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第268話 強化パーツの試験運用

 季節は夏本番を迎えた。

 窓を開ければ、まとわりつくような熱気と耳障りな蝉時雨が流れ込んでくる。


 キラー・マシーン二号機――「鋼鉄の魔人・ガダーム」の改良作業は、着々と進んでいた。


 俺がザルツ山脈で命がけで仕入れてくる火属性の魔石。

 そして、倒した魔物から抽出した希少な魔法強化素材。


 これらを惜しみなく注ぎ込むことで、推進用の高出力ユニットと、圧倒的な大火力を生み出すための「火力圧縮機」が製造され、機体へと組み込まれた。


 エイルたちドワーフの工房から漂う、鼻を突くオイルの匂いと、金属を叩く甲高い槌音が、俺の脳裏に心地よく響く。


 現在、ザルツ山脈での従業員は20名を突破。

 それに伴い、俺の分体であるキラー・マシーン三号機も合計五体にまで増員した。


 配置は万全だ。


 ドワーフ領の南西にある「魔の森」、エルフの森の南西にある「魔物の湧き点」にそれぞれ一体。さらに、ザルツ山脈のベアリスの護衛に一体、グラードの事務所に一体、そしてベルンシュタインの倉庫に一体を配置してある。


 「写し身の魔法」を多用する感覚にも、ようやく慣れてきた。


 使い始めの頃――

 魂を分割する感覚は、ひどい二日酔いと回転遊具を同時に味わうような吐き気を伴ったが、今では薄皮一枚隔てた程度の違和感にまで軽減されている。


 この調子なら、最大10体までの同時運用も視野に入ってくるだろう。


 さて、大型化した巨大ロボットである二号機は、その巨体ゆえに消費魔力も大きくなる。そこで、膨大な魔力を溜め込んだ魔石を回路に組み込み、デメリットを補う工夫も開始している。


 魔力電池の製造は極めて難易度が高く、特に容量が大きくなるほど困難を極める。だが、今回は「フェニックス」という市場には絶対に出回らない貴重な個体から魔石と素材を確保できたことが、決定的な勝機となった。


 俺は屋敷の中庭にある、ひんやりとした冷気が漂う機体保管倉庫へと足を踏み入れ、改装を終えた二号機の試運転を開始する。


 まずは、機体のコア魔石に「写し身」で意識を定着させる。


 この巨大機体を操作する際は、俺の意識のほとんどをこちら側へと移行させる必要がある。魂の総量という観点で見れば、今やこの機体の中にこそ「本体」があると言っても過言ではない。


 肉体の心臓の鼓動が遠のき、代わりに魔力炉の低い唸りが俺の「脈拍」となる。

 俺は再び「白い悪魔」となり、転移魔法を発動した。


 行き先は、ドワーフ領南西。

 魔物の湧き点だ。



 ***


 深い森の中。

 外界は夏だというのに、この場所だけは肌を刺すような寒冷な空気に包まれている。吐く息が白く染まるほどの冷気と、腐葉土の湿った匂いが立ち込める。


 しかし、今の俺は強固な鋼鉄のボディだ。


 寒さなど、微塵も感じない。

 センサー替わりの空間把握能力が、外気温の低下を無機質に告げるだけだ。


 全長五メートルに達するこの機体は、周囲の木々の間から上半身がはみ出して見えるほどの威容を誇る。


 装甲の隙間から漏れる赤い魔力の光が、薄暗い森に不気味な影を落としていた。


(……まずは、機体の動作確認からだ)


 俺は鬱蒼とした木々の密集地帯を、障害物ごとなぎ倒してお構いなしに突き進む。

 バキバキと太い幹が折れる轟音が響き渡る。


 多数の強化パーツを取り付けたが、駆動系に問題は見られない。

 油圧の軋みも正常値だ。


 足元に這いつくばっていた小型の魔物を、文字通り「蹴散らして」やる。

 軽く蹴り飛ばし、グチャリという嫌な音と共に容赦なく踏み潰した。


(ふん、この程度ではテストの相手にもならんな)


 そうして森を蹂躙していると、前方から全長3メートルほどの石造りのゴーレムが姿を現した。


(……ほう、こいつなら少しは骨がありそうだ)


 ゴーレムは地響きを立てながら、こちらに向かって一直線に突進してくる。

 巨岩が転がるような、腹の底に響く重低音だ。


(体当たりで来るか)


 だが、俺はまともに組み合うような真似はしない。

 「浮遊魔法」を発動させた状態で、四肢の噴射ユニットから一気に炎を射出した。


 両手、両足、そして背中に取り付けられた各ユニットの火力を細かく調整し、ホバー移動を開始。


 ゴォォォッという爆音と共に、敵の無骨な攻撃を、巨体に似合わぬ華麗な機動で回避した。


 そのまま、慣性を無視した不規則な軌道で敵の背後へと回り込み、巨大な拳を構える。肘部分のブースター火力を最大にまで引き上げ、渾身のパンチを叩き込んだ。


 ――ドガァアアアンンン!!


 静寂の森に、硬質な物体が崩壊する大音響が響き渡る。


 衝撃波で周囲の木々の葉が一斉に散った。

 俺はそのまま追撃の手を緩めず、二度三度と打撃を叩き込み、敵の石の身体を完全に粉砕した。


 砂煙が晴れた後、こちらの鋼鉄の体には、かすり傷一つ付いていない。


 俺はその後も、現れる魔物を次々と粉砕しながら、機体の動作確認と新パーツの性能チェックを念入りに続けた。



 ***


 俺は機体の動作確認と性能テストを終え、屋敷に戻り書斎で読書を嗜んでいる。

 戦力強化は順調だ。


 一方、アースガルド王国。

 カストル侯爵が引き起こした反乱は、今や佳境を迎えていた。


 王国軍による完全な包囲網。


 物流を完全に断たれ、援軍の見込みも絶たれた、出口のない持久戦だ。「いい加減、早く降参しろよ」と言いたくなるような絶望的な状況。


 だが、不祥事を起こした息子のオーギュストと同様、父親であるマルセル・カストル侯爵も、往生際の悪い男であるらしい。


(……足掻けば足掻くほど、苦しみが長引くだけだというのにな)


 もっとも、降伏すれば待っているのは確実な死刑だ。

 なんとしてでも粘り抜こうとするのは、彼なりの生存本能なのだろう。


 俺は冷房の効いた快適な書斎で、冷たい果実水を喉に流し込み、優雅に読書を楽しみながら、合間の休憩時間にそんな他愛もないことを考えていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 (マルセル・カストル侯爵視点)


 贅肉のついた醜悪な体型を、宝石を散りばめた趣味の悪い衣装で包み、十本の指すべてに豪華な指輪を嵌めた男。

 マルセル・カストル侯爵の目は、今や怒りと焦燥で真っ赤に血走っていた。


 窓を閉め切った執務室は、彼の全身から噴き出す脂汗の臭いで充満している。


 王国軍との平原での決戦に無残に敗北し、誇り高き居城は今や敵軍に完全包囲されている。事前の密約で「共に反乱を起こす」と約束していた諸侯たちも、風向きが変わるや否や鳴りを潜め、自分たちを見殺しにしようとしていた。


「……おのれぇええ!」


 ――ドンッ!


 侯爵は怒りに任せ、力いっぱい壁を殴りつけた。

 指輪が壁に食い込み、鈍い痛みと共に血が滲むが、今の彼にはそれすら感じない。


「……学園に在籍しているような青二才どもに、この私がここまで追い詰められるとは……っ!」


 彼が頼りにしていた武闘派の重鎮、ゴルトロイ・グラーフ子爵。そして、その息子のレオニードまでもが、先の決戦で呆気なく戦死している。


 信じがたいことに、王国軍を率いているのは、まだ学生の身分であるリアム王子だ。さらに言えば、二人を討ち取ったのは、王子の側近であるアルドリック・ストーンウォール。


 ……そいつもまた、鼻たれの学生だ。


 そして何より、王子の懐刀として軍を勝利へと導こうとしている軍師、エリオット・ヴァーリアス。


 その男もまた、忌々しいことに学園の生徒に過ぎない。


「軍人どもは、一体何を遊んでいる! 子供相手に、いつまで手こずっているのだ!!」


 ギリギリと奥歯を噛み鳴らす音が、静かな室内に虚しく響く。


 軍事をすべて配下に任せきりにしていた彼は、今さらになって、ふがいない家臣たちを持った己の不運を呪い、激しく嘆くしかなかった。己の無能さに気づくことすらできない、滑稽な末路へのカウントダウンが始まっていた。

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