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竜王の求婚は本能でした ―手の甲の紋様より、あなたの「好き」が欲しかった―  作者: チュチュ


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18/30

両想いの予感


セシリアとの対話から数日が経っても、彼女の言葉は俺の中に重く残り続けていた。


それでも日々は流れ、陛下との時間は、以前にも増して穏やかなものになっていた。


「今日は、庭で茶会をしないか」


ある晴れた午後、陛下がそう誘ってきた。断る理由もなく、二人で庭のあずまやに腰を下ろす。侍女が茶を用意し、静かに下がっていった。


「あの二人が、また何か言っていたぞ」


陛下が、苦笑しながらそう言った。


「あの二人、というのは」


「侍従長と、庭師だ。私たちが並んで歩く姿を見るたび、微笑ましそうに囁き合っている」


「そんなに、目立ってますか」


「らしいな」


陛下は、どこか楽しげにそう言った。俺は思わず頬が熱くなるのを感じ、慌てて茶に口をつけた。


その日以降、俺は周囲の視線に、以前よりも敏感になった。すれ違う侍女たちが、こちらを見てひそひそと話す様子。護衛の騎士たちが、二人でいる時だけ、心なしか柔らかい表情を見せること。


「カイン様と陛下は、本当に仲睦まじくていらっしゃいますね」


ある日、給仕の侍女が、屈託のない笑顔でそう言ってきた。


「そう、見えますか」


「ええ。まるで、最初から両想いでいらっしゃったかのようです」


その言葉に、俺は上手く返事ができなかった。両想い、という響きが、あまりにも直接的に胸に刺さった。


自室に戻ってからも、その言葉が頭から離れなかった。


確かに、陛下との時間は心地よかった。何気ない会話も、隣を歩く距離も、以前とは比べ物にならないほど自然なものになっている。それでも、その感情に「恋」という名前をつけることに、俺はまだ躊躇いを感じていた。


側妃が三人もいる。一夫多妻が当たり前のこの国で、自分の望みを叶えることが、どれほど難しいか。セシリアの言葉が、繰り返し脳裏をよぎる。


それに、もし本当に想いを通わせてしまったら。その先に待っているのは、幸福だけとは限らない。むしろ、これまで以上に苦しい選択を迫られることになるかもしれない。


そんな臆病な考えが、俺の素直な気持ちに、いつも小さな影を落としていた。


「何を、そんなに難しい顔をしている」


夕刻、庭を歩いていると、陛下がふとそう尋ねてきた。


「いえ……何でもありません」


「嘘が下手だな、お前は」


陛下は、くすりと笑いながら、俺の顔を覗き込んできた。至近距離で目が合い、俺は思わず視線を逸らした。


「な、なんですか」


「いや。お前が困った顔をするのも、悪くないと思っただけだ」


その言葉に、心臓が跳ねるのを感じた。何気ない一言のはずなのに、以前とは違う重みを持って、俺の中に響いてくる。


「そういうこと、簡単に言わないでください」


「なぜだ。本当のことだが」


真っ直ぐな瞳で見つめられ、俺はそれ以上、言葉を続けられなくなった。周囲の誰もが、二人の関係を「両想い」だと囲む中、当の自分だけが、まだその一歩を踏み出せずにいる。


陛下の隣を歩きながら、俺は自分の中の臆病さと、確かに膨らんでいく想いの狭間で、静かに揺れ続けていた。

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