↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜王の求婚は本能でした ―手の甲の紋様より、あなたの「好き」が欲しかった―  作者: チュチュ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/30

街で見つけた自分


城を出てから、季節が二度ほど移り変わっていた。


食堂での仕事にもすっかり慣れ、この街での暮らしは、いつしか俺の日常そのものになっていた。


「カイン、その手の甲の模様、綺麗だな」


ある日、常連客の青年が、何気なくそう言った。これまで、手袋や長い袖で隠すようにしていた紋様を、その日はうっかり見せてしまっていた。


「あ……これは」


咄嗟に隠そうとした手を、俺は途中で止めた。


「気にせず見せてくれよ。魔石みたいで、綺麗だ」


その屈託のない言葉に、俺は少し驚いた。この街では、竜王のつがいの証だと知る者はいない。だからこそ、ただの美しい紋様として、素直に受け止めてもらえる。


「これは、大切な人との絆の証なんです」


思わず、そう答えていた。自分でも驚くほど、自然に口から出た言葉だった。


「へえ、いいじゃないか。大切な人、いるんだな」


「はい」


照れくさくもあったが、それ以上に、誇らしさのようなものが胸に広がっていくのを感じた。


前世では、誰かを好きになっても、それを口にすることさえできなかった。今世に来てからも、この紋様の意味を、どこか恥じるように隠していた時期があった。側妃という現実に打ちのめされ、自分の望みを「贅沢だ」と思い込もうとしていた頃のことを思い出す。


だが今は、違う。


紋様を見せることに、もう躊躇いはなかった。誰かに好きな人がいると言えることも、以前のように怖くはなかった。


その夜、仕事を終えて宿に戻る道すがら、俺は夜空を見上げた。星々が、静かに瞬いている。


――誰か一人だけを、好きになりたい。


あの夜会で口にした願いが、遠い昔のことのように思える。同時に、あの時の自分と、今の自分が、確かに一本の線で繋がっていることも感じていた。


前世で言えなかった想い。今世で恥じていた願い。その二つが、この街で過ごした日々の中で、ようやく重なり合い、一つの確かな誇りへと変わっていた。


「カインさん、こんな時間まで、考え事?」


宿の前で、女将が声をかけてきた。


「少し、昔のことを思い出していました」


「いい思い出?」


「今は、そう思えます」


そう答えると、女将は柔らかく笑った。


「あんた、最近、いい顔するようになったね」


「そうですか?」


「うん。何か、吹っ切れたみたいな顔」


その言葉に、俺は自分の頬に、思わず手を当てた。確かに、以前よりも心が軽い。誰かに認められるためではなく、ただ自分自身のために、自分の望みを大切にできるようになっている。


陛下への想いは、今も変わらず胸の中にある。会いたい気持ちも、日に日に募っていく。それでも、以前のような苦しさだけを抱えているわけではなかった。


この街で見つけた自分を、俺は胸を張って、あの人の前に連れていきたい。そう思えるようになったことこそが、この数か月で得た、何よりも大きな変化だった。


部屋に戻り、窓辺に腰掛けながら、俺は手の甲の紋様に、そっと指を這わせた。金色の光は、変わらずそこに輝いている。


いつかこの証が、誰に対しても、堂々と誇れるものになる日が来る。そう信じられるようになった自分が、今、確かにここにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。