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お嬢様とお嬢様AI  作者: てんきどう
お嬢様とお嬢様AI

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9/17

9話 犯人の動機


「アルフィー! 戻ってきてくれたのね」

「お嬢様。お元気そうで、爺は嬉しいです。お父上の伊織《いおり》様から連絡が来まして、急ぎ参りました」


 愛瑞お嬢さんが嬉しそうに微笑んで、上品なお爺さんに駆け寄る。

 お爺さんも和やかに笑っている。親しそうだ。

 しかし俺には誰か分からない。記憶を探っても出てこない。どう対応したものか。


「ええと……。どなた様でしょうか」

「これはお客様でしたか。私はアルフレッド・セバスチャンと申します。この紅光院家の元執事でございます」

「これはこれは、ご丁寧に。本日、紅光院家のAIの取材に来た滋賀内岸矢と申します」


 元執事さんか。執事というだけあって気配りが違う。

 誰も気にしてくれなかった俺に、すぐ挨拶してくれた! 

 アルフィーはアルフレッドの愛称だったな。

 

「師匠。ご無沙汰しております」

「うん。お客様を立たせたままですな。執事として、まだまだですよ、黒鉄。」

「はっ! 申し訳ありません。滋賀内様。こちらへどうぞ」


 現役執事の黒鉄さんが、アルフレッドさんを師匠と呼んだ。黒鉄さんは焦った表情で、俺を椅子へと案内してくれた。まあ、緊急事態で余裕がなかったんだろう。

 俺は高級そうなフカフカの椅子に座り、香りの良い紅茶を手早く差し出された。熱い紅茶を一口飲むと、気持ちが落ち着く。

 

「アルフィー、貴方が来たということは……」

「愛織《いおり》お嬢様。兄君はたいへん心配しておられます。後ほど時間を作られて、皆様から話を伺うとのことです」

「……そう」


 紅光院博士は、疲れ切ったように項垂れている。

 アルフレッドさんは、愛瑞お嬢さんの後ろにいる愛蘭AIに目を向けた。


「あなた様は…………! 愛蘭お嬢様!!」


 アルフレッドさんは、驚愕した表情を浮かべ固まったのだ。

 愛蘭AIは、上品にお辞儀をして挨拶した。


「初めまして。アルフレッド・セバスチャン様。私は紅光院博士に造っていただいたRADY1号です。今は愛蘭AIと呼ばれております」

「こ、これは、ご丁寧に。私はアルフレッド・セバスチャンです。しかし、この方は……あまりにも愛蘭お嬢様に生き写しです……」


 俺は、生前の愛蘭お嬢様に会ったことはないので、似ているのか分からない。しかし執事だったアルフレッドさんが驚くぐらい似ているのか。


「愛瑞の身代わりも兼ねてるの。双子だもの。似ているわよ」


 紅光院博士が俯いたままボソリと呟いた。

 アルフレッドさんは首を横に振った。


「いえ、この方は愛蘭様です。爺が見間違える事はありません」

「そんなはずはないわ……」


 紅光院博士が困惑したように眉を顰めて、アルフレッドさんと愛蘭AIを見つめた。

 その時、セマAIの音声が響きわたる。


「紅光院伊織さまからの連絡がきました。皆様、会議室へどうぞ」


 セマAIの音声を聞いて、俺はホッと息をついた。

 よかった。ちゃんと直ったんだな。

 確か、紅光院伊織は、紅光院財閥のトップに立つ人だ。奥さんは早逝されてるんだっけ。当主なんだから仕事に忙殺されているんだろうな。だとしたら、愛瑞お嬢さん達は、愛織さんとアルフレッドさんが世話してたのか。

 そんなことを考えつつ、俺は会議室へと歩いていく。


 後ろで扉が自動で閉まった。

 愛蘭AIだけが室内に残った。


『愛蘭AIは、応接室でお待ちください』


 セマAIの音声が響く、

 すると愛瑞お嬢さんが、抗議の声をあげた。


「愛蘭も一緒でいいはずだわ! 開けて! セマAI」

『伊織様は、皆様のお話を聞きたいそうです。愛蘭AIは含まれていません』

「そんな! ……いいわ。私がお父様に抗議します!」


 愛瑞お嬢さんは、頬を赤らめて勢いよく歩きだした。

 美少女は怒っても可愛いと俺は思ってしまった。

 愛蘭AIは、ロボットだから外されたのかなあ。愛瑞お嬢さんの抗議が認められたら、後から会議に加わるのかな。

 俺はそんな事を考えながら、会議室に入った。


 会議室の中には、椅子と大きな電子板が置かれていた。

 電子板には、愛瑞お嬢さん達に似た男性が座っている映像が映し出されている。

 ニュースで見たことがある。この人が紅光院伊織さんだろう。当人が来ているわけじゃないが、遠隔で会議するのか。こんな施設が家の中にあるなんて、紅光院家は違うなあ。

 俺は感心してしまった。



 紅光院伊織さんが、よく響く低音ボイスで話し出す。


「皆揃ったか? ……頓出茂博士はどうした?」

『現在、緊急避難用ポッドにいらっしゃいます。sssが迎えに行っています』

「そうか。彼からの話は後から聞こう」


 ご当主の言葉に、俺達は今まであった事を話していく。

 どうも今回の屋敷への襲撃事件は、愛瑞お嬢さんを外へ出さない為の紅光院博士の自作自演だったらしい。

 

「叔母様は、私を子ども扱いし過ぎです!」

「あなたはまだ子どもよ……」

「これからは愛蘭も一緒だから大丈夫よ!」

「…………それでも心配なのよ。この家にいればいいの」


 愛瑞お嬢さんと紅光院博士は言い合いをしている。

 黒鉄さんとアルフレッドさんは、静かに控えていた。

 伊織ご当主は、向かうで資料を見たり考え込んでいた。やがて低く響き渡る声で言った。


「愛瑞が元気になったのは喜ばしいことだ。だが、今回の騒動の原因はRADY1号に思える。ボディガードの役割を果たせるか不安があるのだろう? 制作した愛織には悪いが、廃棄にしよう。新しく作り直せばいい。予算は出してやろう」


 紅光院博士の顔色が、離れてる俺から見ても分かるほど白くなった。彼女の眉が吊り上がっていく。


「何を言うの!? 愛蘭AIはちゃんと愛瑞を守ったわ! 修理をすれば、また働けるはずよ!」

「今回のデータを元に新しいロボットAIを作った方が性能も良くなる」

「兄さんは何も分かっていないわ! 愛蘭AIはあの子だけよ! 兄さんは、またあの子を死なせる気なの!?」


 “死なせる”

 俺はその言葉が引っかかった。

 それは人に使う言葉だ。

 俺は紅光院博士をまじまじと見つめた。

 紅光院博士も、自分が言った言葉に驚いているようだった。


「違う……そうじゃない。愛蘭AIは愛瑞のボディーガードなの。だから修理すれば何度でも蘇るの。愛蘭みたいに死んだりしないの。あの子は……愛蘭AIは……。違う…そうじゃない……」


 紅光院博士は、ブツブツと言い出して涙が溢れている。混乱しているみたいだ。

 アルフレッドさんが、紅光院博士の肩を優しく手で包み込むように触れた。


 伊織さんが、ため息をついて話し出した。


「アルフィーから見て、RADY1号はどう見えた? 娘達を愛織と一緒に育て上げたおまえの意見を聞かせてほしい」

「……僭越ながら申し上げますが、先ほどお会いしたRADY1号は、まさしく愛蘭お嬢様でした。笑い方から仕草までそっくりでございました……。爺も愛蘭お嬢様が生き返られたのかと……一瞬迷いました」

「……違うわ。私、私は…………。私は愛蘭を作っていたの……? だから、愛瑞は愛蘭AIを見て、正気に戻ったの? そんなつもりじゃ……」


 紅光院博士は、声を殺して泣き始めた。

 俺はいたたまれない気分になった。

 あれか。紅光院博士は、愛瑞お嬢さんのボディーガードロボットを作るつもりだったけど、無意識に亡くなった愛蘭お嬢様を作っていたのか。ロボットなら修理すれば蘇るもんな。

 死なない子どもを求めてしまったのか。

 ……紅光院博士が悪いわけじゃない。彼女は心の奥底でずっと悲しんでいたんだろう……。

 ご当主様も複雑な顔をしている。


「おまえの気持ちは分かった。しかし高知能ロボットは必ず管理責任者を設けるのが鉄則だ。だが今のお前は管理責任を果たせるとは思えない。RADY1号をどうするべきか。それが問題だな……」


 彼の言葉に、会議室の空気が凍りついた。

 遠回しに愛蘭AIの破棄を促してるように思えた。俺は複雑な気持ちでいっぱいになった。





「ワシが愛蘭AIを引き受けるよ」


 会議室の扉が無音で開き、場の空気を一切読まない呑気そうな声が響き渡った。

 頓出茂博士が会議室に入ってきたのだ。

 後ろには、sssと愛蘭AIがいる。


 頓出茂博士。

 あんた、今は救世主に見えるよ。

 だがしかし、ツッコミを入れさせてくれ。


 なんで今、シャボン玉を吹かせながら入って来ているんだよ!?






最後まで読んでいただきありがとうございます。

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