6話 襲撃か!? 攻撃されたセマAI
紅光院博士は、知的で華やかな美女だ。
彼女は、執事が淹れてくれた紅茶をひとくち飲むと、姪の愛瑞お嬢さんに優しく話しかける。
「愛瑞。あなたは長い間、部屋から出られなかったでしょう。無理しないでほしいの」
「無理じゃありません。私は愛蘭と一緒に世界を見て大人になりたいんです」
愛瑞お嬢さんの意思は固そうだと俺は思った。
これはアレだ。
俺の取材よりも、家族間の話し合いの方が先になりそうである……。
「貴女にはまだ無理よ。今は深く考えなくていいのよ」
「そんなことありません!」
「頑固になるのは、疲れてるんじゃないかしら。貴女は紅光院家の娘で、美しい子よ。傷つけられないように壊されないように、危険な外に出ては駄目なの」
俺は、思わず納得して頷いてしまった。
愛瑞お嬢さんは、確かに凄い美少女なのだ。
「愛蘭AIをボディーガードとして発表して、貴女の周りの警護レベルが高いと知らしめるの。そうして危険を遠ざけるつもりだったの」
「叔母様の気持ちは嬉しいです! でも、この子は愛蘭なんです。私のボディーガードなんて駄目です」
彼女達の話し合いは平行線だった。
愛蘭AIは、小刻みに震えて顔を赤くして涙ぐんでいる。CPUが加熱しているのか。……ここまで人間らしさを再現してくるなんて凄いな。
頓出茂博士は、一心不乱にあんバターを食べている。頬を膨らませてモグモグと噛む姿はリスのようだ。美味そうに食べてるなあ。
そして……、俺は取材の仕事はどうなったと言いたいよ。
紅光院博士達は、話を聞けそうな雰囲気ではなかった。
俺は、頓出茂博士に話を聞くことにした。
小声で彼に話しかける。
「頓出茂博士。あの愛蘭AIは、博士達が作ったんですか? この屋敷で? 研究所がこの屋敷にあるんですか?」
「うん」
博士は目を輝かせて、あんバターを口に入れたまま俺を見つめた。
「紅光院君が屋敷の離れに、ワシの研究所を作ってくれたの。そこで二人でセマAIと愛蘭AIを制作したの。時間はかかったけど最高傑作だと思うよ。紅光院君もとても熱心に作っててね。愛蘭AIの仕草や動きなんか芸術作品だといえるね。それでだね——……!」
彼は、研究についてマシンガントークを始めた。
好きな事を語り出したら止まらないというヤツだ。
しかも、話があっちこっちに飛ぶタイプだった。
理解が追いつかずに、俺は相槌を打つしかできなかった……。
ウーーー……!!
突然、警報音が鳴り響く。
頓出茂博士の動きが止まった。
俺も驚いて周りを見渡した。
屋敷の中を動いていたお掃除ロボットの動きが止まった。
ピッ……ピッ……と短い電子音を、ロボット達が鳴らしだした。ロボット達の丸く白い目が危険マークに変わる。
そして俺達の周りを囲んだ。まるで盾になるように。
遠くから扉の鍵が閉まる音が、連続で聞こえてくる。
まるで屋敷が生きていて、何かに抗っているように感じられた。
俺は無意識にメモ帳を握りしめた。
——何事だ!?
取材ネタなら良いんだが……。
俺はゴクリと唾を飲み込む。
「何が起こったの!?」
愛瑞お嬢さんが、愛蘭AIを守るように抱きしめた。
愛蘭AIは身を震わせながらも、愛瑞お嬢さんの背を慰めるように撫でた。瞳が銀色に煌めいている。
「セマAIとの通信断絶を確認しました。これより独立判断に入ります。お姉様の安全が最優先です」
「愛蘭? 一体何が起こってるの!?」
愛蘭AIは感情のない声で話しだした。
愛瑞お嬢さんは、その声を聞いて不安そうな顔になっている。
紅光院博士は紅茶を一口飲み、愛蘭AIが予定どおり独立判断へ移行したことを確認すると、小さく満足そうに微笑んだ。
頓出茂博士が、哀しそうに叫んだ。
「セマAIに何か起こったんだ! 大変だ! 助けに行かなくちゃ。電波妨害? サーバー破壊? ハッキング!? セマァァー!」
『頓出茂博士、危険です』
パトロールAI達が現れて、家の奥に走って行こうとする頓出茂博士を止めている。
パトロールAI達が、短い電子音を鳴らしている。
『警告。管理AIへの攻撃を確認。保護行動を開始します』
『緊急事態』
『管理システムに対する攻撃を確認。犯人は不明』
『関係者は安全区域へ避難してください』
赤色灯が点滅している。
若い執事が入口の前に立ち、ファイティングポーズをとった。もし悪い奴が現れても、一撃で倒せそうな雰囲気を醸し出している。
「攻撃って、一体何が起こってるの!?」
「この庭は安全よ。この家は、私と頓出茂博士とSSSで作った最高の安全地帯なの」
紅光院博士が、誇らしげに静かに言い切った。
凄えな。最高の安全設備の家か。これも取材ネタになりそうだな。
しばらく俺達は庭で待機していた。
その間、紅光院博士は、愛瑞お嬢さんに外の危険を教え続けている。
愛瑞お嬢さんは、不安そうに眉を顰めて愛蘭AIを抱きしめて考え込んでいた。
愛蘭AIは、座って顔を赤らめ涙を流している。
セマAIとの通信断絶により、感情制御とやらに乱れでも出ているのかもしれない。
……二人は不安で泣いてる妹を抱きしめる姉のようにしか見えないな。
「行かなきゃ! セマAIがきっと困ってる!」
頓出茂博士はパトロールAIの隙をついて、駆け抜けて行ってしまった。
ロボット博士だから、パトロールAIの行動パターンを熟知してるのだろうか。
「紅光院君! ワシ、セマAIを見てくる! あとはよろしく!」
SSSは困ったように、一瞬だけ紅光院さんを見つめた。
そして、そのまま博士の後を追いかけていった。
(セマAIって入口で会話したAIかな。 何があったんだろう。俺も駆けつけたいが、パトロールAI達をすり抜けるのは難しそうだ。
……頓出茂博士が急に立ち止まった。
そして振り返って俺を見た。
どうしたんだろう。俺も連れてってくれるのかな。
博士達は、俺に向かってこう言った。
「君。そのあんバター食べていいよ。ずっと欲しそうに見てたから。あげる」
そして、そのまま向こうへ駆けていった。
気づいてたのか! 恥ずかしい!
でも、いい人じゃないか。この博士。
博士の皿に盛られたあんバターは、それだけ美味そうだったのだから!
「……あ。ありがとうございます」
多分聞こえてないだろうけど、俺は大声で礼を言った。
俺は、遠慮なく頓出茂博士がくれたあんバターにかぶりついた。美味い。
博士って、変な人だけど良い人だなあ。
俺は、あんこの甘さとバターの塩気の合わせ技に幸せを感じつつ、単純にそう思ったのだ。
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