2話 ファンシーな親子?
「困った子ね、愛瑞。記者の方は、研究所の方へ案内するように伝えたでしょう。RADY1号まで、応接間に連れ込んで……」
凄い美女が現れた。
俺が入ってきた扉の方から、部屋に入ってきたのだ。
目の前の美少女によく似ている。確か写真で見たことがある。
紅光院愛織
財閥当主の妹で、優秀なAIロボットの博士だ。
写真で見るより華やかで上品な知的美人だ。赤いブラウスの上に白衣を着て、髪を緩やかに束ねている。もの静かで、どこか危うい雰囲気を感じた。
「叔母さま! この子は愛蘭よ。そんな名前で呼ばないで。私には分かるの。この子の中には愛蘭がいるの」
愛瑞お嬢さん達は、取材に来た俺を無視して話し始めた。
俺は空気か……。
「RADY1号は、愛瑞の為に作った護衛ロボットなの。このロボットはあなたの身代わりになって壊されても、修理すれば直るの。あなたの安全の為に作られたロボットなのよ。あなたに外は危険なの」
「私の為の身代わりなんて、絶対にしちゃ駄目だからね、愛蘭!」
「あなたは、深く考えなくていいのよ」
「そんなんじゃないわ。叔母さま、お願い。分かって……」
愛瑞お嬢さんに抱きしめられたRADY1号は、フリーズして、どんどん顔が赤くなっている。
なんとかしてやりたいが、どうしたらいいか分からない……。
「困ったのう。マシンガントークすぎて、話しかける隙が見つからんわい」
「あ、俺もそう思いました」
考えていた言葉が聞こえて、俺は思わず同意してしまった。
声の主は、いつの間にか俺の隣に立っていた。
そこには、場違いな感じのファンシーな親子がいた。
……どう表現していいのか、一瞬迷う。
白髪に白髭、頭部が眩しい白衣を着たチビの爺さんと、ニコニコした笑顔が可愛い緑の妖精みたいな格好の男の子だ。
なんだろう、この人達は。
「博士!」
「頓出茂博士も言ってやってください! Rady1号は護衛兼身代わりに作ったAIロボットだって」
愛瑞お嬢さんと紅光院博士が叫んだ。
……爺さんの名前に覚えがある。
頓出茂那伊博士。
確か異端のAIロボットの研究者だったはずだ。
爺さんは、キラキラした目をしている。
これは、好きな事をやってきた人間の特徴だ。
博士は、こんな小さな爺さんだったのか。
隣の子は、お子さんかな。
「博士! お願い! 証明してください……。この子の中には愛蘭の魂が入ってるの。私には分かるの」
「愛瑞ちゃん。残念ながら、魂の観測研究はまだ未熟なんじゃ。証明はできん」
愛瑞お嬢さんは、その言葉を聞いて瞳に大粒の涙を浮かべた。
……おいおい、博士。もうちょっと言いようってもんがあるんじゃないか?
「まだ研究段階だからのう、確証めいたことは言えん」
「それじゃあ、愛蘭じゃないって事も断定できませんよね!」
「……博士も困った方ね」
あ、駄目だ。この博士、ポンコツだ。
場の雰囲気を全く読めていない。紅光院博士が溜息ついて困っている。
愛瑞お嬢さんと紅光院博士の言い合いは、さらに激しくなりそうだった。
RADY1号も、顔を赤くして震えていた。
「はわ……状況定義が不可能です……」
「あなたは妹の愛蘭。私は姉の愛瑞よ。大丈夫、そのうちにきっと分かるようになるわ」
「愛瑞、だからね……」
「魂とAIロボットのテーマか。新課題だのう」
つまり、愛瑞お嬢さんを守る為に、彼女そっくりなAIロボットを造った。すると愛瑞お嬢さんがAIロボットを亡くなった妹だと思い込んだ。そして揉めてるってことだろうな。
困ったな。取材どころじゃないぞ。
ふと見ると、少年だけがニコニコと笑っていた。真剣に揉めてる中で、唯一まともに話が出来そうだった。
俺は親しみをこめて、笑顔で頭を撫でようと手を近づける。
「君は博士のお子さんかな。少し話を聞いてもいいかな」
少年は急にスッと真顔になった。
あれ、嫌われたかな。なるべく優しく話しかけたんだけどなあ。警戒されると落ち込む……。
「過剰反応の必要性を貴方に感じません。通常反応に切り替えます」
「え? 過剰反応って何?」
「何の御用でしょうか、滋賀内様」
「その子もAIロボットよ、記者さん」
「……え!? この子がロボット!?」
紅光院博士が説明してくれた。
俺は顎が外れそうなほど、間抜けヅラを晒してしまった。
今まで人間だと思って話してたのに!
頓出茂博士が、得意そうに話し出す。
「名前は“SSSじゃ。カッコいいだろう!!」
「SSSって……。そんなイタイ名前を付けたら可哀想じゃないですか? すぐに次のモデルが作られるのに」
驚いたあまり、俺は本音が飛び出した。
博士の顔がトマトみたいに赤くなった。
白衣のポケットからスパナを取り出して握りしめ、俺に飛びかかってきた。
「SSSを馬鹿にするな! 何も分っとらんくせに!」
「博士。落ち着いてください」
「記者さん、博士の前でSSSを馬鹿にするなんて無謀ね。SSSは、博士にとって永遠の最高級品なのよ」
SSSが博士を宥めてくれた。
そして紅光院博士が説明してくれる。
あれか。小さな子が宝物に凄い名前をつけたがるやつか。
博士はすごい目つきで、俺を睨みつけている。
俺は完全に、頓出茂博士に嫌われてしまったのだ。
今回の取材は、大失敗だ……。
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