったのに
「なあ普通に考えろ、剣があそこまで曲がるか?」
あれ何で直剣がそこまで曲がれたんだろ
曲がる前に普通に折れるだろうに
「んーそうだなーよくよく考えたらおかしいのかもなー」
その場のノリで余り深く考えなかったからな
私の属性の影響かもしれんが
「鍔の部分に宝玉が組み込まれてあるな、何か鉱石が違うのか、それとも鍛え方で変わるのか」
「この剣はいつから使って?」
「分かんね、物心ついた時からその剣握ってたしよ……大体10年ちょいくらいか?ひょっとしたらもうちょっとかもしれねえ、その剣に馴れてしまっているお陰で他の剣だと手にしっくりこないんだよな」
「そうか、私の攻撃を受け止めた時、その剣だけは大事そうに握り締め、手放さなかったのはそのためか」
その後ブツブツ言いながら剣をサンタンデールに返却した
「詮索するには時間が足りないようだな、またの機会だ」
「おいそりゃどういう意味でい「話は聞かせて貰った!!」
ダーン
豪快な音を出しながら勢いよく扉が開いた
「「リーダー!!」」
レオとベナトシュがそう大声をだした時
酒場の入り口からひょっこりとトサカ頭の眼帯付けた中年が顔を出してきた
「喜べ!!皆の衆!!速報だ!!オルティス家の娘が発見されたぞ!!」
「そう良かったわリーダー、これでオルティス家の娘が発見された事を全員知ったみたいね」
マーズは青い髪を指でクルクル巻きながら退屈そうに言う
「そしてだ!この事で相当おかんむりだったオルティス家の現当主が、何と!!ある条件をクリアせれば私達が娘さんを馬車から突き落とした事を許してくれるらしいし!!その護衛した時間分の給料をお支払いしてくれるらしいぞ!!どうするお前ら!?」
「あの貪欲な頑固爺のような風体の男がそんな簡単に許すとは思えん」
パカルがそう応えると
マーズはゆっくりと手を上げた
「パカルに一票入れるわ、ある条件という部分が凄く臭い」
「リーダーもうこの街から離れようぜ、前回と比べて魔獣が多いし」
「リーダーは私とリーダーを交代すべきだと思います」
団員達の不評を聞いて、光竹護衛団のリーダーは屈託なく笑う
「フ、フ、フ、フ、フ、フ、フ」
笑うというより複式呼吸みたいだったが
「お前らこれから俺が話す事を聞いてよく驚け!!オルティス家の当主が言ったある条件とは!!ある男を捕まえろという指令だったのだ!!」
ああこの人、他の人の話を聞かないタイプだ
何やら似顔絵の描いてある紙を皆が目に見えるように掲げて
「デ、デ、デーーン!!!」
と大声で喚く
この嫌にテンションが高い人物は本当に光竹護衛団のリーダーなのか?
いやきっとここのリーダーってのは当番制なのだろうとサンタンデールは自問自答をしている時
「?」
光竹護衛団の4人の目が点になっているのに気がついた
「そう!!」
「ある男とは!!
「コイツの事だああああ!!」
そう叫びながら眼帯付けた光竹のリーダーはサンタンデールを指差した
「………」
え
「ねえパカル」
「オルティス家の娘を護衛した時間分って幾らぐらいのお金になるの?」
「大体1人金貨五枚は確実だなマーズ」
「へえー結構な額ねそれで今口をアングリ開けてる間抜けな男はどのくらい強いの?」
「Bランクの上位、まあ5人でかかれば造作もないが」
「補足として!!オルティス家の当主は!!連れてこれさえすればその男の生死は問わんらしぞ!!!
」
「へえーそう、ねえパカルどうしよう?」
「どうしようとは?」
「やっちゃう?」
「………」
サンタンデール は にげたした!!
「」
咄嗟に体が動いた
入り口は団長の体で塞がれたので窓から脱出を図ることに
唐突の事だったのでしばらく固まっていた光竹護衛団は、「グフフフ、謎の男サンタンデールと我らが光竹護衛団との死闘の幕が今開く」とニヤリと笑うか「私のお金があああー!」と叫ぶか、窓から抜け出し闇夜に隠れようとするサンタンデールにたいして呆然と見送る事しか出来なかった
「ハアハアハアハアハア」
追ってくる足音が聞こえない、しかしそれでも
追ってこないと分かっていてもサンタンデールは
酒場から息が続く限り走った
怖くて後ろを振り向けない
もし足を止めればそこで待ってましたとばかりにレオやパカルが襲いかかるかもしれない
サンタンデールは臆病な男であった
腕が鉛のように重くなり
額から滝のように汗が流れ落ち
鼓動がバクバクと鳴る音が聞こえるように感じ始めてから
サンタンデールは足を止めた
しゃがみこみながら顔を上げると
街に着いた時に予約しようとしていた宿屋を目にした。取りあえずどこかに身を潜めないと、思うと同時にサンタンデールはある事に気づいた
しまった忘れてた
あー
サンタンデールはブブルゼラの街にそう頻繁に足を運んだことはなく、師匠と一緒に村の皆から買い出しを頼まれて行くぐらいで、それこそ年に片手で数える程度であった
「予約してなくても泊まれるもんかね?」
ポツリと呟くも誰も聞いてはくれない
シーンと淋しく時が過ぎる
不安と恥ずかしさでポリポリと頭を掻きながら
宿屋のベルを鳴らした
チリーンチリーンと澄んだ音が流れた
「どなたかな?」
顔が見えない
扉越しにおっさんの声が聞こえた
「夜分遅くすみません。部屋にまだ空きがあればこちらで一泊過ごしたいと思っているのですが」
「サンタンデールか?」
「そうですおじさん」
「アイツはどうした?」
「今日は師匠は来ておりません」
「けっ」
今日のおっさんは冷たいな
「なあサンタンデール、お前女を待たせるたあどういう了見だあ?」
「?」
言ってる意味が分からない
「しかもこんな可愛い子をよお、俺はお前がそんな奴だったとはこれっぽっちも思わなかったぜ」
ギシと音を立てて宿屋の扉が開いた
「さあ入んな、フロントに待たせているから」
おっさんの顔が凄く怒ってる
サンタンデールは少しビクビクしながら宿屋の中に入ると
彼女がいた
少し猫耳を垂らして悲しそうにうつむきながら
おっさんに貰ったのだろうかコップを膝に置いて
ソファにちょこんと座っていた
コップを大事そうに握る彼女の中指と小指が強張ったりそして緩めたりの繰り返しを少時の間サンタンデールは見入っていると急に声をかけたくなった
「スピカ」
どうしてスピカがここへ?
「サンタンデール!!」
私の声に気づいたのか、ピーンと猫耳を立ててそれから慌ててこちらを振り向き、目を見開き、抱きしめるかの勢いで近く
「あたし!サンタンデールが心配になってそれであたしなんかその………」
スピカはしどろもどろになりながら、手を織り交ぜて説明しようとするが声がどんどん小さくなっていく。その声と反比例するかのように顔は赤くなっていく
「スピカ熱あんのか?顔がどんどん赤くなってるぞ」
スピカが裸足である事に気付いたのはそれからしばらく経ってからの事だ
「」
メドレーヌの宿屋からサンタンデールが退場した時
スピカには分からなかった
サンタンデールが何故あんなに怒って出ていったのか
そのあと自分の父親から、ピンク色の可愛い小物類が沢山ある部屋へ案内されても
サンタンデールの汗臭い寝袋ではなく、フカフカそうな暖かそうな大きなベットへ倒れ込んでも
スピカの喪失感は消える事はなかった
あんなに優しかったのに
スピカは怒っていた、ただ怒ることとそんなサンタンデールを嫌いになれない自分に苛々していた
あんな臭くて汚くて
そうやって頑張ってサンタンデールの事を嫌いになるように努力しようともその度その度遠い昔の思い出と共に一緒に草原で笑いあいながら歩いた記憶がチラチラと顔を出してくる
どんなにスピカがベットの上で足をパタパタと動かそうがコロコロと転がろうが、どんなに枕に拳をぶつけようが、スピカにはその記憶を拭いさる事が出来なかった
動き疲れて顔を上げた。今は低い天井しかないものの。あの時あの場所は綺麗な夜空だった事を思い出した
そして隣には…
「……顔を洗えばもうちょっとマシになるのに…」
ああそう云えばお願い事がまだだったわ
サンタンデールの事だからきっと狩りに着いてきてとか言ってきて
そこで二人で冗談を交えながら……
「…」
しばし落ち着くと、サンタンデールのとった行動に興味が湧いた
あの時あたしはサンタンデールに大して失礼な事をしたのだろうか?
そうだとしたらあたしはサンタンデールにどんな酷い仕打ちをしたのか?
そしてスピカは自身の気持ちにも分からなくなった
何故あたしはサンタンデールの事ばかり考えるの?
何故あたしはサンタンデールがあたしから離れただけでこんなにも怒っているの?
その自分自身に対しての問いを全部捨ててしまう
「そんな筈ないわ!!あたしもせいせいしたもん!!」
スピカは大きく首を振るう
あたしをこんなにもイラつかせたサンタンデールよ、不幸になれ
そして
そう願おうとしてもスピカはどうしてもサンタンデールと一緒に並んで歩く姿を想像してしまう。その時の自分が凄い笑顔である事も
不幸になって、どん底に落ちて泣きながら許しをこうサンタンデールをあたしは笑顔で手をさしのべるの「何の事?」とか言いながら、それでそれで!!
それを聞いたサンタンデールは、ぱあっと!笑顔になってそうやって!
「…………………」
そうやって?…
「……あぁそっか…」
スピカは全て分かってしまった
放心したような状態になった
「…最悪」
部屋の天井を見ながらスピカは呟いた
そうやって二人で手をつないで……
「……スピカ,オルティススピカ現実を見なさい、もうアイツと会うことなんてもうないのよ」
そう自分に言い聞かせようと努力した
「大っ嫌い」
そう嫌いになろうと努力した
ただ言葉を発する事に顎が動く
そうするとスピカの瞼に溜まってる涙が流れそうになった
「ン~ン"ン"ン"ン」
唇を噛み締めおもいっきり上を見上げ目を見開いて涙が流れるのを必死で食い止める。
今のあたしはさぞ愉快な顔になっているでしょうよ
「……」
でもコレじゃあ負けちゃうよね相手はラスボスよいやもしかするとウラボスよ
もう二度と会えないかも知れない
もう二度とサンタンデールと会えないかも知れない
もう一生サンタンデールと会えないかも知れない!
どんどん想いが募るごとに
スピカは泣きたくなった
サンタンデールへの想いはスピカにとって忘却するにはいささか大きすぎたから




