仕組みから変える
翌朝、陛下は俺を伴って、急遽開かれた重臣会議に姿を見せた。
「本日、皆に伝えたいことがある」
謁見の間に集まった大臣たちが、緊張した面持ちで陛下を見つめる。俺は少し離れた場所から、その様子を見守っていた。
「これまで、周辺国との同盟は、多くを側妃という形に頼ってきた。だが、私はこの仕組みそのものを、見直したいと考えている」
一瞬、広間がざわめいた。年配の大臣の一人が、慌てたように進み出る。
「陛下、それは……側妃制度を廃止すると、そういうことでしょうか」
「そうだ。ただし、性急にではない。各国との関係を損なわぬよう、代わりとなる仕組みを、時間をかけて整えていく」
「代わりとなる仕組み、と申されましても」
陛下は、落ち着いた様子で言葉を続けた。
「例えば、婚姻に頼らずとも、相互不可侵の条約を正式に結び直す。あるいは、留学制度を設け、互いの国の子弟を一定期間受け入れることで、信頼関係を築く。手立ては、一つではないはずだ」
その言葉に、俺は思わず陛下の横顔を見つめた。昨夜、まだ形になっていなかった考えが、一晩でここまで具体的な案として練り上げられていたことに、素直に驚かされた。
「セシリア嬢の母国、ヴェルニア公国については、特に慎重を期す必要がある。あの国との和議は、まだ日が浅い」
「では、まず、その国から着手なさると」
「いや。むしろ最後にする。最も繊細な関係から手をつければ、失敗した時の代償が大きすぎる。まずは、比較的関係の安定している国から、新しい枠組みを試したい」
大臣たちは、顔を見合わせながらも、その説明に一定の納得を示しているようだった。慎重でありながらも、明確な方向性を持った陛下の言葉には、これまでとは違う重みがあった。
会議が終わり、二人きりになった控えの間で、俺は思わず口を開いた。
「驚きました」
「何がだ」
「陛下が、あんなにちゃんと、政治のことを考えられる方だとは思っていませんでした」
思ったままを口にすると、陛下は少し苦笑した。
「心外だな。仮にも一国の王だぞ」
「すみません。でも、本当に驚いたんです」
これまでの陛下は、どこか無邪気なほど、伴侶や側妃に対する価値観が固定されていた。だが、いざ国の仕組みそのものに向き合う段になると、その思考は驚くほど緻密で、現実的だった。
「お前が、私に側妃を解放するなと言った時、正直、頭に血が上った」
陛下は、少し照れ臭そうに続けた。
「だが、頭を冷やして考えるうちに、お前の言葉の意味が、少しずつ分かってきた。感情だけで動けば、誰かを不幸にする。それを避けるためには、仕組みそのものを、丁寧に組み替えるしかない」
「陛下は、良い王様なんだと思います」
素直にそう告げると、陛下は少し驚いたように俺を見て、それから、柔らかく微笑んだ。
「お前にそう言われると、悪い気はしないな」
その笑顔を見つめながら、俺は改めて実感していた。この人は、ただ本能に流されるだけの人でも、優しいだけの人でもない。国を背負う者としての、確かな覚悟と知恵を持っている。
そのことに気づけたことが、俺にはどんな甘い言葉よりも、深く胸に響いていた。




