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お嬢様とお嬢様AI  作者: てんきどう
お嬢様とお嬢様AI

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4話 バラ園のお茶会

 


(俺、なんでこんな優雅なお茶会に参加してるんだろう。……取材に来たはずだよな?)


 滋賀内《しがない》は紅光院《べにこういん》家自慢の薔薇園に招かれて、上品なアフタヌーンティーをいただいていた。



 愛蘭《あいら》AIが涙を流してCPUを冷却させたのを見て、愛瑞《あいず》お嬢さんが心配して、急遽中庭にお茶会の用意をさせたのである。


「黒鉄《くろがね》! 中庭にお茶会の用意をして! 行きましょう、愛蘭。貴女の好きなものを用意させるから、楽しみにしててね」

「畏まりました。直ちに用意いたします」


 黒鉄という頑強そうな執事が、部屋の隅に静かに控えていた。

 というか、彼が返事をするまで気配がなかった。俺は人が居たことに驚いた。

 改めてよく見ると、背筋が真っ直ぐで静かな圧のある男だった。服の上からでも鍛えているのが分かる。立っているだけで強そうだ。俺の貧弱な腕では、一発でノックダウンされるなあ、なんて思ってしまった。……戦ったりしないけどね!


 

 薔薇に囲まれて、美人達が優雅にお茶を飲んでいる。その様子は、見ているだけで幸せな気持ちになれた。

 破壊力のあるこの光景を、写真に撮って飾りたい。写真集とかにしたら、増刷間違いなしだな。


 金の縁が付いている赤い薔薇模様のティーセットが、庭の雰囲気にピッタリだ。

 執事さんが、紅茶やケーキに付いて説明してくれた。


 紅光院博士には、フルーツ系のケーキと濃いブラックティー。

 愛瑞お嬢様には、アールグレイとチーズケーキ。

 愛蘭AIには、ダージリンとアップルパイだ。


 俺には、ディンブラとかいう紅茶と胡瓜のサンドイッチが配られた。

 そして、頓出茂博士にはコーヒーとあんバターパンだ。sssが笑顔で持ってきたのである。

 俺は小さなサンドイッチを一口で頬張る。こんなんじゃあ食った気がしない。俺も博士のあんバター食べたい。

 

 ロボットAIは、食事なんてしない。

 愛蘭AIのアップルパイは、後でスタッフの皆さんが美味しくいただくのかな。

 ……あれ?

 今、愛蘭AIが紅茶を飲んたぞ。

 そして、上品にフォークでアップルパイを食べたあ!?

 思わず俺はむせてしまった。


「愛蘭、美味しいでしょう。あなたの大好きなアップルパイよ」


 愛瑞お嬢様が、大輪の花が開くように嬉しそうに笑った。

 いや、そこじゃないだろう!

 ロボットがケーキを食っとる!


「……興味深いです。香気成分による満足度向上を確認……なるほど。これはデータだけでは分からなかったかもしれません」

「そうでしょう! やっぱり好きなんだわ」


 ……会話が、成立しているのかしていないのか分からない。しかし、愛瑞お嬢様はとても嬉しそうだった。


  ……完全に蚊帳の外な俺だけど、勇気を振り絞って疑問を口にすることにした。


「あの、そもそも何でロボットに食事をする機能つけたんすか? 必要なんですか」

「必要だとも!」

「愛蘭が好物を食べられないなんて! 信じられない! なんてひどい事を言うんですか!?」


 俺は後悔した。

 話が通じる人が欲しい。

 指先でこめかみを揉んでいた紅光院博士が、大きく息を吐き出した。


「必要だと思ったのよ。愛蘭AIには毒解析機能があるの。栄養計算もできるわ。それにね、ロボットAIに食事機能があることは高級ロボットの証でもあるの」

「答えてくれて、ありがとうございます」


 つまり、毒味役もできる護衛ロボットってわけか。

 高級車にいろんな機能を追加する感覚なんだろうか。

 愛蘭AIが、頓出茂博士の方を向いた。仕草が可愛い。


「……博士。なぜ人類は栄養摂取を娯楽化したのですか」


 愛蘭AIの質問に、博士は口いっぱいに詰め込んでたあんバターをコーヒーで流し込んだ。SSSが笑顔であんバターパンのおかわりを皿に追加する。

 いや、そこはスコーンとかじゃないのか。自由すぎるだろ。


「うまいからだろうなあ。ほれ、あんバターも食べてごらん。今度ラーメンも食べさせてみよう」

「栄養補給という目的なら効率的な方法は他にあります。……いただきます」

「頓出茂博士。愛蘭AIに変な物を食べさせないでください。変な癖がついたら、どうするんですか」


 紅光院博士がブラックティーを飲みながら、悩ましげに忠告する。そこは俺も同意する。お嬢様なロボットだから、上品にラーメンを啜るんだろうな。俺はそんな想像をした。

 愛蘭AIは、上品にあんバターを口に入れて飲み込んでいる。


「……人は、この時間そのものに価値を見出しているようです」

「どうじゃ?」

「あんバターパンは、バターの風味と塩気、餡子の甘味との組み合わせが満足感を高めると解析します」

「そうじゃろうな」

「非効率ですが、またお茶会に参加したいと思います」

「ほう。じゃあ今度は、緑茶と羊羹も試してみよう。気にいるかもしれん」

「頓出茂博士!」

「いろんな体験をさせて、データを取りたいんじゃ」


 紅光院博士が焦った顔をした。

 この頓出茂博士、とんでもないな。研究者気質というやつか。

 愛瑞お嬢様が急に下を向いた。小声でブツブツ言ってる。大丈夫かな。目の焦点がちょっと怪しくなってる気がするぞ。


「……そうだわ。愛蘭と私でいろんな体験をしなくちゃいけないの。……約束したもの。一緒に世界を見てまわろうねって…」

「愛瑞、どうしたの? 無理をしなくていいのよ。気分が悪いなら、安全な部屋で休んでいればいいの。どうかしら。愛蘭AIもいるから寂しくないわ」


 紅光院博士が優しく話しかけると、愛瑞お嬢様は、パッと顔を上げて叫ぶように言った。


「愛織《いおり》叔母さま! 私、愛蘭と一緒にいろんな事を体験しに外へ行きます!」

 

 ……今度は紅光院博士が、顔色がみるみると蒼ざめた。






最後まで読んでいただきありがとうございます。

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