第8話『設計された終わり』
——銃口が、再びこちらを向く。
だが、さっきまでとは違う。
兵士たちの目にあるのは、敵意だけじゃない。
“確信”だ。
「対象、確保を最優先に変更」
無線の声。
「男は拘束。女は——」
一瞬、間が空く。
「——無傷で回収しろ」
その一言で、全てが繋がる。
「……やっぱりな」
小さく呟く。
彼女の腕を引き寄せる。
「下がってろ」
「でも……」
「いいから」
短く言う。
兵士の一人が、一歩前に出る。
「お前たちの状況は把握している」
冷静な声。
「その女は“適合個体”だ」
空気が、凍る。
「……適合、だと?」
「感染しないのではない」
兵士の目が、彼女を捉える。
「感染しているが、“完全に制御している”」
「っ……!」
彼女の手が、震える。
「嘘だろ……」
思わず口にする。
だが——
「その反応が証拠だ」
兵士が続ける。
「彼女は“見えている”はずだ。感染体の行動パターン、意思、次の動き」
「……」
否定できない。
今までの動きが、それを証明している。
「それは“未来視”ではない」
一歩、近づく。
「同じ“系統”の存在だからだ」
背筋が冷たくなる。
「……同じ?」
「そうだ」
兵士の声が、わずかに低くなる。
「このウイルスは、“ただの感染症”ではない」
空気が張り詰める。
「人間を、次の段階へ進めるための“進化誘導体”だ」
「……は?」
理解が追いつかない。
「成功例は、極めて少ない」
兵士の視線が、彼女へ。
「だが——彼女は、その一人だ」
彼女が、小さく息を呑む。
「そして——」
今度は、俺を見る。
「お前は“異常個体”だ」
「……どういう意味だ」
「再生能力。過剰な適応。戦闘時の高揚反応」
一つ一つ、言葉を並べる。
「それは“進化”ではない」
間。
「——“暴走”だ」
その一言が、深く刺さる。
「お前は、本来“失敗作”として消えるはずだった」
「……っ」
思い出す。
あの日。
最初に“死んだ”瞬間。
「だが、お前は“残った”」
兵士の目が、わずかに細まる。
「だからこそ——回収する価値がある」
「ふざけんな」
即座に返す。
「実験体じゃねぇんだよ」
足に力を込める。
だが——
そのとき。
「……やめて」
彼女の声。
振り向く。
彼女は——
震えていた。
「……分かるの」
小さな声。
「この人たち……本気で、私を……」
言葉が途切れる。
その目が、揺れている。
“見えてしまっている”。
連れて行かれた先。
その後。
「……大丈夫だ」
無理やり、笑う。
「行かせない」
それだけは、絶対に。
その瞬間。
兵士が、手を上げる。
「制圧開始」
一斉に動く。
銃声。
だが——
体が、勝手に動く。
避ける。
詰める。
叩く。
そして——
また、あの感覚。
楽しい。
「……くそっ」
歯を食いしばる。
違う。
これは——
間違っている。
だが。
止まらない。
彼女を守るための力が。
彼女から、自分を遠ざけていく。
そして。
兵士たちの背後で——
“それ”が、動いていた。
進化した感染体。
複数。
静かに、こちらを見ている。
まるで——
状況を、理解しているかのように。
人間。
感染体。
そして——
その中間にいる、二人。
全てが交差する中で。
戦いは、さらに激しさを増していく。
——これはもう、生存戦じゃない。
“選別”だ。




