■第7話『守るために、壊しかけた』
——音が、遅れて聞こえる。
銃声。
叫び声。
何かが砕ける音。
全部、遠い。
目の前には、“敵”。
それだけでいい。
「……邪魔だ」
踏み込む。
兵士の一人が、銃を構える。
遅い。
腕を払う。
銃が宙を舞う。
そのまま——
叩きつける。
地面に。
感触。
そして——
楽しい。
「……っ」
まただ。
この感覚。
抑えようとしても、溢れてくる。
「対象、危険度上昇!制圧優先——」
無線の声。
知らない。
興味がない。
ただ。
もっと——
壊したい。
「やめて!!」
その声で、一瞬だけ止まる。
彼女だ。
震えている。
目が——
怯えている。
「……あ」
胸が、わずかに痛む。
だが——
それすらも、遠い。
「大丈夫……だから……」
彼女が、近づいてくる。
手を伸ばす。
「戻って……」
その瞬間。
視界が、揺れた。
彼女の動きが——
“遅く”見える。
いや。
違う。
弱い。
そう感じてしまった。
「……危ない」
口が、勝手に動く。
守らなきゃいけない存在。
でも同時に——
邪魔になる可能性。
その思考に、自分で気づく。
「……違うだろ」
頭を押さえる。
違う。
違う。
なのに——
体が、動いた。
彼女の手を——
強く、掴んでいた。
「……っ!」
彼女が、小さく息を呑む。
力を込めれば、簡単に壊せる。
そんな感覚が、脳裏をよぎる。
「や……めて……」
その声。
その表情。
それを見た瞬間。
——フラッシュバック。
笑っていた顔。
一緒に歩いた帰り道。
どうでもいい会話。
“守りたい”と思った理由。
「……っ!!」
手を離す。
後ろへ飛び退く。
「俺は……」
呼吸が荒くなる。
「何やってんだよ……!」
震える手を見る。
今、確かに——
“壊そうとした”。
守るはずの存在を。
「……もう一度だ」
低い声。
兵士たちが、再び構え直す。
「対象は危険。女ごと制圧する」
その言葉に、空気が凍る。
「……やめろ」
静かに言う。
「その子には、触るな」
声が、低い。
さっきとは違う。
感情が、戻っている。
だが同時に——
別の何かが、混ざっている。
「それ以上やるなら——」
一歩、前へ。
「今度は、本気で止める」
兵士たちが、息を呑む。
目の前の存在が、理解不能な領域にいると。
彼女は、ただ見ていた。
ギリギリで踏みとどまった背中を。
でも同時に、分かってしまった。
——もう一歩で、戻れなくなることを。
そして主人公もまた、理解していた。
この力は——
使えば使うほど、
“自分を削る”。
守るための力が、
守る理由を壊し始めている。
それでも——
戦うしかない。
彼女がいる限り。
その矛盾を抱えたまま、
物語は、さらに深く沈んでいく。




